極論男プレゼンス 〜悪魔の囁き〜
ある夏の晩、うだるような熱帯夜に俺は苦しんでると、夢の中に悪魔が現れた。
見た目は牛の頭に羊の角で筋肉質の人型とコウモリみたいな羽。ザ・悪魔だ。
俺は今年で43歳だ。幼稚な夢を見てしまった。
悪魔は夢の中で言う。
「お前、身長が低いのがコンプレックスだろ?」
「ああ、確かに。身長162センチメートル。あと15センチメートルは欲しかったな。親を恨むよ」
「俺は悪魔だ。代償を払えば、願いを叶えてやるぞ? お前の身長1センチメートル伸びる毎に、お前の寿命を1年貰う」
「本当か!? 夢の中でもいい! 高身長になりたい」
「では早速、契約を結ぼう」
「人生100年生きる人もざらだ。15年くらい惜しくない。契約を結ぶよ」
「寿命15年で15センチメートルだな。任せろ――」
俺は気が付くと、朝だった。昨晩の夢は何だったんだ。
俺は起き上がろうとするが、上半身が重い……風邪? 違うな。本当に身長が伸びた!? 立ち上がると、目線が違う。見慣れたメゾネットタイプのアパートだが、一段と高く見える。…………本当に身長が伸びた!?
俺は鏡の前に立つ…………あのクソ悪魔! ふざけやがって!
確かに身長は15センチメートルくらい伸びてた。但し胴体だけが。寝間着のTシャツがへそ出しルックになってる。ふざけやがって! 短足胴長の気持ち悪い不細工な体型になってしまった。
これはまだ夢だ! 俺は階段を下りる時にバランスを崩し、足を踏み外す。転げ落ちて、頭を強打した。
――そして、俺は死んだ。悪魔と契約したから地獄行きだ。終わった、何もかも。
地獄の最下層、コキュートスで懲罰(悪魔による、人間カーリング)を受けていると、いつぞやの悪魔が来た。俺は怒りに充ちている。
「おい! 悪魔! いきなり胴体が15センチメートルも伸びたから、階段でバランスを崩して、頭を打って死んじまったじゃねえか!」
「有難く思えよ」
「何だと!? ふざけやがって!」
「実を言うと、お前の残り寿命はあの晩、大動脈瘤破裂で死んでたのさ。胴体を伸ばしてやったから血管も伸びて、一日寿命が延長されちまった。悪魔としては大損だよ」
「結局、死んでたのか」
「次は、お前が悪魔となり、寿命を盗ってこい」
「ウケケ、面白そうじゃん」
――今日も平和な一日が過ぎていく――