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少女は目を開けると、周囲を見回した。白い壁、白い家具、そして白いベッド。真っ白な世界だった。少女はここがどこなのか、何故ここにいるのか分からなかった。少女が思い出せる最期の記憶は、ハンス・ブリーゲルとの戦いで負傷したこと。

「う……」

少女の身体に激痛が走った。このまま横になっていた方が楽だろうが、ここがどこかが解らない以上安心して寝ていられないと思った少女は、思い切って身体を起こすと、自身の着ている服装に目をやった。白い服、まるで患者が着ているような。

その時だった。突然、自動扉が開く音がした。少女は手元からゆっくり視線を上げる。

「……部長」

現れたのは、少女の上司のようだ。少女は申し訳なさそうな表情で何かを言おうとしているが、上手く言葉にできないようである。

「あの……部長……すみま」

「大変だったな」

「え?」

間の抜けた声が部屋に響いた。少女の反応を気にせず、上司は続ける。

「君の力量は知っていた、だから戦闘は課さなかった。しかしあの状況で無事に助かってよかった。この事実だけで充分だ。ゆっくり休んでくれ、ここは君が生まれた場所だ」

少女、ノエルは上司の言葉に安堵した。今回の失敗で追い出される可能性も想定していたからだ。しかし、少女はまだここにいられる。まだ少女には利用価値がある。

それはつまり、まだ少女は友人を守れるということなのだ。



***


「はい、これはつまり再び研究所が動き出したということかと」

ハンス・ブリーゲルは報告書を彼の上司、協会の首脳部の一人である人物に渡した。内容は今回の事件と今後浮上する勢力とその関係者について。

「また奴が戻ってきたのか」

男はため息をついて、報告書を机に置いた。

「とりあえず、ご苦労だったな。もう君の主人には会ってきたのか?」

「いいえ、報告が先ですから。これから屋敷の方へ戻ります」

ハンスは淡々とした表情で答えると、軽く挨拶を終え部屋を後にした。ひとり、部屋に佇んでいた男は、もう一度報告書を見返す。そして頭を抱えた。

「全滅したと思っていたが。全く、科学者と言う者は諦めを知らないのか」



***


「おはよう、鈴木君」

「……お前な」

聞き慣れない呼びかけ。だが身体が勝手に彼の声に反応した。俺は大学の廊下で数カ月ぶりに奴と顔を合わせた。

「葵、今まで何してたんだ。お前のせいで、俺は大変だったんだぞ」

「何って……仕事」

こうも当然のように返されると、何も言えない。

「仕事なら……まあ仕方ないか。お前も忙しいな」

確かに、あそこの人手不足は深刻だからな。嘘を言っているようにも思えない。

「そういえば、リニア。戻って来てるんだって?」

「ああ、幼稚園で元気に食客やってると思うぞ」

「へー、よくあの人も受け入れたな」

「あれでも愛すべき愛弟子なんじゃないか?」

「そういうもんなのか」

適当に腰かけた椅子で話し合っていたが、ふと疑問が浮かんだ。

「ところで今はまだ連休中なんだが。お前、間違えて登校しちゃったの?」

「鈴木こそ、何で学校にいるんだよ」

「俺は図書館に勉強しに来たけど。お前は何しに来たんだよ」

「ひどいな、俺も勉強するために学校来たんだよ。こう見えても、する時はするから」

「信じられん」

久しぶりだと言うのに、ここまでテンポよく会話できるとは思わなかった。


「さて」

俺は大きく伸びをして立ちあがると、葵に振り返った。

「俺このあと、あそこにご飯食べに行くけど葵も行くか?」

すると彼は驚いた顔で俺を見返した。そして、小さく笑った。

「慣れたんだね」

「何が」

「あそこ、嫌いだったのに」

言われるとは思ったが、いざ聞かれると俺は思わず視線をそらしてしまった。少しだけ気まずさのような恥かしさが残っていた。

「いや。別にそんなに嫌がる必要はないかなって思って。それにいつまでも同じ感情に縛られているのもガキ臭いだろ」

「そっか」

「それより、お前。しばらくは連絡通じるのか?」

葵の視線に耐えられず、俺は急いで別の話題に切り替えた。

「まあ、多分」

「最近、変な事件多いから気をつけろよ。お前なら大丈夫だろうけど」

「だろうね」

俺の心配を余所に、葵は平然と気の抜けた返事をする。

「……まるで他人事みたいに言いやがって」

「そう?」

「そうだよ」

いつものように軽い冗談を交わして、葵とは別れた。久しぶりに顔を見て安心はした……ような気がする。



***


研究所の中央会議室。そこには数十人の人間が座っていた。男は自身の順番が来ると、落ち着いた声で話した。

「ということで、今回のことは私に任せませんか?」

その一言に周囲の人間はざわつき始めた。

『そうだな、今回はケラーに任せよう』

『これと言った不満はございませんな。君はとても慎重だからね』

『成功すれば再び魔法使いたちの抗争が起きるだろう』

『しかし我々の目標は現状維持や組織修復ではない。学問の追求だ』

たくさんの声がスピーカーを通して聞こえてくる。彼は静かに状況を見守っていた。

『それならケラーのところの奴にしよう』


一人の男の提案にケラーと呼ばれた男は耳を傾けた。

「……といいますと?」

『Mr.Modification.』

思わず彼は失笑してしまった。

「あの狂人を連れていくのか。面白い!!確かに仕事は早いな」

男は「最高だ」と拍手を始めた。そんな彼の態度が気に食わないのか、周囲からは不満の声が聞こえる。しかし、スピーカーの男はそんな声は無視して言葉をつづけた。

「とにかく、君は今度の件には干渉するな。彼が何をしたとしても」

「ああ、そうしますとも」

そして男の声は途切れた。同時に会議も終わったのか、大勢の人間が部屋から出ていく。

「Mr.Modification。誘拐犯を再び使うとは……全く、狂ってるな」

小さな呟きと共に、ケラーも会議室を後にした。


-"End.-



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