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File4―5 怪力強盗と血色の悪魔 〜開幕のベルが鳴る〜

評価や感想、ブックマークなどよろしくお願いいたします!

 〜レフト・ジョーカー〜


 夕方。夕焼けが世界を赤く照らす頃だ。

 俺達は、いつ来るかもわからない怪盗に備え、気を引き締めていた。


「……うう。緊張します」


「イラ。そういう時はお前のそのうっす〜い胸に手を当てて深呼吸しろ。落ち着くぞ」


「そうですかそうですかアドバイスどうもありがとうございます!」


「ど〜いたしまして〜」


 俺も内心緊張していたので、イラを煽って緊張をほぐすことにする。

 案の定イラはご立腹だが、まぁ放っといてもいいだろう。


「本当にサイテーですよあの人はっ」


「まーまーイラちゃん、落ち着いて〜……」


 憤慨するイラをエルがあやす声が聞こえてきた。

 特にやることもないので、椅子に座り、そのまま盗み聞きしておく。


「でもイラちゃんまだ一三でしょ? これからだよこれから」


「そうですよね! 本当にそうですよね!」


「うんうん、自信もって!」


「未来の私のは、きっとこう、なんかすごいことになってますよね! もう、半端なく素晴らしいことになってますよね!」


「うんうん! モノスゲーイ!マジパネーイ! ……ってレフトくんが驚くくらい育つって!」


 ……大変そうだなぁ、エル。

 これまでも、俺がイラを煽る度にこうして怒りを鎮めてくれていたのだろうか。

 ちょっと控えよう。イラを馬鹿にするの。エルが可哀想だ。

 そんな事を思いながら伸びをすると、視界にライトの姿が映った。

 ……さっきから、なんか落ち込んで見える。いや、ここ三日ずっとカリスの事とかでうじうじしてた俺が言うのもなんだけど。


「ライトー。さっきからどうしたー?」


「……レフト」


 俺がライトに呼びかけると、すぐに返事が返ってきた。

 振り向きながら微笑むその姿は、相棒の俺から見てもムカつくくらいにイケメンだった。俺と違って童顔じゃないし。


「どうしたんだい? 急に僕なんか呼んで」


「いやどうしたって……どうもしねーけど。お前の方こそ、さっきからどうした?」


「さっきからって?」


「なんか元気ねーじゃん」


「……そうかい? 僕はこれが普通だよ」


「いーや違う。普段のお前はこう、もっと自分に自信持ってて嫌味な感じだ」


「……なんか元気なくした」


「今ので元気なくすようなタマじゃねーだろお前」


「僕だって元気なくす時はなくすよ。どっかの誰かさんも三日くらい落ち込んでただろう」


「……どこの誰だろーなー全然身に覚えがねーなー?」


「知らばっくれるとは……ほとほと呆れるよ。ねぇ、三日も事務所内の空気悪〜くしてた誰かさん?」


「……悪かったよ」


「別に責める気はないさ」


 ……痛い沈黙が流れる。

 何だろう……今日のライト、取っ付き難い。

 俺と壁を作ってる――それとはまた違う感じの、隔たりを感じる。


「本当にお前、どうした?」


 もう一度聞いてみる。

 が、返ってきた答えは予想通りだった。


「だから別に、どうもしないよ」


「……そーかよ」


 こう言われてしまうと、もうこれ以上追求することは不可能だ。

 うーん……俺、何かライトにしたっけ?


「……まぁいっか」


 俺がそう考えて伸びをした、その時だった。


 カーン、カーン! と、警鐘ベルが鳴り響いた。

 ……開幕の警鐘ベル。俺は知らずのうちに固唾を呑んでいた。

 そして、ひときわ声の大きな憲兵の声が、拡声器越しに次いで響いた。


「怪盗、来襲ー! 全員、即座に持ち場に就け!」


 その命令と共に、今現在怪盗がいる場所、これから怪盗が通ると思われるルート、そして一部の部隊に怪盗捕獲のための急行命令が暗号を通して伝えられる。

 そのアナウンスによると、俺達の今いる地点は怪盗がいる地点とは正反対。だが、急行部隊としても呼ばれていなかったので、現状維持でこの場に就いていればいいのだろう。

 そう思っていたら――



「くっ……何だこの化け物! ヒトヒトマル地点、フタヒトヒトマル地点の部隊も来い! 後、ヒトヨンマルマル地点の探偵共! お前らも来い! 人手が欲しい!」



 ――と、アナウンスが聞こえてきた。

 ……バックに、何かが倒壊する音が響きながら。

 部外者である俺達にも手助けを求めるこの状況。

 相手は……かなり、ヤバいってことだろう。


「予想より、少し早いね。僕らも行こう」


 ライトはそう言うと一目散に駆け出した。

 エルも、その後ろについて行く。

 俺も適当に返事をし、ライトについて行こうとした、刹那。


「探偵さん、危ないっ!」


 イラの声が響き渡り、俺が足を止めた、その刹那――真紅の一閃が、俺の頬をかすめていった。



 ****



 〜イラ・ペルト〜


 今から数分前くらいのこと。

 夕暮れを見ながら、私はさっき感じた違和感の正体に気づいた。噴水を眺めながら、感じた違和感の正体に。


「……何で」


 私は、目の前の光景に戦慄した。

 アフロディーテ様を象った噴水は、夕暮れの西日に当てられて影を作り出している。その影が伸びる先は――私達のいる、南側だ。

 他に光源がないかは既に確認した。結果としては光源は太陽以外にはどこにもない。

 だったら、どうして。なんで。


「なんで――()()()()()()()()()()()()()()()?」


 太陽は今、日の入り直前なので、当然西にある。

 太陽が――光源が西にあるなら、噴水の影は()()()()()()()。なのに、今目の前の影は私達のいる南に伸びていた。

 そもそも、影が南に伸びること自体が他に光源がない限りではおかしいのだ。太陽は東から南を通って西に沈む。ならば影はその逆に、西から北、そして東へと伸びる方位を変える。

 そう、自然的現象として、影は南に伸びやしないのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 噴水のある方角は北。それは数時間前に、エルさんと出し合ったクイズで確認済みだ。


 ――『今私達が向いてる、噴水が見えるこの方向は、どの方角でしょ〜か?』――『北ですね。噴水に方位記号ありますし』――


 そうだ。よく考えれば、簡単だった。

 あの時から既に、()()()()()()()()()()()

 あの時の時刻は、そう――『しかし……はぁ。すっごい暇。今は三時……ちょうどおやつ時だ』――午後三時だった。

 午後三時には、太陽は西の方角にあるから、影は東に伸びるはずなのに。なのに、あの時は。


 ――『西に伸びる噴水の影が、そんな私を嘲笑うかのように揺らいだ気がした』――


 ……西()()()()()()

 東に伸びるはずの影が、西に伸びてた。

 そして、その事に気づいた私は確信した。

 嘲笑うかのように揺らいだ影――あれは、気のせいなんかじゃなかった。()()()()()()()()()()

 例えば……影に溶け込める、誰かの影響で。


 私が知り得る中で、影に溶け込める人なんてたった一人しか知らない。

 探偵さんにミーコの捜索を頼んだあの日、あの時。

 出会った、森人族の――


 ――『ウィンニュイさんはそう私に告げると、何やら魔法を詠唱し、影に溶けるように消えた』――


 ――『ウィンニュイ・ヴェーラ』。

 指名手配犯『二ュエル・ボルゴス』の付き人。

 影を操る魔法をよく使う、あの人なら……影に潜り込むことも容易いはず。


 そして今、その異常な噴水の影は着々と南へ、南へと伸びていく。

 その先には――探偵さんの姿が。


 私は、気がつくと叫んでいた。


「探偵さん、危ないっ!」


 その私の叫びに、探偵さんが足を止めた瞬間――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 間一髪、探偵さんは薄く頬に切り傷を作るくらいで済んだ。

 もし、私が呼び止めていなければ……最悪、探偵さんの頭の急所に、あの一閃がクリティカルヒットしていたかもしれない。

 私達二人は、揃って一閃が飛び出した影を固唾を飲んで見据える。


 すると、やがて、影が泡立ち、影の中から二人分の姿シルエットが浮かんだ。


「バレちまったなぁ……せっかく長々と待ってたのに」


「ええ、本当です。貴方が『探偵を驚かせてやりたい』なんて言ったせいで……こんなにも無駄な時間を」


 シルエットの話し声に、私も、探偵さんも目を見開いた。

 聞いた事のある声。

 ついこの前、恐怖を感じたあの声が。

 再び、私達の目の前に躍り出た。


「まぁいいや、気ィ取り直そう。……なぁ、探偵?」


「また会いましたね、イラ。まさか貴方がまだこの探偵の元にいるとは予想外でした」


 シルエットにへばりついていた影が、水で流したように剥がれていく。

 そして、垣間見えたその姿に、私と探偵さんは揃って呻くような声を出した。



「……二ュエルっ……!?」

「ウィンニュイ……さん……!?」



 そう。今、目の前にいるのは……。

 私が行方不明になったミーコの捜索依頼を探偵さんに出した時に、相見あいまみえた最悪の犯罪者。

 人殺しを楽しむ愉快犯と、その従者。


 ……『二ュエル・ボルゴス』と『ウィンニュイ・ヴェーラ』だった。


 二ュエルさんは、探偵さんに【血操ちそう】で己の血から作った紅いナイフを向けた。


復讐リベンジマッチだ、探偵。死んだら負けな」



 ****



【小噺】〜長い時間影の中に潜んでいた時の二ュエルとウィンニュイ〜


 ――潜み始め――



「ウィンニュイ。とりあえずこの噴水の陰に隠れてようぜ。配置的にここに探偵が配置される可能性高いしな」


「……本当にやるんですか? 探偵が来るまで、二人で影の中に潜む作戦」


「おう。せっかくだし驚かせたいだろ」


「……別にいいですけど」


「しかし上手くやったよなウィンニュイ。あの幼女王女ちゃん(アリア・ウィンダリア)の思考回路を少しだけジャックして、探偵を呼びに行かせるという素晴らしい作戦をよく実行してくれた」


「……あの王女、凄いアンチマジックセキュリティ一が施してあって、凄く大変でしたからね。今回の作戦一番の功労者ですよ私は。いえ、いつも私が一番の功労者ですよ。何もかも雑用は二ュエルに押し付けられますし」


「……悪かったよ」



 ――潜み始めて一時間――



「……ウィンニュイ。暑い」


「そりゃ二人分入ってますからね。普通は一つの影に一人しか入りませんよ」


「くぅ……ウィンニュイは平気なのか?」


「私はまぁ、()()()()()()慣れっこですし」


「……悪ぃ。余計なこと思い出させた」


「いえいえ。二ュエルがデリカシー無いのは今に始まったことではありませんし」


「そうか……そうなのか!?」


「そうですよ? やっぱり自覚無かったんですね」


「悪かったよ……」



 ――潜み始めて三時間――



「あっ探偵が来ましたよ」


「やっと来たか……暇だったぜ」


「影に入って二時間目でとてつもなく文句が多くなったのすごくウザかったです」


「悪かったよ!」



 ――潜み始めて四時間――



「……おや。イラがこちらに気づいたようにこっち見てます」


「イラ? 誰だっけそれ」


「ほら、タイラントの飼い主の」


「ああ。探偵にくっついてたガキか。ウィンニュイが負けた奴」


「……正確には『二ュエルが探偵に完膚なきまでに負けたので、引き上げるために私が勝ちを譲って差し上げた』奴です」


「あーもー悪かったよ! だからこうして復讐リベンジマッチに来てんだろーが!」


「私は特にリベンジも何も無いんですけどね。二ュエルが弱っちいせいです」


「次は勝つから目ん玉ひん剥いてよく見てろや!」


「ハイハイ見てますからちゃんと勝ってくださいよ」


「面倒くさそうにあしらうなよ……。つかお前、あのガキの事結構気にしてるよな」


「そうですか?」


「まぁ、どっちでもいいけど」


「なら言わないでください。そういう所が面倒くさいんです」


「悪かったよ……」



 ――潜み始めて六時間――



「おや、あの怪盗が動き始めたようです」


「いよっし、ようやくここから出られるな!」


「で、影は探偵に出来るだけ近づけましたけど……ここからどうするんです?」


「……あ、えーっと、あー……」


「なんにも考えてないんですね。平常通りで安心しました」


「悪かったよ! あーもう、血操で作ったナイフぶん投げる! それで行こう! ウィンニュイ、影、開けてくれ!」


「ハイハイ。開けましたよ。後はその血のナイフ投げつけるだけです」


「さぁて、暴れるとするか……!」



 ――そして、現在に至る――

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