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みえこま〜見えないはずの物が見えて困ってます〜  作者: ぽて
第2章 夏はスリルとサスペンス

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9 土蜘蛛さん伝説



「……いつまでも黄昏てる訳にはいかないよね」


 この村の行く末は、ある意味で僕らの働きにかかっているんだ。早く境界化の原因になってる怪異を探し出して倒さないといけない。


「手がかり、早くみつけないと」

「——氷上先輩。この村の伝承に詳しい人の家、聞いてきてますけど……」


 行きます? という知彦くんの問いにはもちろんうなづいた。





「昔々ぃー。こんの村には、それはもう民に慕われる村長むらおさがおったー」


 独特すぎるイントネーションに面食らったけど、語り部っていうくらいだからこのくらいインパクトげあったほうが良いのかもねー……。変なところで腕振ったり細かいアクションが入るからめっちゃ聞き辛いけど。


「しかぁしい。それを快く思わない役人にぃ、ありもしない罪をなすりつけられて処刑されてしもうたぁ!」


 あ、なんか先が予想できる展開。村長さんが役人に復讐とかするんですね、わかります。


「村の衆はそれはもう大層嘆き悲しんだぁ。心配した村長が化けて出るほどにぃ」


 って、ええ? 村長さん良い人すぎぃ!?


「村長は役人を即刻排除して、独立宣言。再び村を治め、役人たちから村人たちを守り続けたそうなぁ」


 ……イイハナシダナー。最初の役人は自業自得なんだけど、後に続いた役人さんたち完全にとばっちりでは……?


 キリがいいので、出されたお茶を一杯いただく。……お、意外とおいしい。上等そうなお茶、思っていたよりも歓迎されてる? 知彦くんもちょっと目を見開いている。


「化けて出た村長は土蜘蛛と呼ばれぇ、時の政府には大層恐れられたとかなんとか!」

「つちぐも?」

「そうじゃぁ、土蜘蛛様じゃぁ」


 ふむ。蘇った村長さんは手足がいっぱいついてたんですね! ……蜘蛛だけに。


「その見た目は鬼の形相にぃ、虎の同ぉ、蜘蛛の手脚が生えた異形だったそうなぁ」


 うおう、思った以上にエグいビジュアルだった。っていうか——


「よく村の人たち驚かなかったですねー」


 そんなんがやってきたら、僕なら即座に必殺技ぶっ放しますが。


「どんな見た目になってもぉ、村長は村人の事を第一に、真摯に考えてくださっとったからのぅ」


 村長さんを慕う村人たちの心が、見た目に対する恐怖を上回ったんですね、わかりません。むしろ良く村長さんだって気付いたなって話だよ!


「そんな村長のぉ、治世にも終わる時は来るでのぅ……」


 役人達では歯が立たないと悟った政府が、とうとう腕利きの退魔師を差し向けたのだ。

 もっと早く気づけよと思わなくも無いけど、その時代はまだ妖異や怪異の全盛期で、一つの村なんかには構ってられなかったんだそう。


「退魔師と長の戦いは三日三晩続いたそうなぁ」


 長つよい! けど、三日三晩戦い続けた退魔師さん超大変でしたね、お疲れ様です。


「それで退魔師に村長が倒されておしまい……ですか?」

「いんやぁ、長の念が強過ぎて封印で手を打ったっちゅぅ話じゃぁ」

「ちなみに……念ってどんな念なんです?」


 このまま村人たちを放って置けないという実に長らしい念だったらしいのだけど、何処まで過保護なの村長さん!

 横で同じく話を聞いていた智彦くんも、うげって顔してる。そんな僕らの様子に気付くことなく語り部のおばあさんは言葉を続けた。


「いつか復活した暁には最高の理想郷を! と残して封印されてしもうたっちゅう話さなぁ……」

「『理想郷』、ですか?」


 智彦くんの呟きを聞きつけた途端に、おばあさんの形相が様変わりした。山姥もかくやという恐ろしい形相になった!


「——そう、ヒトもアヤカシも共に共存できる最高の理想郷じゃぁ!」

「「————ッ!?」」


 それは今現在のこの村のありようを端的に説明するかのような言葉。


「——チッ、アンタ容認派か!?」


 智彦くんが手に何か札のような物を構えて警戒態勢をとる。……容認派? 何ぞそれ? ただ、智彦くんが警戒するってことは敵に組する人なんだろう。


「くははっ、やれるものならやってみるがええ! わしは只人じゃぁけんどなぁ!」

「クソッ、タチの悪い!」


 悪態を吐く智彦くん。怪異を倒しても罪にはならないけど、普通の人に怪我させたら傷害罪だ。本当にタチが悪い。でも——


「証拠がなければオーケーだよね?」


 こんな時こそナナメ四十五度の出番です。うわーという呆れ顔をする智彦くんは置いといて実行です。


「ちょいやさー、って……あれれ?」


 立ち上がった瞬間に立ちくらみ。そして強烈な眠気が——


「氷上せんぱ……い…………」


 慌てて僕を支えようとした智彦くんも、崩れ落ちた。


「やれるものならと言ったじゃろう? おんしらがさっき飲んだ茶ぁには一服盛っておってのぅ?」


 くははははというお婆さんの笑い声を最後に僕らの意識は途切れた。



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