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Track.3 A Bad Dream 「7」

挿絵(By みてみん)


***



―ついに到着した。

どこか不穏な空気が漂うビル、外壁を見るからにとても頑丈そうな造りをしている。そして入口はたったひとつ。典型的なビルの扉だ。

一階はロビーのようで、エレベーターや階段以外には何も置いていないとノエルは言っていた。

「さてと」

先頭を歩いていたリニアが腕を組む。

「どうやって入るかだな」

葵の言葉に彼女も頷く。一番の問題だった。堂々と窓を突き破っていくわけにもいかず、文字を書いて強制的に開けるとしても罠が敷いてあるかもしれない。何より警報センサーにでも引っ掛かれば厄介なことになる。

「ここは派手に正面突破ね」

「いや、それはちょっと待て」

すぐにでも飛びだそうとするリニアを抑え、俺はノエルへと振り返った。

「入口ってここしかないのか?」

「え、うん」

ノエルは一瞬驚いたが、すぐに答えてくれた。そして懐から何かを取り出す。

「これ」

「……もしかして、カードキーか?」

「うん」

俺たちが頭を悩ます必要なんてなかったのだ。

「ここは五階建ての建物。きっとあいつは五階にいる」

「別の階にはなにがあるんだ?」

「知らない。私はいつもエレベーターを使って一気に上がるから。きっと何らかのセキュリティがされているのかもしれない」


しばらく扉の前で作業をしていたノエルが俺たちに振り返った。

どうやら中へ入る準備が整ったらしい。

「パーティーは四人、塔のてっぺんには魔王と囚われのお姫様……私の職業は何かしら?」

RPG風な答えを求めているのか、こいつは。

「お前は武闘家だろ」

「……」

与えられた職業が気に入らないのか、リニアは怪訝な顔を浮かべる。

「鈴木」

彼女に何かフォローを入れようと思った瞬間、葵が俺の腕を掴んだ。

「ど、どうした?」

「話がある」

こんな時になんだ?


***


ノエルのおかげで簡単に侵入できた俺たちは早速周囲を見渡した。人気もなく、辺りは真っ暗だ。

「明るくするか」

俺は右腕に差していたペンを取り出し、床とそれぞれの靴に文字を書いた。

すると俺たちの周囲だけがほんのりと明るくなった。


その時だった。ぱっと中央に照明が集まった。それはまるで演劇を見ているかのように。


「───Ladies And Gentlemen!!」


奴がいた。三年前と変わらず、演劇の主人公のように誇張されたジェスチャーで笑い出す。


「さあ!! パーティーの始まりだ!!」

奴が両腕を大きく広げると、今度は歓声と音楽が流れ始めた。俺たちまで演劇俳優にでもなった気分だ。

「ははは!! 一人足りないがまあいい、始めようか。実況演劇を!!」

そしてスポットライトが消え、再び俺たちの周りだけ小さな明かりが照らしている状態に戻った。

「やっぱり幻か」

葵は下唇を噛みしめ、一気に警戒態勢へと入った。先ほどの歓声が聞こえる。

いや、これは歓声というには少し違う、うめき声の様なものが近づいてくるようだ。


相変わらず部屋の電気は付いておらず、俺たちの周囲にしか明るさはない。いつどこから何が飛び出すかもわからない状況で、俺たちは戦闘の準備をした。

ふと眼の前の暗闇の中で何かが揺らいだ気がした。


―何だ……何かが飛んだ……?


「上だ!!」

「くそっ!!」

俺が叫ぶと、すぐに葵がそれに向かって攻撃した。

葵の攻撃―、圧縮された空気の弾丸を受けたそれは俺たちの足元に落ちてきた。


人だ。俺は慎重にその人間の顔を表に向けた。

「改造人間……」

ノエルが呟く。

そう、これはおそらく思考も感情も失い、生物としての存在価値も失った改造人間。つまり失敗した改造人間たちだ。

「鈴木、お前も敵に集中しろ!!」


俺たちが調べている間、ずっと葵はうめき声が聞こえる方に向かって空気弾を撃っていた。手で空気を掴み圧縮するのに一秒、発射するために一秒。照準を合わせる暇もなく撃ち続けていた。リニアも近づいてくる改造人間たちと肉弾戦を繰り広げている。

「数が多いな……」

葵の空気弾が当たっているはずだが、一向に暗闇から改造人間の姿が窺える。


―研究所の連中、いつのまにこんな大量に造ったんだ。


ふと、ノエルが俺の服の裾を引っ張った。

「あの……私も何か……」

「今、武器も持ってないだろ。じっとしていてくれ」


正直この状況では邪魔だった。自分の他に彼女の様子も見なければいけない。まあ、俺が断れなかったのがいけないのだが。

ノエルを中心に、俺たちは互いに背中合わせの状態で円を作り、暗闇に目を光らせた。二人ともそれなりの戦闘経験があり、重装備の俺も充分持ちこたえられる。

しかし、相手は失敗作といえども改造人間。倒れても、倒れても敵は起き上がってくる。

「これどうするよ」

「結構ピンチだねー」

葵とリニアは軽くいうが、実際かなり厳しい状態だ。何より数が半端ない。

「なあ、リニア。体力まだあるか?」

「まだまだ有り余ってるけど?」

俺はつい口角が上がってしまう。

「じゃあ肉弾戦でどれだけ倒せる?」

「どうだか。私、大勢との戦いには慣れてないから。もちろん、倒せることには倒せるだろうけど」

すっと俺は懐からナイフを取り出した。

「俺がサポートしてやる」

「じゃあ私は、安心してサポートに集中してもられるようにする!」

そしてリニアと葵は俺たちの円から一歩前に出た。

俺は手にしていたナイフを足元に刺す。事前に文字を刻んでおいた。

『半径十メートル以内の味方は反応速度が上がる』

纏まりのない文章だが、自分でもそれなりに考えた。少しでも効果が出てくれればいいのだが。

ナイフから徐々に青い光が漏れだしてきた。

「よし!」

顔を上げると、攻撃をしていた葵の右から黒い影の様なものが見えた。

「葵、右だ!!」

通常なら避けることの難しいタイミングだったが、葵は俺の声に素早く反応した。

そしてすぐに空気弾で応戦する。先ほどより動きが早くなっているようだ。


一方のリニアは完全に姿を捕えてから攻撃をしていた。闇雲に襲いかかってくる敵を右足でなぎ倒し、すかさず別の相手の懐に左ストレートを入れる。おそらく骨までいっているだろう。彼女は休むことなく戦い続ける。ただでさえ動きが早いリニアは、バフのおかげで更にスピードが上がっているようだ。


しかし、いくら攻撃を加えても、しばらく経つと敵は起き上がってくる。

「くっ…このままじゃ」

いつまで経っても上に行けない……俺たちの最終目標は五階だ。こんな所で手間を取られてる暇はない!!


「鈴木!!」

「え?」

葵の声に我に戻った。俺の目の前で敵が大きく腕を振り上げていた。


―あ、やばっ。


と思った瞬間、一瞬にして敵の姿が横に流れて行った。葵の空気弾だ。

「ぼうっとするなよ……危ねえな」

息を切らした葵がいた。少しでも遅れていたら、俺の身体が飛ばされていただろう。葵のおかげで命拾いしたようだ。

「ごめん、そうちゃん! 大丈夫!?」

「ああ、平気だ!」

いくら反応速度を上げた二人でも捌き切れないようだ。


俺も『止まれ』と書いた紙を投げつけるが、持って三秒。その内ビリビリと音を立てて破けてしまう。ワイヤーを使って敵の足を潰しても、奴らは這うようにして迫ってくる。

どうすればいいんだ。動きを止めても意味がない。

ちらりと見ると、二人とも息が上がって来ていた。


―だめだ、このままじゃ自滅する!!


「先に行け!!」


突然、部屋中に葵の声が響いた。

「ばっ……お前一人で相手できるわけないだろ!!」

「上に上がる階段どこだかわかるか!?」

俺の声を無視して葵はノエルに問いかけた。彼女はぎこちなく奥の方を指さす。

「あそこの……エレベーターの隣にあるはず」

「リニア!! 二人をつれて行ってくれ!!」

彼女は何も言わずに不安そうな顔で葵を見つめていた。

「リニア!!」

「……わかった」

リニアの瞳に決意が籠った気がした。

そして―、

「行くよ、そうちゃん!!」

「でも葵が…!!」

「奏ちゃんが待ってる!!」

俺はリニアに返す言葉が見つけられなかった。

「鈴木、お姫様を救い出すのはお前の仕事だ」

葵の笑顔を見届けると、俺は彼に背を向けた。

「……早く来いよ?」

「すぐに行ってやる」


そして俺とノエルは、リニアを先頭に階段の方へと向かった。

邪魔をしてくる敵をリニアが倒しながら、俺たちは走り続ける。

階段までくると、俺は最後に後ろを振り返った。暗闇のせいで徐々に葵の姿が霞んでいく。

「畜生…こんな時だけ格好つけやがって」


***



三人が去った後。

ゾンビのような呻き声をあげる敵を前に、葵は大きく肩を回した。

「やれやれ…まさかこんな役回りになるなんてね」

そしてため息を零すと、彼は足を前後に開いて腰を据えた。

「さてと……やりますか」

先ほど以上に空気を集める。

何回も何回も手で掻き集めるようにして、葵は一気にそれを撃ち放った。


***


一階から物凄い轟音が聞こえ、つい足を止めてしまった。

「葵ちゃんなら大丈夫よ、そうちゃん。何もなかったような顔して帰ってくるって」

「別に心配してるわけじゃ……」

そう言うとリニアは小さく笑い、再び階段を登りはじめた。この螺旋形の階段は侵入者のためなのか、二階までだと言うのに異常に長かった。


「ふぅ……やっと着いたか」

二階だ。一階と同じような造りになっていたが、ほんの少し明かりが灯っていた。

そして奥には三階に続いているであろう階段が見える。

「……ここは誰もいないのか」

「そうみたいね」

リニアは一歩前に出て隅々にまで目をやり、何も異常がないとわかると安堵のため息をついた。

その瞬間。


―ボンッ


「え!? なにこれ!?」


―ボンッ


人の声に反応しているのか、リニアが声を出した瞬間、彼女の目の前で爆発が起こった。小さいが明らかに致命傷を負う攻撃だ。

魔法を使って姿を隠していたのか…!!

しかし人の声に反応するのは厄介だ。呼吸の量によっては声と間違われる可能性もある。何より意志疎通ができないとなると不便だ。そもそも爆発の原因が定かでない以上、下手に動けない。

体温に反応するのか、それとも酸素量か……?


リニアも状況を理解しているのか、難しそうな顔で俺に頷き返した。このまま何もしないわけにはいかない。上へ進む階段は見えているんだ。あそこにさえ辿りつければ…!!


ふと妙案が浮かんだ。ここから階段まではおよそ二十メートル位だ。俺は腰に下げていたワイヤーを取り出し、鏃に括りつけた。

そして天井に向かってボウガンで撃ってみる。爆発は起きなかった。


やはりそうだ。相手は部屋の内部に神経を使っている。内部と言うよりは床だろうか。初めに俺たちが会話をした時は爆発が起きなかった。きっとあれは部屋の外部にいたからだ。リニアがため息をついた途端に爆発したのは、彼女が部屋に一歩踏み入れていたからだろう。

俺は天井から垂れているワイヤーを引っ張ってみた。この頑丈さなら三人は大丈夫だろう。

リニアたちも俺の意図を理解したのか、二人はすぐに俺の身体に掴まった。


―いくぞ!!


俺は勢いよく身体を反らして飛んだ。

そして、俺たちは階段になだれ込むように辿りついた。


―シュゥン


ワイヤーを回収したその瞬間。


―ボンッ!


「え?」

爆発が起こった。

幸いワイヤーが戻りかけていたため、傷はつかなかったが爆発の条件が違っていたようだ。

「音に反応していたのか……」

俺は階段を登りながら、小さく結果を呟いた。




つづく

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