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File4―2 怪力強盗と血色の悪魔 〜初めての友達〜

ちなみにですが、この世界は基本的にテレビも新聞もなんでもある設定です。文化レベルは元の世界とそんなに変わりません。

後、PV1000超えました!皆さんありがとうございます!

 〜レフト・ジョーカー〜


「話は娘から聞いたよ、探偵諸君。それに、スカル・シーリング。……本当に、ご迷惑をおかけしました」


 ここは、俺達の住む街バンガンを初めとして沢山の街やら何やらがある国『ウィンダリア』の王城。

 目の前には、テレビやら新聞とかでしか見た事がない王様が、王女様を抱きながら俺達に頭を下げている……。


「……大変、だったでしょう。アリアのこの、突拍子もない言動の数々。本当に失礼をおかけしました」


 王様は本当に申し訳なさそうに俺達に頭を下げる。

 そして、俺、ライト、イラ、エルの四人は心の底からげっそりとした顔で『いえいえ……』と手を振ることしか出来なかった。

 本当に大変だったもんなぁ……王女の世話。

 王女の腹が鳴っては高いお菓子開けて。唐突にわがままで四人全員でサンバ踊らされたりしたし。一番酷いと思ったのは、唐突に下された『椅子になれ』って命令だ。俺は言われるがまま、四つん這いになって齢九歳の幼女に文字通り椅子となって座られたのだ……。もう今の俺のプライドはこぼれ落ちる砂のようにこの手から消えていくようだった。

 更に、王女様が依頼しに来たのは俺じゃなくておやっさんだったってわかった時にはもう、泣きそうだった。ここまで必死に接客したのに、俺目当てじゃなかったんだぜ。死にたくなる。

 だが、不思議なことに、何故こんな突発的に探偵を呼びに行かなければ、という使命感に目覚めたかは本人にもわからないらしい。まぁ、この人かなりの不思議ちゃんなのでそんなに特筆することでもないかもしれない。


「気にすんな。コイツらにもいい刺激になったろう」


 そして……今現在、俺達四人以外にもう一人――おやっさんもここにいる。

 まぁ、おやっさんがそもそもの目的だったしね。おやっさんに依頼しようとして王女様来たんだもんな。……俺じゃなくて。

 だけどおやっさんはもう探偵を引退している。なので、とりあえず王女様には俺に依頼したという事にしてもらって、おやっさんは俺達の引率という形で付いてきたのだ。

 何で王様にタメ口なのかは……昔からのお友達だから、らしい。流石だぜおやっさん。王様とも友達なんて、すげぇや。

 俺がおやっさんへの抑えきれない尊敬心をほとばしらせていると。


「ですが国王陛下。もう、こんなに沢山憲兵を配置しております。今更素人が五人増えても、むしろ邪魔になるだけです」


 ……と、憲兵の一人が意見した。

 ま、そうだよな。俺自身は怪盗が相手だろうとドンと来い、って感じだけど……憲兵としても、今までの任務や訓練でつちかってきたチームワークがある。それを他人に乱されるのは避けたい……って所だろう。


「……むぅ。それは、そうか」


 王様も唸っていた。

 あの表情の迷い方からして、多分王様としても、憲兵の意見を優先させたいんだろう。だが、旧友おやっさんの前で厳しい態度を取るのは心苦しい……って感じか。

 だが、流石だぜおやっさん。おやっさんはその表情の変化を、誰よりも機敏に感じ取ったようだった。


「ああ、そうだな。そこの憲兵さんの言い分が正しい。俺達は引き上げさせてもらうよ」


 悪かったな、迷惑かけて。今度時間が出来たら少し話そうぜ。

 おやっさんは最後にそう王様に告げた。

 王様はそれを聞いて、とても嬉しそうに頷いた。

 良かった。和やかな空気のまま、スッキリと終わる――そう思っていたら。



「……お父様の為に連れてきたのに」



 ――ピシリ、と和やかなムードに亀裂が入った。

 ……この声は、王女アリア様。

 後ろを振り向くと、王女様は涙目で俯いてプルプルと震えていた。


「……お父様、スカル・シーリングがいたらなぁって、言ってた。だから、連れてきたのに。お父様、喜んでくれるかなって、思ったのに。なのに、酷い。みんな、酷い。私、みんな嫌い!」


 ……どうしよう。帰りにくくなったぞ。

 王様の腕の中で暴れて泣き喚く王女様を見据えつつ、俺は――否。ここにいる全員は、冷や汗を流していた。

 どうすればいいのかわからず、俺が目を泳がせていると……さっき俺達に厳しい意見をした憲兵と目が合った。目が合ったままでは気まずいので、とりあえず会釈したら向こうも会釈し返してくれた。


「みんな嫌い! ばかばかばか! あんぽんたん! お母様に言いつける!」


「ちょっと、アリア……落ち着きなさい」


 暴れる王女様を必死でなだめる王様。

 だが、王女様はその場でジャンプし、王様の顎に頭突きを食らわせてから睨みつけて言った。


「お父様嫌い! 私の前で喋らないで! キモい!」


「アッ……」


「国王陛下ーッ!?」

「大丈夫ですかーッ!?」

「担架を! 担架を持ってこい!」


 愛娘に顎への頭突きにプラスして『嫌い』『喋るな』『キモい』の三点セットを突きつけられた王様は、その場に灰のように崩れ落ちた。

 周りの憲兵が崩れ落ちた王様に雪崩のように押し寄せる中、王女様はその合間を縫うように進み、人の山を抜け出てきた。

 ったく……とりあえず、王女様なだめるの、協力するか。

 俺は王女様に一歩、歩み出た。


「……王女様。流石に、言い過ぎだしやり過ぎじゃ」


「探偵も嫌い! 死ね……は可哀想、転んで膝擦りむいちゃえバーカ!」


 ……俺の話は全く取り合ってもらえなかった。

 後、教育の賜物だろうか。俺への罵倒がめっちゃマイルドだった。

 王女様はどんどんどこかへ進んでいく。

 これどうやって収集つけようか……そう悩んでいた時。


「コラ、アリア。どこに行くんだい、護衛も付けずに危ないよ」


 ……と、めちゃくちゃ爽やかなイケメンボイスが王女様をたしなめた。

 その声の主は――


「全く。アリアもそろそろ歳が二桁になるんだから、もう少し慎ましさを持ちなよ……姉様みたいになりたいの?」


 ――この国の第一王子。『セルベール・ウィンダリア』その人だった。

 端正な顔立ちから放たれるリアル王子スマイルには、国内国外問わずファンクラブが世界中にあるとかないとか……。これで一四歳ってのもすげぇ。更に頭も良く運動神経もいいらしく……性格もとてもいい。逆に何が出来ないんですか、と聞きたくなる程の完璧人間。それが目の前のセルベール王子だ。

 王子様は王女様を抱きとめたまま、俺達の方を向いた。


「貴方達がアリアが依頼した探偵ですか?」


「あ、はい」


 誰の返事だったのだろう、もしかしたら俺のかもしれない。

 目の前の圧倒的王子オーラに圧倒されることなく、皆が皆自然と返事が口に出た。王子様の優男スマイルが、王子と一般市民の壁を打ち破っているのかもしれない。国民を萎縮どころか緊張すらさせないとか欠点無さすぎねぇか。


「そうでしたか……すみません、妹がご迷惑を」


「えっ、ああ、いえいえそんな」


「せっかく来て頂いたんです。父上、混乱しないように私が指揮をとりますから、この探偵方達にも警備を依頼してみては? 人手は上手く使えるのなら多い方がいいですから」


 それならアリアも満足するでしょう、と王子様は付け足した。

 ……腕の中の王女様は、本当にご満悦そうだった。

 結果としてこの場は、王子様の鶴の一声であっさりと纏まったのだった。



 ****



「しかし、凄いですね。その年でそんなに機転が利くなんて」


 俺達は王子様と一緒に廊下を歩いていた。

 ……廊下もでけぇな。ここまででかくする必要なくない? ってくらいでかい。

 そして後ろから『レフトが敬語……なんか怖い』『探偵さんが敬語使ってるのなんか気持ち悪いです』『あはははは……気持ちはわかるよ』とおやっさん以外の三人の声が聞こえてきた。後でしばく。

 俺がそう決意し拳を握り締めていると、王子様がふふふ、と笑い始めた。


「……どうしました?」


「いえ。仲がよろしいのだなぁと、羨ましく思いまして」


「……そうですかね?」


「ええ。ご存知の通り、私は……自分で言うのもなんですが、『傑物』などと呼ばれ讃えられてきました。だから、私を慕う人々は多くても、貴方達のように気楽にお互いが笑い合えるような関係ともだちは全くいなくて……少し、羨ましいです」


 そう、王子様は寂しそうに笑った。

 ……そっか。まぁ、そりゃそうだよな。王家に生まれて王子様として育って、この年でもう外交とか任されて。同年代の友達とか、作る暇も無いはずだ。

 俺は勝手ながら王子様に同情し……そして、気がつくと俺は知らずのうちに、軽口を叩くような感じで口を開いていた。


「なら、俺がなりましょうか? 友達」


 言ってからすぐさま口を抑える。

 ……俺今何言った?


「……え」


 王子様も呆気に取られた顔をしている。


「……え?」


 そして、その場にいる全員が固まった。


 ……どうしようやべぇぇぇぇぇぇぇ!?

 俺、なんか気が抜けてきてたからついポロッと変な事言った! 王子様に友達になろうぜみたいな事言った! アホか俺は! そうです! 俺はアホです!

 ほら、後ろ振り向いたらライトもイラもエルも皆固まってるよ。カチカチに青ざめて固まる三人と、顔を背けながらプルプルと震えるハードボイルド一人――おやっさん何笑ってんだよアンタ!? 何必死に笑い堪えてんだよ弟子のピンチだぞオイ!

 最後に、恐る恐る隣の王子様の顔を見る。怒ってたらどうしよう……処刑になったらどうしよう……。


「……っ」


 王子様は――顔を赤くして、震えていた。

 これは……どっちだ? 怒りに震えてるのか、おやっさんみたいに笑い堪えてんのか……つか、おやっさんはいつまで笑ってんだよ。堪えきれてねーんだよ荒い吐息が漏れ出てんだよ。今のアンタのハードボイルド感ゼロだからな。

 俺は一呼吸置いて、王子様に声をかける。


「……王子様?」


「……あ、いえ、すみません。そんな事、初めて言われたもので」


「すみませんでした、出過ぎた真似を……」


「いえいえ。……是非とも、よろしくお願いします」


 そう言うと王子様は手を差し出した。

 俺はそれをおずおずと握り取った。


「ああはい、こちらこそ……って、え?」


「……友達。なってくれるんでしょう?」


 ……俺は目を見開いた。

 俺は目の前で、王子様と『友達になろう』と握手をしているのだから。

 ……え、マジ?


「……初めての友達が出来ました。これからよろしくお願いします、レフトさん」


「……い、いいんですか? 俺なんかと」


「俺なんか、じゃなくて、()()()()友達になりたいんです。初めて王子わたしと同じ立ち位置に立って、手を差し伸べてくれたあなただから」


 ……なんか照れる。

 ていうか俺、ガチで王子様と友達になってしまったらしい。俺はもちろん大歓迎で、王子様も大歓迎……すげぇな俺。流石俺だぜ。

 俺の背後の愉快な仲間達も、目を見開いて唖然としていた。後、おやっさんはいつまで笑ってんだろう。変なツボにハマってしまったのかもしれない。


「後、敬語は使わなくても結構ですよ。堅苦しいですし、年上の友達に敬語を使われるとよそよそしいです。呼び捨ててくださるともっと嬉しいです」


 王子様は着々と話を進めていく。若干早口だし、興奮しているのかもしれない。初めて出来た友達という存在に。

 ……本当に俺でいいんだろうか。いや、いいのだろう。もう友達になったんだし、そんな事考える方が失礼ってヤツだ。多分。


「じゃあ……よろしく。えっと、セルベール?」


「はい。よろしくお願いします、レフトさん」


「……セルベールは敬語なのか」


「生まれてこの方ずっとこの口調なので、敬語これじゃないと話し方がぎこちなくなります」


「そっか」


 拝啓。この世界のどこかにいるであろう俺の両親様。息子は今日、王子様とお友達になりました。



 ****



 〜ライト・マーロウ〜


「……む」


 僕の目の前では、レフトと王子が仲良く話している。


「今話してて思ったけど、セルベールってさ。案外寂しがり屋だよな」


「なっ、さび、寂しがり屋……。今のは傷つきましたよ」


 あ、王子がレフトをたどたどしくも小突いた。レフトもおっかなびっくり小突き返している。

 ……仲良さそうだな。


「……ふむ」


 僕は知らずのうちに腕を組み、自分の肘の辺りを人差し指でトントンと叩いていた。

 しかし目の前の二人は仲が良さそうだな。


「……ぬ」


「さっきからどーしたのライトくん」


「うわっ」


 突然背後からエルちゃんが声をかけてきた。

 ビックリした。

 エルちゃんは『そんな驚かれると傷つくんだけど……』と若干睨みつけてきたが、特に気にすることでもないだろう。

 問題は、エルちゃんにも気づかれるほど自分の行動がことになっていたという事だ。


「そんなに僕の態度は目立っていたかい?」


「うん。さっきからむーむーぬーぬー唸っちゃってて、嫌でも気づくよ」


「……そんなにむーむーぬーぬー言ってたかい」


「ちょっと盛ったかな」


「やっぱり」


 てへへ、とエルちゃんは悪びれもせず笑った。

 しかし……エルちゃんが言う程むーむーぬーぬー唸っていなかったとしても、それでも彼女に気づかれるくらいには僕は唸っていたのだ。何故だろうか?


「……何故僕は唸っていたのだろう?」


 疑問を口に出してみても、やはりそれは氷解することは無かった。

 ただただ海に漂う氷山のように、いつまでもぷかぷかと残り続けるだけだった。


「……嫉妬、とかじゃないです?」


 僕が先程とは別の感情でむーむーぬーぬー唸っていたら、突然イラちゃんが口を挟む。

 僕が……嫉妬? レフトに……王子に?

 えっと……?


「……ピンと来てませんねライトくん」


「ライトくん結構にぶちんだよね」


 女子勢がヒソヒソと話しているが、僕の耳には入らなかった。

 今の僕の頭の中は、先程イラちゃんに言われた『嫉妬』以外の事を考える余裕はなかった。

 嫉妬……自分の大事なものを失いそうになったりする時に表れる不安や恐怖などの感情の総称。

 確かにレフトは僕の大事な相棒だが……失いそうにはなっていないだろう。それはやはりおかしい。

 僕はイラちゃんに反論しようと、振り向いて口を開きかけ――そのまま固まった。

 何故なら――視界の端に、見えたからだ。僕の苦手な人物の姿が。

 あ……気づかれた。



「――ぬあああああああああ! そっこにいるのはぁ……ライトくんでありますかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」



 ……最悪だ。



 ****



【キャラクター設定】 〜セルベール・ウィンダリア〜


 ・身長……一六八センチ


 ・体重……五四キロ


 ・種族……神子族


 ・年齢……一四歳


 ・職業……ウィンダリア王国第一王子


 ・誕生日……八月一五日


 ・世間の評価……傑物、爽やかイケメン、非の打ち所のないウィンダリア史上最高の王子など


 ・世間の裏での評価……完璧すぎて気持ち悪い、内心周りを見下しているクズに違いない、ガキのくせに恵まれすぎている(比較的風当たりの弱いものを選出。ほとんどは聞くに耐えない罵詈雑言である。そしてそれら全てをセルベールは知っている)


 ・今まで受けた評価の中で一番傷ついたもの……『化け物』


 ・今まで受けた評価の中で一番嬉しかったもの……『案外寂しがり屋』

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