File1―1 暴龍を飼う少女 〜ブラックコーヒーとビターチョコケーキ〜
ちなみにですが、一ウィル=一円くらいです。そこまで通貨とか設定してもな……って感じなので、その辺は適当です。
〜レフト・ジョーカー〜
「迷子になったペットを探して欲しくて」
「……はぁ? 迷子のペットぉ? やだよ犬猫探しとか。他の探偵に頼めよ」
俺『レフト・ジョーカー』はそう依頼を断った……のだが。
この喫茶店の店主であり、俺の師匠でもある『スカル・シーリング』に怒られ、結局この依頼を受ける羽目になってしまった。
……ハードボイルド探偵がペット探しとか、似合わねぇと思うんだ。もっとこう、機密文書でズキュンバキュンとか、殺人事件でキュピーンとかやりたい。
「……まぁ、それはともかくとして、だ。そのペットの写真とか絵とかあるかい?」
俺はおやっさんのいれたコーヒーを啜りながら、目の前の青緑色の髪を持つ依頼人に訪ねた。目も髪とほぼ同じ色で、統一感がある。
さて、探すペットは犬か猫か、はたまた鳥か……? 鳥だと飛ぶからすげぇめんどくせぇな……とか思いながら、まだ初々しい瞳の輝きを持つお嬢さんを見ていると。
「この子です」
すっと写真を出してきた。
俺はその写真をマジマジと見つめ――危うくコーヒーを噴き出しかけた。あっぶね。ハードボイルドが崩れる。
「んっん……。えーっと、この子が、ペットのミーコ?」
「はい。目を離した隙にいなくなっちゃって」
「……マジかよ」
その写真に写っていたのは――竜だった。あどけない表情で笑ってるように鶏肉を食っている写真。まだ子供なのか、スイカくらいのサイズでしかないが……。
「……これ、どうしたんだ?」
「拾ったんです、タマゴを」
「……で、それを孵したと」
マズいな。このドラゴン……俺の予想が正しければ恐らく『暴龍タイラント』の稚児。
タイラントは幼体の時は可愛く周りに愛嬌を振りまくが、成熟していくにつれて性格が凶暴化していき、終いには国から緊急討伐クエストが出されることも多い【有害指定生物】の一種だ。
……これ、見つけたら見つけたで依頼主に返すべきなのか?
そもそも、【有害指定生物】は飼育は不可能、もし飼育や保管などが確認された場合厳重な処罰が下る。タイラントの場合は、幼体であっても最高一五年の懲役刑だ。
俺は目を強くつむり、そしてため息と共に言葉を吐き出した。
「……なぁお嬢さん。この子は」
「知ってます。タイラント、ですよね」
無情な宣告――のつもりだったが。本人はどうやらご存知だったようだ。
「なら、飼ったらダメだってわかってんだろ?」
「でもそれって、大人達が飼育を諦めた結果ですよね。私は諦めません、タイラントでもちゃんと育てれば大丈夫だって証明してみせましょう」
……このお嬢さん、頭がお花畑なのか? ……いや違うか。ただ単に、まだ世の中を知らないんだ。頑張れば、世界は自分の手で思い通りにできると思い込んでる、世間を知らない子供なんだ。
俺はカバンから数枚の羊皮紙と万年筆を取り出す。ちなみに羊皮紙も万年筆も俺の趣味だ。ハードボイルド感あってかっこいいよな。
「そういやお嬢さん、名前と年齢とか聞いてもいいか? 書類とか書かなきゃいけねーんだ」
「あっはい。名前は『イラ・ペルト』です。今年一四歳になります」
「という事は、今は一三歳か。で、名前がイラさんね……職業は? 学校通ってる?」
「はい、実家の手伝いしながら通ってます。『ペルト・ミート』ってお肉屋さんご存知ないですか?」
ペルト・ミート……あぁ。二番大通りにある肉屋か。俺もおやっさんにおつかい頼まれて……じゃない、依頼を受けて、買いに行くことが多い。
言われてみると、こんな髪の少女をあの肉屋で見たことある気もする……。
「……で、依頼の内容が」
「ペット探しです。タイラントの赤ちゃん」
俺は被っているソフト帽を押さえて天を仰ぐ。
……どーすっかなぁ。バレた時にタイラント飼ってた奴の関係者として俺までしょっぴかれるのも、有り得るしなぁ。
この依頼、リスクが高すぎる。やっぱり断るべきだろう。適当に莫大な依頼料フッかければ諦めてくれるはずだ。
「依頼料だが、前金三万、成功報酬三万の合計六万ウィルでどうだ」
六万ウィル。一三歳のお嬢さんにはとても払える金額ではないだろう。今年一八になる俺でも持ってないし、こんだけあれば、お嬢さんの肉屋の一番高い肉を買い占められる程の大金だ。
俺は少し俯きながらぼったくりと言われても仕方のないレベルの依頼料を提示した。
……ダサいな、今の俺。
「はい、どうぞ」
はぁ……こんなダサい格好を依頼人に見せちまうとは……と、内心落ち込んでいたら。
机の上に、ドザァァァァァァァァァ! と、大量の金銀銅貨が。
俺は目を擦る。だが、そのそびえ立つ山のような貨幣は紛れもなく本物だった。
「……全部で一二万ウィル、あると思います」
二倍かよ。提示額の二倍持ってんのかよ。
「……どうしたのこんなに沢山」
「お小遣いとかお年玉とか、生まれた時から貰ったお金を全部貯めてました。いざって時のために」
「……なるほど。こういう時のために」
「前金で六万。成功報酬で六万払います。そんだけ払えば、引き受けてくれるでしょ?」
目の前のお嬢さんの瞳は、決して一三歳の少女の瞳ではなかった。
それはまるで勝負師の目。“代償”を払い、じっくりと相手を追い詰めながら、自らが求める“結果”のためだけに行動する。そんな瞳だ。
いや、あるいは“狩人”という表現が的確なのかもしれない。
「はは、お嬢ちゃん、中々ハードボイルドだな」
「いや笑ってる場合じゃないっしょおやっさぁん!?」
「レフトよりもハードボイルドだな」
「おやっさぁん!?」
クソ……依頼断るために大金ふっかけたら、その倍出されたってかなり間抜けだな。でも……タイラントは、なぁ……。
うんうん唸って悩んでいると、イラはジットリと俺を見て、
「……探偵さん。ビビってるんですか?」
……と、抜かしやがった。
確かに普通の男ならば今の言葉を否定して怒るようにその依頼を受けてしまうのだろうが、あいにく俺はハードボイルド。スマートにダンディにこの依頼を断る。
俺は一口コーヒーを啜り、嘆息一つ。よし、断るゾッと。
「ハッハッハ。お嬢さん、ビビってる訳じゃあねぇ。ただ、リスクが――」
「あ、やっぱりビビってたんですね」
「はぁ!? んな訳ねーだろよっしゃその依頼引き受けたらァ!」
「やった! ありがとうございます!」
「……あ」
……しまった。今の言葉を否定して怒るようにその依頼を受けてしまった。
まさか畳み掛けてくるとは思わなかった。
クソ、こいつの家は人が話してる時は黙って聞くって教えられてねーのかよ。畜生。
「駆け引き上手いなお嬢ちゃん。気に入ったぜ。こいつはサービスだ」
おやっさんは笑いながら俺達の座る席に歩いてきて、ケーキの乗った皿を一つ、イラの前に置いた。
夜の闇を塗りつけたかのように黒いビターなチョコケーキ。妖しく黒光りしているチョコで全体をコーティングされており、何かこう……ハードボイルドなケーキである。
イラは目を年相応の少女のごとく輝かせてそのケーキを見つめる。
「わぁ……おいしそう」
「……って、おやっさん。俺のは?」
「居候が何言ってやがる。それにお前、このケーキ苦くて食えねぇだろ」
「んっな、ちょっ、なっ、な訳ねーし!? ビターチョコとか大好きだし!? むしろビターでも甘いくらいだし、ホワイトチョコとかミルクチョコとか論外だし!?」
「まだカフェオレやらキャラメルマキアートとかしか飲めねぇ甘党が何言ってんだか……」
「だー、もう! 依頼人の前でそういうこと言うなよおやっさん!」
「取り乱しすぎだろ」
……っとと。取り乱しすぎたか。
あくまで俺はハードボイルドだ。決して甘党ではないし、コーヒーもブラック派だ。
今俺のコーヒーカップに入っているのはカフェオレだが、これはただ単に脳に糖分を行き渡らせようと考えて飲んでいるだけであって、決してブラックが飲めないとかではない。ブラックだろうとゴクゴク飲み干せるのが俺、レフト・ジョーカーだ。
「……しゃーねー。受けてやるか、その依頼」
俺は髪を掻きむしる。そして深呼吸を数回。
ふと窓から外を見てみると、有り得ないぐらいに気持ちのいい快晴だった。一切の曇りのない日差しが窓から差し込んでくる。
……よし、覚悟は出来た。
まぁ、国にバレなきゃいいんだ。むしろ国に歯向かうこの感じ、結構ハードボイルドでは?
……だが、見つけた後、どうしようか。またイラの家に返すのか。それとも……。
「今考えてもしゃーねーか」
「ふぁい? 何か言いまひた?」
おっと。ボソッと呟いたつもりだったが、聞こえていたらしい。
イラはとても美味しそうにビターチョコケーキを頬張りながらコーヒーを啜っていた。
……そのケーキ、苦くないのか。よく見たらコーヒーもブラックだ。苦くないのか。
「何でもねーよ。後、口に物入れて喋んな」
何となくイラに負けた気がした俺は、ぶっきらぼうにそう応えるのだった……。
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【キャラクター設定】 〜レフト・ジョーカー〜
・身長……一七八センチ
・体重……五九キログラム
・種族……人間族
・年齢……一七歳
・職業……私立探偵
・誕生日……二月二日(拾われた日)
・好きなもの……ハードボイルドなもの、カッコいいもの、甘いもの
・嫌いなもの……自分のことを馬鹿にしてくるもの、カッコ悪いもの、苦いもの、辛いもの
・自分は何者か?……超絶カッコいいハードボイルドな探偵
・周りからの評価……カッコつけるとボロが出る