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Track.4 Carnation 「3」

挿絵(By みてみん)

***

ああ、おいしい。やっぱりうちの学食のカレーは絶品だ。

早く食べたくなるのもわかる。


騒動の後、俺は矢野たちと一緒に飯を囲んでいるが何故か葵が俺の目の前に座っている。

この変わり者の友人、学校で見かけたのは久しぶりだ。

カレーを一口、食べながら俺は葵へと雑談を投げかける。

「君、まだ友達いないの?」

「さあ。別にこれといって付き合う必要もないだろ。というか、俺も何で友達ができないのか不思議だね」

ど直球に聞くも、葵は至って表情を変えることなく返事をする。

「その性格だからじゃないか?」

「俺が変わり者だって話か」

「違うのか?」

「違うと思うけど」


お互い食べ続けながら、上手い具合に会話を交わしている

「じゃあ、自分が変わり者だと思って人と付き合ってみろ」

「難しいな」

「ばーか。ただ会って適当に会話しとけばいいんだよ。知り合いが増えるだろ」

「でも、それは知り合いじゃないのか。友達ではないだろ」

「そうか?そんな変わらないだろ」

「うーん、考え方の違いってやつかな」


隣で殺伐とした会話をしていたせいか、矢野たちは妙な顔で俺たちを見ていた。

そもそも葵自体、学校であまりいいイメージを持たれていない。むしろ避けられている方だと思う。彼らが驚くのも無理はないだろう。


昼食を食べ終わると、俺は矢野たちに先に教室に戻っていいと告げた。

せっかく葵がいるならもう少し話そうと思い、食堂から校舎に続く渡り廊下に向かう。

ちょうど座りやすい段差があるのだ。



春とは言ったが、まだあまり暖かくなっていない。寒い日はまだコートも必要な位の時期だ。ふと校舎の隅に花が目に入るが、頭の中は家に帰って何をするかしか考えていない。

穏やかな昼下がり。友人と共に校庭を眺める。

葵は昼ごはんが足りなかったのか、唐揚げを片手に同じく校庭を眺めていた。

サッカーをする生徒、野球をする生徒。たまに聞こえる掛け声が心地いい。

平和だ。

平和すぎる。

昼休みはあんな出来事に巻き込まれたというのに、数時間後にはこんなにも穏やかな世界になるのか。


「さっきの女の子さ」

いきなり葵が口を開いた。

「ん?」

「あの子がとんびって子?」

驚いた。

俺よりも学校のことに関心がないやつが何でそんなこと知ってるんだ

「な…何で分かったんだ?俺だって分からなかったのに」

葵は何でもないという様子で答える。

「いや、別に。その子の話よく聞くからさ。人気なんだなって」

こいつの耳に入るってことは、よっぽどなんだな。

「まあ、俺はあんまり好きじゃないけどな。どうして人気なのか分からない」

葵はちょっと渋い顔している。

「うーん、誰とでも分け隔てなく気さくだからじゃないか?特に性格が悪いわけでもないし」

「そんな感じはするね」

葵が適当に返事をする。それもそうか、俺たちには別に関係ないしな。



瞬間、予鈴が鳴った。もうすぐ授業が始まる。

俺たちは慌てて階段を上り、きれいに別々の教室の方へと分かれる。


教室に入ると、真っ先にとんびを見つけた。

いつもと変わらない顔をしている。俺がそこまで気にする必要もないみたいだ。

席に着いた途端に先生が入って来た。

どうやら間に合ったようだ。

さあ午後の授業の始まりだ。



***


授業中に気付いたことがある。

とんびのやつ、いつもはまるで生徒の鑑のように真剣な態度で授業を聞いているのに、今日はどこか変だ。

ちなみにいつも見ているのは、深い意味はない。

彼女の席が俺の目の前のため、毎回視界に入ってくるのだ。

本当にそれだけである。信じてほしい。


とにかく今日のとんびは変だ。

落ち着かないというか、頑張って集中しようとしている感じがする。

たまには優等生も普通の生徒に戻るということだろうか。

こう、授業なんか聞いていても仕方がないというように。

ちらりと斜め後ろを見てみる。

矢野がよだれを垂らして寝ていた。



やっと授業が終わった。

家に帰って一段落したら、塾に行かなくてはならない。

特に行きたい学校があるわけでもないが、親に怒られるのは嫌だから仕方なく通っている塾。

もうすぐまとめのテストがあるが、やる気も起きない。

…とりあえず、家に帰ったら矢野に教えてもらったゲームでもしよう。


「え」

教室の扉に向かおうとしていた俺の前に突然とんびが現れた。

「…なに?」

「……」

彼女はそわそわして落ち着かないようだ。

そして、こちらの様子を窺うように視線を向けている。

「…ちょっと、手伝ってもらいたいことがあるんだけど」

また面倒事のようだな。

「嫌だ。大体、何で俺なんだ。他の奴に頼めよ、友達いっぱいいるだろ」

冷たくあしらうと、とんびは一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐにいつもの自信たっぷりの表情に戻っていた。

「頼める友達がいないから君にお願いしてるんだよ。私は君が思っているほど友達いないよ?」

意外だった。

「ん?でも俺たちも友達じゃないだろ」

「君はただ会って話せば友達なんでしょ」

こいつ…昼間の会話、聞いてやがったのか。

「悪いが、外で人を待たせてるから帰るよ」

すると、彼女は目を輝かせて前のめりになってきた

「待たせている人って葵…くん?私よりも有名な人。いいわ、あの人も呼んできて」

「それより用件は…」

「集まってから言うから!」


笑顔で手を振るとんび。

このまま帰ってしまってもいいのだが、それが出来ないのが俺、鈴木爽太だ。

重い足を引きずって葵の教室へと向かう。



「は?帰るんじゃないのかよ。どこに行くんだ?」

「いいからいいから。一緒に行こう」

「おい、放せよ」

「大丈夫、大丈夫。怖くないから」

「せめてどこに行くのかだけでも教えろよ」

「すぐ着くって」

「そうじゃなくて、行き先だよ」

「あははははは」

「おい!!鈴木!!」

訳もわからず当惑する葵の腕を掴み連行していく。

悪いが、一人で損するのだけは勘弁だ。

どうせなら二人で損しよう。




***


「連れてきたぞ」

一悶着の末、やっと葵をとんびと会わせることに成功した。

クラスメイトは全員帰ったようで、彼女だけが教室で一人待っていた。


「面倒臭そうなことに巻き込まれそうだな…」

「大丈夫よ、心配しないで」

不機嫌そうな葵に対し、とんびは笑顔で答える。

そして机の上に何かを置いた。


MP3プレーヤー。

…今の時代によくもこんなものあるな

とんびは一呼吸置くと、自信満々な顔で告げた

「私のMP3プレーヤーを探してきて!!」


俺と葵はぴったり同じタイミングで顔を見合わせた。


「鈴木、今日は俺が奢るから何か食べて帰ろうぜ」

「お、ありがとな。じゃあ俺ん家でゲームでもしようぜ」

「こないだのやつな」

「よし、今度は負けねえからな」


「待って!!二人とも待って!!」

必死な形相でとんびが制服の裾を掴んできた




***


今から数分前。

とんびの制止を振りきり、なおも帰ろうとする葵をやっとのことで引き止めることができた彼女は、事の一部始終を説明した


「つまり、学校でMP3プレーヤーみたいに高価な電化製品を盗むやつが増えたってことか?」

「そうそう」

とんびは笑顔で肯定する。

「それで、教師の信頼が厚い君が、おとりになって犯人を捕まえると」

「そう、まさにそれだよ!」

葵の指摘にとんびは身を乗り出して答える。

「お願い、ちょっとでいいから手伝ってくれない?」

「というか…自分の物くらい管理しとこうよ…」

俺が言葉を濁すのに対し、葵は堂々と述べた。

「大体、最初から自分の物をちゃんと管理してない方もどうかと思うけど。そこらへんに置いといたから、犯人も盗んでいいと思ったんじゃないのか。自業自得だろ」

「でも」

葵に釣られ、俺も正直にとんびに告げる。

「あのさ、何で俺たちなんだ?普通に友達に協力してもらいなよ。いっぱいいるだろ」

すると、とんびは一瞬びくっとした後、小さなため息をついた。


「私はただ外向的というか、人と話すことは好きだけど…真面目な話とかできる友達いないよ」

意外だった。クラスメイトは全員友達みたいに思ってたから。

…ちょっと気まずいな。このまま断るのは無理そうな雰囲気にしてしまった。


「それで…俺たちは何すればいいんだよ」

ぱあっと嬉しそうな顔になったとんび。

もう少し眺めていたかったが、勢いよく顔を右に引っ張られた。

「おい、正気かよ。面倒だろ」

葵がものすごく嫌そうな顔をしていた。


「い、いいんじゃないか。犯人捕まったら先生たちからの評価も上がりそうだし、持ち主のいない物出てきたら俺たちが貰えるだろ」

「ほうほう、確かにそれは良さそうだな」


葵も誘惑にかられてきた。

「ちょっと、出てきたものは必ず持ち主に返すつもりよ」

後ろでとんびが何か言ってる気がするが、まあ気のせいだろ。


「それで、このMP3プレーヤーをどうするんだ?」

やる気になった葵が興味深げにそれを持ち上げる。

「簡単よ、明日の体育の時間とか昼休みに置いといて、犯人が持ち去るのを見守るの」

「ふーん、単純だな」

作戦内容にはあまり関心がないのか適当な返事をする葵。

この件で、普段から教師がこいつに抱いてる悪いイメージが少しでも良くなるといいな。

「それじゃあ明日、手伝えばいいってことだな」

「うん」


「この件と全然関係ないんだけどさ」

このまま今日は解散する流れだったが、ふと葵が口を開いた。

「君が友達出来ないのって、向こうも君が距離を取っているのを感じているからじゃない。誰にでもいい顔し過ぎだと思うよ。もっと自分が思ってること相手に言ってみたら」

葵の言葉にとんびは頬を掻きながら乾いた笑顔を零した。

「…私も自覚はしてるんだけど…難しくて」

そんなとんびを葵はじっと眺めていた。

そして、MP3プレーヤーを机に置いて教室の扉へと向かう。

俺が声をかけようと思った瞬間、葵は振りむいた。

「明日やるってことは、今日はもう帰っていいんだよね?」

「え、ああ…うん。お願いします」

驚いた顔で返事をするとんび。

俺もつい立ち尽くしてしまっていた。


「…君たち帰らないの?」

葵は俺ととんびを見ていた。





つづく

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