1 夏休みおわっちゃった……
「夏休みはお楽しみでしたね!」
「……は?」
顔を合わすなり、佐藤君がニタニタ笑いを浮かべてぶっ放した言葉にハテナマークが乱舞する。僕の夏休みといえば……殺人事件とか魑魅魍魎の住んでる村とかしか印象に残ってないわけで。
「泊まってた宿が爆発炎上した時の話とかする?」
「なにその斜め上どころか予想外の返し!?」
「ちなみに殺人事件にも巻き込まれました……」
「スリルとサスペンス!!」
いやいやいやいやと、首を左右に振り続ける佐藤君。どうやら想定外の返答をしてしまったらしい。
「——じゃなくて!」
あ、復活した。
「葉狩さんと二人っきりで旅行に行ったんだろ!? どうだったんだよ、なあ、なあ?」
「二人っきり?」
「お前らが連れ立って電車に乗ったのを目撃したヤツがいるんだよ」
ああ、そういう事でしたか。シィもいたので正確には二人っきりとは言えないんだけど、他の人には見えないしなぁ……。宿でもキッチリと別部屋だったんで、間違いなんて起こりようがない。ていうか、あの状況下でナニができるというのか。
「ちなみにさっき言ったの事実なんだけど、そんな状況下でナニがあったとお思いで?」
「ネタじゃなくて!?」
「殺人事件が起きて、最終的に宿が爆発炎上したんですけど?」
「マジもんだった!」
「生死をかけた脱出劇とかしましたけど?」
「つ、吊り橋効果は……吊り橋効果はなかとですか!?」
「葉狩さんって、そういう系のピンチだと凄く頼りがいがあります……」
「おしとやかな外見に似合わず、意外とたくましかったんですね、彼女!」
「そういう訳で、佐藤君が喜ぶような話題は提供できないかな」
「そうかー……そうか?」
アレッ? という表情で固まった佐藤君。……ん、今の説明で何かおかしな所があっただろうか?
「いやいやいや、ツッコミ所多すぎだろ!? さっきはサラッと流しちまったけど、殺人事件て何! 爆発炎上って!?」
「大変だったなぁ……夕食の時とか矢が顔を掠めたし」
「それ下手したら犯人、ミナゴロシにするつもりだったんじゃ……?」
「ですなー」
「よく生きてたな、お前ら」
「割と早い段階で犯人が判明したからねぇ」
まさか被害者から直接聞いたとか、怪異が関わっていたとかは言うわけにはいかないので、そこは濁しておく。
「なのでピンクい空気には縁がなかったというかですね? ……僕だって行く前は期待してたよバカヤロー!」
「お、おう」
まだ告白もしてないって点は棚上げする。外堀から埋めていったってイイじゃないか。
「もうお腹いっぱいだが、他に……他に何かエピソードはないのか? せっかくの夏休み! せっかくの美少女との二人旅だぞ!?」
「滞在先の村で一服盛られた話する?」
「なんでそう、いちいち物騒なことになってんの、お前ぇ!?」
知らないよ!
「——ここで訂正があります」
「訂正とな?」
「滞在先の村で合流者アリ。後輩君であります」
「『君』って……野郎かい!」
おぅNo! と、大げさにかぶりを振る佐藤君。ハーレムなんてそうそう簡単に作れるワケ無いじゃん。
「他に女子もいたけど、基本男女別行動でした……」
いや、知彦君が悪いわけじゃないんだけど。それと姫さんは『一人』と数えてもよいのだろうか? 人にしか見えなかったんだけど、知彦君の使役するシキガミという存在だったらしい。
「あとは筋肉モリモリのマッスルマッチョとの最終決戦、とか?」
村長さんは……悲しい事件でしたね。
「お前ら一体何しに行ったの!?」
それは僕が聞きたいよ!!




