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Track.4 Carnation 「2」

挿絵(By みてみん)

***

数日後


俺はクラスメイトの矢野たちと、軽く歌を口ずさみながら食堂へ急ぐ。

今日は水曜日だ、この学校の食堂は一週間で何故か水曜日だけメニューが豪華になる。

早く辿りつかないと売り切れも出てしまうほどだ。何より次の授業に間に合わなくなる。


「やっぱ水曜は混んでるなー」

矢野の一言に前を見ると、食券売り場の前は多くの生徒でごった返してた。

「俺たちも走ってきたのにな」

「考えてみりゃ、体育の授業終えた連中の方が早いに決まってるか。空腹であればある程早くなるっていうね、生存本能みたいなやつだな!」

俺たちもだいぶ腹が空いているが仕方がない。矢野たちとくだらない話でもしていたら、あっという間に順番が来るだろう。

厨房から漂う香ばしいに匂いに浸っていると、後ろの方が騒がしくなってきた。


「はーい、どいた。どいた」

振りむくと、派手な髪色にだらしない格好、不良と思しき2人組が列を割って来た。

周囲の人間も関わり合いたくないのか、大人しく道を開けていく。


それが普通だ。わざわざ面倒事に進んで首を突っ込む奴なんて…

「ちょっと!!順番くらい守りなさいよ」

いるのかよ。

声からして大体予想はつくが、ちらりと視線を向ける。

やっぱり…。

俺の数メートル先に見慣れた顔があった。

とんびだ。


この状況でよくもまあ突っかかれるものだ。

俺も周囲の生徒も事の成り行きを見守っている。

「何でちゃんと列に並ばないのよ」

男子なら暴力で解決できるが、相手が女子のため彼らも少し躊躇っているようだ。

更にとんびは学校内でも人気者の類。このままとんびの指摘に従うのも癪に障るのだろう。

「ちょっと、聞いてるの!?」

「はあ…うるせぇな…殴るぞ」

不良の内の一人が心底面倒臭そうに呟いた。

その一言にとんびも頭にきたようだ。

「…殴れるものなら殴ってみなさいよ!!」


やばい…。

俺だけでなく周りの生徒もよくない空気を察しているようだ。

あいつが大人しくしとけば、こんな厄介事起きなかったのに…。

緊張した雰囲気が続いている

せっかくのお昼休みが台無しだ。時間がどんどん過ぎていく。このままだとお昼ご飯を食いっぱぐれてしまう。

「…ちっ」

近くで舌打ちが聞こえた。

みんな空腹のせいでイライラが募っているようだ。事実、この揉め事のせいで列が全く動かなくなってしまった。中には、とんびを睨んでいる生徒までいる。


…あいつは何一つも悪くないはずだ。

あいつは皆のために割り込みを指摘しただけだ。確かに大人しくしていたら、今頃俺たちも飯にありつけただろう。でも本当に悪いのは割り込んできた奴らじゃないのか?

全く…

「いい加減にしろよ」

あ。

つい本音をすべらせてしまった。

全員の視線が一気に俺へと向く。

「あ、えっと…ほら、みんなお腹空かせているからさ、とりあえずご飯食べてからまた話し合いません?」

できるだけ腰を低くして提案をしてみる。

「そうね、ちゃんと並んで!!ご飯食べてから私の所に来なさい」

お前は何も言わなくていい!!

勝気なセリフを言い残す彼女に思わず、愛想笑いが引きつってきた。

案の定、不良さん方はついに怒髪天をついたようだ。

「ふざけんじゃねぇぞ!!おい、お前いきなり出てきて何なんだよ」

「いや、ただ…みんな早くご飯食べたいだろうと思って…」

「あ?そういうこと聞いてんじゃねえんだよ!!死にてえのか?」

「ちょっと!!何であんたたちが怒ってるのよ!!」

とんび…今は大人しくしてろよ!


「えっと、とりあえずご飯食べて一旦、冷静になりましょう。俺の位置、割と前なんで順番変わりますよ?」

だいぶ下手に出て提案をすると、やっと向こうも落ち着いてきたようだ。

俺が、このまま事態の解決に向かうはずだと確信した瞬間。

「待って」

「は?」

とんびがすごい表情で俺を見ていた

「自分の意見も言わないで…周りの状況を整理するだけなんて何の解決にもなっていないわ。彼らは間違っているのに何で指摘しないの?悪いのは向こうなのよ?それなのに何で悪いって認めさせないの?こんなの事態をもみ消しただけじゃない。君、最低だよ!!」

とんびの言葉、一つ一つが俺の胸に刺さっていく。

俺だって向こうが悪いのは解っている。でも妥協することも大切だ。彼らにだってプライドがある。だから仕方ないじゃないか。俺が間違っているのか?

ふと隣の矢野と視線が合ったが、彼は素知らぬ顔で視線をずらした。

こいつら…友達じゃないのか。


ざわざわ


生徒たちもこれ以上耐えられなかったのか、色々な悪口が飛び交い始めた。

とんびを怪訝そうに見つめる生徒も増えている。

不良たちも相変わらずこちらを睨んでいる。

せっかく収まりかけたというのに…どうすればいいんだ。


その時だった


「はい!!そこまで!!」

食堂内に場違いなテンションの声が響いた。

「みんなご飯食べよ、授業始まっちゃうよ」


葵だ。

どこから飛び出してきたんだ。


葵の一言で全体が動き出した。

本人は大したことない表情をしているが、不良たちは彼の顔を見た瞬間何も言わずに列に並び始めた。

どうやら葵のおかげで事件は仲裁されたようだ。

「君も。ご飯食べよ?何が言いたいのかはよくわかるけど、まずは空腹を満たしてからね」

ただ一人当惑した表情のとんびも説得して、席に着かせる。


やっと終わった。

「お前…いたなら、早く仲裁してくれよ」

「今来たところだよ。なんか喧嘩してると思ったら、鈴木の顔が見えたからさ。また厄介事に巻き込まれたみたいだから助けに来てあげたわけ」

そんな嘘っぽい笑顔で心配されてもな…

「仲裁を口実に割り込みに来ただけじゃないのか…?」

後から来たはずの葵は何故か俺と同じ、前の方にいる。

「そうかな?」

「そうだろ」

「じゃあ、それでいいよ」


はあ…なんだかこの昼休みで一気に疲れてしまった。






つづく

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