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Track.5 There Is A Light That Never Goes Out「1」

To die by your side...


Well, the pleasure - the privilege is mine...


大勢の人間が行き交う場所。ここは空港だ。しかし、彼らの多くは肌が白く、髪も金や茶。明らかに欧米人の割合が多い。

そう、ここは日本ではない。フランス――パリ=シャルル・ド・ゴール国際空港だ。


「……よりによって、何でフランスなんだ」

馴染みの茶色の鞄を片手に、青年、赤城周は入国ゲートを出ると深いため息をついた。しかし、彼も内心は非常に心浮き足立っている。外国人の友人は多少なりともいる赤城だが、彼にとってこれは初めての海外旅行だった。いや、旅行とは少し違う。そもそも赤城はこのように海外に行く予定もなかった。彼にとって、この冬は就職活動のために色々と準備をする予定だったのだが。

「ちょっと、ここ行って来て」

まるで近所へお遣いを頼むかのような調子で魔女は彼に言った。赤城自身、初めは気乗りしなかったが、旅費もビザも手配してもらえると言うなら話は別である。きっと良い経験になる。そう肯定的に捉えて彼は日本から出てきた。


――空気が違う。


赤城がフランスに到着後、一番はじめに抱いた感想がこれだ。空気。というよりは匂いのようなものだろうか。明らかに、日本とは違う異国の雰囲気が空港からは漂っていた。

赤城は鼻歌を歌いながら出口へと向かう。少しずつ身体の中から空気が入れ替わっていく、そんな気分を彼は感じていた。

「お!これは、これは!!」

突然、赤城の姿を見た男は『英語』で彼に声をかけてきた。


――英語?


フランスで英語。どこか妙な感じを胸に抱きながら、赤城は声のする方へ振り返った。


「――アンダーソン!!久しぶりだな!!」

男は赤城の友人だった。アンダーソン・カイル。彼も魔法使いである。ing事件当時、研究所の襲来を防ぎ、日本で赤城たちと共に戦った数少ない外国人戦闘員の一人であり、事件後は欧州に戻った男である。細身で身長もあまり高くない赤城に対し、アンダーソンはかなりがっしりとした体型。初めての海外に緊張をしていた彼も落ち着きを取り戻したようだった。

「三年ぶりじゃないか?まさか君が迎えに来てくれるとは思わなかったよ!!」

「お前が来るのに俺が迎えに行かないわけがないだろう。それにしても……何でフランスなんだ?俺はてっきり英国に派遣されると思っていたが?」

「ああ……実は……」

陽気に笑いながら問いかけるアンダーソンに対し、赤城は淡々とした表情で返答しようとするが、そんな彼の言葉を遮るように、

「全部知っている。だから俺が迎えに来たんだ」

アンダーソンは豪快に笑いながら、赤城の背中を叩いた。景気づけのようなものだったのだろう。彼の気遣いに、赤城は人知れず小さくをため息をついたのだった。

「とにかく。今から軽く一杯でもどうだ?久しぶりの再会だ、色々と話したい事がたくさんあるんだ!!」

アンダーソンが赤城の肩に手を置き、そのまま出口へと向かおうとした瞬間――、

「ちょっと!!私もいるんだけど!!」

遠ざかっていく二人の背に女の声が響いた。彼らが振り返った先には、一人の女がこちらをじとりと睨んでいる。訳がわからず困惑した表情で赤城を見返すアンダーソン。一方の赤城は、深いため息をついて女の方へと向き直った。

「紹介するよ、アンダーソン。こちらは俺の……」

「妻です。天城遊幽と申します。以後お見知りおきを」

「は……はあ」

赤城の言葉を遮り、とても上品な笑みを浮かべる女、天城遊幽。先ほどの冷ややかな視線を寄こした人間とは正反対にも思える態度だ。流されるように、彼女と挨拶を交わしたアンダーソンは、こっそりと隣の友人へと耳打ちをする。

「つまり……恋人か?」

「ああ……一応は」

「ちょっと、何が一応なの!?はっきり言いなさいよ!!」

男二人は小さな声で会話をしていたが、どうやら彼女の耳にははっきりと届いていたようだ。顔を真っ赤にして赤城に詰め寄る遊幽の姿を見て、アンダーソンは彼に同情にも似た憐れみの視線を向けた。


そして、一通り文句を言い終わったのか、女は一息つくと再びアンダーソンへと向き直った。

「ところで周ちゃん、何で私だけ紹介されているのよ。彼は誰?」

「ああ、こちらはアンダーソンカイル。あの事件の時、一緒に戦った仲間であり大事な友人だ」


――【あの事件】。


遊幽はその単語を聞くや否や、大きく目を見開くと静かに口を開いた。

「……何で」

「ん?」

俯く遊幽を赤城は不思議そうに眺めていた。すると突然、彼女は顔を上げ、まるで銃弾のごとき勢いで彼を問いただし始めた。

「何で話してくれなかったの!?私たち三年前から付き合っていたじゃない!!ううん、それよりもっと前から仲良かったはずでしょ?それなのに……こういう友人がいるなんて知りもしなかった。私たち付き合っているのに……将来も約束したのに……三年前の事件のこと、もっとちゃんと詳しく話してよ」

赤城の胸に顔を埋め、大声で喚き立てる女を見て、アンダーソンは再び憐れみの目を向けた。一方の赤城は、彼女の頭を優しく撫でて笑っている。とても彼らしい対応だ。この赤城周という青年はめったな事でもない限り笑顔を絶やさない好青年である。それ故、このような面倒臭い対応にもきちんと答えてくれるのだ。

「ええと……ほら、あの時俺たち二人とも色々と忙しかったじゃない。遊幽は先生に魔法習ってたし、俺は俺で仕事してたし。遊幽が聞いたら俺はいつでも答えるつもりだったよ」

「確かにあの時は忙しかった。それじゃあ仕方なかったかも」

「……それにわざわざ他人に話す様なことでもなかったし」

そう言った後で、赤城は「しまった!」と片手で口をつぐんだ。だが時既に遅し。今のは完全に失言であり、予想通り遊幽の顔は再び怒りを露わにしていく。

「……他人。そう、私は周ちゃんの他人だったのね」

「いや、その……他人っていっても色々と意味があって……」

「じゃあ、どういう意味の他人?」

「えっと……それは」

再び目の前で始まる痴話喧嘩を前に、アンダーソンはそれが終わるのを待つしかなかったのだ。



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