File3―7 四つの依頼 〜暴かれし真実〜
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〜レフト・ジョーカー〜
カリスは微笑みを浮かべながら、衝撃の真実を語り始めた。
「まずねぇ、レフト。クリスタはキミの事なんて、これっぽっちも好いちゃいなかった。ハッキリ言うなら、キミの事を邪魔だと妬んでいた……これが一つ目の勘違い」
俺は目を見開いた。
クリスタが……俺の事を……そんな風に?
でも……俺と、クリスタは
「肉体関係の一つや二つで愛が量れるなんて思わない事だねぇ。本当は、クリスタはボクの事が好きだったんだよ? あのアバズレは、キミの事を出来の悪い弟くらいにしか見てなかったのさ」
「……嘘だ」
「僕がクリスタを殺した理由もそこだよ。僕はね、キミとクリスタが愛し合っているのなら……それでいいって思ったんだ。キミが幸せになるなら……それで」
そこまで言うとカリスは、掴み上げていた俺を石畳の上に優しく下ろした。
周りの皆は……絶句していた。
そんな中、一人だけ――おやっさんだけが、口を開いた。
「どういう事だ、カリス」
「あ、やっぱ気になっちゃいます? ってそりゃそうか。自分の娘の事だものねぇ、気になりますよねぇ」
そう言うとカリスは石橋の手すりの上に立ち、まるで舞台に立つ役者のように大袈裟な態度をとった。
「これはね、一方通行の『好き』しかない三角関係の悲劇……喜劇かな? どっちでもいいや」
カリスの右腕がぐにゃぐにゃと変化し……まるで黒板のようになった。
そこには模様が浮き出ている。三角関係の模様が。
「まずはこの僕、カリスはレフトが好きだった。だけどレフトは、クリスタを好いていて……そのクリスタは、僕の事を好きだった」
黒板に変化したカリスの腕に浮き出ていた模様がぼんやりと変わる。
それは、頭に『僕』と書かれた棒人間と、リボンをつけた頭に『ク』と書かれた棒人間の二人だった。どうやらこの棒人間二人組はカリスとクリスタであるらしい。
「ある日、僕はクリスタに告白された。だけど当然僕は断ったよ。だって、レフトの事が大好きだったもんねぇ」
棒人間の上にフキダシが浮かび上がる。
フキダシにはそれぞれ、クリスタのものには『♡』、カリスのものには『✕』の模様が書いてあった。
「そして次に僕は、クリスタの影響かねぇ……レフトに告白する事にした。結構勇気出したんだよ?」
カリスは俺に目線を投げかけながら、両腕をぐにゃぐにゃと変形させた。どうやら黒板アートはやめにしたらしい。
……カリスの目線が突き刺さるようだった。痛みに耐えるように、俺は歯を食いしばる。
そんな事をしてるうちに、カリスの両腕は手袋人形に変化した。右腕がカリスを模した人形、左腕が俺を模した人形だ。
「ねぇ、僕あの時何て言ったっけ。確か『僕はキミに恋をしている……好きだよ』みたいな感じだったっけ、ねぇ?」
……俺はカリスの問いに頷いた。
それを見たカリスは『覚えててくれてたんだね』と嬉しそうにニコリと笑い、両腕の人形を動かした。カリスの人形が小さいハートを俺の人形に差し出す。
「だけどキミは有耶無耶にした」
俺の人形は、カリスの人形の差し出したハートを受け取らず……かと言って払い除けもせず、ただただ手をバタバタさせるだけだった。
「そして……僕の告白を有耶無耶にしたまま、キミはクリスタと交わった」
「……で、でもっ! えっと……その……ま、交わったって事は、愛し合ってたって事になるんじゃ?」
突如、声が差し込まれた。エルの声だ。エルは顔を赤らめながら、疑惑の念を顔に出していた。
「ていうか……私だけ、何が何だかさっぱりだし……今何の話してるの!?」
……そうか。エルは、何が何だか全くわかっていないのか。イラは……おやっさんにでも聞いたか。ライトは、持ち前の頭の良さで何となく状況を把握している感じだろうか。エルだけが、全く理解出来ていないのか。
だが、カリスは無情だった。
「……誰だよキミは。僕がわざわざキミに対して説明してやる義理はないだろう」
凍てつくような声が、つららのようにエルへと突き刺さる。その声は明らかに殺気を纏っていて、エルの口を強制的に閉じさせるには充分だった。
エルは、首筋に刃物を突きつけられたように、その場に固まった。
「……ふふ。こうして脅せば、一般人はすぐに黙り込む。いいよねぇ、殺気」
カリスはそう満足気に笑う。
……目の前にいたソイツは、俺の思い出の中にいる、どのカリスにもあてはまらなかった。それくらい、今のカリスは狂気に満ちていて……。
「さて、話を戻そうか。どこまで話したっけ……あぁ、そうだ。クリスタの話だったね」
カリスは手をポンと叩いた。手袋人形になっていた手は、もう元に戻っていた。
「僕がレフトに告白した事はすぐにクリスタにも伝わった。クリスタに真偽を詰め寄られてねぇ。あの時のクリスタの剣幕は今でも耳に残ってるよ。水が耳の中に入った時みたいに、鬱陶しく転がってる」
小指を耳に突っ込みながら不機嫌そうな表情になるカリス。
かつての家族をそんな風に回想するカリスが、不愉快ではなかった……と言えば嘘になる。むしろ、今にも怒鳴りつけたかった。だが……それよりも、カリスが語っていたその先の真実の方が気になった。
カリスは再び語り始める。
「単刀直入に言ってしまえば、クリスタがレフトに抱かれた理由なんて結局は『自分の好意を受け入れなかった僕への当て付け』だよ。キミは身内に甘いし、女の子にも弱いから……付け込むのは簡単だっただろうねぇ」
……俺は、それを聞いて……ただただ、愕然とするだけだった。
知りたくなかった真実を知ってしまった。そんな感じだった。
「まぁつまり。スカルさんが手塩にかけた愛娘は、とんでもない悪女に育ってしまったというわけですよ」
おやっさんの方を向くと……おやっさんも、愕然としていた。
ただただ黙って、カリスの方を睨みつけていた。
「……その後も、クリスタは色々と考えてたみたいだったよ。そして、クリスタの企てていたそれらは……レフトを不幸にする。台無しにする。それを僕は知ってしまったから……だけど、ねぇ……。キミは、僕の言う事よりもクリスタの言う事を信じるだろうから。キミに告白した時に……キミがクリスタに寝取られた時に、キミがどっちに傾いてるかわかったから。僕が警告するだけじゃ、キミは絶対に信じない。それじゃ、キミが破滅する。心の底から愛している大好きなキミが……だから、ねぇ……。キミを守る為にクリスタを殺したんだ」
再び、雨がポツポツと降り出した。
それはすぐに勢いを増し、俺の乾きかけていた服を、体を……また、びしょびしょに濡らしてしまった。
「……俺の為?」
だが……俺は、自分の体が濡れる事も、この雨自体も全く気にならなかった。眼中に無い、と言い替えてもいい。
今はそんな事よりも、目の前で語られる真実だけに集中していた。
「俺の、俺が……俺の存在が……狂わせた?」
言葉が、青紫になった唇から、傷口から溢れ出る血のように零れ出す。
俺は頭を掻きむしった。
「俺がカリスに好かれたせいで……俺がカリスの好意を有耶無耶にしたせいで……俺が……俺が……」
「違うよ。キミのせいじゃない」
カリスの声が、俺の自戒を妨げた。
いつの間にか、カリスは俺の目の前まで歩み寄ってきていた。
周りを見渡すと、誰も彼もが立ち尽くすだけだった。皆、雰囲気に飲まれているのだろう。
そして、今その雰囲気の真ん中にいるのは……俺と、カリスの二人。皆が、その二人を注視していた。
「俺のせいだろ」
「違うよ」
「違わねぇよ……そもそも、俺がお前への好意に答えてられれば……」
俺が、有耶無耶になんてしなければ……カリスも、クリスタを殺す、なんて強硬策は採らなかったはず。
殺すなんて……思いもしなかったはず。
「俺が……お前を、歪めた。人殺しに……させた」
俺は、がくりと項垂れた。
だが――頭上から響いてきたのは、何も変わらない声音。
「――違うよ」
カリスは……笑っていた。
そして、ちょっとした計算ミスを指摘するように、カリスは言う。
「勘違いその二、だねぇ。キミは僕の事を知らない」
「どういう事だよ?」
「キミは僕が初めて人を殺したのは、あの時……クリスタを殺した時だと思ってる。……けどね。違うんだよ。僕が初めて人を殺したのはもっと前」
その言葉に、一番初めに動いたのはおやっさんだった。
おやっさんは、何かに気づいたように拳を強く握り締めていた。
「カリス……まさか、お前」
「スカルさんは気づいたんですね。……まだわからないレフトには、ヒントをあげるよ」
そう言うとカリスは、笑った。
「僕がスカルさんの元で暮らすようになった理由……何だっけ?」
「……理由って――あ」
――数年前に両親が何者かによって惨殺され、紆余曲折を経て家で引き取る事になった――カリスは、引き取った親類縁者もカリス一人残して、一家心中やら事故死やらで全滅してしまうため、『呪われた子』扱いされてタライ回しになっていた――そこで俺が引き取ることにしたってわけだ――。
カリスが家に来た理由。
それは……カリスの両親が殺されて。カリスを引き取った家庭も、カリス一人残して崩壊して。それで……タライ回しにされまくった挙句、おやっさんが見かねてカリスを引き取ったから。
俺は、おやっさんの優しさだと思ってた。だけど……それ全部がカリスの計画通りだとしたら。
「……気づいた?」
「……ああ。気づいた。カリス……お前……ッ」
俺の予想が……確信が正しければ。
カリスは……コイツは……俺が思ってる以上に狂ってる……!
カリスは天を見上げ、両手を広げて真実を言い放つ。
「そう! 『カリス・ワイルド』の両親を惨殺した真犯人はこの僕『カリス・ワイルド』! 『カリス・ワイルド』を引き取った親類縁者が皆死んじゃったりするのも、この僕『カリス・ワイルド』の仕業だよ! 全部……キミと一緒に暮らしたかったから、幼い頭で必死に練り上げた計画だった!」
カリスはケラケラ笑いながら続ける。
「初めてキミに会った時、それはこの街ですれ違った時だ。僕は家族と歩いててねぇ、その時にすれ違ったキミに一目惚れした」
背筋に悪寒が走った。
俺は……知らぬ間に、ヤバい所に足を踏み入れていた。それに気づいた事から起こる悪寒だ。
「だから家族に相談したんだ。『今すれ違った男の子と一緒に暮らしたい』って。そしたら……親は何て言ったと思う?」
――あの子にも家族がいて、あなたにも私達家族がいるでしょ? だから無理なの。わかった?――
「その時僕は理解した。“家族”なんてものは、“愛”の前では障害物でしかない! だから殺した。キミと一緒に暮らしたかったから……我ながら純愛だよねぇ」
……そんな純愛、俺は知らない。知りたくもない。
「子供の僕は案外動きやすかった。子供には出来るわけない……そうやって大人達はタカをくくっているから、ねぇ。更に、無残に殺せば殺すほど、実の息子である僕は容疑から外れていった。『こんな幼い子が実の親をこんなに残酷に殺せるわけがない』……とね。でもねぇ……実は子供の方が残酷な発想が出るもんだよ」
今の僕にはあの頃の僕みたいな殺しの方法は思いつけないよ。
そうカリスは付け足した。
「……で、すぐにスカルさんに引き取られるかと思えば、そうは行かなかった。現実は思ってたよりも面倒で。僕は従兄弟の家に引き取られる事になった。流石にまた惨殺しちゃうと僕にも疑いがかかるだろうから……だから今度は、一家心中に見せかけた。どうやったかは覚えてないけど……まぁ、全く疑われなかったし、上手いことやったんだろうね。流石は僕」
「……もうやめろ」
俺は耳を塞いだ。
「そしてその次は祖父母の家に。今回は祖父はうっかり階段を踏み外した事による事故死って事にした。祖母はその一週間後、祖父への後追い自殺に見せかけた」
「もういい……」
俺は体を丸めた。
「その次は別の従姉妹。今回は近くで工事をしてて、近くに山もあったから……工事現場から爆薬盗んで、嵐が来た日に山を爆破。土砂崩れを起こして家を丸ごと飲み込ませた。暴風雨が爆発の痕跡は全部洗い流してくれたから……やっぱり僕に疑いはかからなかった。嵐による不幸な天災……って所で落ち着いた」
「もうやめてくれ」
俺は頭を石畳に何度もぶつけた。
「そしたら次はタライ回しにされ始めて。タライ回しにされまくった挙句落ち着いた遠縁の親類の家で引き取られた。ソイツは酒で酔ったまま風呂で眠っちゃった事による事故死に見せかけた」
「もういいって言ってんだろ!?」
俺は叫んだ。
……ようやく、カリスは黙った。
俺の額からは血が滲んでいた。でも……もっと血を流したかった。カリスが人を殺したのは、間接的には俺のせいだから。つまりは、俺のせいで何人も死んだ事と同じ。
俺が……幾つもの悲劇を引き起こしたのだ。
「俺の……せいで」
俺は、嘆くように呟く。
「俺のせいで……沢山の人が死んだ。そうなんだよな?」
「だから違うってば。キミは何も悪くない」
「違わない。俺がそもそもの原因だった」
「……強情だものね、キミは」
「……よく、わかってんじゃん」
雨はますます強くなった。
時間がそれから、どれだけ経ったかはわからない。
ただただ、重い、重い沈黙が俺達を包み込むだけの時間が過ぎていき……やがて、カリスは石橋から氾濫した川の中へと飛び込んだ。
「また会おう。レフト」
最後にそう言い残して……。
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【キャラクター設定】 〜カリス・ワイルド〜
・身長……変化するため不明
・体重……変化するため不明
・種族……吸血族……だったはずである
・年齢……一七歳
・職業……なし
・誕生日……四月一六日
・好きな人……レフト・ジョーカー
・初恋の人……レフト・ジョーカー
・何があっても一緒にいたい人……レフト・ジョーカー
・この世界で一番愛しているもの……レフト・ジョーカー




