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Lost Garden  作者: Boy
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第二章 「夢」

寒い

ここはどこだろう

何も見えない


周囲をただただ漆黒の闇が覆い尽くしている。

闇は息をすることさえ許さないかのように私を覆い尽くしている。


世界にはこんな場所もあるのか。

こんな場所で人は生きていけるのか。


真っ当な神経をしている者であればこんなところにいればものの5分で発狂して自我を失っ

てしまうだろう。

そう考えるだけでゾッとする。


考えていても仕方がない取りあえず出口を探そう。


***********************************************

 どれだけ歩いただろう。

この闇の中では時間の間隔も分からない。


さすがに体力の限界だが、ここで座り込んでしまえば二度と元の世界に戻れないような気

がしてしまう。

どこかに休める場所はないだろうか。

そう思った瞬間ふと明かりが見えた。


光のような眩しいものではない。

包み込むかのように温かい炎の色だ。


こんなところに人・・・?


人のことを言えたものではないが、こんな今にも神経がいかれてしまいそうな場所に人が

いるのか・・・?

不審に思いつつもその光に私は吸い寄せられていった。


 ようやくたどり着いたその場所には誰かが岩の上に腰かけていた。

ゆっくりと顔を上げて確認していく。

顔を上げきった瞬間ハッとした。


長い白のコートには所々紋様が入っていて、黒のパンツに黒のシャツ。

指には様々な指輪を付けていて、首からはどこにでも売っていそうな十字架のネックレス。

生前は有名な貴族かどこかしら裕福な生まれの人だったのだろうか。

しかし、彼には決定的に足りてない物があった。

生気。

体の肉は削げ落ちてその体に血は通っていない。


そう、彼は死者なのだ。


 死者は目の前にいる私に気付き顔を上げた。

「珍しいな、ここにちゃんと意識を保った生者が訪れるなんて。

名は?なぜこんな所に?」


 ここまで辿り着けたのはきっと私が自分というものを持っていないからであろう。

ここに来る以前の記憶が名前以外どうしても思い出せないのだ。

失うものがなければ後は体力の問題でしかない。


「私はアイリスと言います。

何故ここにいるかは・・・・分かりません。気づけばここにいました。

もう歩けずに倒れそうだったのですが、その前にここの明かりが見えて何とかここまでは

たどり着けました。

ここは死者の国か、もしくは暗黒大陸でしょうか?」


「そうか。それはご苦労だったね。

だが申し訳ないが君の問いには私は何とも言えない。

1000年以上もの間ここにいるのだがね、ここがどこだかもう忘れてしまったよ。」


「なぜあなたはこんなところに1000年も?」


「あぁそれは覚えている。

ある人を待っているんだ。

ある人というのが明確に誰かというのは分からないんだが、それはきっと出会った瞬間に

分かる。」


「出会った瞬間に分かるってなんだかロマンチックで運命的ですね。」

気付けば私は笑顔でそう死者に言っていた。


「運命的・・・

運命的か。

きっとそうなんだろうな。」


彼は死者で表情なんて分からないのだが、生きていればきっと素敵な笑顔を浮かべていた

のだろう。


「さて、雑談はここまでだ。

君はこれからどこに向かう?」

じっと私の顔を見据え彼は私に問いかけた。


「取りあえずここから抜け出す道を探そうと思います。」


「抜け出した先はまた闇かもしれないよ?」


「そう・・・ですね・・・・そうかもしれません。」

元の世界に戻らなければいけないのか?

別にこのままこの世界で朽ち果ててもいいのではないのか?

元の世界がもし闇におおわれているならここと大差ないではないか

「でも」

何かが頭をよぎった

「でも」

必死に思い出そうと顔に手を当てる

「待ってる人が・・・・いる・・・?」

瞬間左腕が痛んだ。


「クク、その待ち人が生きてるか死んでるかもわからないというのに君はその世界に戻りたいと言うんだな」

そう言って彼は乾いた笑いをこぼした


「だからといってこの地に囚われているあなたには全く関係ない話じゃないですか」

死者相手についムキになって返してしまった

けどなんだろう。

この人からは何か懐かしい感じがする。

記憶がないので何とも言えないが、皮肉な物言いの中にもどこか知ってる温かさを感じる。


「いや、すまんすまん。怒らせるつもりはなかったんだ。

ではその待ち人の為にもどうしても向こうの世界に戻らなくてはならないな。」

彼はそう言って足元に手のひらをかざした。


その瞬間足元に魔法陣が現れた。


「なっ・・・・!?」


魔法陣の大きさは把握できない。

ここまで大きな魔方陣を展開できる人を初めて見た。


次の瞬間魔法陣は周りの闇を一気に払いのけた。


あまりの出来事に目を瞑った私はゆっくりと目を開けた。

そこは辺り一面の花畑になっていた。

彼は相変わらず岩の上に腰かけている。


「あなたは一体・・・・。」


その先を続けるのを遮るように彼は自分の後ろを指さした。

「帰り道はあっちだよ。」


すれ違いざま立ち止まって問いかけた。

「あなたは、まだここで待つのですか?」


「こんな私の事を気にかけてくれるのかい?

けれど大丈夫だよ。

君が先に進む道を選んだように私はここで待つという道を選んだんだから。」


「そうですか。では私は先に進みます。」


「あぁちょっと待った。」

歩みだそうとする私に彼は呼びかけた。


「これをもっていきなさい。」


そう言って彼は指にはめていた指輪の一つを私に差し出した。


「これは?」


怪訝そうに問いかける私に彼はこう答えた。

「いや単なるお守りだよ。

特に何の変哲もないただの指輪さ。

願わくば君が道に迷った時の希望の道標になりますように」


「ありがとうございます。」


笑顔で指輪を受け取り、私はその言葉を残して自分の世界に戻った。

******************************************************************

少女が去った世界に残った死者は再び世界を闇に閉ざした。


闇は落ち着く。


全てを覆い隠してくれるから。


さて次はいつ訪れるかな。


彼女が一度訪れたということはそう遠くない未来再び訪れるだろう。


それまで再び眠りにつこう。

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