Track.6 Please please please let me get what i want「24」
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「奏は大きくなったら何になりたい?」
唐突な質問。奏はしばらく何を言われたのか分からないと言った顔を浮かべていた。
「奏くらいの年なら夢多き少女の頃でしょ?何になりたい?」
リニアは彼女の様子に全く気を止めることなく、再び質問を繰り返した。
単なる暇つぶし程度の会話である。だが、やっと奏が意図的に黙っている事に気がついたのだろう。慌てた様子でリニアは別の話題へと移ろうとした所、奏は違うと言って首をふった。
「ある。なりたいもの」
「へえ、何になりたいの?」
「……先生みたいになりたい」
少しだけ恥かしそうに俯く奏に対し、リニアは予想外の解答に呆然としていた。
「……それは、ちょっと。もう一回、ちゃんと考えよう、奏。心優しい奏がそんな怖い将来を思い浮かべちゃ駄目だ、何なら私も相談にのるから!!」
「私も先生のように、堂々と生きたい」
「奏!!あれは堂々って言うんじゃない!!あれは只のものぐさ人間だ。何考えているのかもわからないし、たまにヒステリック起こすし、ケチだし、自分の欲しいものはすぐ勝手に買うし、奏はあんな大人になったら駄目!!」
もはや天城に対する愚痴へと化したリニアの発言に、奏はしばらく黙って聞いていたが、やがてすっと彼女に向けて指を指した。だが、それは明確に彼女に向けたものではない。その指は徐々に上へと上がり、やがて不思議に思ったリニアも奏の指の先に従い、後ろに振り返る。
するとそこには、笑顔の天城紫乃がいた。
「せ、先生」
「元気そうね、リニア。ものぐさでヒステリックで、自分が欲しいものはすぐ勝手に買う天城紫乃です」
冷たい笑顔を張り付けたまま、天城はリニアを見下ろす。その寒さについ背筋を凍らせるリニア。彼女は勢いよく首を横にふった。
「ち、違う、違う。今のは冗談ですよ。本気にしないでくださいよ」
先ほどの言葉を否定しつつも、彼女の身体は徐々に天城との距離を開いていっている。
「リニア?」
「はい?」
「待ちなさい!!」
天城の大声と共に、リニアは廊下に飛び出した。
「ご、ごめんなさい!!許して下さい!!」
「許さんっ!!」
ドタドタと廊下を駆けまわる二つの足音。
やがてその音が遠ざかっていくと、奏は小さくため息をついて時計を見上げた。そろそろ夕飯の準備を始める頃である。
「今夜は何にしようかな」
***
「はあ……」
自然とため息が零れていた。
ing……俺が持っているとあの男は言っていた。一体どんな能力だというのだろう。
「ingなんて中学で習った英語以外で聞いた事ねえぞ」
それでも研究所は俺の能力――ingを狙っているようだ。奴らが欲しがるほどの能力。少なくともそれは平和なものではないのだろう。そう思うと、俺は少し身震いを覚えた。
だが、いずれにしても――、
「直接聞いてみるしかないか」
心のどこかで、先生たちが話してくれないのをどこか気にはなっていた。ならばこの機会に、全て聞かなければいけない事を聞かないといけないのかもしれない。
そう思いながら、俺は松葉杖の先を地面で弄んでいた。外は寒い。赤城はスーパーに行くと言って出掛けた。幼稚園に戻ってもいいのだが、今はそんな気分ではなかった。一人で考えたい、そんな感じだ。
「助けて!!」
だが、そんな雰囲気も彼女の叫び声でぶち壊された。
「誰か!!助けて!!」
声の主はリニアだ。彼女は一直線に目の前を横切っていった。そしてその後を、笑いながら追いかける先生。しかも幼稚園のエプロン姿だ。
逃げる外国人に、それを追いかける幼稚園の先生。
そのおかしな光景に、今度は呆れてため息を零した。俺の気も知らずに……。
「まあでも、何か聞くには後ででもいいか。これ以上、非常識なことにも巻き込まれたくないし」
これだけの事件の後だ、そろそろ俺に平凡な日常が帰ってくる頃だろう。明日からまた普通の大学生に戻れる。その事が俺にとっては何より安心した生活だ。
『果たして、誰が被害者で、誰が加害者であるのか』
ふと、あの男の言葉が脳裏をかすめた。
「……俺たちがしていたのは戦争だったのか」
認めたくても認めたくなかった過去の事実。
思わず見上げた夕焼け空に彼女の顔が浮かんだ。
「なあ……とんび、俺たちは戦争をしていたみたいだ」
言葉が宙に消えて行く。誰も返事をしてくれる人はいない。そんな当たり前の事に、俺は一人苦笑した。
「戦争だっただろうが、何だろうが……俺にとって大事なのは今、この瞬間か」
そう呟いて、俺はポケットからイヤホンを取り出して耳に差し込んだ。そして音楽プレーヤーのスイッチを入れる。耳元に流れるのは盛りを過ぎた昔の名曲。
『あなたのために』、素敵な歌詞だ。
「……俺は誰のためにこうしているんだ」
それでもやはり、俺の呟きに答えてくれるものはいない。
俺は仕方なく幼稚園に戻る事にした。
「そろそろ奏が夕飯の準備をしている頃か」
遠くで聞こえるリニアの叫び声を背に、俺は幼稚園のドアを開けた。
「ただいま」
- Track. 5「Please please please let me get what i want」End. -




