File2―2 その女、転生者につき 〜悲劇サイカイ〜
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〜レフト・ジョーカー〜
「ふっふっふ……ライトォ、ハードボイルド探偵レフト・ジョーカーを舐めるなよ……くっくっく」
「……あはは」
俺は喫茶店『W』の裏口に回りながらくくくと笑っていた。
イラも、苦笑を浮かべつつ俺についてきている。
「あの野郎、相棒とその助手を追い出すとは何考えてやがんだ畜生」
そう、俺とイラはライトに店の外へと追い出されていた。
それも、ライトの機能の一つである空気砲で。
だから俺は、店に戻るために裏口から入ってやろうと画策しているのだ。
「何か、泥棒してるみたいです……」
「バカかイラ。俺達は職場に帰るんだぞ。犯罪行為なんてしてねーだろ。……って、裏口鍵かかってるな。ピッキングするか」
「ピッキング……やっぱり泥棒してるみたいです!?」
イラが神に懺悔するかのように空に向かって叫んだ。
うるせぇなぁ……と思いつつ、俺はイラに反論しながら探偵道具『ピッキングセット』を懐から取り出し、鍵穴と向かい合った。
「うるせぇ、ピッキングするのが鍵屋と空き巣だけだと思ったら大間違いだぞ! 探偵もする!」
「それって探偵さんだけじゃないんですか……?」
カチャリ。五秒足らずでピッキングに成功した。
「……開いたぞ」
「話逸らしましたね」
「うるへー!」
「ていうか、五秒で開けられるとか手慣れすぎじゃないですか!?」
「悪いか! 探偵がピッキングの達人だと何か悪いのか!」
「わ、悪かないですけど……悪かないですけどぉ!」
ワーワー喚きながら俺とイラは裏口から店の中に入る事に成功した。
さて、ライトの野郎をどうしてやろうか。後ろからどついてやろうか?
そんな事を考えながらクククと笑っていると、通路の真ん中に一枚の薄汚れた紙が落ちているのに気がついた。
「……何だこりゃ」
俺はその紙を拾い、めくった。
そこには――
「探偵さん。なんですかその写真?」
イラが俺の後ろから覗き込んできた。
そう。イラの言う通り、それは写真だった。
二人の少年と一人の大人びた少女が、笑っている写真。
「……何でも、ねぇよ」
俺はその写真をクシャッと乱暴に丸め、ゴミ箱に放り捨てた。
そして、イラの意識をその写真から逸らすために、無理やり笑顔を作って先を促した。
「ほら、とりあえずライトにどうやって店追い出された仕返しするか考えようぜ?」
「……? は、はぁ」
怪訝そうな顔をするイラ。
だが俺はその顔に気が付かないフリをして、ライトとエルがいる部屋――即ち、喫茶店として使っている部屋に足を踏み入れた。
****
〜ライト・マーロウ〜
「食らえやライトォォォォォ!」
「えっ何、何急に――へぶっ」
エルちゃんとこの世界についての説明をしている時だった。
唐突に、背後からレフトに声をかけられた。
だから僕は、裏口から入ってきたのかと嘆息しつつ、レフトの方を振り向いた矢先――レフトは、床掃除用のモップを槍のように構え、僕の方へ突貫してきたのだ。
余りにも唐突すぎて、僕の思考回路は一瞬エラーを起こし――その隙を突かれて、顔面にモップの洗礼を受けた……という訳だ。
「ふははははははは! ザマー見ろライト! ふははははははは!」
ライトの高笑いが耳障りだ。
いくら相棒とはいえ、顔面に唐突にモップを食らわされたらキレない奴はいないだろう。
「……ったく、キミは本当に馬鹿だね……!?」
当然、僕もキレた。
恐らくレフトは僕がこの店から追い出した事を怒っているのだろうが……うるさかったキミ達が悪いだろう。僕を責めるのはお門違いというヤツだ。
僕は剣呑な雰囲気を纏いつつ、ゆっくり立ち上がった。
「今、エルちゃんと話をしていたんだけど……人が話してる時にモップをぶつけるとは、何を考えているんだい!? ……って、何も考えていないのか、キミは。いや、何も考えられない……の方が正しいかな、馬鹿なんだし」
「あ? 唐突に空気砲食らわせてきたのそっちからだろ? いきなり吹っ飛ばされて、鍵かけられて閉め出されて、訳わかんねーんだよ。生憎、俺は機人族サマ程頭が良くないんでね」
「あっはっはっ、別に僕だって人間族に機人族レベルの知能を求めちゃいないよ。でも……キミの知能は、人間族にしても異常にお粗末で見ちゃいられない」
「ほう。半年前の誘拐事件、誰のおかげで解決出来たと思ってんだよ」
「僕の知能のおかげだねぇ。僕の推理力によって、人質がどこに囚われているかがわかった」
「俺が証拠集めたおかげで、お得意の推理が出来たんだろうが。お前コミュ力ねーもんな。俺がいなきゃどうなってんだよこの事務所」
「そっちこそ、僕がいなきゃこの事務所は即潰れていただろうね。キミの金遣いは荒すぎる」
「探偵道具のメンテとか色々金がかかるんだよ! そんな事くらい、お得意の推理でわかんねーかなぁ……わっかんねーよな! お前にそこまで求めた俺が馬鹿だったよ」
「ああ。キミは馬鹿だ。探偵道具のメンテナンスや補充の費用については文句はないが、それ以上にキミは趣味に金を使いすぎだよ。ちょっとでもカッコいいものを見つけると即買ってしまう癖は直した方がいい。大して似合ってもないしね」
「……はぁ? 俺のこのハードボイルドがわかんねぇとは、いよいよお前の頭も修理に出した方がいいんじゃねーか?」
「ははは、僕の頭は正常さ。キミの方がおかしい。僕はただ単に、『キミのような半熟がハードボイルドとかほざいて背伸びしている姿が見ていられない』と事実を突きつけているだけなのに、それに勝手に逆ギレしているキミの頭の方がおかしい」
「テッメェェェェェェ!? 誰が半熟だ誰が背伸びだ誰が逆ギレだァァァァァァァ!?」
「ほら。そうやって、ハードボイルドという面を重視して煽ると簡単にキミは怒り狂う。単純なんだよ、キミは」
「表出ろやァァァァァァァァァァ!!!」
……我が相棒とはいえ、ここまで単純だと嘆かわしい。
僕はレフトと向かい合い、戦闘態勢に入った――次の瞬間。
「とりあえず、落ち着いてください!」
バッシャアアアアン! ……と、僕とレフトにバケツで水が浴びせられた。
この声……イラちゃん?
僕とレフトが同時に水が飛んできた方向を向くと、そこには予想通り、バケツを持って肩で息を切らすイラちゃんの姿が。
「……とりあえず、落ち着いて。えーっと……エルさん、が困ってるでしょ」
僕とレフトが同時にイラちゃんが指をさす方向を向くと、そこには予想外、頭から煙を出しながらあわあわと目を回すエルちゃんの姿が。
「ケンカ……ケンカ……止めなきゃ……ケンカ……」
どうやら驚かせてしまったようである。
僕もレフトも頭が冷えたようで、すぐさまエルちゃんの方へ歩いていき、同時に頭を下げた。
「すまない、エルちゃん。混乱させてしまったね」
「悪い、エル。つい熱くなっちまった」
エルちゃんはそれを見て、落ち着いたようだ。
涙目で僕達二人を見て、首を振りながら言った。
「わ、私に謝らないでよ……。えーっと……ライトくんはレフトくんに、レフトくんはライトくんに、お互いに謝ってよ。私に謝るのは、筋違いだよ」
エルちゃんは先程僕から聞いた、僕やレフトの名前を思い出しつつ、探り探りそう言った。
この子……多分いい子なんだろうな。僕はエルちゃんに好印象を抱いた。
「……ライト。すまんかったな」
「こちらこそ、キミに現実を突きつけてしまって申し訳なかった」
「よし、これで仲直り……ちょっと待て。お前今また俺を煽っ――」
パンパン、とエルちゃんがこの場を締めるように手を鳴らした。
そしてニコニコとしながら言った。
「はい、これで仲直り! これからは仲良くするんだよ二人共!」
「いやちょっと待てって、アイツ今確実に俺を煽っ――」
エルちゃんは次にイラちゃんに向き直り、イラちゃんにお礼を告げた。
「イラちゃん……でいいかな。イラちゃんもありがとね、水かけてくれて」
「おい俺の話を――」
「いえ、こちらこそケンカを止めてくれてありがとうございますエルさん」
イラちゃんはエルちゃんに笑って返事をした。
ふむ、こうして見るも二人共なかなか可愛い顔立ちをしている。
カメラがあれば写真に収めたいくらいだ。
僕は席を立ち、イラちゃんとエルちゃんに何か飲み物を入れてやろうと思った。
「さて、とりあえずこれで一旦落ち着いたね。とりあえず、二人共、喫茶店らしくコーヒーでも入れようか?」
「私はブラックでお願いします!」
「いや待てまだ落ち着いてねぇって――」
「イラちゃん大人だねぇ……。私はカフェオレ頼める?」
「了解、ブラックとカフェオレだね。豆は何でもいいよね?」
「あっ、ちょっ、俺もカフェオ――」
「私はよく豆のこと知らないし何でもいいよ」
「私も同じです」
「わかった。じゃあ、今から作るよ」
僕は豆を取り出そうとしたその時。
「なぁお前らさっきから俺無視しすぎだろオイ!?」
……と、レフトの絶叫が響いた。
レフトは更に続けた。
「なぁ、お前ら俺の事わざと無視してる? お前ら実は俺の事嫌い?」
「あっ、えっと、探偵さん――」
「もういいよ! 俺なんて畜生!」
レフトはそう言うと、この場から抜け出しダンダンと音を立てながら探偵事務所のある地下室へと降りていった。
……拗ねてしまった。
僕はひとまず、二人にコーヒーを入れて出した後、レフトの後を追いかけた……。
****
〜レフト・ジョーカー〜
ううっ。ぐすっ。
別にいいし。嫌われてようと、探偵業に支障はねーし。
別に俺も仲良くしてた気はねーし、心なんて痛まねーし、別に泣いてなんかねぇし!?
俺はベッドの上で布団にくるまりながら、うんうんと唸っていた。
別に落ち込んでなどいないが、このままチームワークが乱れたままだと探偵業に支障が出るかもしれない。……さっき、支障はねーとか言ってた気がするが多分言っていない。
ううっ畜生……皆で俺の事無視しやがって……。
何故か視界が滲み出す。
それと同時に、この地下室の扉が開いた。
「……さっきはすまなかった、レフト」
「……ライトか」
現れたのはライトだった。
ライトは机にコーヒーのカップを置き、俺に聞いてきた。
「カフェオレで良かったよね? キミの分だ」
「ぇ……入れてくれたの」
「ああ。キミの為にミルクと砂糖も多めに入れてあるよ」
「……ライトォ」
俺は布団から出て、コーヒーのカップを手に取り、一気にグイッと飲み干した。
「……本当に泣いてたんだね」
「ああっ!? 泣いてねーよ!」
「……さっきはごめんね、レフト。ちょっと二人きりで話がしたくてね。こういう状況にすればキミは拗ねてこの地下室に籠るだろうと思って」
「……オイ。拗ねてねーよ」
「イラちゃんとエルちゃんの耳には僕の機能で、風の耳栓を付けてたんだ。キミの声を完全に無視するようにね」
僕の声だけは風に乗せて届くようにもしてね、とライトは付け足した。
……そうか。そういう事だったのか。誰も俺を嫌ってなどいなかったのか……。
「……何で、二人きりになりたかったんだよ」
俺は涙を堪えながら、ライトにそう聞いた。
……いや、泣いてない。涙も別に堪えてない。
ライトは苦笑一つ、俺に聞いてきた。
「さっき、モップをぶつけられた時に気づいたんだけど……キミ、何かあったのかい?」
「……何でだよ」
「何だか、気分が沈んでいるように見えてね。相棒の気分の浮き沈みくらいは、コミュニケーション力のない僕でもわかるさ」
俺は愕然とした。
確かに……裏口から入った時に拾ったあの写真。それを見た時から、俺の気持ちは沈んでいた。
だがそれを一瞬で見抜くとは……さすが相棒。
……けど。
「……お前は知らなくてもいいことなんだよ」
……相棒だからこそ、言えない。
俺は例のあの写真を思い出す。二人の少年と一人の大人びた少女が笑っていた、あの写真だ。
あの写真に関連するのは、言わば俺の黒歴史だ。
写真に映っていた三人の子供――そのうちの一人は、俺だ。丁度、俺がイラくらいの年齢だった頃。
そして、その隣で笑う同い年くらいの少年は……俺の元相棒。名は、『カリス・ワイルド』。
そして、真ん中で笑う大人びた少女は……『スカル・シーリング』の実の愛娘――『クリスタ・シーリング』。
「……ますます気になるよ。何があったのか」
ライトが俺に聞いてきた。
だが、俺は……そんな相棒の問いに答えなかった。
「誰にでも……語りたくない過去はある。自分の相棒にも……な」
だが。ライトは、ふむふむと頷くと、俺に指を突きつけて嘲るような笑みを浮かべた。
「なるほど。過去に何かあったのを、何かの拍子に思い出したんだね。それで気分が落ち込んでいた、と」
「……あえぇ!?」
あれっ!?
俺が落ち込んでた理由、見透かされてる……何で!?
ライトは探偵のようにコツコツと歩きながら語り出した。……いや、探偵のようにっつーか、本職探偵だけど。
「僕は『何かあったのかい』としか聞いてないのに……そこで『誰にでも語りたくない過去がある』とか言っちゃうのは、正直馬鹿としか言いようがないね。全く……そういう所だよ、半熟レフトくん」
「うっせー! 畜生! 誘導尋問だ! 反則だ! ズルばっかしやがって!」
俺は誤魔化すようにライトに当たり散らした。
今多分俺、顔真っ赤だろうなぁ……とか思いながら。
だが、ライトは俺の唇にピッ、と突然指を当てて黙らせてきた。
そして、静かな声で言った。
「……いつかは、その過去、相棒にも話してほしいな。今じゃなくてもいい。もっと、僕の事を今よりももっと信頼出来るようになったら……で、いいからさ」
ライトは、最後に『先に戻っているよ』と付け足して、少し寂しそうに笑った。
それは、相棒が隠し事をしているのを気に止めているようで……とても心苦しい。
だが、俺は『……おう』と一言返すのがやっとだった。
……いつか。俺の心の整理が着いたら……とか、そういう時が来たら。ちゃんと、話そう。
俺はそう心に決め、再び喫茶店に戻った……。
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〜スカル・シーリング〜
俺はスカル・シーリング……元探偵だ。
種族は【怪人族】。怪人族は、普段は人間族と変わらない見た目をしているが、種族固有能力に【変身】というものがある。それによって、俺達怪人族は異形の生命体に姿を変える。
っと。今はどうでもいいか。
ちなみに今は、探偵業はとある依頼の最中に受けた古傷が原因で引退している。
だが、弟子と居候が、俺の探偵業を引き継いでくれている。
だから俺は、心配することもなく……ライトはともかく、レフトは心配だな。まぁ、レフトに心配を抱きつつも、二人の居候に探偵業を任せている。
今俺は、酒場『バンガン・バッカス』に来ていた。
レフトがオヤジ、と呼び慕う元天人族のバッカスが営む酒場だ。
「いらっしゃい……って、珍しいな。アンタが来るとは」
俺が扉を開けると、店主のバッカスは俺を見て開口一番、そう言った。
確かに、探偵を引退してからはここも滅多に来なくなったな……。
「別に情報を買う以外にも、来てくれていいんだぞ。そもそもここは情報屋じゃねぇ、酒場だ」
「悪いな……酒は、飲まない」
「知ってる」
バッカスは、俺にコップに水を注いで渡してくれた。
俺はそれに口はつけず、いきなり本題に入った。
「情報を買いたい」
「……久々だな。どんなのが欲しいんだ」
俺は簡潔に答えた。
「『カリス・ワイルド』についての情報だ」
「……そうか。お前の耳にも、入ったか」
バッカスはそう言うと、ため息混じりにコップを拭きつつ、俺に再び聞いてきた。
「何が目的だ。ただ単に知っておきたいだけか……それとも、実の愛娘を殺した相手に、復讐でも企んでんのか?」
バッカスがガラスのコップを棚に置く。
カチャリ、と軽い音が鳴った。
数瞬の沈黙の後、俺は水を一口飲み、答えた。
「馬鹿弟子のため……だ」
「……そうか。レフトのためか」
「アイツが知ったら、後先考えず動きそうだからな……その前に色々と、な」
「お前はいつも心配性だなぁ、探偵よ」
「人間、心配しすぎるくらいで丁度いいのさ。心配性は長生きできる」
「そうか」
そう言うとバッカスは、少し黙りこくった後……意を決したように、重々しく口を開いた。
「まだ不確かだし、俺が知ってるのはこれくらいしかないが……」
バッカスは、コップで水を飲み、再び口を開いた。
「生きてる」
たった四文字。
だが、たったその四文字が、俺の一番知りたかった情報だった。
「いくらだ?」
俺は席を立つ。
だがバッカスは、しっしっ、と追い払う仕草をして俺にしかめっ面を見せてきた。
「お代はいい。それよりも……探偵、お前こそ、後先考えず動くなよ?」
バッカスは俺を気遣い、そう声をかけてくれたのだろうが……だがしかし、俺はそのかけられた言葉に何も返さず、酒場を後にした。
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【舞台設定】 〜酒場『バンガン・バッカス』〜
・店主……バッカス・アンクリネス
・店員……一〇名(内バイト四名)
・客層……老若男女全て
・評判……酒も料理も旨い。値段も手頃。だけど店主の顔が怖い。
・その評判を聞いたバッカス……しばらく鏡とにらめっこをしていた(バイトの一人の証言)
・店主の将来の夢……丁度自分と店員とバイト合わせて一一人いるから、サッカーチームを作りたい
・備考……笑顔が絶えない職場です。




