4 なんか出た
さて友人になった僕とシィ。だが、いつまでも立入禁止の屋上に居る訳にもいかず、今日は解散しようかという話になりかけたのだが……。
『私、ヨシトと一緒に行くー!』
「ええっ!?」
『だって、向こうに戻っても何にも無いんだもん』
「向こう……って、家って事?」
『んー、ちょっと違うかなー……』
シィの説明は要領を得なかったのだが、どうも『向こう側』と呼べるような場所があって、そこが彼女たち本来の世界らしい。
たまーに紛れ込んでしまう人間がいて、それが神隠しと呼ばれているのだとか。……もしかして昨日のリュウグウ君(仮)と遭遇した時のアレって、そういう事なんだろか。一時的とはいえ神隠しに遭ってたってこと? そう考えると、思わず身震いがした。
……と、今はそんな事よりシィのことを考えないと。
「じゃあ、うちに来る?」
『……良いの?』
シィが見える人は少ないって言ってたし、家族の前で会話とかやらかさない限りは、まぁ大丈夫そうではある。肉食じゃないとも言ってたからご飯とかも何とかなるんじゃないかな……なるといーな。
「まぁ、ご飯とかについては要相談ってことで。シィに問題がないんなら構わないかな」
『行く! 私、ヨシトのお家の子になるー』
*
というわけで肩にシィを乗せて家路についたのだが……。なんか急に人気が無くなった。
−−めっちゃ嫌な予感がする件。
しかし、どうすることもできず足を止めざるを得なくなった。
「キィキィ!」
「キキィ!」
背の高さは小学生の低学年の子くらい。異様に膨らんだ腹に、頭には二本の角。そんな生物が甲高い鳴き声をあげつつ、あっという間に僕らを取り囲んだのだ。
どう見ても友好的ではない一団。これしってる。餓鬼ってヤツだ。なんか漫画とかで見たことある。
今回はさすがに数が多すぎて逃げるの無理ぽ……。相手がこちらの考える通り餓鬼だったら、この先味わうの生き地獄なんですけど詰んだ? へるぷみー!
『ど、どーするの、ヨシト!?』
「シィ、こいつらどうにかできるような知り合いは?」
『いるわけないよぅ!』
「ですよねー!」
トモダチ少ないって言ってたもんねー。いつの間にかお約束の神隠し状態。そして僕ら生態系ピラミッド(妖怪・怪異)底辺……………詰・ん・だ!
−−だけど!!
「死んでたまるかぁーーっ!!」
叫びつつ、気合を込めて右手を前に突き出した。ただでやられてたまるか! 殴れる相手ならせめて一撃だけでも!!
「ギギャァァ!!」
次の瞬間、吹っ飛び塵になる数匹の餓鬼さん。
『−−あ、なんか出た』
出ましたね、僕の手から何か。出した張本人である僕自身が信じられないですが。これ、気合? ワンチャン来た? ……よし! さっきの感覚を……さっきの感覚を思い出すんだ!
「てぇぇーーいっ!」
再び気合を入れて拳を突き出すと−−
「キィィィーーッ!?」
やっぱなんか出た。さっきよりも多くの餓鬼が吹っ飛び塵になった。……イケる。これで勝つる!
『ヨシトすごーいっ!』
「なんかよく分からないけど、この必殺技があればイケる気がする!」
『私もがんばるっ』
えーいとシィが両手を振り上げると、手近にいた餓鬼が一匹、宙に浮いて勢いよく地面に落ちる。なんか「ギギャッ」とか呻いて動かなくなった。そして塵に……。サイコキネシスってヤツだろうか。
「もしかしてシィって割と強い?」
『一対一ならいけるけど、これだけ多いと無理!』
とか会話してる間も、僕は必殺技(仮)を打ち続けている。なんかコツが掴めてきたみたいで、いちいち気合い入れなくても出せるようになってきた。餓鬼の数も当初の半分位にはなってる。
「よーし、このまま殲滅しちゃおう!」
『うぇぇぇ!?』
「殺られる前に殺るべし」
『怖っ!』
正直、この辺りで撤退してれば良かったのだ。そう、僕は調子に乗っていた。余りにも餓鬼が呆気なかったので。ここで学校でシィに聞いた話を思い出せていれば、あんな事にはならなかったかもしれないのに……。




