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コオロギたちの明けない夜  作者: 凡骨滓生
2/2

後編

俺は、龍平さんと胡散臭い男の手札を見てみた。

龍平さんはフォーカード、胡散臭い男はロイヤルストレートフラッシュだった。

「……は……はは、やったぞ。300万だ! 」

胡散臭い男は声を震えさせながら、しかしはっきりと言った。

「くそが!あと少しだったってのに……」

かたや龍平さんは悔しそうに言う。

決着は着いた。

敗者となってしまった俺たちはどうなってしまうのだろうか。

みんなの顔を見渡している。

圭吾の顔色なんて完全に血の気が引いていて、もはや死人のそれであった。

「おい圭吾……お前顔色悪いぞ、大丈夫か? 」

心配になった俺が声をかける。声が少し震えているのが、自分でもわかった。

「そ、そういうお前こそ……大丈夫か?声が震えてるし顔色も悪いぞ」

圭吾に言われて気づく。俺自身も恐怖に怯えていた。

「びびる必要なんかねーだろ」

玲二が少し冷たい声でそう言い放つ。

「こんなゲームのルールになんて従う必要なんかねーよ。そもそも賞金の300万なんてどこにあんだよ」

「それはこれから私が案内します」

さっきから黙っていた大男が言い放つ。

「あ、ああ案内してくれ。私の300万は一体どこにあるんだ? 」

「おい待てよ、おっさん」

龍平さんが胡散臭い男の前に立ちはだかった。

「アンタ……イカサマしただろ? 」

俺たちは唖然とした。

「さぁ、なんのことでしょう? 」

胡散臭い男はあっけらかんとしている。

「とぼけるんじゃねーよ、ネタはあがってんだ」

龍平さんは不敵な笑みを浮かべている。

特に意識して見てはいなかったが、この男が妙な動きをしていた感じはなかった。

もしかすると、龍平さんの言いがかりなのかもしれない。





前に龍平さんと初めて会った時もそうだった。

店で、俺と龍平さんがすれ違う時、肩がぶつかった。俺はその時会釈して謝ったが、龍平さんは納得がいかなかった様で俺の胸ぐらを掴んできた。

「てめぇ、どこ見て歩いてやがる!」

俺はその威勢に押されてすっかり萎縮してしまっていた。

「すみません! 」

咄嗟に大声で謝る。

「てめぇがぶつかって来た時の衝撃でなぁ!時計が壊れちまったじゃねーか!」

龍平さんが左腕につけていた時計を見せつけてきた。

「そ、そんなの知りませ……」

「あぁ!しらばっくれる気かてめぇ!弁償しろやこら!」

「お、おい浩太!」

異変に気付いた玲二と圭吾が駆けつける。

「部外者は黙ってろ! 」

龍平さんが俺を掴んでいた右手を離したと同時に、玲二の左肩を殴りつけた。

それに逆上した俺が龍平さんを殴りつける。

龍平さんは俺を睨み付け、今にも殴りかかりそうになっていた。

しかし、周りが騒ぎ出したのに気づく。

「……ちっ!覚えておけよ」

龍平さんは舌打ちをして、その場から立ち去った。


後から聞いた話だが、龍平さんの時計は俺とぶつかる前に壊れてしまったいたらしく、弁償する金を得る為に、こうやって言いがかりをつけていたようだ。

これが、俺たちと龍平さんの出会いであった。

この出来事の後、龍平さんとは悪友という形でつるみだした。



過去に言いがかりをしてきた龍平さんのことだ。

今回も負けた憂さ晴らしにイカサマだと言っているのかもしれない。

「おい何黙ってんだよ!図星なもんだから何も言えな……」

龍平さんが背後にいた大男に掴まれた。

そして、先ほどの圭吾と同じように投げ飛ばされた。

「まずは敗者の処理の方が先みたいですね」

大男が太い声で言う。

そして、服のポケットから小さな瓶を取り出した。

中には、橙色の液体が入っている。

「あなたたちには、これを飲んでもらいます。この液体を飲むと数分後には激しい睡魔に襲われ眠るように死んでいきます。しかし、ここで私に歯向かうようであれば……苦しみながら死ぬことになりますよ」

俺たちに選択肢はなかった。

液体は人数分に配られ、後は俺たちがこの液体を飲むだけとなる。

「……くそ」

大男はこちらをずっと見ており、俺たちが液体を飲むのを待ち続けている。

隙を見て逃げたいところではあるが、下手をすると殺されるかもしれない。

圭吾が沈黙に耐え切れず、液体を一気に飲んだ。

圭吾に続いて、玲二も液体を飲む。

「お前ら……」

俺も、瓶の蓋を開ける。

「龍平さん……最期はみんなで一緒に逝きましょう。」

そう言って俺も液体を口に入れた。

「ちくしょう」

龍平さんもとうとう諦め、液体を口にした。





数分後、変化が現れてきた。

最初に液体を口にした圭吾が、続いて玲二も眠くなってきたといい床に倒れこみ眠りについた。

胡散臭い男と大男の姿は既にない。賞金のある場所へと行ったのだろう。

しかし、ここで新たな疑問が浮かんだ。

倒れこんだ圭吾が本当に死んでしまったのかを確認する。

息をしている様であった。

確かにあの大男が言ったように眠ってしまってはいるが、死んではいない。

俺が圭吾の様子を見ていると、背後で何かが倒れた音がした。

振り返ってみると、龍平さんが床にうつ伏せになっている。

龍平さんにも、液体の効果が出てきたのか。

近づいて確認してみる。

龍平さんも圭吾たちと同じだった。眠りはしたものの息はしている。

一体どういうことだろうか。

龍平さんの様子を見ている途中、尻ポケットに何やら妙な膨らみがあることに気づいた。

中を探ってみると、折り畳み式のナイフが出てきた。

これでいざという時に脅そうとしていたのだろうか。

俺はとりあえずそのナイフを自分のポケットに入れた。


視界が暗んできた。どうやら俺にも液体の効果がでてきたみたいだ。

どうせみんな死ぬ。

あの大男の説明が本当なら、これで楽に死ねるのだろう。

俺も床に倒れこみ眠りについた。











――どういうことなのだろうか。

俺は目を覚ました。

玲二や圭吾、龍平さんは寝たままである。

俺には液体への耐性でもあったのか。

不安を感じながらも立ち上がる。

身体にはどこも異常がなかった。

ここにはいてはいけない様な気がして俺はみんなを置いて外へと向かった。

時間を確認してみる。

あれから1時間も経っていなかった。

俺はとりあえず、公民館の近くに停めていた車へと向かうことにした。

人気のない静かな道を歩く。

車の近くまで来てみたがその陰にどこか見覚えのある男がいた。

そこにはゲームの勝者である、あの胡散臭い男がいた。

右手には大きなトランクースを持っている。

あの中におそらく賞金があるのだろう。

「あんた、何してんだよこんなところで」

胡散臭い男は俺の顔をみるやいなや慌てだした。

「な!お、お前は……さっきの!」

こいつがここまで慌てているのを見るのは初めてであった。

ゲーム中でもこいつは冷静だったから。

「どうしたんだよ、賞金手に入ったのに逃げないのか? 」

「う、うるさい!私にかまわないでくれ!」

一体何を言ってるのだろう。俺の何に怯えてるのか分からなかった。

「ちょっと待てよ、なんかあったのか? 」

「何もない!どっか行け!」

まるで聞く耳を持たない。

俺はだんだん苛々してきた。

もともと短気なところはあるが、普段はこんなことで怒ったりはしない。

やはりこの男によって、仲間が死んでしまったという逆恨みがそうさせているのだろう。

「騒ぐんじゃねぇよ!お前のせいで、俺の仲間はみんな死んだ!

お前のせいで!お前のせいで!」

気が付くと俺は男の首を掴んで渾身の力で絞めていた。

男は必死に暴れ、持っていトランクケースで俺を叩いた。

これが更に、俺の怒りの火に油を注いだのだろう。

俺は龍平さんから取っていたナイフを取り出し、男に飛びかかる。

「やめてくれぇ!」

男は裏返った情けない声で叫び、抵抗する。

俺は抵抗する男の手を振り払い、胸にナイフを突き刺した。

「かはっ」

男は吐血し、シャツに赤い染みが広がっていく。

おとなしくなった男の胸を何度も何度も刺した。

コイツのせいで、俺は、俺の仲間は。






やがて理性が戻ってきた。

動かなくなってしまった男の体から降り、俺は腰が抜けたまま後ずさりする。

殺人を犯してしまった。

それなのに、なぜか俺の体は高揚感を覚えていた。



胡散臭い男を殺して間もなく、眠気が再び俺を襲ってきた。

そして、俺はその場に倒れこんだ。




再び目を覚ます。

夜は明けかかっており、辺りは少し明るくなっていた。

横で倒れこんでいる男からトランクケースを奪った。

男は、トランクケースの他に、トランプを隠し持っていた。

こいつ本当にイカサマしていたのか。しかし、なんでゲーム内容でトランプを使うってわかったんだ。

いや、そんなことはもうどうでもいい。俺は一度公民館へ戻ってみた。

「おいみんな!玲二!圭吾!龍平さ……」

俺は絶句した。




そこには完全に息絶えた玲二と圭吾の姿があった。

何やら暴れ、取っ組み合った末に死んでいるようであった。

こいつらで殺しあったのか、そんなまさか。

龍平さんは、さっきとは違い、椅子に座りテーブルに突っ伏した状態で眠っていた。


ここにいてはいけない。そう感じた俺は車を走らせ、街に出た。








そして、俺は渋滞に引っかかったときの苛々で怒りが爆発し前にいた車に思い切りぶつかり、死んだ。

あえて書いていない描写や伏線などはあります。

分からなかった点があれば、メッセージお願いします。

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