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Track.3 A Bad Dream 「8」

挿絵(By みてみん)


***


三階。二階の例もあるため、俺は初めに落ちていた石を部屋の中に投げ入れた。小さく音が響き渡るが爆発は起きないようだ。次にリニアが慎重に声を出す。

それでも爆発は起きなかった。

「ここは大丈夫そうね」

「そうだな」

三階の様子はこれまでと違っていた。いかにもビルらしい配置。小さな廊下と扉がある。

「本当にビルみたいだな」

「この建物は元々多用途に使われていた。けど、こんな設計になっているなんて…」

ノエルは少々驚いた顔をしていたが、すぐに疲れた表情を見せた。


先ほどから何も言わず、黙って後をついてきた彼女。事実、一番混乱しているのは彼女だろう。一応研究所側の人間でありながら、俺たちに協力をしている身だ。葵の言うとおり、この戦いが終わってから何が待っているのか分からない。


―だめだ、今は戦いに集中しないと。


俺は服の中を確認した。残っている紙は約三百枚。A4の紙を適当に切って書いてあるものだ。

「そうちゃん」

「うわっ!!」

進もうとした瞬間、前を歩いていたリニアが遮るように手を出した。

「な、何だよ」

リニアは何も答えず、ただ前を見据えている。

奥に人影が一つ見えた。

「今度は私の番ね」

そう言うと、リニアは人影に向かって一直線に飛び出した。

「馬鹿っ、無鉄砲すぎるだろ!!」

リニアは懐から紙を取り出し、相手に向かって勢いよく投げつけた。おそらく火と稲妻の紙だ。大きな爆発が起き、一瞬、三階が眩しいくらいに明るくなった。

女だ。人影の正体は女のようだった。


火花が散った後、俺は腰につけているナイフに手をかけた。相手は中々の実力らしく、リニアと拮抗している。

「今サポートしてやるからな…!!」

俺はリニアの足元に向かってナイフを投げる。ナイフから青色の光が漏れだし、彼女の足元に円が誕生した。どうやら敵は魔術師ではないらしい。相手は魔法を一切使用せず、あくまで肉弾戦のみで戦っていた。つまり敵は研究員ではなく改造人間か。

「そ……んな」

ふと隣を見ると、ノエルが目を見開いて固まっていた。

「どうかしたか?」

その時だった。

リニアが間合いを取ろうと後退した瞬間、女は閃光弾を宙に放った。

「くそ!! 目が!!」

急いでノエルを引き寄せ、目を覆うが間に合わなかった。

「うっ」

リニアのうめき声が聞こえた―ということは、次の攻撃はこっちか!!


俺はコートから麻酔銃を取り出し、ぼやけた視界の中、女に照準を合わせる。案の定、俺の攻撃は外れた。代わりに女は拳銃をこちらへと向けてきた。

正直、ノエルを抱えたまま避けられるかどうか自信はなかった。だが、頭の中で判断する前に本能が危険を察知したのか、俺が思っていた以上の早さで左に避けることができた。

「大丈夫か!?」

ノエルに問いかけるも、彼女は依然として唇を震わせて女を見ていた。


―こうなったら俺が守るしかなさそうだな。


「おい! そこのナイフ、こっちにくれ」

そう言うと、リニアは素早くナイフに向かって走り、俺の近くに投げた。その隙を狙ってか、敵は彼女に向かって大きく腕を振り上げた。

「よっと」

リニアは余裕の笑みと共にそれを片手で受け流す。そして彼女はその勢いのまま相手に向かって回し蹴りを噛ました。すぐに後ろに身を引いたおかげで女は頬をかすっただけのようだ。

しかしここからリニアの攻撃が優勢になっていく。1、2、3とテンポよく小刻みに身体を揺らし、彼女は敵に向かって拳を繰り出していた。相手も彼女の攻撃を躱しているが、徐々に動きが鈍くなっているようだ。


―今しかない!!


俺は先ほどのナイフの上に違う文章を重ねた。既に一度使われたナイフでも、違う文章を書けばまた使えるようになるのだ。

「三十秒だけしか持たない!! あとはなんとかしてくれ!!」

俺はリニアの足元に向けて、再びナイフを投げた。

青い光が地面に漂う。

彼女の動きが早くなった。相手もそれについていこうと必死のようだ。風を切るように繰り出されるリニアの蹴りを正確に躱していくが、やはり体力が落ちてきたのか、動きが鈍くなっているように思ったその時。敵が懐から何か光るものを取り出すのが見えた。

女が取り出したのは俺と同じような短剣だった。

相手も魔法使いかと警戒した瞬間、女はそれを武器として使用してきた。

そう、短剣でリニアの身体めがけて襲いかかったのだ。

「うそでしょ!?」

おそらくリニアも魔法を使用すると思っていたのだろう、反応が遅れてしまった。

「リニア!!」

彼女は俺に答えることはなかった。

腹部から溢れ出る血を左手で押さえ、冷や汗を浮かべながら彼女は敵を見据えて笑っていた。

すぐに俺はボウガンを取り出し、サポートをしようと構えたが、

「だめ!!」

ノエルが切迫した表情で目の前に立ちふさがった。

「どいてくれ!! 早くしないとリニアが!!」

「さっきの拳銃……私のものだった」

「え?」

「あの敵はきっと……」

ノエルは女に向かって大きな声で叫んだ。

「真田ちゃん!!もうやめて!!」

小さな身体を震わせて、ノエルは声を絞り出す。

「真田ちゃんは……もう研究所と関わりがないはずなのに。私が、戦闘要員が減ったから?」

「どういうことだ!!」

「きっと戦闘用に再調整されたんだと思う……思考と感情、全てが制御されたんだ」

今にも泣き出しそうな顔でノエルは真田という女を見ていた。

「だから以前より強くなっているのね」

過去に彼女との戦闘経験があるのか、リニアは冗談を言うように笑った。しかし、顔には焦りの色が見える。戦闘経験を積んでいるからこそ、相手の力量が多少なりともわかるのだろう。

「先に行って」

「え?」

「葵ちゃんが言ってたでしょ。お姫様を助け出すのはそうちゃんの仕事ってね」

リニアは腹部を抱えたまま、俺に笑いかけた。

「そんな状態のお前を残していけるわけないだろ」

俺は両手で紙を握りサポート体制をとった。

「早く行って!!」

リニアの怒号が響き渡る。

「私なら平気。私はあの子みたいに勝手に死なないから。それより、このままだと…また大切な人を失うことになる」

「……ロミ」

つい口にしてしまった。

すると彼女は恥ずかしそうな笑顔で俺に振り向く。

「懐かしい名前。覚えていてくれたんだ、ありがと」

そして彼女は厳しい顔に戻ると、再び戦闘態勢を取った。

「ひとまずその、真田って人を気絶させる。先生の所に持って行ったら何とかしてくれると思うし。この銀髪の魔法使い、リニア・イベリンがすぐに倒して後を追っかけるからね!!待ってて!!」

堂々と大口を叩く彼女はもう俺に振り返らない。


信じている証拠か……全くどいつもこいつも、ずるい奴だ。


「今のお前の状態じゃ、チャンスは一度だけ。ここを突破するには俺がワイヤーで相手の動きを止めるから、手伝ってくれ」

「了解!!」


一呼吸置くと、俺は前に飛び出た。同じタイミングで相手も襲いかかってくる。しかし、リニアが相手の進行方向に立ちふさがり動きを止めた。

瞬間、俺は真田の手首にめがけてワイヤーを飛ばした。そしてきつく締めあげる。拳銃が彼女の掌から落ちた。俺はすかさずそれを拾い上げると、ノエルに向かって投げる。

上手いこと受けとめたノエルは、拳銃を見つめたまま動かなかった。

「ノエル!! 早くこっちに来い!!」

俺の声を無視したまま、彼女は顔を上げない。何かを考えているようだが、今は時間がない。リニアの牽制もそろそろ限界が近そうだった。

「ノエル!!」

顔を伏せていたノエルは意を決したように顔をあげた。

「真田ちゃんは強いよ」

「あら、私だって強いけど」

彼女の軽口にリニアは当然のように受け答える。良く見るとノエルの顔は自信に満ちているかのようだった。

「一人じゃ大変そうだから助けてあげる」

「さっきまで泣きべそ掻いていたお子ちゃまが?」

「友達の面倒を見るのは当たり前」

「……それもそうね」

一瞬で結託をしたらしい。

「じゃあ、そういうことだから」

「お世話になりました」


状況がよく掴めないまま二人から別れの言葉を告げられてしまった。正直、安堵したような気もするが何もできない自分が悔しくもある。

「そうちゃん!!早く行きなさい!!」

リニアの声を背に俺は階段に向かって走り出した。


―あと二階。


***


四階には罠も敵もいなかった。明かりも付いており、真っすぐ階段に向かって歩くだけのようだが、着いた瞬間どこからか奴の声が聞こえてきた。

『すごい!! 本当にすごいよ!! まるで映画でも見ている気分だった。仲間を残して一人進む君の姿。これは録画でもしとけばよかったな。勿体ない。君、本当に俳優を目指して見るのはどうだい?大スターになれると思うよ』

「うるさい」

『邪険にしないでくれよ。こういう演出も必要だろ?観客がいないとこちらのモチベーションも上がらないじゃないか。それに君も本当は嬉しいんだ。仲間たちが君のために犠牲になっていく様を見て君は』

「黙れ!」


途中途中で罠がないか周囲を見回しながら、俺は四階を進んでいく。

『大丈夫、四階には何もないよ。君との対話を設けたかったからね。君は案外せっかちな性格だから、五階に着いたら私に突進してくるだろ? だからこうやって』

「狂ってる」

奴は話を遮られたことが気に入らないのか、俺の言葉が気に入らないのか、少し間を開けると再び話しだした。

『ああ、そうさ。私は狂っている。狂ってなければ、こんなことしないだろう。私はね、協会が大ッ嫌いなんだ。いつもコソコソとしていて。でも君たちは違う。奴らのように部屋に籠っているのとは正反対だ!! 君たちに悪戯をすると想像以上の反応をしてくれる!! そう、それはまるで』

「五分だ」

『ん?』

俺はどこに向かって言うのでもなく呟いた。

「五分だけ待ってろ」


***


五階の扉の前には血痕が滲んでいた。あまりの気持ち悪さに胃の中から何かが出そうだったが、辛うじて嘔吐を我慢して俺は扉を開けた。視界に飛び込んできたのは、奏だった。変な機械に縛り付けられたまま彼女はそこにいた。そしてその隣には奴がいる。俺は奴の顔を見ると、また吐き気がしてきた。

「やあ、来てくれて嬉しいよ」

男は俺に笑いかけると、すぐに隣に目を移した。

「これなんだが…あまり反応見せなくてね。君が何か話しかけてみてくれないか?」

奏の顔は恐怖と涙を浮かべていた。意識は朦朧としているのだろう。俺が彼女に近づいても視線すら動かさなかった。

「ああ、大丈夫。この子は私にとっても大事だから」

「お前……それ以上、口動かしたら殺すぞ」

「本当なんだ!! その……良く言うじゃないか、愛情は大きくなればなるほど愛憎に変わるって。そういう感じだ!!」

俺はついに怒りを抑えきれず、彼に向かってボウガンを放った。

予想通り、男は避けるとまた俺に笑いかけてくる。仕方なく俺は奏に声をかけることにした。機械を外して彼女の身体を起こすが、顔色からしてだいぶ弱っているようだ。

「奏?」

「……」

「おい、しっかりしろ!! 奏!!」

「え……? あ……あ…」

「俺が誰だかわかるか!?」

奏の目は焦点が合っておらず、ずっと虚空を見つめていた。

「……母さま」

「え?」

「お母様……助けてください、怖い。怖いです。誰もいない。お母様……友人もみんな死んでいきます」

「奏? お前……まさか記憶が」

「嫌……もうこんなの嫌だ」

「奏!! しっかりしろ!!」

「嫌だ!!もうこんなの嫌!!」

奏は耳を塞ぎ、涙を流しながら頭を抱えていた。

何も認めない。全てを否定する。本当に彼女は嫌なんだ。

「……落ち着け」

「母様…助けて。誰も来ないの。父様も母様も、誰も、誰も来ない。こんなに痛いのに誰も助けてくれない」

奏は依然として肩を震わせて現実を拒否し続けている。

「泣かないで」

「嫌……こんなの嫌…」

「奏」


俺が奏の背中を擦っている間、男はずっとニヤニヤとしながらこの状況を見守っていた。

腸が煮えくり返るほど腹立たしい。今すぐにでも奴の顔面を殴りたい。

しかし―、

「一生このままでいるのか?」

「助けて……母様…」

俺は目を閉じて、大きく息を吸い込んだ。

「奏……泣くな!!」


瞬間、奏の涙が止まり彼女は俺を見上げた。

「そうだ、これが現実だ!! 三年前もこんな風に拉致されて死ぬところだった!! お前の母さんと父さんはあの時からもういない!! もう戻ってこない!! これが現実だ!!」


少女の瞳に光が宿っていくのを俺は感じた。

「奏、過去から逃げるな。囚われるな、受け入れろ。大丈夫だ、俺が守ってやる。もう二度とこんな目には合わせない。約束する。だから奏、逃げるな」

俺は奏の震えを止めるかのように、強く、強く抱きしめた。

「ほら、みんなで夕飯食べに帰ろう」

「……聡太」


奏が俺の名前を呼んで、胸元をきつく握るのがわかった。


―そう、それだけで充分だった。


「よし、奏。奏は奏らしく行動すればいい。お前ならあんな奴、一瞬で倒せるぞ」

彼女は俺の胸元から剥がれると、じっと俺の顔を見つめてきた。

少し目元が赤いが、いつも通りの奏の顔だ。大丈夫だ、早く終わらせよう。このうんざりとした状況を。

「さあ……行くぞ!」

「……うん!!」


熱のこもった声で奏が答えた。

俺は男へと向き直った。依然として彼は楽しそうな表情を浮かべている。


―正直、俺は子供だとか誘拐だとか知ったことじゃない。そんなの適当に誰かが解決してくれればいい。俺はただ、過去に縛られて情けない顔している奏が見ていられないだけだ……!!


「おい、お前。パーティーだとか言ってたな?ああ、そうだパーティーだな。三年前のリベンジ祭りだ。あの時は曖昧な形になったが、今回は綺麗さっぱり終わりにしようじゃねぇか!!」


すると、男はそれに答えるように大きな声で笑い出した。


「いいね!! パーティー!! そう、パーティーだ!! 私も中途半端は大嫌いだ。一緒に楽しもうじゃないか!!」


―さて、リベンジマッチといくか!!







つづく

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