6 お家に帰らせてください
リュウグウ君(仮)の消滅を確認すると、葉狩さんはふぅと一息ついて構えを解いた。
「葉狩さん、何でここに……?」
まだ神隠し状態は解除されていないようで、辺りは静かすぎるくらい静かだ。
「悪い事だとは分かっていましたが……後を付けさせて頂きました」
「後を付けるだなんてどうして……?」
「そちらのピクシーさんが理由です」
『……私?』
シィが首を傾げた。
「私は退魔師。人に仇を成す妖異や怪異を退治するのがお役目」
「……まさかシィを退治する気なのか」
拳に力が入る。もしシィを退治すると言うのなら……。
「いえ、ピクシーさんは妖精の中ではそれほど悪さをしない部類ですので」
シィを見ていれば、まあそうなのかなとは思う。『それほど』っていうのがちょっと気にかかるけども。
「問題は、彼女を視る事・会話ができていた貴方の方です。氷上君」
「…………へ?」
え? いや、まあシィが視えたり会話できるのは確かに普通のことじゃ無いのは分かってたけど、そんなに問題だったの!? ……と、思いきや。次の彼女の発言で、いけない事とか悪い事という訳でもないと判明する。
「退魔師業界は人手不足なのです!」
これってもしかして……。あ、うん、そういうことですね。これは深く関わってはいけないやつだ。
「えーっと……じゃあそーゆーことで失礼しますね」
そう言って身を翻す僕。−−しかし。背後からガシリと、シィがいない方の肩を掴まれた。
「−−逃がしません」
短いながらも、とても力の籠もったセリフ。逃走不可とか何処の強制戦闘ボスなの葉狩さん。僕、素人! 全くの初心者ですよ!?
「大丈夫。全くの素人なら餓鬼の群れ相手に健闘なんて真似出来ないです」
……そっち方面での保証は要らないカナー。どんだけ人材確保に必死なの退魔師業界。ん、今もしかしなくても心読まれてなかった?
「読んでません。単にあなたの顔が判りやすいだけ」
「つまり、僕は正直者過ぎるって事ですか。わか−−んねーよ普通そこまでは!」
えーそんな事ないです。なんて顔しても駄目だから。なんで学校にいた時に比べて表情豊かなの。
『駄目くないよ、ヨシト。全部口に出てる』
「そっかー。なら駄目くないね! って、心の声ダダ漏れ!?」
「とにかく、貴方のような方が我々の業界には必要なのです!」
「−−お断りします!」
これ以上厄介ごとに首を突っ込んでたまるものか。シィに関してならともかく、人外とのバトルは勘弁です。
「視えて戦える人は貴重なんですよぅ……」
う、ウルウル顔は卑怯じゃないかな葉狩さん。ていうかホント学校と違って表情豊かだね!?
「……その、学校では緊張していましたので」
「−−て、まだダダ漏れだったんかい心の声ェー!?」
「……あ、そういえばですね。先に言っておきますけど、視えないようにするのはちょっと難しかったりします」
「ソウナンデスカ……」
え、それって新手の死刑宣告ですか……? これ以降も絡まれ続けるよっていう。
「この際、一度体験してみるだけでも良いんです。……お願いします!」
そういってぺこりと頭を下げる葉狩さん。ここまで懸命だと、断り続けているこちらの方が悪役みたいに思えてくるから不思議だ。
『ねぇねぇ、ヨシト。この子のお話聞いてあげても良いんじゃないかな?』
「うぅ……。でも嫌な予感しかしないっていうか……」
『退魔師って確か、私達とヨシトみたいな視えるヒトの付き合い方とかにも詳しいんだよ』
いざって時に頼りにできる人と繋がりを持っておくのは保険としても良いのでは? と、シィにしては真面目な意見。
現状2対1。シィの意見も至極まともな物だ。この先またリュウグウ君(仮)みたいな、僕らだけでは対応の難しいヤツと遭遇する可能性がある以上は、葉狩さんのようなプロ? とコネがある方が良いに決まっている。
「……判った。取り敢えず体験って形なら、協力しても良い」
「ほん、とうですか……? ありがとうございます!」
退魔師になりたくなったらいつでも言ってくださいね! という彼女の言葉は聞こえなかったことにした。
こうして僕は非日常へと本格的に足を踏み出すことになったのだった。