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Track.5 There Is A Light That Never Goes Out「10」

***


「えっと……本当に申し訳なかった。彼女に呼ばれて。こんなことは初めてだったから……つい」

青年、赤城周は普段の頬笑みはどこに行ったのか、冷ややかな目でアンダーソン・カイルを見下ろしていた。彼がこのような態度を示すことはめったになく、おかげでアンダーソンの顔色は非常に悪い。

夜明けの執務室。部屋の様子は昼間と変わらずひどい散らかり様であった。床に落ちた書類を整理しながら、ハンス・ブリーゲルと天城遊幽は、何も言わずに彼らの対話に耳を傾けている。

「こっちが徹夜で働いている間にデートしているとは微塵も思わなかったよ」

「悪かった、次からはしっかりする」

「まあ……確かにあれだけの美人なら仕方ない事もないけど」

瞬間、殺気を感じた赤城はすぐに咳払いをして誤魔化した。

「とにかく。俺はどんな目にあっても構わない。けど、こっちには遊幽ちゃんがいる。もし危険な目にあったら、どうするんだ」

問い詰めるような赤城の物言いに、アンダーソンは拳をきつく握りしめて俯いている。そんな彼を見て、赤城も失望したかのようにため息を零した。同僚たちの信頼も厚く、誰よりも誠実な人間だと思っていた彼が、今回このような行動をするとは思ってもいなかったからだ。

「俺がどうかしていた。本当にすまない」

「……もういいよ。謝ったところで何も変わらない。それより今後のことを話し合おう」

「ああ、そうだな」

すると、アンダーソンの目の色が変わった。

「周、支部内の人間は何人やられたんだ」

「三人……俺のミスだ」

今度は赤城が顔を伏せる。揃って申し訳なさそうな顔をする二人。


――俺がしっかりサポート役として仕事をしていたのなら。


悔しげに唇を噛みしめたアンダーソンは、更に赤城に問いかける。

「襲撃を受けたその三人は本当に魔法使いだったのか?」

「ああ」

赤城はアンダーソンに頷き返すと、後ろで控えていたハンスに振り返った。解説をお願いすると言う意味だろう。彼の意を汲んだハンスも、迷うことなく口を開いた。重厚で荒い声が室内に響き渡る。

「表向きは完全に擬装し、協会内部でさえ魔法使いとして知られていない連中だ」

「彼らの目的はなんですか」

アンダーソンの質問に、ハンスは逆に問いかけた。

「古文書を輸入し解読するために一番重要なことは何だと思う」

訝しげな表情の後、アンダーソンは何てことないように答える。

「それは、その古文書の言語を知ってることでは……あ」

「ああ、なるほど」

「そういうことか」

アンダーソンが気付くのと同時に、赤城と遊幽も納得の声を上げた。

「魔法使いの根本は言語学者だ。古文書を収集して解読するには、君のように外部から活動する人間も必要だが、このように擬装行為をして収集を行う人間も必要だということだ」

「どういうこと?別に正体なんて隠さなくてもいいんじゃない?」

首を傾げる遊幽を彼は視線だけを彼女に向ける。

「迂闊に多くの人の目に触れてはならない内容があるからだ。彼らはそれを選別している」

静かに答えるハンスに遊幽は思わず息を飲んだ。一方の赤城は表情を崩すことなく、じっくりと頭の中で考えを巡らせる。

「アンダーソン、etcの文書は協会内部にもないんじゃないのか?」

「ああ、それは噂に過ぎないはずの代物だ」

「ふむ……でもそれが本当に噂なら、何でそんなに必死なんだ?」

「さあな」

すると、今度は遊幽が何てことないような様子で意見を述べた。

「ねえ、もしかして襲撃を受けた人たちって、みんな協会内でetcの古文書を探すために擬装していた人達なんじゃないの?だから研究所もその人たちを襲って、何か情報を抜き出そうとしていたのかも」

「――都合がよすぎる」

彼女の意見に対し、赤城は無意識の内に呟いていた。

「安易に否定をするな。視野が狭くなるぞ。辻褄が合いすぎる方が、逆に真実の可能性もある。むしろ、複雑なものほど虚構の可能性もあるものだ」

「ブリーゲルさん」

赤城は気を取り直して、アンダーソンへと向き直った。

「そろそろ教えてくれ。協会の本当の依頼は何だ」

「『協会内の職員が襲撃を受けている。これを処理してほしい』」

「なるほど……でも、何か。何か変な感じが」

「変な感じ?」

首を傾げる赤城に、アンダーソンは訝しげな表情を返す。

「いや、何でもない。それより、また襲撃が起こる確率は?」

「ないとは言えない。今回のように、擬装した魔法使いがまだいる可能性もあるし、彼らがまた狙われるかもしれない」

「支部内の反応は?」

「そんなに大きな動揺はないよ。事件が起こった事すら知らない連中もいるからね」

「そうか」

やっと張り詰めていた肩を落とし、赤城は椅子に背中を預けた。アンダーソンも腕組みを解き、強張っていた顔を戻す。

「そうだ、アンダーソン。今日も夜勤か?」

「ああ、今月は古文書関連の人間はみんな夜勤だ」

「でも次々と偽装した人たちが襲われてるのに、その人たちも夜勤するのかな?」

遊幽の純粋な疑問に、赤城は穏やかな笑みを向けた。

「突然夜勤しなくなったら、それこそ自分は擬装している魔法使いですって周囲にバラすようなものだよ」

「む……確かに」

そして再び彼女が何かを言う前に、赤城は告げる。

「俺は今日も潜入捜査するけど、遊幽ちゃんはここで大人しくしていてね。何が起こるかわからないし」

「やだ、私も手伝う」

「駄目」

「何でよ!!」

「遊幽ちゃんが心配なんだよ。頼むから、ここでじっとしてて」

いつものように赤城は微笑む。が、その笑顔は「大人しくしていろ」と言ってるようにも見える。そんな彼の顔を見ると、つい彼女も自分が情けなく思えてきた。

「……わかった。その代わり何かあったら、すぐに連絡して。ううん、もし遅かったら勝手に外に飛び出していくから」

「うん。ありがとう、遊幽ちゃん」

素直に感謝まで述べられ、彼女は気恥かしげにそっぽを向いた。

「……早く戻って来てね」

「もちろん。仕事が終わったらすぐに帰るよ」

彼の言葉を聞き終えると、遊幽は近くのソファーに座った。

「ホテルにはいつ戻れるの?」

「事件がおわったらかな」

「……いつ終わるの」

「いつか終わるよ」

「……せっかくお金払っているのに、勿体ないね。こんな汚い部屋で寝泊まりしなきゃいけないなんて」

彼女の言葉に、思わずアンダーソンは不満気な顔をするが、何も言わないあたり彼も重々自覚はあるのだろう。

「あー、疲れた」

早速遊幽はソファーの上で寛ぎ始めた。そんな彼女に構うことなく、赤城はアンダーソンへと向き直る。

「そういえば。彼女は一体、何て言ってお前を呼びだしたんだ?」

不意打ちだったのか、アンダーソンの顔はみるみる真っ赤に染まっていった。そして普段の彼の声量からは考えられないほど、もごもごとした声で話しだす。

「い、いや、その。ただ、俺の顔が……見たいって言うから。会話を、したくなったって」

「そうか!本当にルイスさんと上手くいってるんだな!」

初めて見る友人の初々しい表情に、赤城も自然と笑みを零していた。アンダーソンも恥かしげに頬を掻く。


――ルイス?


只一人、ハンス・ブリーゲルだけが妙な違和感を胸に抱きながら。

「それで、俺は今日何をすればいいんだ?」

「いつも通りでいいよ。退勤する時間なったら帰ってもいいし。昨日は何も状況がわからなかったからお前の助けが必要だったけど、今日はブリーゲルさんもいるし大丈夫だ」

「つまり俺は何もしなくていいのか?」

困惑した顔を浮かべるアンダーソンに、赤城は意地の悪そうな顔で彼の胸をつつく。

「今日も彼女から連絡が来るんじゃないのか?」

「な、何で知ってるんだ!?」

「ただの勘だよ。ちゃんとエスコートしてやれよ?」

「お……おう」

友人に激励の言葉を告げると、赤城はソファーで寝息を立てている遊幽へと顔を向けた。その姿がどこか滑稽で、彼は人知れず目を細める。

「結局。どこだろうと気持ち良さそうに眠るなあ、遊幽ちゃんは」



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