8 退魔師のお仕事・その1
−−放課後になった。
今日も今日とて予定があると言うわけではないので、行こうと思えばすぐに屋上に行けるのだが……。
『ねー、ヨシト。約束の場所には行かないの?』
「んー、もうちょい待ってからかな」
尋ねてくるシィに小声で返す。変にクラスメート達に邪推されても困るし、出来れば葉狩さんとはタイミングをずらして出発したい所だ。
それにしても、シィとの会話についても考えないとなぁ……。休み時間とかだったら、雑音が多いので多少は誤魔化しが効くんだけど……小声でしゃべるのキツイ。いっそケータイ使って通話してる振りでもしようか。
ちなみに授業中は、驚くべき事に筆談が成立している。学校に暇潰しに来てただけあってシィは文字が読めるのだ! 彼女がアホの子じゃない事が新鮮で驚きだった。……いやだってミニマムマスコットはアホの子って固定イメージがね?
−−と、そういえば葉狩さんはもう行ったかな?
後ろを見てみると既に彼女の席は空になっていた。さすが行動が早い。まあ彼女もまだ転入してきたばかりで、友達付き合いとかもまだ無いだろうし当然といえば当然か。
−−さて、なら僕たちも行く事にしようか。
*
「では退魔師について説明させていただきます」
僕らが屋上に着くと、葉狩さんはこほんと一つ咳払いをして話し出した。
「先日も言いましたが、第一に優先されるのは人に仇名す怪異や妖異の討伐です」
「そういえば昨日のアイツって正式名称とかあったの?」
地味に気になるんだよなぁ、リュウグウ君(仮)の本名。ここ二、三日彼の事を考え続けていたせいか、何か愛着が湧いてきたのかもしれない。昨日の戦いの時の憎しみもあるけどな!
「昨日の……リュウグウノツカイもどきの事ですか?」
「もしかしなくても、そのまんまの名前だったんかい……!」
まだリュウグウ君(仮)のがオリジナリティーあるじゃないか……。
「……まあ、あれは付喪神の一種でしたから」
「つくもがみ?」
「長い時を経た物に魂が宿ったり、生き物が長生きして不思議な力を身につけた……なんてお話を聞いた事はありませんか?」
「……ああ、妖怪系の漫画なんかに出てくるやつか」
有名どころだと、唐傘お化けだったり一反木綿。生き物系だと猫又とか九尾の狐あたりかな。
「あのリュウグウノツカイもどきは、とある博物館で展示されていたはく製だったんですが……」
「付喪神になって暴れ出した……と」
「ええ。それで私が派遣されたという訳です」
「割とアッサリやっつけちゃった感じだけど、まさか直ぐに転校しちゃうとか?」
「……いえ、リュウグウノツカイもどきに関しては切っ掛けみたいな物です。今後はこの辺り一帯を担当する退魔師、という事になります」
葉狩さんが新しく来たって事は、もしかして今までは担当の人が居なかったって事なんだろうか……?
ちょうどいいので彼女に疑問をぶつけてみた。
「……いえ。居るには居るんですが、かなりのご高齢で……緊急性のない用件ならまだ大丈夫なんですが、荒事となると……」
……なるほど。退魔師にも高齢化の波が押し寄せてるんですねわかります。んで、若年層は人手不足と。しかも、なり手には特殊技能が必要となれば……そりゃ、僕への勧誘が激しくなるのもわかるわー。
「だから若くて『戦える人』が貴重、と」
「ええ。それに先日も言いましたが、視えるようになったものを視えなくするのは難しいんです」
葉狩さんの話では、一時的に封じることはできるらしいが、ものすごく費用がかかるそうな。術者の手配とか道具代で。
「どうせ視えるようになれば自衛手段も身につけなくてはいけませんし、それならいっそこちら側に引き込んでしまえば一石二鳥と」
その点、氷上くんなら既に戦えるので一石三鳥ですね!
…………黒い。そこはかとなく黒いよ葉狩さん! 笑顔で語らないで欲しかった!