全ては夢から始まった2
「こんばんわ真悟君、待っていたわ」
「どうも管理者さん」
昨夜別れた時の姿で優雅に紅茶を飲みながら、管理者は自分を迎えてくれた。今二人は小高い丘の頂にいる。雲ひとつ無い青空と一面の緑、そしてかすかに吹いてくる風がなんとも心地よい・・・けれど
「これはこれで悪くはないと思うんですけれど、何か殺風景ですね」
「それじゃあ何か置いてみる?」
「せめて木陰を作れる木の一本くらいは欲しいですね」
「・・・わかったわ」
彼女がそう口にした瞬間、彼女の後ろに一本の巨木が現れた。日〇製作所のCMで知られているアレだ。
「これならいいでしょ。それよりも、やっぱりその管理者という呼び方、変えてくれない?何か嫌だわ」
「そうですか。それなら性別を固定してください。今日は女で明日は男とかされると困るので。後、呼び捨てでお願いします」
「分かったわ、それじゃあ真悟で。で、性別は・・・女で通すわ。嬉しいでしょ?」
「まぁ・・・そうですね」
「それじゃあ改めて名前を付けて。あなたの世界の神の名前以外の名前で」
また難しい事を・・・適当な神様の名前を言おうとしたら、先に釘を刺された。苦手なんだよ名前付けるの。どうすっかねぇ・・・
「そうしたら・・・はn」
「それはイヤ。真面目に考えて」
三白眼でこっちを見ながら自分が言い切る前に返された。くそぅ・・・
「それなら・・・アネモネさんで」
「アネモネサン?」
「アネモネ、さんで」
「さんは要らないわ。でも・・・アネモネねぇ・・・なんで?」
「そういう花がるんですよ」
「うん、気に入った。でもさんは要らないわ、呼び捨てで呼んで」
「いや、でも・・・」
「わ・た・し・がいいって言ってるの」
「・・・分かりました。ならアネモネで」
押し通された・・・呼び捨て苦手なんだけど仕方ないか・・・ちくせう・・・
というやり取りをしてから、とりあえず一息つこうという事で優雅に紅茶を飲んでいる訳なのだけれど。目の前でニコニコしながらカップを口に運んでいる彼女が気になって仕方がない。気になると言っても性的にという訳ではなく・・・全くという訳ではないけど。彼女の反応というか表情というか・・・これは・・・・聞いてみるか。
「何か嬉しそうですね。そんなに名前がうれしいですか?名前なんていくつも持っていると思うんですけど」
「そりゃ嬉しいわよ。あぁ、紅茶が美味しい!」
「一つ聞いても?」
「何?」
「何かあなたの・・・」
あ、何か不機嫌になった。
「あなたじゃない、アネモネ」
「・・・アネモネさんの・・・」
「さんはいらない」
名前を呼べと・・・仕方ないか・・・ハァ・・・・
「・・・アネモネの感情の出方がおかしいというか、昨日の夜より大きくなっているというか・・・」
「あぁ、それはこれが地の私だから。あなたの思考や感情を読む事を止めた事もあるけれど。だから真悟ももっと楽に話したら?なんか話し方が硬いのよ」
「流石にそれは。友達という訳でもないですし」
「なら今から友達になりましょう」
「えぇ・・・」
何言ってるんだこの神様・・・
「どうせ真悟の夢の中でしか会えないんだし、起きたら忘れるんだから問題ないでしょう?」
「・・・分かった。慣れるように努力する」
妥協しないと話が進まんか・・・仕方ない・・・
「で、そろそろ管理する世界の事を聞かせてもr・・聞かせてほしいんだけど」
話題を変えた事で、アネモネも居住まいを正して持っていたカップをテーブルに戻した。
やっと真面目な話に進めるよ。何でこんな疲れなきゃならんのか・・・・
「それなんだけど、真悟はどんな世界を管理したい?」
「どんなとは?」
「そのままよ。私はいくつも世界を管理しているの。その中で1つの世界を管理してもらおうと思っているんだけど、決めかねていてね。だから真悟に選んでもらおうと思って」
そこまでこっちに投げてくるか。どうするかねぇ・・・流石に今の地球より文明とか文化が進んだ世界は・・・無理だろうなぁ。そうすると文明レベルの低い世界になるんだろうけど普通の世界もなぁ。地球の中世辺り・・・でもなぁ、もし実際に何らかの干渉をする事になったとき不安だし・・・聞いてみるか。
「その・・・管理する世界なんだけど、もし干渉する事になった時どこまで干渉できるn・・・できるの?あと、その時の自分の精神状態とか。夢の中とはいえ精神にかなりの負荷がかかると思うんだけど」
「干渉できる力の範囲で言えば私と同じ範囲ね。必要なら分体を降ろす事も出来るわ。精神については私がフォローするから、精神が壊れると言う事は無し。ここであなたの精神に何かあったら、目を覚ましたときに間違いなく影響が出るから」
考えてはくれているんだ。なら一安心だな。それならお約束的内容でいくか。あれこれ考えていても埒が明かん。
「それなら文明レベルは地球の中世辺りでファンタジー要素マシマシで」
「マシマシって、具体的には?」
「魔法、魔術、多種族、モンスターありの世界という事で」
「魔法と魔術って何が違うの?」
「自分の好きな話の中で説明があるんだけど、魔術は時間と金と設備を使えば誰にでも再現できる事象、魔法はどれだけそれらをつぎ込んでも再現できない事象・・・だったかな」
はい、型〇大好きですよ。吸血姫の話も7人の英霊の話も大好きだよ。特に弓兵とかコスする位には好きだよ・・・ゴホン、ちょっと落ち着こう。
「・・・なるほど、この物語ね。やっぱり人間て面白いわ。何でこうも簡単に物語を創造できるのかしら」
「簡単ではないと思うけど、要は願望・・・なのかな」
「願望?」
「作者って神様なんだよ。自分の頭の中で世界と主人公を含めたキャラクターを空想して、それを紙面に書き上げる。この時2つに分かれると思うんだけど、1つめは作者はあくまで【神の視点】から世界を見て主人公に自分を投影せず、作者が作り上げた人格、性格に基づいて物語を作る。どう終わらせるかは流石に作者の意思が反映されるけど。この締めの部分が作者の願望になるのかな。正に【神の見えざる手】というやつだ」
「もう1つは?」
「主人公に自分を投影する話。主人公を理想の自分にして、そのキャラクターを中心に世界を回すと言えばいいのかな。だから物語も作者の理想の世界になる。主にハーレムとか主人公最強とか」
「ふーん、それで?」
「これは最初から作者の願望に基づいて物語が作られる。だから物語には作者の願望が多かれ少なかれ反映されてる、と自分は考えてる・・・あれ、つまらなかった?」
一通り話を聞いていたアネモネは腕を組んで目を瞑り一通り考える様子を見せた後、
「ううん、面白かったけど・・・それなら私達はどうなんだろ。」
突然そんな事を言い出した。
「は?」
何を言っているんだこの神様は。
「私も真悟も私が管理している世界も誰かが創ったものなの?」
あらまぁ、その考えに行き着くか・・・でも神様がそれを考えるのはまずくないか?
そんな事を考えているとアネモネの様子がおかしくなっていく。瞳の焦点は明らかに定まっていないし呼吸も荒い・・・まずい!考えるのを止めさせないと!
「神様がそれを考えちゃ駄目だ!それはアネモネが自分の存在を否定する事になる!手の込んだ自殺になるから考えるのを止めてくれ!というかここでアネモネが消滅したら自分はどうなる!絶対に碌な事にならんぞ!」
立ち上がってアネモネの両肩を掴んで乱暴に前後させながら叫ぶ。椅子が後ろに倒れたが知るか。ここでアネモネに何かあったら間違いなく自分もただでは済まない。最悪二人で心中とかマジで洒落にならん。しばらくするとアネモネの目に光が戻った。
「・・・あれ・・・私どうしたの?何で私の肩を掴んでるの?何があったの?」
「何とかなったか・・・いいかアネモネ、何もなかった。いいね」
「え・・・でも・・・」
「な・に・も・なかった・・・いいね!」
「あ・・・はい」
アネモネも落ち着いた様なので倒れた椅子を起こして席についた。
よし、この話題はこれで終わりにしよう。リアルで死ぬ・・・笑えんわ・・・
さっさと話題を戻そう。後、時間の事で聞きたいんだった。そろそろ戻りそうかな?と思ったけれど、まだ大丈夫そうなんだよなぁ。
「それで自分が管理する事になる世界だけど。後、自分はどの位ここにいられるの?」
「それは大丈夫よ、該当する世界がいくつかあったからこっちで選んでおくわ。ここでの時間については真悟の精神強度に比例するわ」
「精神強度?なにそれ」
「書いて字の如く精神の強さの事よ。それがあなたが選ばれた理由でもあるのだけど」
「ますます分からん、説明して」
「簡単に言うと精神の強さでこの場所に留まっていられる時間が変わるの。真悟は昨日この世界に来たでしょ。その分の慣れとこの世界に来た事で精神が少し鍛えられたの。だからもう少しは大丈夫よ」
なるほど、という事は自分の精神がこの場所に耐えられなくなったら精神が体に戻っていって、その時間が起床時間になるという事・・・かな。そう解釈しておこう。でも・・・
「それだと選ばれた理由として弱い気がする。似たような人間なんて他にもいる筈だし」
「まぁその辺の事はそのうち気が向いたら話してあげる。そんなに聞きたいの?」
「いや、あんまり。どうせ大した理由があるとも思えないし、いまさら聞いてもっていう感じもあるし」
本当は聞きたいけど残り時間の方が気になるし、出来るだけ内容を決めておかないとな。
「細かい事を気にしない人は好きよ」
「そりゃよかった。それで後聞きたい事は・・・干渉できる内容だけどどこまでOKなの?」
「権限としては私と同じ力を渡すわ。どこまで干渉するかも一応自由、だけどやり過ぎても困るから、あなたがここで何か力を使う時は私も一緒にいるわ。アドバイスくらいはしてあげる」
「仕事さぼり?」
「違うわよ。私が真悟をここに呼ばないと何もできないでしょ。どちらにしても私はいないといけないの」
「ですよねー。知ってた」
「ムッ」
あ、むくれた。でも昨日の帰りにやられたから、これ位の意趣返し?は許されるだろ。
「ごめんごめん。昨日の別れ際にやられたからさ、本当にからかってごめん」
「ふぅ・・・なら許すわ。でも嬉しかったでしょ?」
「いや、まぁ・・・今思うとそうな」
そんなこんなで話しをしていたら、少しずつ世界が白くなりはじめた。今日も終わりか。
「丁度お茶もなくなったし良いタイミングね」
そんな事を言いながらアネモネは席を立って自分の横に回りこんでくる。
「そうだなぁ・・・あー起きたら仕事か」
「嫌なの?ならずっとここにいる?」
「そういうこと言わないの。本当に戻りたくなくなるから」
「あら、ずっといてもいいのよ?」
「でもそれって、死んで魂がここに来るという事でしょ?」
「あらばれた」
「でも、多分死んだらここまでは来られるけど、今の状態にはなれない」
「どうしてそう思うの?」
「何でって、そりゃ自分が凡人だから」
「正解、やっぱり分かっていたのね」
昨日貴女が言った事を自分なりに解釈したらその答えにしか辿り着かなかったわ。
「わからいでか・・・で何でアネモネは自分の横にいるの?」
どう考えても嫌な予感しかしない。というか既視感が・・・などと思っていたら横からまた抱きしめられた。今回は自分が座っていたという事もあって昨日以上にまずい。何がってアネモネの胸が丁度自分の頭の位置に来るわけで・・・やっぱり柔らかい。10秒位自分の頭を抱きしめると昨日と同じようにゆっくり離れた。動揺を悟られないように出来るだけ平静を装って口を開く。
「当たってたんですが?」
「わざと当てたのよ」
「恥ずかしくない?」
「恥ずかしくないと思ってる?」
「ならしなけりゃいいのに」
「そうね。でも真悟のそういう顔を見る事ができたから悪くはなかったかも。明日は今日よりもう少し、ここにいられる時間が延びるから、私の世界を見せてあげる。それじゃまたね」
アネモネはそう笑顔で言うと霞のように消えていった。いったい自分はどんな顔をしていたのか・・・別れ際の表情から察するに碌な顔をしていなかったんだろう。意趣返しに成功したと思ったらこれだよ。ま、明日になれば気分も多少は落ち着くだろう。早く目覚めないかねぇ・・・・
そんな事を考えながら自分は白の中に消えていった。