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Track.6 Please please please let me get what i want「15」

***


「なに……これ」

目の前で燃えているのは普段見慣れたビルだった。周囲には警察が集まり、消防団員は人命救助に忙しく、彼女の傍では互いの安否に泣き崩れる人々。いつもの光景はそこになかった。

リニアは頬を伝う汗も拭わず、ただ目の前の光景を唖然として眺めることしかできない。何が起こったのかも、理解し難かった。


――冷静になれ。


ふと、金色の魔女の言葉が脳内に響く。

「そうだ、目の前のものに惑わされるな。ムードメーカーは当惑してはならない。心を乱すな」

リニアは師匠の教えを口に出して、深呼吸を繰り返す。そして今一度、目の前の状況を整理した。

明らかな事は、この爆発は研究所の人間の仕業。彼らの手口は鮮やかで、痕跡一つ残さず、ただの事故に済ませる事ができる程の腕前である。幸いにもけが人は少なく、この爆発は人命被害よりも一種のパフォーマンスのようなものだと推測される。

リニアは一歩、ビルに近づいた。おそらくビル内部に侵入することはできないだろう。入口が警察官や消防士によって固められていた。だが良く見ると、彼らは服こそ警察官、消防士そのものだが、彼女が見た事のある顔がいくつかあった。おそらく協会の人間だろう。政府と結託して、このような非常識な出来事には協会側の人間が処理するようになっていると噂があった。

「話したら中に入れてくれるかな」

再びビルに近づこうとした瞬間、リニアは背後から物凄い殺気を感じ、思わず後ろを振り向いた。誰かが居る。青い服を着た男だ。一般よりわずかに体格の良い男は何も喋らず、じっと彼女を見つめていた。リニアは直感で男が自身の敵だとわかり、戦闘態勢に入る。

「あんたがこの事件を起こした犯人ってとこ?」

「ああ、私がやった」

「そっか……それなら、先手もらった!!」

リニアは勢いよく男を目がけて突進。拳を振りかざそうとしたが、いつのまにか男は後方に退いていた。その素早い動きに彼女も驚きを隠せない。

「ただの人間もいる。このような場所で暴れるのは良くないと思う」

男の正論にリニアは拳を降ろした。

「あんたは研究員?」

男は無言で頷く。

「フーゴだ」

「そう……場所を移すわ」

彼女はビルに背を向けて走り出した。目指すはここからそう遠くない場所にある公園だ。普段から人気の少ない場所であり、夜中の戦闘には格好の場所である。

リニアが走り出してすぐ、男も彼女の背を追うように移動を始めた。

「速い……私より一枚上かもしれない。肉弾戦はちょっと厳しそうかな」

不安を胸に抱きつつも、彼女は走り続けた。


***


先に公園に着いたリニアは、男を迎え待つ。一秒、二秒、三秒で男は目の前に姿を現した。

「さてと、とりあえず聞きたいんだけど、研究所の人間が何でこんな所まで来たの?」

「……三年前、私は急進派の一人として彼らの行動を支持していた」

彼女の質問にやや間を空けてから男は答える。だが、別に返事を考えていたと言うよりは行動が鈍いといった印象だ。

「私は彼らと行動し、三年前のingショックの時、私は中東にいた」

ingショック……当時を知る彼女は、その時起きた出来事に思わず視線を落とす。そんな彼女に構わず、男は続けた。

「君たちがどう思うかはわからないけど。研究所はちょっと変わった奴らが集まっただけの場所だ。私たちはingなんてどうでも良かった。ただ自分の研究を続けたかっただけだ…… それでも、そのための手段と方法を選ばないのが急進派だった」

男の独白は続く。


――相手の言葉に惑わされるな、相手の言葉に惑わされるな。


リニアはハンス・ブリーゲルの言葉を必死に頭の中で反芻していた。

「果たして、人というのは何なのだろうか。あそこまでの事をして、私たちは何故知識を追い求めたのだろう」

「それで?その答えは出たの?」

「いや、まだわからない。それに一緒に戦った仲間は全員死んでしまった」

「あらら、それは可哀そうね。残念ながら私の周りの人間は誰ひとり死ななかったわ」

「……それは運がよかったな」

相手の空気に飲まれぬよう、リニアは普段通りを心がけていた。そして、彼女は元気に胸を張る。

「そう、私は誰よりも運がいい女!!リニア・イベリンよ!!」

銀髪の魔法士――、ハンス・ブリーゲルに体術を教わり、金色の魔女に魔法を教わった女。男はじっと彼女を見据えていた。

「中東で活動していた時、私たちの勝利は確実だと思っていた。その地域の住民も政府も皆私たちを支持していた。私たちはこの戦いに勝利し、私たちが続けてきた学問の極地に至れると思っていた」

「悪いけど、私にはまったく理解できない」

「構わない、理解してもらおうとも思ってない」

「あら、そう」

相槌のように口を挟み続ける彼女に男は不快な表情も見せない。彼は先ほどから、声のトーンすら一切変化を見せずにいた。

「そんなある日、ある男が中東に現れた。そう、君の師であるハンス・ブリーゲルだ」

「へえ……ハンスはそんな所まで派遣されてたの」

「たったひとりの男のせいで、私たちの仲間の八割が殺された」

「うわ……相変わらず、容赦ないな」

「私もその男と対峙した。彼は何一つ表情を見せなかった」

その言葉にリニアは眉を動かす。

「ちょっと待って。私の記憶が正しいなら、ハンスは一度狙った相手は最後まで追うと思うんだけど」

「おそらく目標が変わったのだろう。私は殺す価値もない程の相手だったということだ」

「なるほど」

「その後、私が本部に戻った頃、急進派の人間は本部に残っていた者以外、殆ど亡くなっていた。そして研究所の実権は穏健派の人間に移ってしまった」

「ストップ!!」

ぶつぶつと、まるで念仏でも唱えるように呟き続ける男に対し、ついにリニアは我慢できずに大声を上げた。

「いい加減聞き続けるのも飽きた!!研究所の事情なんて知らないし、私が戦った研究所の人間っていうのは、目的のためなら手段も方法も選ばない、殺人、密売、人体実験。何でもありな連中だった。被害者なフリなんてしないでほしい!!」

「……そうだな、私たちは世間で言う悪党そのものだ」

「そう、そしてあんたみたいなのは、適当な悪党。大悪党にすらなれなかった中途半端な存在」

「適当な悪党。そんな言葉初めて聞いた」

男は腕を構え、戦闘態勢に入った。

「私がこの地に来た目的は二つ。一つは、仲間の敵のためリニア・イベリンを排除すること。そしてもう一つは、etcの文書を取り戻すこと」

「ちょっ……あんたの仲間を殺したのはハンスでしょ!?何で私!?」

「奴の代理だ」

男は笑った。その時、初めて男は感情を見せたのだ。


***


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