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第2話 話し合いをする俺達のお話

結構な人数のクラスメイトの名前が出てきますが、現状全員を覚える必要はないです。

なんとなく『こういうキャラがいるんだなぁ』程度の認識でOK。

「み、みなさん! お、おちちゅいて考えてくだちゃいっ‼」

「いや、瑞希ちゃんが落ち着こうよ・・・・・・」


俺達を落ち着かせようとしている瑞希ちゃんが一番アタフタしている。

台詞も噛み噛みだ。

そんな瑞希ちゃんを落ち着かせようとしている、猫っぽい雰囲気の女生徒・・・猫屋敷(ねこやしき) 寧々(ねね)

名字の通り、家族全員猫っぽいらしい。

先程の王様の言葉を、最初は皆馬鹿っぽい空気で聞いていたが、未だに此処が異世界だと信じることが出来ない人達に、王様の近くにいたローブを纏った男が何もない所から火や電気や風を起こして見せた。

この世界に存在する【魔法】だ。

俺はテンション上がったが、手品とかCGだとか言って未だに信じない奴がいた(・・)

過去形なのは、今はもうみんなようやく現実を理解したということだ。

信じられないのならと、王様に命じられて騎士らしきオッサンが、俺たち全員を街の外へと連れ出した。

城下町の大通りではなく、兵士達が通る様な殺風景な石造りの裏道で視るべきものは何も無かったが、それでも異世界の風景なせいか新鮮だった。

そして街の外へ移動し平原に出て、こんなだだっ広い野原が本当に日本の風景か?と、疑い出す奴がようやく出始めた。

そして平原を更に移動し、その次に遭遇した存在が、ここが日本・・・いや、地球じゃないと確信した。

身の丈を軽く超える、2メートル超の狼の様な怪物が、平原の先に在る森から猛スピードで駆けてきたのだ。

誰がどう見ても危険な生物に大半の奴等が恐怖心を抱いたようだが、抱かなかった奴がいた。


「どうせこれも作り物か何かだろ? 何ビビってんだよ」


と、呑気な声を出して怪物狼に近づくクラスメイトの沼津(ぬまづ) (ひろし)

ちょっとガラの悪いヤンキーの様な(実際他校のヤンキーと関わりがあるとの噂)男が無警戒に近づいて、俺達を連れてきた騎士のオッサンも少し焦ったようだった。

焦るオッサンを笑い、その怪物狼の鼻でも撫でようと手を伸ばして――――――ガブリと、沼津の伸ばした右腕が食い千切られた。

そこから先は阿鼻叫喚。

腕を食い千切られた沼津は血を拭き出しながらのた打ち回り、そんなクラスメイトの姿を見た他の連中も散り散りになって逃げていく。

しかし怪物狼は俊敏で、その図体からは考えられないスピードで回り込み、誰1人として逃がさない。

人間など餌にしか見えていないだろう怪物狼は、汚い涎を撒き散らしながら生徒の1人を食い殺そうと牙を剥く。

だが、怪物狼は、いとも容易く死んだ。

騎士のオッサンが、その手に握る剣で両断してみせたのだ。

先程までの地獄絵図に陥りそうになった雰囲気は何処に行ったのか、あまりにも呆気なく事態は収束した。

腕を食い千切られた沼津だったが、治癒魔導士らしき人物の魔法で、腕は完全に元に戻った。

この件で、皆が理解しただろう。

自分達が今いるこの冗談みたいなファンタジー世界が、現実だという事を。

そして話は冒頭に戻る。

「一度皆で集まって話し合いたい」との瑞希ちゃんの言葉を聞き入れてくれた王様に広い一室を与えられ、俺達は今後の事を話し合う。


「話し合うっつっても、どうしろってんだよ・・・・・・」

「何でこんなことになったの・・・・・・?」


クラスメイトのツンツン頭が特徴の仁張(にんばり) 勝平(かっぺい)と、文学少女的風貌な灘本(なだもと) 由実(ゆみ)が嘆いた。

普通に学校に行って、普通にホームルームが始まったと思いきや、何時の間にか異世界だからな。

しかも地球に帰る術は、少なくとも王様は持っていないとの事だ。

もしかしたら、もう二度と帰ることは出来ないかも知れない。


「幸いといっていいか分かりませんが、少なくとも私達の衣食住は国王陛下が保証してくれるとの事です。無理矢理呼び出した以上それくらいは当然ですが、コレは戦わずにこの国で暮らすことを選んだ人も該当します」


辛辣な物言いをする、冷静沈着堅物っぽい雰囲気を纏う眼鏡女生徒・・・清水(しみず) (はるか)

次期生徒会長と呼び声も高い彼女が、落ち着かない瑞希ちゃんに代わって進行役をこなす。

そう、王様は言った。

戦いたくない者は、戦わなくても構わないと。

ただでさえ無理矢理別の世界に召喚し、還す当てもない為、色々と後ろめたいのだろう。

出来れば戦ってほしい様だが、無理強いはしないとの事。

身勝手に召喚した以上、俺達がどんな選択をするのであれ、生活の保障はしてくれるとの事だ。


「今、私達が取れる選択肢は、大きく分けて2つ。1つは戦わず、この街で暮らす。いくら戦わないとはいえ生活を保障する以上、なるべく近くで生活して欲しいとの事でこの城に住むことになります。最低限の衣食住以上の物を望むなら、仕事も紹介してくれるそうです」

「それは、危険な仕事じゃなくてか?」

「陛下の話を信じるのであれば、一般生活で及ぶ以上の危険はないとの事です」


堅実・真面目な印象を受けるクラスメイト・・・小林(こばやし) 賢太郎(けんたろう)の質問は、この場の多くの生徒の疑問でもあったのだろう。

清水の返答に、ホッとしている者もいれば、疑っている者もいる。

無理矢理、異世界召喚なんて事をしたのだから当然かもだが。


「2つ目は、陛下の要望通り、魔王を討伐する事です」

「・・・・・・魔王を討伐って、冗談みたいな字面だよな」


爽やかスポーツマンな目黒(めぐろ) 新一(しんいち)が半笑いを浮かべる。

冗談みたいな言葉だが、冗談じゃないから皆で頭を悩ませてるんだよな。


「その魔王を倒してもよ、別に帰れるって訳じゃないんだよな?」

「・・・そうですね。まぁ、陛下の話ですと『魔族の未知なる技術を使えばあるいは・・・』と言っていましたが、あまり期待はしない方がよろしいかと」


ぶっきらぼうな宮崎(みやざき) (つとむ)の質問に、清水は「未知であるため、可能性はあるかもしれませんが」と、自身の考えを入れつつ答えた。

もしくは、他の種族の技術を頼るか、という事らしい。

流石はファンタジー世界というべきか、この世界にはエルフとかも存在するらしく、魔法に長けた彼らの知恵を借りるのもいいかもしれないと言っていた。

完全に他人任せな考えな上、そんな技術なり知識なりがあるかどうか全く不明な為、あくまで可能性があるかも・・・という期待に過ぎないが。

あまり期待はしない方がいいだろう。

昔の勇者が元の世界に戻ることが出来たのかどうかは、分からないらしいしな。


「ねぇ、清水さん」

「何でしょう?」


学年主席にして校内一のイケメンと謳われる明智(あけち) 悟郎(ごろう)が挙手する。

クラスどころか下手したら学校一の頭脳を誇るアイツなら、何かいい案を出すかもしれない。

皆も何処か期待を込めた目をしている。

そんな空気を察したのか、少し慌てたように明智は手を振った。


「ああ、ゴメン。別に妙案があるとかって訳じゃないんだ」

「・・・・・・そうですか」

「ちょっと確認したくてね。今後の事を話し合うこの会議なんだけど、コレってどちらか一方しか選ばないって訳じゃないんだよね?」

「・・・どういう意味ですか?」

「例えば、戦わずこの城に残るか、魔王と戦うかだけど。魔王と戦うを選んだ人が何人かいても、大勢が戦わないを選んだら、全員戦わずにこの城で暮らすのかなって思って」

「それは・・・・・・」


それは俺も気になってた。

今後の事を話し合うとは言ったが、なんか多数決でどちらか選びましょうな雰囲気になってたからな。


「まぁ、逆に戦わないを選んだ人が何人かいても、戦うを大勢が選んだら、みんなで力を合わせて戦うのも悪くはないと思うけど――――――」

「――――――冗談じゃねぇッ‼」


悟郎の言葉に被せて叫んだのは、先程の怪物狼・・・魔物(モンスター)に腕を食い千切られた沼津。

もう既に治癒魔法で腕は完全に元に戻っているのだが、食い千切られた時の痛みが幻痛で感じるらしく、青い顔で食われた腕を反対の手で押さえていた。


「俺は戦わねぇぞッ‼ やりてぇんならお前等で勝手にやれ‼」

「そうは言うけどね、沼津君。もしかしたら、呼ばれた僕達全員が力を合わせないと倒せないかもしれないし・・・・・・」

「それにこんな状況で集団行動の和を乱す様な事は・・・・・・」

「ウルセェウルセェウルセェッ‼ 俺は絶対に御免だッ‼‼」


苦言を呈す悟郎と清水だったが、沼津は必死に首を振って頑なに考えを変える気は無さそうだ。

腕を食い千切られるなんて目に遭ったのだから、無理はないかもしれない。

実際、あの騎士のオッサンが助けに入らなかったら、俺達全員死んでただろう。

・・・・・・あんな魔物が当たり前の様にウロウロしてるのが、この世界なのだ。


「やっぱ、お前ってどっか頭のネジが飛んでんな」


周りには聞こえない声量で、悟志が俺を見て笑った。

失礼な奴だ。


「そういうお前だって、ワクワクして堪らねぇって顔してんぞ」

「マジか。俺も重症だな」

「”も”ってなんだよ”も”って」


まるで俺が重傷みたいな言い方すんの止めてくれねぇかな。

まぁ、でも・・・・・・


「ワクワクすんのは否定しねぇけどな」


小声で同意し、俺は立ち上がる。


「何でしょう、岡本君?」

「いやな? 俺等が全員一致団結するなり、個人個人でそれぞれ選択するにしても、あの王様の話を聞いた後でもいいんじゃねぇかなって思ってよ。別に『今直ぐ身の振り方を決めろ』とか言われてねぇだろ?」

「それは、まぁ、そうですが・・・・・・」

「だな。まず国王陛下様にこの世界の事とか色々聞いて、それからでも遅くないんじゃないか?」

「榎木田君まで・・・・・・!」

「僕も2人の考えに賛成かな。此処で喋り合ってても、今のままじゃ進展しなさそうだし」

「明智君もですか・・・・・・!?」


立ち上がって同意してくれる悟志と、にこやかに援護射撃を放ってくれた悟郎。

まさかの悟郎の同意に、清水は裏切られたような顔をして驚愕し、項垂れた。

結構以前から思ってたが、悟郎って優等生だけど思考回路が問題児(俺ら)寄りだよな。

まず詳しい話を聞こうという俺達の考えに同意してくれる人は多く、清水や瑞希ちゃんからの了承を得、否定的態度が目立つ沼津も、何をするにしてもこの世界について話を聞いた方がいいというのは理解してるらしく渋々頷き、俺達は再び王様のいる謁見の間に向かう事となった。

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