bookend1 王龍とミーコ
毎Fileの終わりに、ちょっとした小話を挟みます。
例えば今回のような『依頼のその後』だったり『次Fileへの繋ぎ』だったり『設定開示』だったり。
よろしくお願いします。
〜ミーコ〜
ミーコは空を飛んでいた。向かう先は、グリン高原の奥にあるグリン山脈。
だが、小さな未成熟の翼ではあまり飛ぶことが出来ず、すぐに陸に落ちてしまった。
『ミィィィ……』
後ろへ首をもたげる。
だが、そこには夜の闇と月明かり、星の瞬きが見えるだけ。もう、ミーコを抱きしめてくれる母親は、いない。
『……ミィ!』
だが、ミーコは泣かない。
気合いを入れて、再び翼を広げる。
その時だった。
『……そこの坊主。何してる』
山脈の方から、謎のしわがれた声が聞こえてきた。
ミーコは、その声に答えた。
『ミィ?』
『……ああ。余が誰か、と聞いておるのか。余は“王龍”……お前ら龍の王だ』
『ミミッ、ミィッ!?』
――王龍。
それは、龍種の魔物特有の性質だ。
龍種は全員、生まれた時からとあるバトルロイヤルに参加する運命にある。
それが――『王龍争奪戦』である。
龍の中で一番強い王の龍を決めるバトルロイヤル。王龍を殺した者が、次の王龍になる、そんなバトルロイヤルだ。
遺伝子に刻まれたそれは、何も世間の事を知らないミーコの体でさえ震えさせた。
王龍は続ける。
『坊主……お前、タイラントだろう。なのに、何故そんなに心穏やかなのだ……?』
『ミ、ミィ?』
『……余はお前に興味がある。余は最強……故に暇なのだ。だから、世界中を飛び回っている。だが……世界中を回っても、お前のような穏やかな心を持つタイラントには出会った事がない』
『……ミィ』
『……普通の龍では、この世界の真実を背負うには重い。普通でない龍ならば……よし、決めたぞ。余はお前を世界中へ連れ回す事にした。今からお前を迎えに行くから、そこで待っておれ……』
『ミッ、ミィッ!?』
突然の王龍からのその言葉に、ミーコは目玉を飛び出させる程に目を見開いた。
突然の理不尽。いや、別に命まで奪われやしないだろうが……。
だが、突然すぎる。一週間くらい前に悪い奴らに捕まって、それが母親とその他謎の男に助け出されて……そして、その日のうちに涙の別れをして。そして、その日の夜に王龍に出会い、世界中連れ回すと言われるなぞ、幼いミーコの脳内はショートしてもおかしくなかった。
だが……ミーコはどこか冷静だった。
――世界中連れ回して貰えるなら、もっと大きくなれる気がする。世界中連れ回して貰えるなら……次に母に会った時、絶対に褒めてもらえるくらい成長出来る!
そう直感してからは早かった。
王龍が大きな翼を広げて降りてきた、その背中にミーコはすぐさま飛び乗った。
そんな事があって、王龍とミーコの二匹は旅に出た。
この後の物語はまた、機会があれば……。
次回、異世界から転移してきた少女が現れます。




