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Track.2 Retrace 「6」

***


「さて、お嬢様。そろそろお時間ですね」

「あら! 先に言ってくれるってことは、私のことずっと気にかけてくれてたのかしら?嬉しい!」

返事をする前に、リニアが勢いよく抱きついてきた。最初は恥ずかしかったが、もうすっかり慣れてしまった。いや、慣れて良かったのか?

「はいはい……気にしてますよ。それより、リニア」

俺はリニアの抱擁を軽く流して、話を切り出す。彼女も俺の空気を察してか、すぐに身体から離れた。

「少々三年前に時間を戻そう」

「どういうこと?」


俺はポケットから大量の紙束と筆記用具を取り出した。

「あの時。俺たちが生き残れたのは、この紙とペンだけの簡易的な魔法のおかげだ」

「……そうね?」

リニアは首を傾げている。俺の意図することがまだ分かっていないのだろう。

「今回もこの方法で行く。事前に書きためておく、これなら昨日のようにはいかないはずだ。リニア、お前はただ戦闘に集中してくれ。後方支援は任せろ」

「なるほど。つまり、そうちゃんは私を守ってくれる騎士ってことね」

「あくまで後方支援だけどな」

「それでも私を守ってくれるでしょ? 立派な騎士じゃない」

「……こんな時位、もうちょっと真剣になれよ」

正直『騎士』という言葉が気恥ずかしい。


すると、そっぽを向く俺の頬をリニアがつつき、ウィンクと共に顔を近づけてきた。

「あえて真剣になる必要はないんじゃない?」

近づく顔のせいもあり、俺は何も言えなかった。

「何が起きたとしても、常に真剣に、気を張り詰め、集中して。でも、必ずしもそんな必要はないと思う。笑ってても絶好調の時だってあるじゃない。緊張は死ぬ前にすればいい、というか本能的になるものだけど。だからさ、それまでは笑っていようよ! 少なくとも、私はそうしたい」

眩しいくらいの笑顔が目の前にある。誰にも否定なんてさせないほど、清々しい程の自己主張。思わず、笑みが零れてしまった。

「んー? お姉さん何かおかしなこと言った?」

「誰がお姉さんだよ。お前、俺より年上だったのか?」

「さあ」

予想通りすっとぼけるリニアだったが、そんな彼女の顔を見ていると自然と緊張の糸がほどけてきた。

「とにかく。俺がお前を最大限守ってやる! だから、絶対に勝てよ!!」

「うん!! 私たちは絶対に生き残って、2人揃ってここに帰ってくる!」

「……フラグを立てるな、フラグを」

リニアは楽しそうに笑みを浮かべ、くるくると踊り始めた。決戦前だとは到底思えない表

情だ。


―リニアを絶対に死なせたくない。いや、絶対に死なせない。


「明日も、みんなでご飯食べよう」

「え?」

驚いた顔で振り向くリニア。

いや、俺の方がもっと驚いている。無意識に口から言葉が出てきた。

「あ……いや、だから。明日も四人でご飯食べたいって思って」

一瞬の間が空いた後、堰を切ったようにリニアが笑いだした。

「なんだよ。そこまで笑わなくても。俺は真剣に」

「ああ、ごめん。つい……」

リニアは笑いすぎて出てきた涙を拭い、

「うん、わかってる。そうしよう、明日もみんなでご飯食べよう」

そして俺の頬に柔らかいものが触れた。

「お、お……おい」

「ん?」

「な、何の行為だ?」

「さあ。私にもわからないけど。なんかしたくなっちゃって」

舌を出して笑うリニア。何故か急に顔が熱くなってきた。別に初めてというわけでもないが、こんな感覚は久しぶりだ。


その時だった。背後に視線を感じた。いや、視線というには生ぬるいような……

「か、奏。あ……いや、これはその」

言葉が上手く紡げない。というか何で俺はこんな言い訳じみたことを言ってるんだ。

「……」

奏は黙って俺を見つめている。

感じる。これは間違いなく怒っている!!

「あの……奏さん?」

「怪我しないで、無事に帰って来て。話は後で聞くから」

言い終わるや否や、奏は物凄い音を立ててドアを閉めた。あっけに取られる俺を尻目に、リニアは肩を震わせて笑っている。

「大事なお姫様が嫉妬に駆られてしまいましたな」

「うるさい。何が嫉妬だ。大体……いや何でもない」

「大体?」

「いいから行くぞ」


***


ハンス・ブリーゲルに再びエージェントから連絡があったのは、あの衝突から五、六時間後のことだった。普段よりも仕事が遅いことに対し、上層部から何かしら催促があるだろうと予測していたため、特に焦った様子もない。ハンスは周囲を見回し、誰もいないことを確認すると電話に出た。彼の予測通り、内容はリニア暗殺の件。何故すぐに処理しなかったのかと。自身の主人の仲介役である、このエージェントの様子は電話越しにも分かるほど彼に疑念的な感情を向けていた。そもそも催促の連絡がかかってくる時点で、ハンスは協会から疑われているようなものだ。

「しかし、やはり何かおかしい」

ハンスは顎に手を当てて考え込む。


―そもそもリニア・イベリンの処理に何故私が?血縁ではないものの、私が彼女の面倒を見ていたことは協会も知っているはず。仕事のスピードが落ちる可能性も少なからず予想できたはずだ。彼女の処理を優先するならば、私より腕の立つ者は協会にまだまだいるではないか。


しばらくすると、ハンスは仕事の準備を始めた。考えることをやめたのではない、ただ彼は指示されたことをするだけだ。主の命令は絶対。それが正しいことであれ、正しくないことであれ。この生き方こそが彼の性格には合っている。

「まあ人を処理することは正しい事とは言えませんが」

ハンスは、静かに口角を上げる。どうやら心的な余裕は充分にあるようだ。


ふと、彼は何かに思い至ったかのように目を見開いた。

「そうか……なるほど」

彼の頭の中に、ある考えが浮かんだ。

「やれやれ、本当に上層部は性質が悪い」

一人で納得したハンスはもう一つの考え事をする。それは、自身の行動云々ではなく「研究所」についてだ。偵察に来ていた研究所の尖兵。ハンスが最後にようやく気付いた程の実力の持ち主。約三年間、大人しくはしていたものの研究所は力を蓄えていたと思われる。そろそろ何かを仕掛けるのではないか。そうなると、研究所との全面戦争は避けられない。つまり再び三つの勢力がぶつかり合う日も遠くないのではないか。


予想される事態に、ハンスは眉間の皺を寄せる。そして一息吐くと、腕時計を確認した。

約束の時間だ。

「死ぬか、生きるか」

腕時計を見つめたまましばらく感慨にふけっていたが、やがて覚悟を決めたのかハンスは立ちあがった。そして衣擦れの音すらも立てず、彼は動き出した。


***


「寒い……」

外に出て最初に思ったことがこれだ。昨日より寒い気がする。それとも緊張しているせいだろうか。


―三時間前。

「出せ」

「何を?」

俺の覚悟とは裏腹に、先生は気の抜けた返事を返してきた。

「今回の相手は強すぎる。少なくともリニアをフォローできるぐらいの装備が欲しい」

「それで?」

「……三年前に使ったやつ。全部出してくれ」

すると、先生はやっと表情を変えた。

「あら、あれを再び使うっていうの?」

「仕方がないからな」


先生はしばらく俺の顔を眺めた後、どこか嬉しそうに笑いだした。

「驚いたわ。二度とあんなこと体験したくないって言ってたのに。自分から言い出すなんて。非日常とは縁を切ったんじゃないの?」

先生の挑発に自然と笑みがこぼれる。

「あんた……俺が誰だか忘れたのか。常識だとか非常識だとか、ましてや日常だとか非日常だとか、そんなもん今はクソくらえだ。友人が困っているならただ助けてやる!!それが鈴木聡太ってやつだ」


俺の言葉を聞き届けると、先生は近くにある鞄を取り出し、俺に投げかけた。

「あ、危ないだろ」

「大丈夫、大丈夫」

そう言いながら、先生は俺の方をじっと見てきた。

「な、なんだよ」

「いやいや、装備出せとか言っときながら既にいっぱい付けてるじゃない」

正直、彼女は初めから分かっていただろうが、いざ指摘されると気恥ずかしくなる。

俺は先生の言葉を無視して、鞄から装備を取り出した。

懐かしい。前につけていたやつだ。

もう二度と目にすることはないだろうと思っていた装備を俺は一つ一つ付けていく。苦痛を最小限に抑えられるガード、愛用していたナイフ、ピアノ線に、表面に鋭い刃がある手袋。銃器類は……。

「ここまで重装備じゃなくてもいいか」

「どうして?」

俺の様子を横から見ていた先生は不思議そうに尋ねる。

「だって今回は前みたいに世界の危機じゃないからさ。ただの内輪もめに巻き込まれただけだろ」

「さっきと言ってること違くない?」

「これはただの個人的な感想」

納得いかない顔で俺を見る先生。適当に会話を流すことしかできない。

俺自身、本当の理由を答えていいのか分からないからだ。






つづく

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