14 一区切り
『ヨシトー、だいじょーぶー?』
真っ先に駆け寄ってきたのは、何時の間にか行方をくらましていたシィだった。……本気で気付かなかった! この妖精さんは、ステルス機能でも内蔵しているのか!?
「――もしかして、葉狩さんたちを呼んできてくれた?」
『そだよー。ヨシトたちピンチっぽかったから』
まあ一服盛られた時の状況を見たら誰でもピンチってわかるよね。おばあさんとか悪役まんまな高笑いしてたし。
「そっか、ありがとう。でも決して僕たちを見捨てて逃げた訳じゃあないよね?」
『ーーぎくぅっ。ナンノコトカナァ……?』
なんとなく聞いてみただけだったのに、まさかの直球ど真ん中かい!
「まぁ、結果オーライだし? シィがいても状況は好転しなかっただろうから、今回は不問にしておくけれど」
『……アリガトーゴザイマス』
キッチリ責めてるじゃないですかと知彦くんがジト目でこっちを見てるけど、知らないなぁ? 躾というやつですよ、これは。
「それはともかく。葉狩さん、ヒメさんありがとうございます」
二人が来てくれなければ持久戦になるところだった。ちなみにヒメさんは知彦くんの式神である。長い黒髪に巫女装束が似合う美人さん。補助系の術が得意で結界術なんかにも詳しいとのことで、葉狩さんの助手として同行していた。これが知彦くんの申し出だった。……まあ僕らが同行するよりは格段にいい案だったと思う。
「由人さんも、知彦さんも……一服盛られてしまうなんて災難でしたね」
薬の影響が残っているようでしたら治癒術をおかけしますよ、との申し出。おおう、何処ぞの妖精さんとは天地の差がある。気遣いの固まりだなあヒメさん。
「……まあ、お陰で元凶の下までショートカットできたから、怪我の功名ってやつかもな」
気心の知れたヒメさんが相手だからか、ちょっとぶっきらぼうに答える知彦くん。なんていうか、お姉さんと弟って感じがして微笑ましい。
ショートカットという意見には同意である。薬入りのお茶を回避していたら、土蜘蛛さんに辿り着くまでもうちょっと時間が掛かっていたはずだ。
……そういえば、葉狩さんたちの首尾はどうだったのだろうか?
「こちらもヒメさんのお陰で作業がはかどりまして、数日中には異界化も収まるはずです」
ということはあの一見コミカルな共存風景も見納めかぁー。無くなると判った途端に惜しくなる法則。
「そういえば……先程の怪異も言っていましたが、氷上君の戦闘能力は異常です」
——絶対に何かありますっ。帰ったら調べましょう、是非!
ガシっと葉狩さんに力強く両手を掴まれブンブンと激しく振られる。少なからず好意を寄せる異性に、ガッツリ触れられているというのに嬉しくないのは何故だろう……?
「まずは氷上君の家系を辿るところからですね!」
「……案外、先祖に強力な退魔師がいたりするんじゃないですか?」
「もしくは強力な神族の加護がある家系なのかもしれませんねぇ」
知彦くんやヒメさんものってきた。だが一番温度が高いのはやはり——
「ロマンがありますねっ。ワクワクが止まりません!」
葉狩さんである。
……これ、ぜったい恋の進展とは逆方向に突っ走ってるよね!? 恨むよ村長ぉぉ!!
そして僕らの夏は過ぎていったのだった……。




