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File1―11 暴龍を飼う少女 〜調査報告書〜

評価や感想、よろしくお願いします。

 〜レフト・ジョーカー〜


 こうして、この事件は幕を閉じた。

 全く……ペット探しかと思いきや、飛んだドデカい事件になっちまった。

 とりあえず、この事件の顛末をこれから記していく……。



 ****



 とりあえず、その後のイラの事を記すべきだろう。

 あの事件の後、俺はイラを家まで送って帰った。

 そしてその翌日、イラは再び俺を訪ねてきた。


『依頼料とか払いに来ました』


 開口一番、そういうや否や、イラはドドン! と、一二万ウィルを出してきた。

 だが、俺はこの金を受け取る気はなかった。

 何故なら……。


『この金は受け取れねぇ。お前からの依頼はミーコを連れ帰る事、だろ? でも実際はミーコは自然に帰っちまったんだし、依頼は失敗……失敗した依頼に対して料金せびるのは、俺の流儀に合わねぇ』


 という理由だ。

 いや〜、俺ってハードボイルドだぜ。

 何てったって、“流儀”だぜ、“流儀”。真のハードボイルドな男と言うのは、貫くべき流儀の一つや二つ持っているもの……なんじゃないかなぁと思ってる。いや、持ってるものだよ。その方が何か渋くてカッコいいし。


 話がズレた。

 まぁともかく、そんな訳で俺はイラからは特に金を頂戴することはなかった。ぶっちゃけ、タダ働き。それどころか、情報代やら、アイテム使いまくったのでその補充費とか、結果的に結構やべーくらいの赤字だ。

 ……まぁでも、この事件の最良のエンディングには導けたと思う。探偵は、依頼人を最良のエンディングに導く事が仕事だ――そう俺は思う。一度首を突っ込んだ以上、探偵には依頼人を幸せにする責任があるだろう。


 また話がズレた。

 まぁとにかく言いたかった事は、赤字のタダ働きだったけど俺がカッコよかったのでオールオッケーって事だけだ。



 ****



 次に記すべきは、【魔王の道(ロード・ロード)】の事やニュエルとウィンニュイの事だろう。


 まず、俺が吹っ飛ばした団員達はあの後、憲兵さん達がほぼ全員捕らえたらしい。ほぼ、というのはつまり一部は逃げたという事だが。

 あそこに集まっていたのは【魔王の道(ロード・ロード)】のメンバーほぼ全員だったらしい。だから、要するにもう【魔王の道(ロード・ロード)】は壊滅状態って事だ。

 世間では憲兵隊が潰した事になってるが、影の立役者っつーか、実際にぶっ潰したのは俺だということはイラなどの一部を含めて、誰も知らない。言う気もねーけど。


 次にニュエルとウィンニュイだが、奴らの行方は不明だ。

 死んだ、ということはないだろうが……。多分、逃げたんだろう。

 ニュエルの作った【魔王の道(ロード・ロード)】という集団は、ニュエル的にはそんなに意味のない、どうでもいいものだったらしい。

 ただ単にアイツが魔王っぽくなりたかったから作っただけの集団。アイツにとっては遊びに近かったわけだ。

 本当に迷惑な話である。


 そして、ニュエル達がミーコ以外にも捕まえてた生き物達は、俺達が来た時には解放はしなかった。

 何故なら、量が多く、俺一人だけでは到底手に負えないからだ。そんな状態で檻から出したら、とてつもなく大変なことになる。

 だから、とりあえず申し訳ないがミーコ以外の生き物達にはもう少しだけ待ってもらって、憲兵隊に任せることにした。

 今思えば、探偵道具で栄養剤とか打ってやるべきだったと思うが……あの時は、ミーコが突然走り去るものだから、気が動転してしまったのだ。

 ……もっと、冷静にならなければ。この事は、俺のこの事件における最大の反省点と言っても過言ではないかもしれない。


 とりあえずこんなものだろうか。

 グリン高原の希少な生物はかなりの被害を受けたが、しかし不幸中の幸いで、時の流れが解決してくれるくらいの被害だったようだ。

 これからの国の対応が注目される所だ。


 とりあえず今後としては、ニュエル達とまたこれからの事件で関わる事になるかもしれない。自分の技術などを鍛える必要があるだろう、と言った所だ。



 ****



 ミーコの行方は、知れないままだ。

 だが、イラが言うには『あの子は元気でやってますよ』――だそうだ。

 母親としての勘か……それとも、本当に母子共に通じ合っているのかはわからないが、俺は何となく不思議な気分になった。


 ……母親、か。


 俺もいつか、母親に会えたら……切実に、そう思った。



 ****



 後はまぁ、俺が騙して酒飲ませて昏睡させた監視員の人が案の定おねしょしちゃった事くらいだろうか。

 彼には申し訳ないことをした。これからはカッコつけも程々にしよう。


 そう言えば、今回頼った三人の情報屋にも今回の事件の顛末を話した。

 それぞれの反応は、十人十色……というか三人三色だった。


 ドーナツ屋のベガは、『そう……結局、別れちゃったのね。確かに結末としては一番いいかもしれないけど、それでもイラちゃん、結構落ち込んでると思うから……今度、一緒にドーナツ食べに来なよ。はいコレ、無料クーポン』と、俺に二枚のクーポンを渡してきた。俺とイラの分、という事だろう。

 面倒見いいよな、ベガの奴。


 占い師のウラナは、『……で、それを私に伝えて、何がしたいんだい? 特に客って訳でもないんだろう、さっさと去りな』とぶっきらぼうに返された。

 ……しかし、コイツの『洞窟か何かの中にいる』みたいな占い、当たってたな……。いや、オカルトなんて信じねーけど。


 酒場バンガン・バッカス店主オヤジは、事の顛末を全て聞いた後、無言でフン、と鼻を鳴らしただけだった。

 だが、どこかホッとしていたように見えたのは気のせいか。


 とまぁ、こんな感じで今回の事件でお世話になった人の事は全て紹介し終えたはずだ。



 ****



 さて、ここで一つ問題がある。

 グリン高原やグリン山脈に、タイラントなんて凶暴な魔物は存在が確認されていない事だ。

 イラはタイラントのタマゴは空から降ってきた、と言っていたが……存在しない魔物のタマゴが空から降ってくるとか、有り得ないだろう。

 他所から飛んできて住み着いた〜……とかならまだしも……。

 イラはあの後聞いた話だと、確かに『タマゴを拾った時、空に保護色を纏ったカメレオンのような龍が飛んでいた』と話していた。その上には人影もあった……とも。


「……めんどくさいことにならなきゃいいけどな」


 恐らくだが、今回のタイラントのタマゴの出処の謎は、誰かが何らかの意図があって行った、人為的なものだということだろう。

 タイラントのタマゴをグリン高原に落として、何がしたかったのかはわからないが……。


「……もういいや。考えんのやーめたっと」


 俺はおやっさんから入れてもらったコーヒー(砂糖とミルクたっぷり)を飲み干し、両頬をパシン、と挟み込むように叩いた。

 何が来ようと来まいと、俺が強けりゃ問題ないのだ。

 特訓あるのみ。日々是精進、心と体を磨く。オネストハートの精神が大事だって猫型【獣人族】のとある憲法の達人も言っていた。


「よし……とりあえず座禅でも組むか」


 何となく謎のやる気に満ち溢れた俺は、事件の報告書に事の概要を粗方書いた後、座禅を組むことにした。

 特に意味は無い。しかし、座禅とは心を無にする事――特にその事に意味を求めちゃいけないのかもしれない。意味求めてる時点で心は無になってないし。


「さて……とりあえず足組むか――」


「こんにちはー! 探偵さんいますかー!?」


「うっわあ――ぎゃあああ足変な風に捻ったァァァァァ!?」


 急に扉が開き、ガランガラァン! と扉に取り付けられたベルが鳴り、そして元気な大声が響き渡った。

 その大声に俺は驚き、体を跳ねさせ――そして、座禅の形に組みかけていた足を、変な風に捻ってしまった。激痛。


「痛ぇ……!」


「だっ、大丈夫ですか探偵さん!?」


「おいイラ、テメェこの野郎急にビビらすな――って、イラ?」


 俺は大声の張本人――イラに怒号を上げてから、目の前にイラがいることに気づいた。

 何で……?


「……また依頼か?」


 俺はイラを訝しむ目で見ながら、そう問うた。

 何でイラがここにいる? もう、イラはここに来る理由はないはず……ミーコの件は片付いたし、依頼料とかも受け取らない方針で落ち着いたはず。

 まさか、喫茶店おやっさんの客か? ここ、一応喫茶店だし。地下に俺の探偵事務所があるけど、それはあくまでおやっさんに地下室を貸してもらってるだけだ。

 ここに来る奴らのほとんどは喫茶店『W』の客だ……。


「……おやっさんなら、今、コーヒー豆の仕入れに行ってるからいねーぞ。コーヒーとかケーキが望みなら、少し待っててもらおうか――」


「いえ、探偵さんに用件ですよ」


「え、そうなの?」


 俺に用件……何だ?

 決闘でも申し込まれるのだろうか?

 俺はもしもの時の為に身構えた。

 だが、イラの様子からしてそんな事ではないようだ。

 イラは言いにくそうに、髪を指に巻き付けたりして、言い淀んでいる。


「……何だよ。最近太っちゃいました〜とか、そんな乙女チックなお悩みなら聞かねーぞ」


「違いますよ!? ……って、太って見えます?」


「いや全然。女として出てなきゃいけない所すら出てねーし」


「……その発言セクハラですし、そもそも私まだ一三歳ですよ? そういう身体的発育はこれからですよ、これから」


「……取らぬ天馬ペガサスの羽算用ってことわざがあってだな」


「殴りましょうか蹴りましょうかつねりましょうか!? って、そんな私の将来有望な発育の事はどうでもいいんですよ!」


 イラはダンッ! と俺の座っている席の机を叩いた。

 俺の飲み干したコーヒーカップが、今の衝撃により一瞬宙に浮いた。

 やれやれ、困ったお嬢ちゃんだぜ。

 俺はため息を吐き、『ご自由にお取りください』と書かれた箱の中から、炒った数種類の豆を詰めた小さな袋を取り出す。

 この豆はおやっさんの客へのサービスだ。塩味が効いてて美味いので、居候の俺もちょいちょいつまむ。小腹を満たすのに丁度いい。

 早速俺は袋をぺりぺりと開け、一つの豆を取り出し、口の中に放り込んだ。


「ったく……なら、何の用だよ?」


 俺はもぐもぐと豆を噛み砕きながら聞いた。

 イラは、少し深呼吸をした後、九〇度の角度に背筋を曲げ、俺に礼をした。

 そして、その格好のまま俺に大声で頼み込む。


「私、もっと色んな世界を見たい! だから、探偵さんの助手にしてください!」


 ……突拍子がねぇな。

 俺は豆を全てザラザラと口の中に流し込み、咀嚼しながらイラに質問をする。


「(むぐむぐ)……なぁ、イラ。(もぐもぐ)何で、俺の助手なんかに(もぐもぐ)なろうと思ったんだよ? 何で、色んな世界を(ごくんっ)……ふぅ。……見たいって思ったんだよ?」


「……ミーコと、次、また会う時の為です」


「ほう。詳しく聞こうか」


 俺は身を乗り出して聞いた。

 イラはぽつりぽつりと話し出す。


「次に会う時、ミーコは広い世界を知って、すごく成長してると思うんです。なのに、私は肉屋の娘として生きてくだけじゃ……次にまたミーコに会う時に、ミーコに置いていかれちゃうような気がして」


「……だから、お前も色んな世界を見て、知りたいって事だな」


「はい」


「何で俺の助手なんだ? もっと他に選択肢あるんじゃねーのか?」


「……女の勘です。探偵さんのお手伝いをしてる方が、沢山の体験ができると思いました」


 若干のキメ顔でイラはそう言った。

 俺はイラの薄い胸を眺めつつ、首を傾げた。


「……女? あっいやごめん、そういや女だったなお前」


「探偵さんは私を何だと思ってたんですか!? 後、今どこ見てました!?」


「どこって……壁……じゃなかった、胸」


「殺す! 私探偵さん殺す! うがああああああああ!」


 ごヒュッ、と音を立てながら、イラの拳が俺の鼻先まで飛んできて――寸前で止まった。

 俺の被っていたソフト帽が、イラの拳の風圧で浮き上がった。何コレ……女の拳じゃねぇ。世界狙えるだろコレ……。

 俺が心底縮み上がっていると、イラはコォ……と息を吐きながら、ボソッと俺に呟く。


「……今回の件、セクハラで訴えますよ?」


「おいおい、俺を脅す気か?」


 俺の眼前に伸ばされていたイラの拳が、ずんッ、と前に出てきた。

 俺はそれにビビり、後頭部を椅子の背もたれに打ち付けてしまった。痛い。


「いいんですか? 私がセクハラで訴えたら、裁判の結果は関係なく、探偵さんに『セクハラ探偵』のレッテルが貼られますけど」


「……は、はァ!?」


「この世の中はレッテルで成り立ってますからね。特に探偵業なんて、レッテルが大事でしょう。なのに、セクハラ探偵なんて噂が立ったら……お客さんは激減、何よりますますハードボイルドから遠ざかりますね」


「わかったァ! わかった、何が望みだ!? 金か! 金だな!? わかった今すぐ払うからそれだけはヤメテ――」


「お金なんていりませんよ! 私の要求はただ一つ! あなたの助手にしてください、それだけです!」


「わ、わかった! お前を助手にする! だから、訴えんなよ!?」


「やった! 言質取りましたからね! これで私も探偵さんの助手ですよ!」


 イラは跳ね上がるように喜んだ。

 ……はぁ。参ったな……。やれやれ。まぁ、いいか。


 後で報告書にこう追記しておこう。


 ――『今回の事件を通して、うるさい助手が一人入った』……と。

 これから、騒がしくなりそうだ。

 俺はこれからどんな珍騒動が起きるのか、今から少し不安になった……。



 ****



 〜ライト・マーロウ〜


 僕は、『ライト・マーロウ』。種族は【機人族】だ。職業は探偵。

 今、僕は、受けていた依頼を終えて、我が家へ帰宅途中の所だ。

 全く……今回の依頼は骨が折れた。いや、機人族だから生物学上での骨なんてないのだが。

 僕は古ぼけた喫茶店――『W』の前で止まり、扉を開けた。


「ただいま……」


 僕は中を見て驚愕した。

 何故なら……扉を開けた途端、僕の()()が、小さな女の子に思いっきり殴られて吹っ飛んでいたからだ。


「だぁかぁらぁ……成長途中の発展途上だって、言ってるでしょうがァァァァァァ!?」


 女の子が叫ぶ。

 何の話だろうか。我が国の経済成長の話でもしているのだろうか……いや、それはない。僕の相棒はそんな話、興味が無いからだ。

 ならば……?

 僕は、備え付けのゴミ箱に突き刺さっている相棒の方を向いた。

 相棒は頭をゴミ箱の中から引き抜きながら、女の子に反論した。


「だって……お前が……巨乳? ――フッ」


「今鼻で笑いましたね!? 鼻で笑いましたね!?」


 再び女の子が相棒に飛びかかった所で、相棒は僕が帰ってきていることに気がついたようだ。

 相棒は女の子にゴミ箱を投げつけて動きを止めてから、僕にお疲れ様、と言葉を投げかけてくれた。一方女の子は『へぶっ』と呻き、ゴミ箱がぶつかった鼻頭を抑えてうずくまった。

 そんな女の子を無視して、相棒は僕の元へ近づいてきた。


「おかえり、ライト」


 相棒が笑顔で僕の名前を呼ぶ。

 今回は長期滞在の任務だったから、結構久々だ。

 僕はその言葉を噛み締めつつ、笑顔で返す。


「……うん。ただいま、レフト」


 そうして僕は相棒――『レフト・ジョーカー』と、共に笑いあった。



 ****



【舞台設定】 〜喫茶店『W』〜


 ・店主……スカル・シーリング


 ・店員……特になし。暇な時にレフト達に手伝わせる。


 ・評判……コーヒーもケーキも美味い、落ち着いた店


 ・地下には……レフト達の私室兼探偵事務所


 ・地下の探偵事務所の評判……腕はいいと思うけど、探偵の落ち着きがなくてハラハラする


 ・総評……素晴らしい落ち着いた店だが地下の探偵事務所が愉快なコメディアンレベルで騒がしい


・備考……スカルが元の探偵事務所を改築して作った喫茶店。スカルはとある事件で負った怪我が原因で探偵を引退した。

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