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File3―4 四つの依頼 〜やがて悲劇という名の雨〜

感想、評価などよろしくお願いします。

 〜レフト・ジョーカー〜


 動悸が激しい。

 嫌な汗が肌にまとわりついて気持ち悪い。

 呼吸も乱れ、目も自然と見開かれている。

 俺の体は、俺の言う事をまるで聞かなくなってしまっていた。


「た、探偵さん……?」


 イラの声も、まるでトンネルの向こう側から聞こえるみたいに、ぼんやりと聞こえる。

 次に起きたのは、目眩と吐き気だった。

 咄嗟に口元を押さえ、残った手で近くの壁に寄り掛かった。


 俺は、『ヘーパ・イストゥス』と名乗る女の素行調査をしていた。

 その途中、この女が突然――()()()()()()()()のような口調で喋り出した。

 そして気がつくと俺は……へーパを、突き飛ばしていた。

 へーパは今、突き飛ばした際に崩れ落ちた木材の下敷きになっている。

 常人ならただでは済まない大事故だが……不思議と、俺はこんな事で彼女は大した怪我はしないだろう、と確信していた。

 ただし、それは決していい予感ではなく……叶うならば、外れていて欲しい予感。

 我ながらとてつもなく酷いことを願っている……。それに気づいた俺は、激しい自己嫌悪に陥った。

 その願いとは――崩れ落ちた木材の下敷きになって、大怪我をしていて欲しい、というもの。もしそうだったのなら……彼女は、ただの俺とは関係の無い人間だとわかるから。


 だが――現実は、非情だ。


「ねぇ……酷いじゃないか……レフト?」


 ガラン、と木材を軽々と押し退けて、まるでゾンビか何かのように立ち上がるへーパ……否。へーパと名乗る誰か、だ。

 そして俺は……その誰かが誰であるか、も内心わかっていた……。

 だが俺は、藁にもすがる思いで、目の前の彼女に質問をした。


「……お前、誰だ?」


 すると――へーパは、ニコリと笑って、有り得ない高さまで跳躍した。

 何だありゃ……バッタ系統の【獣人族】でもあんなには跳ばないぞ……!?

 へーパはそのまま店の屋根に着地し、俺に笑いかけた。


「ねぇ、ここの店長さんに辞めますって言っておいてよレフト! 後、今夜、()()()()で待ってるから!」


 そう言うと、へーパは――彼女は――()()

 屋根を伝って、どこかへ消えてしまった……。



 ****



 〜イラ・ペルト〜


「……なぁ、イラ。ギロットに、へーパが辞めるって言っておいてくれ。悪い」


 へーパさん、と名乗る彼女が驚く程の跳躍でどこかに消えた後。

 探偵さんは、腰が抜けたようにその場に崩れ落ちて、いつも被っているソフト帽を取って、そう私に頼んできた。

 私はもちろん反論した。


「何で私が……ど、どうやって説明すればいいんですかっ!? そもそも、今の何ですかお知り合いですか!? 私も混乱しててよくわかんないんですけど……! かっ、カッコつけて秘密にするとか、やめてくださいよダサいですし!」


 ……そう、煽りも含めて言ったのに。

 探偵さんは……ただ一言、力無く呟くだけだった。


「……一人にしてくれ」


 それを聞いた瞬間、私の中に衝撃が走った。

 いつもなら『カッコつけとは何だー!』とか言って、鬱陶しいくらいに、私のこれから成長予定の胸を主として罵倒してくるのに。


 なのに……何で、そんな弱気になってるんですか……?


 ポツリ、と私の鼻の頭に水滴が落ちた。

 やがて、ポツポツと細かい水の粒が空から降ってきた。


「……ほら、雨だぞイラ。店の中に帰れ」


 力の無い声のまま、探偵さんは私をそう促した。

 私は、そんな元気の無い探偵さんが見ていられなくて……私は無理に探偵さんを立ち上がらせようとした。


「たっ、探偵さんも濡れちゃいますよ! 早く立って、一緒に来てください……私の新人教育でしょ!?」


 ……だけど、探偵さんは私の手を振り払って。

 そして冷たい声で呟いた。


「……早く行け」


 その言葉には、残酷なくらいに冷たい拒絶が沢山含まれていて。

 私は、それ以上何も言えずにギロットさんのお店に戻るしかなかった……。



 ****



「……えっと、どゆこと? へーパさん、辞めるの?」


「は、はい。辞めるそうです」


 私はギロットさんに、へーパさんが辞める旨を話した。

 ギロットさんは『意味がわからない』と顔に書いてあるような表情で、私に何度も質問をしてきた。


「なんで?」


「わかりません」


「ていうか、依頼は?」


「……あ、怪しい人物でした」


「何でへーパさん自身で辞めること言いに来ないの?」


「……どっかに逃げちゃいまして」


「どっかって、どこ?」


「わかりません……」


 終わらない質問攻め。

 私も何とか答えようと頑張ったが、不信感は拭えない。

 そして、ギロットさんの次にした質問に……私の中の何かが、外れてしまった。


「ていうか、レフトは?」


 あ……もうダメだ。

 ギロットさんは、できるだけ私を傷つけないよう、優しい言葉をかけてくれている……それはとても嬉しい心遣いだ。

 だけど……これも元はと言えば、全部探偵さんが来ないから……!

 私の口からは、いつの間にか叫び声がほとばしっていた。


「――わっかりませんよっ!!!!!」


 私は大声で叫びすぎて痛む喉を無視して、言葉を綴り続けた。


「何なんですかあの人!? いっつもいっつもカッコつけてるのに! 何で今回はカッコつけないんですか!? 何でいつもベラベラ喋るのに、今日は全く何も話してくれないんですか!? どうして、いつもハードボイルドなんかじゃ全然ないのに……今日は、ちょっとだけハードボイルドっぽく……なっちゃってるんですか……?」


「……イ、イラちゃん?」


 ふと気がつくと、ギロットさんが私を焦るような目で見ていた。

 ……ギロットさんに当たり散らしてしまった。私は何て自分勝手なのだろうか。


「……ごめんなさい」


 私はすぐに謝った。

 怒っているかも……と危惧してたけど、そんな私の勝手な予想とは反して、ギロットさんは下げた私の頭に優しく手を置いてくれた。


「何があったのか……イラちゃんの言葉、ペースでゆっくりでもいいから、教えてくれるかな?」


 優しくギロットさんは私にそう言ってくれた。

 ……私は気がつくと、今起きたことを全て話していた。それは傍から聞いていたら、感情をぶつけただけで不明瞭で訳が分からない感じだったと思うけど……それでも、ギロットさんは優しく最後まで聞いてくれた。

 そして、優しく諭してくれた。


「多分イラちゃんは、レフトが急に態度が変わった事がショックだったんだね」


「……そうなんですかね?」


「多分。イラちゃんは、今まではハードボイルドを気取っていつもカッコつけてる愉快なレフトを見てきたから、急に態度を変えられて混乱しちゃったんだね」


「……だって、探偵さんが急に女の人を突き飛ばすなんて……まだ一週間にも満たない付き合いですけど、そんな事はしないって思ってたのに……」


「ああ。僕の知ってるレフトも、そんな事はしないよ。でも……実際にそうしたって事は、彼にもまたそういう一面があるって事さ」


 そこまで言うとギロットさんは、私の頭から手を離した。

 私が頭をあげると、ギロットさんがとても優しい笑みを浮かべていた。


「人は幾つも『面』を持ってるものさ。普段人に見せる面もあれば、他人にはなかなか見せない面もある。人の面、というのはサイコロなんかよりも抜群に多いから、誰も知らない面だってある」


「……面、ですか」


「うん。僕だって、客に見せる面と自宅で一人だけの時の面は全然違うよ。誰だってそうだと思う。だからね、イラちゃん。もし、誰も知らなかった面を何かの拍子に見せた奴がいても、その面だけを見てその人自身の評価を覆しちゃダメだと思う。人は幾つも面を持ってるのに、たった一つの面だけでその人の価値とかを決める事程愚かなことは無いよ」


「……そう、なんですかね」


 私の心は、何だか少し晴れやかになっていた。

 だって、探偵さんはああいう面も含めて、探偵さんなんだと理解出来たから。

 ……いやそれでもいきなり女の人を突き飛ばすのは良くない。それは私が正しいと思う。次会ったら絶対言ってやる。

 ていうか、探偵さんは今どこにいるんだろうか。


「……探偵さん、どこにいるんでしょうか?」


「うん。それは僕が聞きたいんだけどね」


 私の質問に、ギロットさんは苦笑して答えた。

 私のてんやわんやな捜査報告でも優しく聞いてくれるギロットさんはめっちゃいい人だと思う。

 そう私が思っていると、ふと、ギロットさんは窓の外を見て呟いた。


「……雨、強くなってきたね」


「……はい。探偵さん、風邪ひかなければいいんですけど」



 ****



 〜レフト・ジョーカー〜


 雨の中、俺は孤独に歩いていた。

 雨が強くなってきたから、今外に出てる奴は俺以外にはほとんどいない。

 しかし……俺と雨って、何か因縁が深い気がする。


 おやっさんが俺を拾ったのも雨の日だった。

 ……そして、『カリス・ワイルド』がおやっさんの所にやってきたのも雨の日だ。

 ……カリスが俺に告白してきたのも、俺がおやっさんの娘であるクリスタと性的関係を持ったのも、雨の日。

 そして……クリスタが、カリスに殺されたのも、こんな雨の日だった。


 それからしばらくして、ライトがウチに来たのも雨の日だった。

 ライトと俺が一悶着あった時も雨の日。


 そして今日、この日……俺がへーパ――否。()()()()()()()()と再開したのも、雨の日だ。


 あの女……へーパと名乗ったあの女は、間違いなくカリスだ。

 おやっさんの愛娘を殺した張本人。

 俺に惚れた同性愛者。

 狂った情愛を胸に抱く男。

 それがカリス。俺の元・相棒だ。

 あの『ねぇ』としつこく付ける喋り方……間違いない。


「生きてたのか……アイツ」


 俺は天を仰いで呟い――ぐあっ、目にめっちゃ大玉の雨が入った! 痛っ! 雨痛っ!

 雨の日に天を仰いだらそらこうなるわ! 馬鹿か俺は!

 ……何でこう、いつもカッコつかないのだろうか。

 俺は雨が勢いよく入った右目を抑えながら、そう落ち込んだ。


「……ハードボイルド、かぁ」


 おやっさんみたいになりたかった。

 俺を拾って、ここまで育ててくれたスカル・シーリングのような探偵に。

 感情、私情を一切挟まず、どんな状況でも焦らずクールに立ち向かう。

 自分に厳しく生き続ける生き方を貫く姿。

 そんな男になりたかった。

 そんなカッコいい奴に、俺もなりたかった。


 でも……わかってた。

 俺には、なれっこないって。

 まず、こうして諦めてる時点でハードボイルド失格だ。

 それに俺は、贔屓目に見ても感情が押し殺せる程控えめではない。

 感情や私情は挟みまくるし、ちょっとでも状況が変化したら焦ってしまう。

 ほら、こうして……今でも、昔の因縁のある相手に出会っただけで、ここまで取り乱されている。


 おやっさんは、周りから『バンガンのとても優れた秘密の探偵』とか『世界最高の探偵』と評されていた。

 一方、おやっさんの跡を継いだ俺は、『迷探偵だけど名探偵』という評価。

 ……埋まる気がしない格差だった。


「……行くか」


 カリスが言ってた()()()()

 その場所には、痛い程心当たりがある。

 俺達の全てが狂った日――クリスタが殺された日。

 カリスがクリスタを殺した、あの場所だ。

 俺はそこに、とっくに濡れそぼった全身を引きずりながら、ゆっくりと向かうのだった。



 ****



 〜園寺映瑠ソノデラエイル


「うわーっ! めっちゃ雨降ってきたー!」


「不味い、『追いかけツバメ』は雨が降るとセンサーの感度が鈍ってしまう……。しまったな」


 私とライトくんは土砂降りの中、ストーカーの家を探るために『追いかけツバメ』というラジコン型探偵道具を追いかけていた。

 しかし……まさかこんなに雨が強くなるなんて。

 一歩進む度に地面から雫が散り、私の足元を濡らす。

 雨が降ってから、そこそこ時間が経った。今、こんな雨の中を進むのは傘を持っている人くらいだ。傘を持っていない人は雨宿りしてるし。

 だから、こんな土砂降りの中、傘もささずにツバメ型ラジコンを追いかけてる変人は私とライトくんくらいのもので……恥ずかしい。


「……一旦雨宿りしようか。こんな土砂降りだと、ツバメのセンサーがまるで効かない」


 今日は雨は降らないはずなのに、とライトくんがボヤく。

 私はライトくんと共に、潰れた何かのお店の屋根の下に入った。

 ふと私は、疑問に思ったことをライトくんに聞いてみた。


「……土砂降りで効かなくなるセンサーって、性能低くない?」


 二〇五〇年の現代では、センサーなども当然とてつもなく進化している。土砂降りなんかで効かなくなるとか有り得ないぐらいには。

 二、三〇年前がどうだったかはわからないけど……それなりにセンサーも進化をしているのだ、と近所のラジコンマニアお兄さんが語ってくれた記憶がある。

 まぁ、でもセンサーの進化も異世界だししょうがないかな……とも思ったけど、この異世界は私の元いた世界とレベルは特に差が無かったはず……。

 私のその問いかけに、ライトくんはそっぽを向いて答えた。


「……有り合わせで作ったんだ。しょうがないだろう」


「えっ……このツバメ、ライトくんが作ったの!?」


 私は驚いて大声を出してしまった。

 ライトくんはしみじみと語り出す。


「ああ。夜なべしてね。有り合わせだったから、材料が無くてなかなか苦心したよ」


「材料が無いなんて、辛そうだね……」


「いや。昔童謡の歌集で読んだ、夜なべをして息子の為に手袋を編む母親の気分を歌った歌の情景を擬似的に味わえたから、楽しかったよ?」


 まぁ僕は母親でもなければ、作ってあげた相手は息子ではなくレフトなんだけどね、とライトくんは笑って付け足した。

 ……ちょくちょく思うけど、ライトくん、よくレフトくんを話題に出すなぁ。

 何かにつけては『レフトなら〜』とか言ってる気がする。

 私は何となく、二人のことが気になった。深い意味は無い。


「……レフトくんの事、好きなんだね?」


「……まぁ、相棒だからね」


 ライトくんは曇天を見上げてそう言った。

 その目には、何だか色々な感情が詰まっている気がした。

 私もライトくんと同じように、曇天を見上げた。

 そしてそのまま、雨の音(土砂降りの為ライブ会場並の爆音)を聞きながら時を過ごした。



 ****



 〜イラ・ペルト〜


 私は、大雨の中傘をさして走っていた。

 雨が本格的に強くなってきたため、ギロットさんに傘を借りて私は探偵さんを探しに行ったからだ。


「……ったく、あの人どこに行っちゃったんですか!?」


 雨が傘をバタバタと打ち付け、耳障りな騒音が耳を打つ。

 私の呼びかけもこの轟音で掻き消され、無意味に喉を痛めるだけの行為と化す。

 借りておいてなんだけど、傘なんて最早ほとんど意味をなしていない。靴はぐじゅぐじゅで一歩歩く度に水が染み出してくるし、服だってぐっしょりと肌に張り付いてくる。


「そういえば……へーパさんが、あの場所とやらで待ってるって言ってたような……?」


 あの場所。それって……どこ?

 そこに行けば……探偵さんもいるのだろう。多分だけど。

 うーん……へーパさんと探偵さんの関係性を知る必要があるなぁ。

 店主さんなら、何か知ってるかも。

 私は一旦、喫茶店『W』に戻る事にした。



 ****



「……へーパ? そんな女……俺は知らないな」


 喫茶店にて。

 店主スカル・シーリングさんはこの大雨のせいで客が来ず、とても暇そうだった。

 そこに私が帰ってきたため、暇潰しに付き合え、と言って私に温かいコーヒーとケーキを出してくれた。

 ……ありがたい。雨に打たれて、体が冷えてしまっていたから、温かいコーヒーが身に染みるような美味しさだった。


「……あの、質問なんですけど」


「何だ?」


 私は、店主さんにちょっと聞いてみたくなった。

 探偵さんの過去の事とか、他にも色々。

 へーパさんが言っていた『あの場所』の事も調べなきゃいけないし。


「探偵さん、昔何かあったんですか? こう……女の人絡みで」


「……どうしてそう思う」


「へーパさんと出会った時の探偵さん、何かいつもより違うっていうか。怯えてるみたいで……」


 私はそう言ってから、ケーキに乗ったチョコレートを食べた。

 外気でほんのり柔らかく溶けたチョコレートが口の中で広がり、痺れるような甘さが舌の上に広がった。


「……へーパ、ねぇ」


 店主さんは顎に手を当てて、へーパと名乗る女の人の事を思い出そうとしている。

 やがて店主さんは、コーヒーを啜り、首を振った。


「俺はそんな名前の女は知らないな。偽名を使ってるかもしれねぇし、外見の特徴とか教えてくれ」


 店主さんは飲み終えた自分のコーヒーカップを洗いながら私にそう聞いてきた。

 私は、覚えている限りのへーパさんの外見を店主さんに伝えた。


「……後、探偵さんに『今夜、あの場所で待ってる』って言ってました」


 そして、あの場所についても教えた。

 私は残ったコーヒーをぐいっと一息に飲み込み、コーヒーカップを店主さんに差し出した。


「店主さん。探偵さん、昔何かあったでしょ? その何かが起きた場所……教えてくれませんか?」


 そう言って私は、ポケットから一枚のクシャクシャの紙を取り出し、店主さんに見せた。……雨で濡れてないか心配だったけど、思ってたより無事だった。ちょっと紙がふよふよになっちゃったくらい。


「……それ、どこで見つけた?」


 店主さんは少しだけ目を見開いて、それから普段の通りの雰囲気を纏い直した。

 でも……一瞬だけ、化けの皮じゃないけど、店主さんの本音を隠すベールみたいなものが剥がれた。そんな気がした。


「昨日、廊下に落ちてました。探偵さんがこれを見てから何か様子がおかしかったので……。探偵さんにゴミ箱に捨てられた後、こっそり回収しておきました」


 それは、一枚の写真。

 昨日、探偵さんが拾ってすぐにゴミ箱に捨てた、謎の写真。

 一人の女の子と二人の男の子が笑っている古びた写真だ。


「……俺が知ってる事は、ほんの少しだ。俺が気がついた頃には、取り返しがつかなくなってた……」


 そう言って店主さんは座った。

 そして、写真に写る一人一人を指さし、私に名前を教えてくれた。

 一人目は、茶髪のくせっ毛が特徴的な男の子だ。


「こいつが小さい頃のレフト。一三歳だったかな」


「えっ、これ探偵さんですか!?」


「ああ。この頃から精神的には全く成長してねぇけどな」


「……あはは」


 私は苦笑した。

 次に店主さんは真ん中のちょっと大人びた感じの女の人を指さした。


「この真ん中の女が俺の娘『クリスタ・シーリング』。一七歳だった」


 娘……そう言えば、探偵さんも店主さんに拾われた時の事を話す時に、娘さんの事言ってた気がする。

 ……胸は、全く育っていない感じ。私に勝るとも劣らない貧乳加減……って! 私はまだこれからですから!

 ……でも、胸が無いのにこんなにも大人びた感じの色気が出せているのは、すごい。


「娘さんいるんですね。今、何してるんですか?」


 私はふと気になってそう質問した。

 そして、返ってきた答えは……私の心臓を大きく跳ねさせた。


「……死んだよ」


「えっ?」


「クリスタ――俺の娘は……死んだ。この写真を撮ってから、一週間後くらいにな」


 それを聞いて私は、血の気が引いた。

 私、なんてことを……。知らなかったとはいえ、軽率な真似を……!

 だけど、店主さんは逆に私の頭に手を置いて謝った。


「あ、気ぃ使わせたな。悪い」


 違う。謝るべきは私なのに。

 なのに……次に私の口から飛び出てきたのは、謝罪文句なんかではなく、もっと酷いものだった。


「……病気とか、ですか?」


 言った後で気づく。

 何で、死因を聞いたんだ私は! 娘が死んだなんて……辛い事、思い出させるなんて、私はなんて常識知らずなんだろう?

 私はすぐに謝ろうとしたが、それより先に店主さんは写真に写っている一人の男の子――探偵さんでもクリスタさんでもない、残った最後の一人を指さして、口を開いた。


「『カリス・ワイルド』。コイツに、殺されたんだ」


「……え?」


 頭が真っ白になった。

 クリスタさんが死んだのは……カリスって人に殺されたから?

 なのに……何で、探偵さんもクリスタさんもカリス……さんも、この写真に笑って、仲が良さそうに写ってるんだろう?

 不気味だった。形容の出来ない気持ち悪さが、目の前の古びた写真から噴き出してきているようだった。

 そして店主さんは、ぽつりぽつりと話し始めた。

 探偵さんの過去の事……クリスタさんの事、カリスさんの事。


「さっきも言った通り、俺の知ってる事はほんの少しだ。ただただ断片的に知ってる事だけを継ぎ接ぎに語るだけになるが……許してくれよ」



 ****



【小物設定】 〜追いかけツバメ&追われクモ〜


 ・出所……ライト作成の得製品


 ・用途……尾行が必要な際など


 ・使い方……対象に追われクモをくっつける→追いかけツバメの電源を入れる→ツバメの行先を追いかける→対象発見!


 ・何故ツバメ/クモにしたのか……速そうだから/何となく


 ・備考……今回の話では探偵道具全然使ってなかったから急遽使わせた新道具。

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