第1話 取りあえず現状把握する俺達のお話
俺の名は岡本 和也。
某高校に通う、高校2年生。
俺は・・・いや、俺達は、異世界にやってきてしまった。
異世界『ファガルレッド』。
それがこの世界の名前で、俺達が今いる此処は人間の国『ヒューマニア』。
その王都にあるお城の謁見の間で、国王が勇者召喚を行ったらしい。
何でわざわざこんな場所で?と思ったが、魔法陣を描くのにある程度の広さが必要で、且つあまり人目に付かない場所は限られており、関係者以外の眼が入らないこの場所を選んだのだと。
勇者召喚は代々王家に伝わる秘術で、かつて世界が危機に陥った際にも使われたそうだ。
そして今再び、このファガルレッドは絶賛大ピンチらしい。
というのも、かつて世界を危機に陥れた魔王が甦ると予言者が告げたそうな。
約500年前。
魔物を率い、世界に恐怖と混沌を齎した魔王が、異世界より招かれた勇者によって討たれ、封印された。
その魔王が、復活しようとしている。
まだ復活していないが、いずれ復活するなら今の内に勇者を召喚し、魔王復活後即討伐に向けて鍛えようという考えで、勇者召喚を行ったのだとか。
その予言者の魔王復活が当てになんのかどうか知らないが、この国の人達にとっては預言者の言葉は確定された未来らしい。
この世界についてよく知らない俺が、予言にとやかく言うモノではないのだろう。
まぁ、それはいい。
問題なのは、勇者召喚を行ったら何故か総勢44人もの人間が召喚されたという事だ。
「コレはいったいどういう事なのか・・・・・・」
「そ、その、私達に聞かれましても・・・・・・」
玉座に腰かけ一通り説明し終えた唸る王様に、俺達のクラスの担任・・・早稲田 瑞希は未だに落ち着かない様子でオロオロしている。
ゆるフワな髪と胸のデカさが特徴な、ちょっと天然の入った先生だ。
視線を周囲に回してみれば、先生とは違ってみんなはワリと落ち着いていた。
全員という訳では無いが、大半が特に慌てる事もなく静かだ。
耳を澄ませば会話が聞こえてくる。
大体の生徒が何かの学校イベントか、あるいはドッキリ的な仕掛けだと考えているようで、コレを現実の物とは考えていないようだ。
そりゃ落ち着いているはずだ。
まぁ、異世界なんて空想の産物が目の前に現れても信じられないのは分からなくはないが。
「お前は随分楽しそうだな、和也?」
ちゃんと全員いるかどうか確認する為、瑞希ちゃん(早稲田先生の皆からの呼び名)に出席番号順で並ばされた故に俺の右側に突っ立つ人相の悪い野性味溢れる風貌が特徴の悪友・・・榎木田 悟志が呆れ顔で嘆息していた。
「そりゃ楽しいに決まってるだろ? 異世界だぜ異世界。THE Fantasyだぜ? テンション上がらない訳がない‼」
「ゲーム好きのお前はそうだろうな」
「悟志だって、別に嫌いじゃねぇだろ?」
「まぁな」
俺程ガッツリやる訳では無いが、悟志もゲームくらいはやる。
そのゲームの中には勿論ファンタジー物だってある。
なら、この状況だって全く楽しくないなんて事は無いだろう。
「問題は、コレがリアルなのかどうかって事だろうな」
「何だよ、悟志も周りの奴等と同じくドッキリの類だと思ってんのかよ?」
「そりゃ思うだろ。つか、そっちの方が現実的だ」
「けどよ、どうやってこんな場所に移動したのかを考えたら、異世界ファンタジーって考えた方が現実的だろ?」
「ファンタジーで現実的ってのもおかしな話だが・・・まぁ、そうだな」
この謁見の間の側面にある、窓から向こう側に目を向ける。
城から見える景色は、とても現代日本的風景には見えない。
此処からだと一部分しか見えないが、この王都は岩の壁に囲まれた城塞都市のようだ。
壁の内側に見える街は城下町ってやつだろう。
「さっきまで俺等、教室でホームルームだったんだしよ」
「・・・・・・だな」
俺だって最初はドッキリだの誘拐だのと現実的な考えが頭を過った。
だが、どう考えてもそうとは思えない。
一体何をどうやったらクラス全員+担任をこんな場所へ一瞬で連れて来られるのか、現実的な方法があるのなら是非教えて貰いたい。
「まだ全員でVRゲーやってるって言われた方が納得出来るかもな」
「それはそれでアリだけどな」
しかし、まだフルダイブ的なVRゲーム機は出来上がっていない。
近年発展著しいとはいえ、まだ当分先だろう。
「つまりファンタジーだ」
「まぁ、確かにそっちの方が面白そうだしな」
ニヤッと、悟志は獰猛な笑みを浮かべる。
うんうん、折角の非現実。
楽しまなきゃ損だよな。
「そ、それで、あの・・・」
「・・・・・・うむ?」
「私達は、元の世界?、には・・・いつ頃帰れるのでしょうか?」
未だ現状を信じられないでいる瑞希ちゃんが王様に問うた。
王様は酷く気まずい雰囲気を醸し出しながら、
「・・・・・・すまぬ。主らを元の世界に還す術を、ワシは持ってはおらぬ」
((知ってた))
重く告げたが、予想通りの俺と悟志はテンプレの言葉に肩を竦めたのだった。