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File4―6 怪力強盗と血色の悪魔 〜それぞれの戦い〜

 〜ウィンダリア王城 四階 アフロディーテ像噴水近くのバルコニー〜


復讐リベンジマッチだ、探偵。死んだら負けな」


 血色のナイフの切っ先を向けて、二ュエルは笑った。

 それを見て、レフトとイラの二人は冷や汗を垂らし、瞳孔は驚いたかのように開く――俗に言う戦慄の表情を浮かべる。

 レフトもイラも、今目の前で起こった出来事が、未だに飲み込めずにいた。


「……どういう事だよ?」


 レフトは呻きながらも、さり気なく立ち位置をイラを庇うように移動し、二ュエルとウィンニュイの二人へと身構える。

 そして、手元にある『ボールケン』の刀身――刀“芯”と言った方が正しいか――を出した。

 更にイラの手元に『シェイクボトル』などの探偵道具が入った四次元構造の道具袋アイテムポーチを押し付ける。

 そして、イラにこっそり囁いた。


(そん中にゃ色々道具入ってるから、好きに使え。そんで、ここから隙見つけて、全速力で逃げて、ライトを呼んでこい。頼んだ)


 そのレフトの言葉に、イラは頷いた。

 状況としては、まさにあの洞窟での一戦の再現であった。

 そして二ュエルは、先程レフトの呻いた疑問に唇を吊り上げて答えた。


「『どういう事だよ』って……言っただろ? 復讐リベンジマッチだって。あの時お前に負かされてから、悔しくて悔しくてなぁ。お前を殺したい、殺さなきゃ夜も眠れない。おかげでこんなに顔色が悪くなっちまった」


「……顔色はそんなに変わってねぇよ」


 いつ、火蓋が切って落とされるかわからないプレッシャーの中……レフトは、必死に虚勢を張り続けた。

 どんなピンチな状況でも、決して焦らず、余裕を持って、俯瞰ふかんする。

 それが、レフトの憧れ、目指す探偵の理想像の一つだった。


(……ライト達は、先に怪盗の所に行っちまったか)


 こういう時、相棒ライトがいれば少しは心に余裕ができるのに。

 レフトは舌打ち一つ落とすのを皮切りに、顔色を焦燥から戦闘へと切り替えた。


(今やれる最善は、上手いことイラを逃がして、二ュエルとウィンニュイを捕らえること。その中でも最優先するべきは……イラの安全!)


 背後に感じるイラの存在を知覚し、その気配を背中全体で取りこぼさぬように気を張るレフト。

 息の詰まるような、短いような長いような、止まっているのか進んでいるのかもあやふやになるような時間が流れていく。

 構え合ったボールケンと血のナイフが、沈みかけた日の最後の輝きに照らされて輝き――そして、次の瞬間にはガキィン! と、互いの刃が互いにぶつかり合い、戦いの火花が散った。

 刃越しにレフトと二ュエルは視線を交わし合う。


「まだやれるだろ?」


「無理って言ったら見逃してくれる?」


「そん時は遠慮も躊躇もなくぶっ殺すだけだ――よッ!」


 二ュエルがレフトの胴体を蹴りつけ、その場から離脱した。

 レフトはその衝撃で後ろへよろめき、咳き込む。


「ガッは……!」


 たたらを踏むレフトを確認した二ュエルは、再びレフトの元へと斬りかかった。


「どォした探偵っ、そんなもんなら死んどけや!」


 逆手に持ち変えたナイフで、上から下に突き刺すように刃を振るう。

 痛恨の一撃を与えられる――そう直感した二ュエルだったが、その刹那。右肩、胸中央、腹部に計三発の衝撃が走った。


「グぁッ……!?」


 飛びかかっていた勢いを空中で止められた二ュエル。

 空中で一瞬静止した、その刹那チャンスをレフトは見逃さない。


「オラッ!」


 ――回し蹴り。

 真横にいだ右足の(かかと)が、二ュエルの横っ腹に的中した。

 二ュエルは呻きながら横へと転がった。


「ガアッ!?」


「そんなもんなら死んどけや、だったっけ……なぁ、ニュエル。俺は()()()()()だぜ?」


 レフトの手に握られていたのは、探偵道具の一つ『マギカデリンジャー』。

 あの時の洞窟の一戦でも使った、カスタム次第でありとあらゆる弾丸を放つことが出来る小型の銃だ。


「……ハハ、やっぱお前は一筋縄じゃいかねぇなぁ!?」


 歓喜に顔を歪ませる二ュエルに、レフトは若干ドン引きする。

 そして彼は視界の端に、二ュエルが吹き飛ばされたその隙を突いてイラが駆け出すのを見た。

 駆け出すイラに気づいた二ュエルは、ウィンニュイに叫んだ。


「あのガキ、またお前に任したぜウィンニュイ!」


「了解しました」


 ウィンニュイが、イラを追いかけていく。

 レフトは、またウィンニュイを止められなかった己の無力さを噛み締めつつも、あの時とは状況が違う事を感じていた。

 イラに全幅の信頼を置き、イラに全てを任せる。

 今のイラは、レフトの助手なのだから。


(俺の助手だし、暴龍の時も何とかしたんだ。イラなら、そんぐらいは出来る)


 自分にそう言い聞かせたレフトは、意識を二ュエルに集中させた。

 二ュエルが吠え、レフトもそれを受け止める。


「さぁて……まだまだここからだ!」


「まだやる気かよ、たりめーだけどッ!」


 再び、刃がぶつかり合う。



 ****



 〜イラVSウィンニュイ〜


「なにかデジャブを感じますね、イラ」


「なら、追いかけるのを止めたらどうですか!? そしたら、デジャブなんて感じませんよ!」


「そんなに貴方、憎まれ口でしたっけ? あの探偵に影響されてませんか?」


「〜〜〜っ、なわきゃないでしょう!?」


 一緒にしないでください! と憤慨するイラと、それを追いかけるウィンニュイ。

 彼女らは広大な廊下を舞台に逃亡劇チェイスを繰り広げていた。

 道中、イラは何度もシェイクボトルなどの探偵道具でウィンニュイを足止めしようとしたのだが、やはりウィンニュイの方が格上であり、例え宝石ダイヤモンドの壁を作ろうがロックで縛りつけようが、魔法や技術で簡単に抜けられてしまった。

 イラ自身、何をやっても抜けられてしまう、と自分への信頼の揺らぎを隠せない。


(ウィンニュイさん強すぎでしょ……? このままじゃ、ダメだ……でもどうしたら?)


 イラは必死に頭を回転させ、打開策を練る。

 だが、そんなイラに影は着実に迫っていた。


「逃亡中の考え事はあまりオススメしません」


「ふぇ? ――ふぇえええっ!?」


 イラは目を見開いた。

 ――壁を走ってきたウィンニュイの姿に。


「どーなってんですか、それぇ!?」


「簡単な魔法の応用です」


 壁を走り抜けるウィンニュイは、通りすがらにイラの頭を強めにはたいた。

 そして、イラの怯んだ隙に、彼女の進行方向に立ち塞がる。

 ウィンニュイは薄く笑った。


「チェック。追い詰めましたよ」


「っ……! で、でも、チェックって事は、まだ決着チェックメイトはついてませんね」


「ええ。貴方の捕獲又は殺害、行動不能――それが今回のチェックメイトの条件ですから」


「できますかね?」


「その答えは今現在、貴方の身にみているはずです」


「……うぅ」


 イラは低く呻いた。

 強敵ウィンニュイが、イラの行く手を阻んでいる。

 洞窟での一戦の時と似たようなシチュエーション。

 あの時は、イラは滅多打ちにされてしまった。レフトが早目に二ュエルと決着をつけていなければ、死にはしないまでも、気を失っていたであろうことは想像にかたくない。

 そして、あれからまだほんの少しの時間しか経っていない。

 この短期間で、イラがウィンニュイを超えている訳がなかった。

 イラは目の前の絶望シチュエーションに、観念したかのように項垂れた。

 ……しかし。


「それでも、やらなきゃ」


 呟き一つ、項垂れていた首を元に戻した。

 その目には、決意の炎が宿っている。

 ウィンニュイはそのイラの目に慈母のような笑みを浮かべた。


「私は、探偵さんの助手ですから! 助手の職務を全うするまでです!」


「ならば……来なさい。この前と同様、命までは奪わないで差し上げます」


 イラとウィンニュイは、互いに視線を絡ませ合い、不敵に笑い合った。



 ****



 〜ウィンダリア王城 一階 礼拝堂〜


 ライトと映瑠は、暗号を通して伝えられた地点――即ち、ここ、ウィンダリア王城一階にある礼拝堂に来ていた。

 礼拝堂の壁には、まるで大きな鉄球をぶつけたかのような大穴が空けられている。

 そして、辺りに転がっているのはさっきまで憲兵だったもの。全員呼吸はあるので、ただ単に気を失っているだけのようだ。

 そして、そんな気を失った憲兵達の中心にいるのは――



「おっ、追加部隊の御来店か。……って、たった二人かよ。しかも素人丸出しの女とヒョロそうなガキ。上がってたのに……やる気がえてちぢんだ。“萎縮”しちまったよ」



 ――怪盗ダッシュ。

 地人族の種族固有能力である【超怪力フルパワー】の天才。

 正面突破以外の策は取らない、怪力強盗……略して怪盗。

 そんな彼は今、礼拝堂に建てられた舞台の上で、一人の憲兵の首根っこを掴み上げていた。

 ライトは目の前の光景に眉をひそめた。


「……わかりやすいくらいに悪党だな、キミは」


「そうか? 別に誰一人殺してねーよ? 俺、不殺主義だし」


「殺し以外にも裁かれるべき罪というのはあるものさ。例えば……盗みとかね?」


「ハッハッハ、そーいやそーだっけ? ま、俺を裁きたきゃ、とらつかまえ“逮捕”してみろって事だな。……出来るもんならな?」


「いいだろう――望むところだ」


 エルちゃんは人呼んできて、そうライトは映瑠に告げ、そして映瑠の二の句を告げるのも待たずに舞台へと疾駆した。

 怪盗ダッシュは、風のごとく素早い動きで迫ってくるライトを見て笑う。

 そして、ライトはこの疾駆の勢いに任せて、ダッシュに向けて右の拳を振るった。

 ――しかし。


「意外と速いじゃねぇか、ヒョロガキ」


「……!」


 ……あっさりと、ライト渾身の一撃は受け止められてしまう。

 ライトの右拳を、まるで投手ピッチャーの球を捕る捕手キャッチャーのようにしっかりと捕らえていた。

 地人族の筋力は、鍛えようによっては機人族の金属で出来た肉体さえも上回るという。

 今まさに、その噂をライトは噛み締めていた。


(だけど――!)


 それだけじゃ、終わらない。

 ライトは右腕のダイヤルを回し、『トルネード』に合わせる。

 すると、ダッシュに捕らえられていたライトの右拳から渦巻く緑色の竜巻が唸り出す。


「なっ、何だァ!?」


 驚愕するダッシュを余所に、竜巻はどんどん回転速度を上げていき、そして、だんだんとダッシュの手では抑えきれなくなっていく。


「がっ、この野郎ッ……!」


「手を離したほうが身のためだ。これから先の人生、義手生活は嫌だろう?」


「がっのっ、コナクソォ……!」


 ダッシュは竜巻を抑え込むために【超怪力フルパワー】を発動する。

 筋肉がうねるように膨れ、燃え上がるような赤銅色の蒸気を噴出する。血管が浮き上がり、その中に流れる血液が沸騰するかのように泡立つ。

 これが地人族の超怪力フルパワー。筋肉のスペックを最大限を超えて引き出すために、一定時間肉体を負担に耐えられるように変化させる。

 限界を超えたスペックを持つ筋肉は大きく膨れ、その反作用で筋肉内に溜まる熱を蒸気として噴出。血液を限界まで到達させ、酸素を細胞一つ一つに潤沢に行き渡らせる。

 一定時間『進化』すると言っても、過言ではないのかもしれない。それが地人族の種族固有能力だ。

 だが、ライトだって負けはしない。竜巻の出力を最大にまで引き上げた。


「ハァァァァァァァァァァ……!」


「ルァァァァァァァァァァ……!」


 ライトとダッシュの声が重なり合う。

 緑色の竜巻と赤銅色の筋肉の、一世一代の大勝負と言わんばかりのぶつかり合いは、二人の周囲に気流の乱れを発生させた。

 辺り一面に突風が吹き荒れる。

 そして――


「……!」


 ――決着。


「…………はっ」


 勝利したのは――


「……嘘だ」


 ――怪盗ダッシュだった。


「……っ、オラァ!」


「ガッ……!?」


 抑え込まれた竜巻に、驚愕を隠せないライト。

 その隙を突いて、ダッシュはライトの腹に前蹴りを浴びせた。

 ライトは呻きながら後方へと吹っ飛んだ。

 そのままの勢いで、吹っ飛んだ先にあった礼拝堂の長椅子を破壊しながら、地面を転がって行く。転がった先に寝かされていた憲兵の体も、巻き込まれて同じように吹き飛んでいく。

 やがて勢いも止み、ライトは壁にぶつかって止まった。

 機械の体から火花が散り、軋み悲鳴を上げる。

 ライトはバチバチと火花を散らす自らの体を見ながら、呻いた。


「……僕が、負けた?」


 単純な力負け――そんな経験データは、ライトの記憶データベースの中には一メモリも存在しなかった。

 初めての探偵としての敗北――今までの自分を否定されたかのような、そんな衝撃がライトを襲った。


「有り得ない……嘘だ」


 そんなライトに、ダッシュは歩み寄って笑った。


「どうだヒョロガキ」


「違う。僕は……ヒョロガキなんかじゃ」


「違ぇのか?」


「……!」


 ダッシュの目に映るライトは……そう。“弱者”という表現が最も似合う、そんな様相だった。

 ライトにとって、床に散乱した長椅子の破片を踏み砕いて歩み寄ってくる怪盗ダッシュは、まるで異形の化け物に見えているのだろう。

 どんな地人族にも、ライトの竜巻トルネードを抑え込むなんて、超怪力フルパワーを使っても不可能なのだ――()()()()

 普通が、常識が、当たり前が。ライトを今まで支えてきた全てが――通用しない。

 たった一撃の前蹴り。それだけで、ライトはそう悟ってしまった。


「違ぇのか?」


 再び問われたその質問に。

 ライトは……何も、返せなかった。


「……あ、ぁ」


 ライトの身を焦がすような、敗北による悔しさの炎。屈辱の炎。羞恥の炎。怒りの炎。

 ライトの体は、軽くオーバーヒートを迎えようとしていた。


「なぁ、ヒョロガキ。俺が今までどうして誰にも捕まらなかったか、わかるか?」


 ライトは、何も返せない。

 ただただ、黙って相手の言葉を受け入れるのみだった。


「俺を誰も捕まえられない理由……それは」


 ……ライトの瞳が、揺らいだ。



「俺様が、もっとつよい――“最強”って事なんだよ!」



 ただただ、黙って、ダッシュのその言葉を受け入れた。

 傲慢極まりないその言葉に、ライトは何も返さない……返せない。

 やがてライトは、オーバーヒートを迎え……ゆっくりとその場に倒れ伏せた。


 ……ライト・マーロウVS怪盗ダッシュ、決着。


 怪盗ダッシュは、いとも簡単にライトを倒し――礼拝堂を抜けていった。



 ****



【キャラクター設定】〜ダッシュ・ステイル〜


 ・身長……一七七センチ


 ・体重……八〇キロ


 ・種族……地人族


 ・年齢……一九歳


 ・職業……怪盗(ただし怪力強盗の略である)


 ・誕生日……一二月一一日


 ・実績……一年半前に突如現れる。それから、100を超える数の事件を起こすも未だに捕えられた事は無い。


 ・流儀……卑怯で面倒くさい真似はせず、正面から堂々と盗む。基本的に不殺主義。


 ・被害総額……約一〇三億ウィル


 ・盗んだ品々はどうしているのか……適当にどっかに売っぱらってる。その金で特に何もすることは無いので、育ててもらった施設などに恩返し。それでも有り余るほどの大金なので、自分と似た境遇の子供などにもおすそ分け。それでもまだ余るので、何か欲しいものが見つかった時のために貯金。我ながら自分のやってる事をダークヒーロー的でカッコイイと思っている。

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