全ては夢から始まった4
「最後は人間ね。能力的にはエルフやドワーフには劣るけど数が一番多いわ」
「その辺はテンプレ通りなんだ。でも例外はあるんでしょ?」
「勿論あるわよ」
そう、この例外が厄介だ。特別な能力とか持っている奴程、暴走しやすいと思うんだよ。
「例外の生まれる条件とかあるの?」
「そうね。条件は2通りあって、1つが先祖に他種族の血が混じっている場合。もう1つが祝福を与えられた場合ね」
「成る程。異種族間の結婚とかって多いの?」
「多くはないわね。だから何代か後に覚醒遺伝で発現する事があるわ」
「大丈夫なの、それ?」
「人それぞれよ。力に溺れたり振り回されたり使いこなしたり、見ていて飽きないわよ」
成る程。流石に穏やかな世界・・・と言うわけにはいかないか。人だしねぇ・・・・力を得て暴走する奴もいるんだろうなぁ。
もう1つの祝福はなんだろう。アネモネが何かしらの祝福を与えると言う事なんだろうけど・・・
「祝福っていうのは?」
「私が直接何かしらの能力を授けるの。これは子供や子孫には遺伝しないわ」
「成る程、その能力ってかなり強力なの?」
「そうね、私の力をほんの少し分け与えるだけなんだけど、それでも相当な力よ」
「それってどれくらいの割合で与えてるの?」
「人の住んでいる大陸に各1人だから全部で4人ね」
各大陸に1人か、なら大した問題にはならないか。でもなぁ・・・・
「それって与える規準とかあるの?」
「そこは大丈夫よ。私が確り見極めているから。」
当然だ。そんな少人数でも無責任にやられたらいろんな意味でヤバい。世界が荒廃する・・・かも。
「そんな顔をしなくても大丈夫よ。神様を信用しなさい!」
そんなドヤ顔されてもなぁ。いつも帰り際に悪戯されてるからなぁ・・・説得力がなぁ・・・・
ん・・・ちょっと待てよ?でもそうすると・・・
「その祝福も自分が与えるの?」
「真悟に任せる以上、好きにしていいわ。但し、与える人間は見てね。種族の説明としてはこんな所だけど他に聞きたい事はある?」
エルフ、ドワーフ、人間・・・うん把握した。他に聞きたい事は山ほどあるけど、その時に聞けばいいかな。
「とりあえずは大丈夫。後はその時に聞くよ」
「なら一息入れましょうか。何か飲みたいものはある?」
アネモネがその言葉を口にすると、二人は丘の上に立っていた。勿論椅子もテーブルも用意されている。ある程度は理解したけど少し休みたかたので彼女の言葉はありがたかった。
「今日は・・・コーヒーが飲んでみたいわ。何がいいかしら?」
真面目な雰囲気から一変していつもの笑顔を浮かべながら、用意されていた椅子に掛けながら聞いてくる。真面目なのが悪いとは思わないけどやっぱり彼女には笑顔の方が似合う。
「コーヒーなぁ・・・それならバターブレンドコーヒーが飲みたい」
「真悟の一番気にっているコーヒーね。ちょっと楽しみ」
東京に行ったときに向こうの友人に勧められて飲んで、以来大好きになった。本店は神戸にあるそうなんだけど、その時は吉祥寺に店があった。三十数年ブラックでコーヒーを飲めなかったのに、これを飲んでから一気にブラック好きになった。ただし、その後缶のブラックを飲んだときは激しく後悔もしたけど。
そんな事を考えていたらいつの間にか目の前に一杯のコーヒーが用意されていて、アネモネが早速口を付けようとしていた。
「香ばしい、いい香り。こんなに黒いのに焦げた香りがしないのね。味は・・・・・・苦い・・・でも思ったより苦くない。不思議・・・」
「飲みにくかったら砂糖とミルクを使うといいと思うよ。後はお菓子と一緒に飲むとか」
「お菓子はいいわね。ブラックだけは私には早いみたい。それじゃあ・・・」
そう言って手をかざすと、クッキーが積まれた皿が現れた。アネモネさんよ、無理してブラックで飲まなくてもいいんだよ?
そう思いながらコーヒーとクッキーを交互に口に運ぶアネモネを眺めている。
「・・・・うん、クッキーの甘さとコーヒーの苦味が美味しいわね。これなら私でも大丈夫」
「素直に砂糖とミルクを入れればいいのに・・・それか紅茶にするとか」
「それはイヤ」
「何で?」
「何か負けた気がするから」
「えぇ・・・」
何に負けた気がするのかはよく分からないけど、本人がいいなら・・・ま、いいか。
そんな事を思いながらコーヒーを飲む自分と、ニコニコしながらコーヒーとクッキーを楽しむアネモネだった。
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「そういえば、地上に降りたりって出来るの?」
一息入れ終わったので、ふと思った事を聞いてみた。やっぱり男心に行ってみたいと思って聞いてみたのだけれど、アネモネは少し難しい顔をした。
「行けないとは言わないけど難しいわよ。理由は分かる?」
「・・・多分今の自分が精神体?だからだと思う。」
「正解。真悟が魂の状態でここに存在するのなら、地上の魔力で一時的に肉体を創って魂を降ろす事も出来るんだけど、精神のみだと元の肉体とか魂と離れすぎて危険だわ。」
「アネモネは降りられるんでしょ?」
「勿論。神様だもの」
「何とかならない?」
「・・・・・考えてみるわ。でも期待しないでね」
困ったように見えて嬉しそうな、そんな微妙な表情をしながらアネモネは了承してくれた。彼女の事だから何か案はあるんだろう。期待して返事を待つ事にしよう。
そんな事を考えていたら頭上が白くなり始めてきた。もうそんな時間になったのか。あぁ、もう朝が来るのか・・・・
「あら、そろそろ時間なのね。」
「そうみたいだねぇ」
「それで真悟はどうしてそんなに身構えてるのかしら」
「自分の胸に聞いてみるといいと思うんだけど」
昨日、一昨日と帰り際にやられたから、今日こそは平穏に帰る!という決意の中、アネモネが席を立ったのを見て、自分も席を立って身構えたのだったが、
「甘いわね」
その言葉と同時に自分の後ろから白い腕が伸びてきて、首元に絡み付いてきた。背後に息づかいも感じたので首だけ振り返ってみると・・・笑顔のアネモネがいた。
「何時から私が1人しかいないと思ったの?」
「それは反則じゃないかと思うんだけど」
「私、神様だから反則なんてないのよ。諦めなさい」
「えぇ・・・はぁ・・・そうですか・・・・」
「フフフ・・・」
あぁ・・・そんな風に言われたら、流石に諦めるしかないじゃないか。とは言うもののされて嫌なんて事はなく、むしろ嬉しいんd・・・ゲフンゲフン。
「さてと・・・それじゃあ、そろそろ行くわね。また今晩会いましょう」
その言葉と共に二人のアネモネは消えていった。
そういえば気にしてなかったんだけど、アネモネっていつも自分が消える前にいなくなるんだよな。自分としては心を落ち着かせる間が出来るから、ありがたいんだけど。
気まぐれなのか何か理由があるのか・・・・まぁいいか。
そんな事を考えながら自分も消えていった。