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Track.6 Please please please let me get what i want「9」

***


――俺は今どんな顔をしているだろう。


きっと見るに堪えないだろうな。

病院に着くや否や、俺は夢中で病室を目指して走った。心臓が痛い。まるで張り裂けそうだ。俺は部屋番号を確認すると、息を尽く間もなく勢いよく扉を開けた。

「やあっ!!思っていたより随分早いね」

「え……」

「そんなに急いできてくれるとは思わなかったよー」

ケラケラと笑う彼女は普段通りだ。思わず呆気に取られた俺は、ちらりと横目で先生の姿を窺う。彼女はいつになく真剣な顔でリニアを見ていた。そして、彼女は唐突に俺の額に手をかざす。まるで熱でも測る様な仕草だ。

「……何だよ」

「いや、別に」

歯切れの悪い回答の後、再び先生はリニアへと向き直った。奇妙な心地を覚えたが今はそれどころではない。

「それよりお前!!!拳銃で撃たれたんじゃないのか!?」

「うん、撃たれたよ。すごい痛かった」

「いや、痛いで済む話じゃないだろ」

「いやいや、痛いで済む話だよ」

そう言うと彼女は、サイドテーブルを指さす。

「普段から襲撃されることはあったから、防弾チョッキ位は着ているの。ハンスがくれた使い捨てのやつ。まあ、今回は至近距離で火力もあったし銃口も大きかったから、いつもより大事になっちゃったんだけど」

「はあ……」

目の前に着きだされる防弾チョッキに、俺は呆然とそれを眺めていた。とにかくリニアが無事だと言う事は確からしい。先生も安心した表情を浮かべると、隣にいた医師へと声を掛けた。

「それで?」

「ああ、見ての通り健康そのものだ。まあ、当分無茶なことはしない方がいいとは思うが。今回の件も防弾チョッキのおかげとはいえ、無傷ということもない。派手に暴れて傷が開いたら、今度こそ命に関わるかもしれないからな」

「はーい」

医師の忠告に軽い調子で返事をするリニア。彼も呆れたようにため息を零した。

「おい、紫乃くん。彼女も君の弟子か」

「ええ、私の弟子ね」

「そうか……そろそろいい加減にしてほしいな。いくら私が事情通だといっても面倒事には巻き込まれたくないんだ」

「はーい」

この弟子あって、この師ありということか。医師はやれやれと肩を落としたまま、俺たちに背を向けた。

「私がすべきことは終わった。これで失礼するぞ」

「弟子がお世話になりました。ありがと」

「しばらくは控えてほしいね」

「ごめん、ごめん」

まるで旧来からの友人のようなやり取りを終え、彼は病室を後にした。

「先生、あの人とやけに親しげだな?」

「ああ、友人よ。日本に来る前からのね。ここまでこの病院を大きくしたのもすごいけど、まだまだ現役で働く変わり者よ。腕のいい人間もいるんだから、そろそろ下に引き継がせればいいのにね」

「へえ」

「彼もあんなおじいさんになって……一方の私は変わらずか……」

寂しげに零す先生の瞳は、どこか遠くを見ているようだった。

「ところで、リニア。よくこの病院まで辿りつけたわね」

「あ、いや。それが私もよくわからなくて……気づいたらベッドの上にいたというか」

「誰かが通報したってこと?何にせよ、運が良かったわね」

そっとリニアに微笑んでいた先生は、次の瞬間すっと目を細めた。

「どんな奴だった?」

彼女の空気が変わった。おそらく犯人のことを聞いているのだろう。対するリニアは申し訳なさそうに、頭を掻いていた。

「実は……よく思い出せないんです」

「記憶の混濁かしら」

「いえ、そうじゃなくて。顔を見なかったかも」

「狙撃されたわけじゃないでしょ?」

「そうなんだけど、そうじゃなくて……確か帽子を深く被っていた」

リニアは何とか思い出そうとしているのか、腕組みをしてうなり始めた。

「気絶する前、声が聞こえた……男の声。面倒臭い……とか言っていたような」

先生は相槌を打つ事もなく、口に手を当てて何かを考えている。

ふと、リニアが何かをポケットから取り出した。紙きれだ。

「これ。私の服の中にあったの。見覚えがないんだけど」

先生は彼女からそれを受け取り、中を開くと、どこか驚いた表情を見せた。まるで宝物でも見つけた様な、そんな顔だ。

「先生?」

リニアも訝しげな視線を彼女に向ける。すると、先生は唐突に声を上げて笑いだした。

「お、おい大丈夫か?」

「どうしたの?」

一人、勝手に笑いだした先生を前に、俺もリニアも訳がわからずにいた。一体何が書かれていたのか、俺は先生の手元から紙きれを受け取った。


『墓地の上でまた会おう』


「どういう意味だ?」

疑問符を浮かべる俺に、先生はとても上機嫌に答えてくれた。上機嫌というよりは若干の狂気さえ感じる。

「研究所の奴らからの挑戦状だよ、動くという合図をご丁寧に教えにきてくれた。そう、それは一種のメッセージ。その言いまわし、あいつしか考えられない」

「あいつ?」

先生は俺の質問に答える事はなかった。

「リニア、今日はここで大人しく寝ていなさい」

「嫌です。私はまだ動ける」

無駄に腕を振り回し元気アピールをするリニアだったが、先生の顔は変わらない。

「私の言う事が聞けないの?」

「聞けないって言ったら?」

射抜くような鋭い視線を向ける先生。だが、リニアも引き下がることはなかった。根負けしたのだろうか、先生は付き合っていられないとでもいうように俺たちに背を向けた。

「好きにしなさい。けど、一度でも痛い、動けないとか言ったら、今度は病院に縛り付けるからね」

「はーい」

そしてリニアはベッドから起き上がると、すぐに外に出る準備を始めた。



三人揃って病院を後にする。

北風がとても冷たい。暖かかった室内との温度差に、俺は妙な違和感を覚えた。


***


前を歩く二人の背を見ながら魔女は思わずほくそ笑んだ。弟子の安否によるものでも、男女が連れ添って歩いているからでもない。


――餌にかかった!!


欧州で古文書が見つからなかったのなら、残るはこの場所しかない。こぞって集まってくるだろう。そして、奴も例外ではない。


――私をこんな風にした奴。


――数百年間、待ってきた。


そう、彼女が喜んでいるのはついに行動に移ることができるからだ。今まで消息不明だった奴が表舞台に出てくる。そのことが彼女には堪らなく嬉しいのである。『墓地の上でまた会おう』。それは遙か昔、研究所が創設されるずっと前のことだ。敵を倒す際、男が必ず用いた言葉。

「……今はベルコル、だっけ?面白い。何の思惑があるかは知らないけど、大物が自ら餌にかかってくれたわけだ。長い事待った甲斐があったよ」

天城紫乃という人格が必死に感情を抑え込むが、彼女の顔から笑みが消えることはなかった。


***


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