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File1―2 暴龍を飼う少女 〜三人の情報屋〜

3話目。ここから少し長くなります。

 〜レフト・ジョーカー〜


 早速俺は聞き込み調査に向かった。

 イラも着いて行きたいと言ったので、決して俺から離れないことを条件として飲んでもらった。

 聞き込みとは言えども、探しているのはタイラント。もし聞き込みを行った人がタイラントの事を知っていた場合、確実に通報される。

 だから俺は、いつも頼っている複数の情報屋から情報を仕入れることにした。こいつらは信用出来る。友達と言い換えてもいい。


 まずは……。



 ****



 〜イラ・ペルト〜


 私と探偵さんは、第三大通りの中央にある噴水広場に向かった。

 クジラのように水を虹を輝かせながら噴き出す、石造りの大きな丸い噴水を中央に、色々な仮設の屋台が立ち並んていたり、大道芸人やらが芸を披露していたりする憩いの場だ。

 そこには沢山の屋台が立ち並んでいる。私もここでホットドッグとかを買い食いしたことあるし。

 探偵さんはその沢山の屋台の中でもかなり目立つ、ピンク色を基調とした移動式の屋台に沢山のデコレーションが飾られたドーナツ屋に向かった。店名は『シャバドゥビ』。どういう意味なんだろうか。

 そのドーナツ屋の店主さんも探偵さんに気づいたようで、こちらに歩いてきた。

 犬のような耳が付いているので、このお姉さんの種族は恐らく犬型の【獣人族】だろう。ちなみに私は【人間族】。探偵さんも多分人間族だろう。

 それにしても……。うっわー……大きな胸。歩く度に微揺しており、それが逆に色っぽい。

 探偵さんを横目で見ると、頬を赤らめながらその女の店主さんから目を逸らしていた。

 ……これだから男は。


「はぁい、どうしたのレッくん」


「レッくんはやめろ!」


 探偵さんはたじたじになりながら、頭を撫でようと女の店主さんが伸ばした腕を払う。

 ……ハードボイルド感皆無かよこの人。私の方がまだハードボイルド名乗れるのではないか? ブラックコーヒー飲めるし。


「あ、新作食べる? 『今明かすあいことわり――桃亀ピーチタートル熊龍グリズリードラゴンのスペシャルドーナツ』」


 そう言うとドーナツ屋のお姉さんはドン! と赤、青、黄、紫に彩られた大きめなサイズのドーナツを出した。

 ……どっから出したんだろう? 無限収納袋アイテムボックスでも持ってるのだろうか。あれむっちゃ高いのに。

 探偵さんを見ると、すごく怪訝な顔をしていた。


「ピーチタートルはわかるけど、グリズリードラゴンの肉とかドーナツに合わねぇだろ」


 ……確かに。ピーチタートルは甲羅を煮詰めると桃のような甘く柔らかい口当たりになる海亀であり、スイーツにもよく使われる。

 でも……グリズリードラゴンは。あのワイルドな野性味溢れる風味と龍肉独特の味わいは……スイーツには合わない気がする。

 お姉さんは私達の怪しむ目線に気づいたのか、ニッコリ笑って皿を差し出す。


「案外合うのよ、試してみたら? それに、ピーチタートルもグリズリードラゴンも貴方の好物じゃない」


「……いや、普通にプレーンシュガーでいいよ。イラ、お前も奢ってやるよ」


「えっ、じゃあ……私もプレーンシュガーで」


「あ、そう。了解。とりあえず席着いといて」


 そう言うとお姉さんは屋台に戻っていく。

 私達二人は、その屋台の前にあった椅子に腰掛けた……。



 ****



 〜レフト・ジョーカー〜


「ねぇ、このお姉さん、誰なんですか?」


 席につくやいなや、イラはそう聞いてきた。

 俺はそれに答える。


「情報屋の一人、『ベガ・アルタイル』。抜群の容姿を生かし、主に男性客からありとあらゆる情報を聞き出すやり手だ」


 俺がそう言い終わると、スカーン! と、俺の頭を何かで殴る音が。頭が痛ぇ。俺のお気に入りの帽子がへこんだらどうするつもりだ。


「私はただのドーナツ屋。私が情報通なのも、私の気を引きたい男客が、勝手に私にベラベラ噂話とか世間話を垂れ流してくだけよ」


 余計な嘘言わないで、と付け足して、俺の頭を叩いた人物――ベガは俺の横に座った。


「プレーンシュガー二個、お待ちー」


「……なぜ俺の横に座る?」


「いいじゃないの。ところで、この子は何? もしかして――……依頼人?」


 俺は首肯した。

 ……本当はイラの事を『彼女でもできたか』とか言ってイジりたかったんだろうが……俺に気を使ってくれたようだ。

 まぁ、全部俺が悪いんだけど。

 いや、今はこの話はどうでもいい。


「なぁ……この件、内密に頼むな?」


「……何の情報が欲しいのよ」


 イラを見ると、感激しながらプレーンシュガーをハムスターのように頬張っている。ここのドーナツ、美味いからなぁ……。俺だって本当はチョコクリームドーナツとか食いたいが、ハードボイルドな俺にはプレーンシュガーがシンプル・イズ・ベストでお似合いなのだ。

 俺は白い粉を口の周りに付けているイラを横目に、ベガにイラから貰ったタイラントの写真を見せた。


「……これ探すのが今回の依頼」


「あらあら……これまた随分と厄介なペット探しね?」


「何か情報ない?」


「うーんと……。あ、そう言えば話してた人がいたわ。『グリン高原』の方で、タイラントの赤ん坊っぽい個体を見かけたって」


 ふむ。グリン高原か。豊かな緑に包まれたとても空気の綺麗な場所で、野生動物や魔物もちょくちょくいる。

 だが、基本的に国が管理している領域には危険な動物や魔物はいないため、安心してハイキングやキャンプをすることが可能な美しい高原だ。

 すると突如、イラも話に割り込んできた。


「むぐっ、わ、わらひがタマゴ拾ったのもグリン高原です!」


 ほう。イラがタマゴ拾ったのもグリン高原……か。中々有益な情報かもしれない。


「そっか、ありがとな。これお代」


 俺はプレーンシュガー四個分・・・のお代を渡す。二個分のお代は情報提供料だ。

 ベガはまいどあり、とお代を受け取り、屋台に戻っていく。

 俺はまだ食っていないプレーンシュガーを食おうと皿に手を伸ばし――気づく。


「……イラ。俺の分のプレーンシュガー、食った?」


「……プレーンシュガーくらいでブーブー文句言うのはハードボイルドじゃないと思います」


「がっ、ぐぬぬ……くそォ……!?」


 べっ別にいいし! プレーンシュガーとかわざわざ食う程でもねーし、昼飯食いすぎてむしろいらなかったし……。

 俺は席から立ち上がり、イラに声をかけた。


「……次、行くぞイラ……」


「そんな落ち込みます!?」


 ……全然落ち込んでねーし。



 ****



 次に俺達が来たのは、とある裏路地だ。視界の端に、石を溶かしこんだような色のネズミが、泥だらけの野菜の切れ端を咥えて走っていくのが見えた。

 この路地に入る前にイラは置いていこうとしたのだが、『私が依頼したんだから着いていく!』と言って聞かなかったので仕方なく同行させている。

 俺は怯えて俺の服の背を掴むイラに忠告する。


「この裏路地、ヤバい薬屋とかもいるから、俺から離れんなよ」


「……う、うんっ」


 何故こんな治安の悪い場所に来たのかというと……ここに、俺の頼りにしている二人目の情報屋がいるのだ。

 俺は路地の一番奥の行き止まりにまで向かう。

 そこには、紫色のローブに身を包む怪しい謎の人物が木製の椅子と机を出して座っていた。その机には呪術的な物を感じさせるテーブルクロスがかけられており、その上には大きな大きな水晶玉が。

 その人物は俺に訪ねてきた。


「……占いかい、情報かい」


「情報だ」


 俺は迷いなく答える。

 すると、その怪しい人物は溜息をつき舌打ちした。


「たまには占ってったらどうだい」


「はっはっ、悪ぃな。占いとかそういうオカルトは信じないタイプなんだ」


 ハードボイルドにキメる。

 ハードボイルドな男はオカルトなんてものは信じないのだ。


「……あ、後ろに幽霊」


「ヒィアッ!? 嘘嘘嘘嘘どこどこどこどこ……!?」


 俺は震えながら後ろを向く。

 するとそこには、目いっぱいに女の顔が――!


「ヒギャアアアアアアアアア!?」


 俺はその場にぶっ倒れた。

 うわぁ……本物だぁ……うわぁ……。


「ちょっと探偵さん!? 私ですよ! イラですよ!」


「……ってイラかよ。驚かせんな」


「あなたが勝手に驚いたんでしょー!?」


 俺はホコリや砂を払い、立ち上がる。

 畜生、かっこいい服が台無しだぁ……。

 俺がそう落ち込んでいると、ローブの人物がクククと笑い始めた。


「やっぱり幽霊怖いのかい、カッコつけ探偵!」


「うっ、うるせぇ! 笑うな! おどろおどろしくしてろ!」


「おどろおどろしくしてろって、どういう意味だい……」


 クソ……。何でこんな路地の奥なんだよ。もっと人通りの多い明るい場所で占い師してろよ。先程の噴水広場とか丁度いいだろ。

 俺がそう呻いていると、後ろからちょいちょい、と裾を引かれる感触。


「うおっ、なっ、なっ、何だァ!?」


「だから私だって……イラですよ」


「驚かせんなっつってんだろ!?」


「肩ポンポンしても頭ツンツンしても驚いてたと思うんですけど!?」


 ぐっ、ぐぬぬ……。確かにそれは否めない……!

 まぁ、とにかく。俺はイラの要件を聞く。


「何だよ」


「この人、誰ですか?」


 イラは例のローブの人物を指し示す。イラの目からは猜疑心に満ちた視線が送られていた。

 ……しかし、改めて見ると怪しいなぁコイツ。何やら呪文っぽいのブツブツ呟いてるし。イラの気持ちもわからんでもない。


「コイツは『ウラナ』って呼ばれてる【神子族】のエセ占い師だ。本名は知らねぇ、ついでに性別も年齢もわからん。俺の第二の情報屋だ」


 エセ占い師とは何だい、とウラナが切れた。しかし、俺はそれを華麗にスルーする。

 ちなみに【神子族】とは文字通りだ。【人間族】と【天人族】――いわゆる神様である――の間に生まれたハーフ。半人半神、それが【神子族】。

 俺はウラナにタイラントの写真を見せた。


「このタイラント、知らねぇか?」


「……おやおや。これまた、災難な依頼を受けたねぇ」


「うっせぇ。どうなんだよ」


「うーん……知らないねぇ」


「そうか」


 ウラナはこのタイラントについては何も知らないようだ。

 ウラナの占いは一部の界隈で有名なため、ウラナの元にはディープな情報が転がり込むのだが……どうやらここにタイラントの情報は入ってきていないようだ。

 俺はその場を去ろうとしたが、ウラナが呼び止めてきた。


「あ、そうだ。情報提供できなかった詫びだ。一回サービスで占ったげるよ」


「……マジ?」


「いやアンタじゃないよ探偵。そっちの、依頼人のお嬢さんの方さ」


 ウラナはイラを指し示す。

 イラは驚いたように俺とウラナを交互に見た。

 その瞳は少し不安に濡れている。占ってもらいたいが、ペットが心配で仕方がないという不安の目。だから俺は、安心させるために言葉をかけた。


「大丈夫、いくら幼いとはいえタイラントだ。グリン高原の魔物よりは強い」


「……本当ですか?」


「あぁ。あそこにタイラント級はいる訳ねぇ」


 そう……だから、ぶっちゃけ言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()事自体が有り得ないのだが……まぁ今はいい。

 イラは少し怯えながらウラナの正面に座った。


「それじゃ、占うよ……何がいい?」


「じゃあ……今、ミーコ……私のペットのタイラントがどこにいるか、とか占えますか?」


「余裕さ」


 そう言うとウラナは、水晶玉に何やら念を送り始め――そして。


「……うーん。真っ暗で何も見えないねぇ。洞窟の中にでもいるのか、それとも……」


「わかりました、洞窟ですね! ありがとうございます!」


 ウラナはまだ何か言いたげにしていたが、イラはせっつきながら路地を抜けていった。

 俺もイラを追いかけようとウラナに背を向け、ソフト帽を押さえながら後ろ手に笑った。


「……悪ぃなウラナ。今回の依頼人、せっかちなんだ」


「はっはっ、見りゃわかる。それよりも……探偵。気ぃつけな」


 俺もイラに続いて路地を駆け抜けようとしたのだが、引き止められた。

 そしてウラナは、声を潜めて俺に語りかけてきた。

 そのトーンはかなり神妙な様子で、俺は何となく固唾を飲み込まざるを得なかった。

 ウラナは続ける。


「今回、アンタが受けた依頼……多分だけど、一筋縄じゃ行かないよ」


 そう言うとウラナはしっしっ、と手で追い払う仕草をした。


「これ以上は商売の邪魔さ。さっさと失せな」


 俺はそんなぶっきらぼうな態度をとるウラナに礼を告げた。


「ありがとよ」



 ****



 俺はイラに腕を掴まれ、グイグイと引っ張られていた。

 案外力が強い。肉屋の娘は伊達じゃないってか。……引っ張る力が強すぎて肩がミシッと痛い。


「探偵さん、探偵さん! ミーコはグリン高原の洞窟の中ですよ! 早く行きましょう!」


「おいおい……占いはあんま信用すんなよ。もっと情報を掴みたい」


 そもそもの話、オカルトなんて信用出来ないのだ。

 確かに、占いなどのオカルトは人の心を救うこともある。だがそれはあくまで心理カウンセリングとしての効果であり、言ってしまえば詐欺に近い。

 俺はその事をイラに教えてやった。


「……ってわけだ。だから、占いとかオカルトをあんまり信用すんなよ?」


「……幽霊にビビってたくせに」


「ビビってねーし!」


 はっ、はーっ!? 何言い出してんだこの女!?

 いっ、いつ! いつ俺がビビってたんだよ!? ハードボイルドな俺はオカルトなんて信じてねぇし、よってオカルト筆頭である幽霊なんざも信じちゃいない!

 これは卵は落とせば割れるのと同じくらい当たり前な事だっ!


「ゆっ、幽霊なんざいる訳ねーんだよ! 死んだらそこではい、お終い! めでたしめでたし……かどうかは知らねぇけど!」

「そうだよ! そもそもこの世に未練があるとか意味わかんねぇだろ! 自分が主役の人生ストーリーが気に入らなかったってこったろ!? 幕閉じてんのにその幕をこじ開けて第二部スタート! とかやっちゃう三流舞台じゃねぇんだから!」

「よって俺は幽霊なんざ信じちゃいねーし気に入りもしてねぇ! だから、俺は幽霊にビビったりはしてねぇ!」


 俺は息を荒らげながらまくし立てた。

 ……ここまで言えば、俺の熱意、意見は伝わったろう。

 俺は熱論によりズレてしまったソフト帽を被り直し、イラに告げる。


「わかったかい、お嬢さ――」


「あ、ほっぺに幽霊ついてますよ」


「ウルァァァアァァァアアァ!?」


 俺はいつの間にか喉から声を絞り出していた。

 周りの通行人がギョッとして俺達の周りを避けるが、気にしない。


「嘘だろおいおいどこだどこだ!? ほっ、ほっぺ!? ケーキのクリーム気取りかこの野郎っつーかマジでどこ!? イラッ、取って、取って取って!」


 幽霊がほっぺ……! 意味わかんねぇ! 意味わかんねぇよ!

 俺は自らの頬をビンタしながらイラの元に駆け寄る。そこで俺は、イラがとんでもなく冷めた目をしていることに気がついた。


「……う、嘘ですよ〜」


 ……ほっぺに幽霊、いない?

 このほっぺのヒリヒリは幽霊の呪いとか鬼火とかではない?


「自分でビンタしたからじゃないですか……?」


 ほ、ホントに居ない?

 幽霊、いない?


「……はい、いませんよ。嘘です、全部」


 ……そうか。俺は騙されていたのか。

 だがしかし、ハードボイルドな俺はその嘘を見破っていた。俺のあまりにも熱の篭った演技は誰にも見透かせなかったのだろう。

 そうだ。あれは演技だ。

 俺はイラに笑って告げる。


「……しっ、知ってたし〜……。演技だし〜……」


「……そんなに強がらなくても」


「強がってねーし!」


 俺はイラの頭をゲンコツで小突いた。

 イラはわざとらしく頭を手で抑え、叫ぶ。


「殴ったー! 女の子を殴ったー! うわー! ハードボイルドってなんなんだー!」


「うるせぇ! 大声で叫ぶな! 後、ハードボイルドが何なのかとか俺も聞きてぇよ!」


 どうすりゃいいんだよ、ハードボイルドって。

 男らしけりゃハードボイルドなのか? それは断じて否だ。何かこう、違う。

 うぅ……全然わからん。ハードボイルドというものは、心や魂で感じるしかないようだ。

 そんな風に雑談したり喧嘩したり考察したりしながら歩いているうちに、俺達は酒場『バンガン・バッカス』に辿り着いた。


「ここって……酒場?」


「あぁ。でも、レストラン代わりに使う奴も多いから、お前みたいな子供でもアットホームでウェルカムだ」


「……子供、ですかぁ」


「……何だよ」


「いえ、どっちかというと探偵さんの方が子供っぽい気がするんですけど……まぁいいです」


「まぁよくねぇよオイ」


 俺達は口喧嘩しながら店内に入る。

 木造の店内。建材に使われた『ブルーム・アップル』の木独特の爽やかな匂いが鼻をくすぐった。このブルーム・アップルの香りのおかげで、この店でいくら酒を飲んでも悪酔いすることはほぼない。

 とは言っても、俺達は呑みに来たんじゃない……情報を買いに来たのだ。酒場というのは酒に乗せられた客の口から情報が沢山零れ落ちる。その零れた情報を盗み聞きし、情報屋としての機能を果たしている酒場も少なくない。

 そして、俺はここの酒場を情報屋として懇意にしている。だから俺はよく仕事の時はここの酒場を活用する。


「まだ昼間だから飲んでる奴もいねーな。この感じだと、ちょっと遅めのランチタイムか軽食か……そのどっちかだな」


 俺は辺りを見渡しながらそう呟く。

 そして、木のいい香りが漂う店内の中で、一人異形の雰囲気を放つゴリゴリの男が一人。

 俺はその近づき難いオーラを放つ男に近づく。イラも怯えながら俺に続いた。


「よう、店主オヤジ


「……何だ、レフトか」


「あ、あの、探偵さん、この人は……?」


 ぶっきらぼうに応えた店主の声にイラがビクッと反応する。そして俺にしがみつきながら震えて聞いてきた。


「このぶっきらぼうな店主は『バッカス・アンクリネス』。元【天人族】だ。俺は店主オヤジって呼んでる」


 元、と付けたのは【天人族】特有の掟のためだ。

 天人族は驚くことに、天人族の間で決められた掟を破ると『不浄アンクリネス』の烙印を押され、天人族特有の強大な力を封じられてしまう。そして、未来永劫に人間族でも天人族でもない『罪人』としてこの世を生き続けるらしい。


 まぁようするに、このぶっきらぼうな店主のおっさんは天人族だった時に何かやらかしてしまい、罪人になってしまったってわけだ。


「なぁオヤジ。このタイラントについて何か知らねーか?」


 俺はオヤジに写真を見せた。

 オヤジはそれを眺め、フンと鼻息を鳴らす。


「コイツをどうする。討伐でも頼まれたか? ……違うよなぁ」


 オヤジは俺達に、真冬の川の水程に冷えた目線を浴びせた。

 その目線にイラはガクガクと震え始めるが、俺は慣れっ子なので特に何も動じない。……まぁ、あの目力は今でも若干慣れないけど。


「……あらら、オヤジってまさかそっち側?」


 オヤジは多分――いや、確実にこのタイラントを探す理由に気づいてる。……いやそれはまぁ、ベガやウラナも気づいてただろうけど。

 だが、このオヤジは見て見ぬふりをしたアイツらと違い……俺達を責めている。……ちょっと違うか。どちらかと言うと、覚悟を問うている、の方が正しい。

 俺はソフト帽を押さえ、ハードボイルドにキメる。


「依頼人から依頼されたんでな」


「ほう、依頼人を盾にするのか」


「違ぇよ。俺にとって依頼を受けるってのは覚悟を決めるってのと同じさ。この依頼、受けた時点でもう覚悟は完了してんだよ」


 俺はカッコよくそう答えた。

 オヤジも俺の言葉を聞き、頷く。

 そして、口を開いた。


「グリン高原の公有地を北北西の方向に抜け、しばらく歩くと洞窟があるだろう。そこに今、無法者の集団が根城を築いている」


 飲むか? とオヤジは透明なコップを二つ持ってきて、そこに水を注いだ。コポコポと音を立てながら増えていく形が不確定なそれは、あっという間に二つのコップを満たした。

 俺とイラは席についてその水を一口飲みこみ、話を聞く。


「一昨日のことだ、ここに憲兵の団体客が呑みに来た。そいつらは、確かに――『例の洞窟の無法者の集団が、タイラントの幼体を手に入れたらしい』……って話していた」


「……マジかよ」


 俺は水を飲み干したコップをカウンターに置く。

 オヤジはそのコップにお代わりの水を注いでくれた。


「あぁ。多分、そのタイラントの赤ん坊は無法者の集団に捕まってるな」


 ……コイツは、かなりの難関になりそうだ。

 俺は水で潤したばかりの口が乾いていくのを感じていた……。



 ****



【キャラクター設定】 〜イラ・ペルト〜


 ・身長……一五〇センチ


 ・体重……四一キログラム


 ・種族……人間族


 ・年齢……一三歳


 ・職業……中学二年生/実家の肉屋『ペルト・ミート』の看板娘


 ・誕生日……一〇月一〇日


 ・早く来ないでほしいもの……定期テスト


 ・早く来てほしいもの……第二次性徴期


 ・自慢出来ること……視力がめっちゃいい。だから射的もそこそこ得意。諸事情あって牛乳の早飲みも得意。友達も多い。


 ・一言コメント……ド貧乳。

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