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Track.6 Please please please let me get what i want「20」

***


彼らの戦いは常軌を逸していた。

魔女が魔法を出す。だが、ベルコルもそれと同等の魔法を使い相殺する。【知識の宝庫】という異名がつくほど、彼の魔法は、彼の状況処理能力は長けていた。これも何百年も生きてきたおかげだろう。

「キルヘン!!諦めろ、大人しくその身を差し出せ!!そんな器に収まっているから、動きが鈍っているんだ!!」

「残念だが、アルベル。私はこの体が気に入っているんだ。それに私は天城紫乃でもある。だから、この体を捨てるつもりはない!!」

そういうと魔女は男に向けて腕を突き出した。

「──安らかだと思いし者は衰える者を蔑み、足のよろめく者を押し倒す!」

魔女の声と共に巨大な雷が男に向かって落ちる。彼は苦も無くそれを華麗に避けた。そして男はすぐに口元を動かす。

「――見よ。束を滿載した車が押えつけるように、わたしはあなたがたを押えつける。速く走る者も逃げる場を失い、強き者もその力をふるうことができず、勇士もその命を救うことができない。弓をとる者も立つことができず、足早な者も自分を救うことができず、馬に乘る者もその命を救うことができない」

神聖な文字の詠唱――過去、聖騎士の身であった男は、過去、聖女として呼ばれた魔女同様の魔法が使用できる。そして詠唱は長ければ、長いほどその魔法の効果は強まるのだ。

魔女は男の紡ぐ異様な詠唱の長さに警戒し、途中で破断させることに決めて、勢いよく男に向かって拳を振り上げる。男はそれを避けるために後退し、詠唱も途中で終えた。

「野蛮だな、キルヘン」

「黙れ、不愉快だ」

「キルヘン、私が知っている純潔の娘はそんな言葉は言わなかった」

「キルヘン、キルヘン、五月蠅い。私の名前は天城紫乃だって言っただろ。この街の戸籍にもちゃんと載っている、ちゃんとした日本人だ」

「違う。お前はキルヘンだ。天城紫乃ではない」

「いや、私は天城紫乃だよ」

静かに男を睨む魔女。対して男は魔女の表情全てを楽しんでいるようだった。

「なあ、キルヘン。魔法の原理はどういうものだと思う」

男は唐突に口を開いた。

「君が書いた本には、文字を利用した魔法はその言語に対する完璧な理解、その文章に対する完全な理解、そしてその全てを魔法に変換するための意志と希望が必要だと書かれていた。けど学問で体系化されたものに、人間の意志と希望が含まれているなんて可笑しくないか!?そんなもの学問だとは到底思えない!!そしてその魔法を体系化したのが君。だから私は魔法が気に食わないんだ、純潔の乙女を金色の魔女にした魔法が許せない。私は君を元に戻すためにしなければいけない、魔法を世界に公開しなければいけない!!」

初めこそ、冷静な口調だった男は次第にその顔に狂気を含んだ笑顔を浮かべて叫んでいた。魔女はその姿をじっと、呆れたように見つめている。

「【知識の崇拝】が研究所の主な行動方針。その中には様々な意味が内包されている。【知識は共有しなければいけない】、【知識は広く広まらなければいけない】。だが私たち個人主義の集まりでそれを実践することは難しい。けど【知識は広く広まらなければいけない】、私はこの言葉を気にいっていた。魔法なんてものは協会のように秘匿すべきではない。広く世間に知らしめる必要がある。世界中の人間の内99%、いや99.9%はその素質を持っているからだ」

「非常識が常識になる。そんなことになったら世界中パニックに陥るに決まっているだろう。アルベル、君が理想としているそれは、私が数百年前にやったことと同じ顛末になるぞ。魔法を使って町中を破壊して……挙句の果てに四肢を落とされて火あぶりだ」

「それは中世だったからだ。今は時代が違う」

「馬鹿馬鹿しい。中世であれ、現代であれ、人間は変わらない。非常識は【非常識】だから受け入れ難いんだ。待っているのは混沌とした世界だけだよ。だから協会は魔法を秘匿している」

「世界がどうなるかなんて知った事じゃない」

「なら、とっとと公開すれば良かったじゃない?」

「それではつまらない。何より品位が悪い、私は美しいものが好きだからね」

そう言って男は魔女を見据えた。

「だから私は君が好きだ。愛している。いい加減、こんな話はやめよう。このままでは君の綺麗な魂まで、その醜い体の汚染を受けてしまう」

男は再び戦闘に戻るようである。

一時の静寂。目に見えない力がこの空間に漂っているように魔女は感じた。気づくと、男の両手は物凄い速さで動いている。そして男の口が再び開かれ――、


「――見よ。わたしの目は、これをことごとく見た。わたしの耳はこれを聞いて悟った。あなたがたの知っている事は、わたしも知っている。わたしはあなたがたに劣らない 。しかしわたしは全能者に物を言おう、わたしは神と論ずることを望む。あなたがたは偽りをもって上辺を繕う者、皆、無用の医師だ。どうか、あなたがたは全く沈黙するように。これがあなたがたの知恵であろう。今、わたしの論ずることを聞くがよい。わたしの口で言い争うことに耳を傾けるがよい。あなたがたは神のために不義を言おうとするのか。また彼のために偽りを述べるのか。あなたがたは彼を立てるつもりなのか。神のために争おうとするのか。 神があなたがたを調べられる時、あなたがたは無事だろうか。あなたがたは人を欺くように彼を欺くことができるだろうか。あなたがたがもし、ひそかに自己を立てるつもりならば、彼は必ずあなたがたを責められる」

「聖書をそのまま詠っている……?」

長々とした呪文を的確に素早く。そして男は完全に自身の世界に入り込んでいた。自身の世界に入り込む、それはつまり自己に陶酔している――集中しているということだ。集中すればするほど、魔法の効果も格段に上がっていく。

魔女は自身の身に感じる力の大きさに驚きを隠せずにいた。


――これは神聖な力、信仰に満ちたものだけが使用できる選ばれた力。それも過去に忘れ去られたもの。堕落した者たちが使う禍々しいものとも違う。何であの男はこれを使える?人の首を切り落とした男に神聖な力?皮肉にも程がある。


男の頭上で光が収束していく。まるで巨大な球体だ。魔女の使用する抑止力を用いた魔法とは違う、本当に神を信仰する者が用いる神聖な力の魔法。いくら金色の魔女とはいえ、彼女もこれを真正面に食らえばタダでは済まないだろう。

「なるほど、その力を自由に使うために私をここに連れてきたのか。全ての非常識を常識にできる場所が必要だったのね。けど、アルベル。あなたとても不愉快そうな顔で詠唱するのね」

魔女の挑発に男は一切耳を貸さず、詠唱を続ける。

「――荒らす者の天幕はなりえ、神を怒らせる者は安らかである。神がご自分の手でそうさせる者は。しかし、獣に尋ねてみよ。それがあなたに敎えるだろう。空の鳥に尋ねてみよ。それがあなたに告げるだろう。あるいは地に話しかけてみよ。それがあなたに敎えるだろう。海の魚もあなたに語るだろう。これらすべてのもののうち、彼の御手がこれをなさったことを、知らないものがあろうか。すべての生物のいのちと、すべての人間の息とは、その御手のうちにある。口が食物の味を知るように、耳は言葉を聞きいれるだろう。老いた者に知惠があり、老いた者に英知があるのか。知惠と力とは神とともにあり、思慮と英知も神のものだ。見よ。神が打ちこわすと、それは二度と建て直せない。神が閉じると、それは開けられない。見よ。神が水を止めると、それは枯れ、水を送ると、地をくつがえす……」

男の詠唱は既に終えたのか、後はその光の塊を放つだけの様に見える。魔女は何とかこの空間を破る方法はないかと考えを巡らせていたが、つい先ほどその答えに至った所だった。

金色の魔女――だが、彼女も初めから魔女として産まれたわけではない。教皇にも認められた予言の力は明らかに神に近い存在であったはずだ。おまけにここは異次元の空間。現世の信仰とはかけ離れた場所ということは、彼女にも神を信仰する者としての力が備わっているのではないかと。

そして彼女は男のものよりも数倍の速さで詠唱を行った。アルベルも少し驚いた表情を浮かべている。

魔女の頭上にも男のものと同じ球体が浮かんでいた。違う点は、色だ。真っ白な男のもと違い、彼女のものは赤と黒。まるで神聖さとかけ離れたその色は、全てを飲みこんでしまいそうにも感じられた。


そしてその二つの球体は、激しい閃光を放って互いに衝突した。



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