表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/74

Track.5 There Is A Light That Never Goes Out「7」

***


「よっ、周。こんな豪華なとこに泊りやがって羨ましいな。昨日はよく寝れたか?」

翌日、アンダーソンは陽気な笑顔で友人を迎えにいった。

「あ…ああ」

隈の出来た顔で返事をする友人に対し、

「あら、アンダーソンさん。良い朝ですね」

キラキラと輝く笑顔の彼女。とても生気があふれていた。対照的過ぎる二人を見て、アンダーソンはそっと赤城に訊ねる。

「な、何かあったのか?」

「友よ、女性は本当に怖い生き物だ……」

力なく答える彼を見て、アンダーソンはすぐにそれを察してしまった。そして何も言わずに彼は赤城の肩に手を置く。


***


朝食を終えた彼らは、アンダーソンの運転で郊外へと向かった。三十分程度で辿りついたそこには、中世の面影を残したかなり古い建物が一つ。

「素敵……アンダーソンさん、こんなところで働いているんですか?」

「ああ、良いところだろ。俺も気に入っているんだ」

先日まではここが本部だったんだ、と小さくアンダーソンは続ける。その横顔はどこか郷愁にかられていた。

「入るぞ。まずは事務室に案内する」

三階ほどの高さのある長い階段を登り、彼らは建物の隅にある小さな入口から中へと入った。


***


「表向きは古文書研究と建設業ね……」

事務室に入り、まず目に入ったのが机の上に散らばった資料だ。赤城は数枚を手に取ると、呆れたような顔でため息を漏らした。

「建設業の方はあながち間違ってはないぞ。本部を建てたのも俺たち自身だからな。古文書も、まあ間違ってなくはないが……」

アンダーソンがなんとか弁護しようとするが、どうも歯切れが悪い。

「それで、俺たちの仕事内容は何なんだ?」

赤城の質問にアンダーソンは無言で、引き出しから封筒を取り出した。

「これは?」

「いいから開けてみろ」

彼は隣にいる遊幽と一度顔を見合わせ、ゆっくりと紐を解いていった。中に入っていた書類を丁寧に読み進めていく。特に目新しいことは書いておらず、現在の状況や今後の見通し、この程度の内容だった。しかし、あるページで赤城の顔つきが変わる。

「そうか、だからフランスまで送ったのか」

一人、納得気な表情に至る赤城。その言葉を聞いた遊幽も、彼の手元から書類を奪うと声に出して読み始めた。

「欧州地域で謎の神隠し事件発生。奇跡的にも発見された人間は、自身の身体の一部を認識できず、何度も『無い、無い』と言いながら苦痛を訴え、ひどいケースではショック死に至る……これって」

「ああ、普通では有り得ないね」

不安気な表情を浮かべる彼女に対し、赤城も頷く。そしてアンダーソンへと顔を戻した。

「おそらく空間の魔法を利用した奴らの実験である可能性が高い。仮に違ったとしても、こういう事件はこちらで預かる内容だ」

「……どうして研究所の犯行だと思われてるんだ?協会内部の極端な思想を持ってる奴らの実験かもしれないだろ?それに空間の魔法じゃなくても、文章を利用した強力な催眠の可能性もある」

「まあ、な」

赤城の疑問に肯定も否定もできないのだろう、アンダーソンは腕を組んだまま正面を向いていた。彼も現状では何も言えないのだと判断した赤城は、

「要するに、事件の一部始終を見守る人間が必要なのか」

「そうだ、お前の能力なら数日は潜伏することが可能だろう」

赤城の空間創造能力。確かにこれは潜伏任務に向いている。以前は外界の認知は不可能だったが、今では音も視界も捉える事が可能になっている。しかし、それに伴い消費する体力も増えていた。

「はあ……また厄介な仕事だな」

「わかりやすくていいじゃない。要は犯人を捕まえればいいんでしょ?」

後に控える疲労を思い落胆する赤城に対し、遊幽はすっきりとした顔で言葉をまとめる。

「つまりは、そういうことだな。周、次のページ見てくれ」

「ん?ああ」

アンダーソンに促され、赤城は再びページをめくった。

「これ……」

「今まで行方不明になった人間は全て協会の関係者だ。お偉いさんから、末端のやつまで。そして被害者たちの特徴は、」

「――古文書を扱う人間、か」

一呼吸置いた彼の代わりを赤城が続ける。

「なるほど、だから研究所の犯行だと疑っているわけか」

「ああ」

「……ちなみに協会内の権力争いとかの線は?」

アンダーソンは静かに首を振る。

「その問題は既に終わった。そこまで対立もしていなかったし、そもそも本部が移った今、欧州で事件を起こす理由がわからない」

それもそうか、と納得する赤城。一方のアンダーソンは、説明を終えるとじっと窓の外を眺めていた。そして、淡々とした口調でぽつりと漏らす。

「古文書の研究者だけじゃなく収集する人間にも目を向けられたら、その内俺も狙われるとこなんだろうな」

そんな友人の様子に目を向けることなく、赤城は思案にふける。


――何で古文書を扱う人間なんだ……?


ふと、彼は先日の会話を思い出す。そして確かな結論に至った。

「etcか」

赤城の呟きを、アンダーソンも静かに肯定する。

「ああ、奴らはetcの古文書を狙っている。奴らはそれが存在していると信じているんだ」


***


赤城周の能力【空間創造】、これを使えば潜伏など容易いものだ。空間を生成し、その中でじっと外を見てさえいればいい。もちろん外部からは見えないようにできているので、存在が露呈することもない。そして、空間の内部も自身で大きさから湿度に至るまで設定できる。

使い勝手の良さそうな能力だと思うかもしれないが、彼自身はこの能力は役立たずだと思っている。野宿をする際のテント代わりになる位にしか思い浮かばない。それでも空間内部は天候の影響を受けてしまい、完全にテント代わりとも言えないだろう。

とにかく、赤城周はフランスに来てようやく仕事を開始した。事件が起きるのは週に一度。先週の事件から今日がちょうど一週間目。事が起きるのは今日しかないのだ。

彼の仕事は午後九時から夜中の三時までの間、見晴らしの良い建物の屋根の上に陣取り、眼下の入口を見張る。そこはアンダーソンを初め、多くの協会の役員が出入りするところだ。今回の事件のターゲットは古文書を扱う一般人が殆どである。魔法を知っている者もいれば、魔法など関係なしに美的価値、文学的価値を求める本当に普通の一般人もいる。

彼らを守るため――というのが今回、赤城を動かす主な理由だろう。

「はあ……」

アンダーソン曰く、昼間は人通りが多く、能力を使用しての犯罪をするような連中は決まって夜に事件を起こすのが定石だという。彼の理論にはいまいち納得できず、赤城は思わずため息を零してしまった。

「どうしたの?ため息なんてついたら幸運が逃げちゃうよ」

彼の背後で、この状況に不釣り合いな明るい声がした。

「いや、何でもない」

遊幽の姿をちらりと横目で捉えると、再び彼は顔を戻した。

「遊幽ちゃん、外すごい寒いけど大丈夫?」

「大丈夫よ、私はそんな柔な身体してないもの」

「そっか……いや、でも色々と不便になるよ」

「そりゃあ、不便だけど私は大丈夫。何で一緒に来ているのに別行動しなきゃいけないの、私も手伝うわよ」

本来なら、この任務は赤城一人で行うはずだった。いや、行いたかったのだ。しかし、それは彼の願いに留まってしまった。どんなに断ろうともこの有様である。

「……トイレも自由にいけないけど」

「む……なんとかなるでしょ」

「ならないかもしれないよ」

ついに彼女もきまりが悪くなったのか、必死に追い返そうとする赤城に向かって怒鳴った。

「私がそばにいたら嫌なの!?邪魔ってこと!?」

「そんなことはないよ」


――だめだ、俺の負けだ。


赤城は心の中でそっと呟いた。そして遊幽に振り返って再度確認をする。

「本当に不便な生活になるよ」

「平気よ!!子供じゃないんだから我慢できるわ」


――中身はまだまだ子供じゃないか。


誇らしげに胸を張る遊幽に呆れた顔を返すと、赤城は任務へと戻った。

しかし、彼は遊幽の介入を拒んでいたが、実際彼女の能力は今回の任務で非常に効果的なものであった。天城遊幽。金色の魔女を姉に持つ彼女は、自身に戦闘向きの魔法の素質はないと早々に理解していた。そこで彼女が選んだのは――、「探索」という道だ。

魔法というものは、文章を書き、自身がその意味を理解し具現化すること。故に必要な要素は、その文章に関する「完全な理解」だ。カメラや盗聴器など、その構造・仕組みまでも理解した上で魔法を用いらなければ具現化することはできないのである。そしてこの魔法を応用すると、彼女は相手の位置を探知できることができる。追跡も可能だが、赤城と遊幽の場合は敵と交戦する戦闘スタイルは合わない。一度敵を捉えたが最後、追うか追われるかのレースで相手を疲弊させることが目的だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ