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Track.6 Please please please let me get what i want「11」

***


「ああ、あいつ死んだかな」

アジトと称した、かなり大きなホテルの一室。そのベッドの上に横になったまま、ロベルトは呟いた。もちろん相方の返答は期待していない。

「何をしている」

彼はじっと窓の外を見たまま微動だにしない相方――フーゴへと訊ねるが、彼は何も言わない。ロベルトは無視されたことを気にすることなく、再び天井を見つめたまま横になった。しばらくして、

「人を拳銃で撃ったと聞いた」

「ああ、撃ったな」

「悪い行為だと思う」

やっと口を開いたと思いきや、フーゴはロベルトへと小言を呟いたのだ。思わずロベルトも開いた口が塞がらない。

「おいおい、これは戦争だ、俺たちはテロリストだ。相手の事情なんて知るか。俺は楽に事を進めるために動いたまでだ」

「そうか」

フーゴは特に言い返す事もなく頷く。そしてもうこの話は飽きたのか、別の話題を切り出した。

「今日中にベルコルが来る」

「ほお、やっとか」

「ケラーも一緒らしい」

「若いケラーの活躍、楽しみだな」

会話を成立させる気は互いにないようである。ロベルトはベッドから跳ね起きると、フーゴが眺めている景色に目をやった。ビルとマンション、そして一軒家が立ち並ぶ土地。都会という都会でもなく、地方と言う地方でもない中途半端な風景だ。

「私たちが狙う所はどこだ」

「このホテル、それと反対側のビル」

フーゴはポケットから紙を取り出し、指をさしていく。

「協会の本部は?」

「ベルコルがそこは狙うなと言っていた。接近することが難しいって」

「なるほど、面倒臭いが仕方ない。これも仕事か」

しばらくして、ロベルトは立ち上がった。

「そろそろ行くか」


***


幼稚園に着くと、リニアはいち早く台所から漂う香りを察知し、急いで靴を脱いだ――が、勢い余ったのか彼女は玄関でよろめく。

「本当に大丈夫なのか」

「大丈夫だって、ちょっと躓いただけ」

相変わらずリニアは、にこにこと笑いながら両腕を上げてアピールする。腕を上げれば元気だって証拠でも何でもないぞ。

「心配しすぎだよ、聡太!!」

俺はよほど不安気な顔をしていたのか、リニアは元気づけるように勢いよく頬をすり寄せてきた。

「元気なのはわかったから!!離れろー!!」

「はいはい」

リニアは俺から離れると真っすぐに台所へ向かった。

「パスタだ!!」

お皿の上に乗ったものを見て、まるで小学生のように目を輝かせるリニア。すぐに席に着こうとする彼女の裾を奏が引きとめた。

「リニア、大丈夫?」


一瞬、間の抜けたような表情を浮かべた彼女だったが

「こないだも言ったでしょ。大丈夫、私は絶対に大丈夫。だから心配しなくてもいいの!!」

奏の頭を優しく撫で、そして彼女はその小さな体をそっと抱きしめた。

「……ばか」

「それよりご飯は?」

「奏が、皆が集まったら食べようって。家族は揃って食べるものだから」

意気揚々と席に着く彼女に答えたのはノエルだった。そして彼女の言葉通り、全員が席に着く。

「……葵は?」

「いいでしょ」

いいのか。

魔女はあっさり切り捨てた。

俺は親友にせめてもの手向けとして、深いため息を零しておく。すまない、親友よ。俺に止めることはできなかった。

既にノエルと先生、リニアはパスタに口をつけている。俺も構わず食べることにした。真田さんは全員が食べ始めた事を確認してからフォークを手に取った。

「美味しい」

「すごいですね」

思わず感嘆を漏らしたのはノエルと真田さんだ。殆ど奏が作ったのだが、何故か誇らしげになる。

「私も一人暮らししてますけど、こんなに美味しいものは作れないです」

「お、俺も一人で作ったわけじゃないですよ」

大人の女性に誉められ、つい俺も頬が緩んでしまう。

「嬉しそうね」

隣でリニアが笑いかけてきた。何故か寒気がするのは気のせいだろうか。

「あの、後でレシピ教えていただけますか?今度私も作ってみたいです」

「真田ちゃんが作るの!?私も一緒に作る!!」

「えっと……じゃあ後でレシピ渡しますね」

いつぶりだろうか。ここまで誰かに気分を持ちあげられるのは。

自身の口元が緩んでいるのを感じた。ふと、今度は向いの席から視線を感じる。

「……あの何か不満でも」

奏がじとりと、こちらを見つめていた。

「別に」

「……」

俺の周りだけだろうか、妙に気温が低い気がする。

「ふう……」

思わず漏らしてしまったため息に、隣に座っていた先生が視線だけをこちらに向けた。

「食べないの?葵くんに遠慮なんかしなくていいのよ、遅刻した人間が悪いんだから」

それだけ言うと、先生は再びパスタを口に運ぶ。

と、その時。俺の背後で物音がした。

「遅刻した人間にも理由があるんだがな」

「葵!!……えっと、お前も食べるか?」

「いい、今は食べる気がしない」

俺と話している間も、彼の目はひたすら彼女――、先生を見ていた。

「先生、奴らが来たんだろ?それなのにこんな呑気に過ごしてて良いのか?奴ら、今にもテロを起こすかもしれないんだぞ」

「そんなこと言われても、どこで何が起こるかも分からないじゃない。それなら動きがあるまで待つしかないでしょ」

「けど、奴らはもうこの地に来ているんだ!!」

今にも先生に食ってかかりそうな葵に対し、彼女は涼しげな顔でパスタを食べていた。その様子が余計に葵の怒りに火をつけたのだろう。

「いいか!?俺はあんたが何をしても、俺の知った事ではないんだ。etcの文書なんか、どうでもいい。俺があんたに協力する理由は、研究所の連中を排除するためであって、あんたを助けるためじゃないんだ!!」

「食事中よ。後にして」

声を荒げる葵に、冷静に、冷徹に答える魔女。 台所の空気は完全に冷え切ってしまっていた。何とか場を取りなそうと、俺は葵に声を掛けるが、

「俺は今、先生と話しているんだ」

彼は俺に目を向けることなく、じっと先生を睨んでいた。

やがて、その視線に飽き飽きしたのか、魔女はすっと葵へと目を向ける。

「後にしてくれって言ったんだけど。子供たちもいるんだから」

その言葉に葵ははっと我に返ったようで、驚いた顔で食卓に座る全員に目をやった。そして俺に軽く謝罪を入れると、罰が悪そうな顔で部屋を後にする。


やっと張り詰めていた糸が緩んだのか、黙々とパスタを食べていたリニアが顔を上げた。

「空気が重い」

「文句は先生に言ってくれ」

ちらりと隣へ目をやるが、当の本人は何事もなかったかのように涼しい顔をしていた。

俺がもう少しだけ不満を漏らそうとした、その時だった、奥の部屋から電話が鳴る。この時間に奥の電話が鳴るのは珍しい。先生は聞こえているはずなのに、しばらく何もせずに虚空を睨んでいた。奇妙な違和感、いや不気味な感じがする。

「おい、先生!!電話出ないのか」

「……そうね、ちゃんと受けないといけないわね」

そう言うと、彼女は奥の部屋へと歩いて行った。


***


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