8 散策してみよう
「取り敢えず外に出て見たけど、これからどうする?」
屋敷の外へ出た僕と知彦くん。葉狩さんは玄海さんに境界補修の為の情報を貰うとの事でここにはいない。
「……まずは村の様子を見て回るのが良いかと」
『ともひーは真面目っ子だねー』
シィはそう言うけど、こんな田舎で都会っ子の僕らが楽しめるスポットって、そうそう無いんでない?
「……そういえば。これ、ピクシーですか?」
『むぅぅ、これとかゆーなー!』
おう? 知彦くんがシィに興味を示したぞ! よし、仲良くなるチャーンス!
「そうらしいねぇ」
『ヨシトですらスルー!?』
シィさんご立腹。でもしょうがない。だってシィさんだもの。
「どこで捕まえたんですか?」
「いやいや、たまたま学校で知り合っただけだよー」
「へぇ……学校に、ですか」
キラッと知彦くんの眼鏡が意味深に光る。……うちの学校、裏では有名な何かのスポットだったりしないよね? なんかさ、うちの町自体にそれ系の話が多過ぎる気がするんだよ最近。そもそも四神どーたらの土地なあたりで漂う嫌な予感。
ぼくしってる。こういうのっていいやつだけじゃなくて、わるいのもよびよせるって。
*
村の中でも比較的に人手の多い場所に出てきた。
来た時には不思議と気付かなかったけれど、改めてよく見てみた村の現状は人外魔鏡一歩手前だった。いやこれもう人外魔鏡じゃね?
畑を見てみると、人に混じって小鬼っぽいのとか、異常に血色の悪い黒マントの白髪ダンディが畑を耕している。というかこの猛暑とカンカン照りの中で黒マントとか死ぬ気満々だよね? あのダンディ。
広場っぽい所では、デフォルメされた二頭身の蜘蛛みたいなのとか二足歩行してるワンコが子供たちに混じって遊んでいる。……あのワンコ、もっふもっふな毛皮百パーセントだけど熱中症とか大丈夫?
そしてどこぞの庭先では近所の奥様方に混じって、今時では珍しい豪奢な着物を着たおねーさんが井戸端会議に参加している。
「……そろそろツッコミを入れて良いだろうか?」
「存分に」
クイっと眼鏡の位置を調整しつつ知彦くん。口数少ないけど肯定の意を感じる。キミも心の中ではマシンガンツッコミしてるクチなんですね。
『ん? 何かおかしいトコでもあったの、ヨシト?』
所詮、妖精はあっち側か……。この盛大な違和感の塊に気がつかないなんて!
「おかしいとか以前の問題だよ!! この村アレなの? 視る能力持ちしかいないとかありえ無いよね!? 普通に怪異の皆さん馴染んじゃってるんですけど!!」
いや、まあそれはそれで平和で良いんですけど? 悪さするヤツ居ないみたいだし。究極の共存っていうか?
「これが……境界に呑まれるという事らしいです」
僕の肩に手を置き、知彦くんは言った。諦めろとでもいうかのように。……そうか、彼は二日も前からこの光景を見てきたんだ。いい加減ツッコミ疲れもする。今の彼は、僕の二日後の姿だ。ただ——
「実に平和で良い風景のように見えるのは気のせいかな……?」
「風景だけ切り取ればそうなんでしょうけどね」
そうだ。この村はこの先そう遠くないうちに現代社会からフェードアウトしてしまうのだ。その先にある『向こう側』は『こちら側』の人間には生きづらい場所なのだという。地味に怖い。のどかで平和でどこか懐かしさを感じる光景だけに。これが死にゆく村の景色だと言われると、背筋が寒くなる。
「原因になってる怪異を倒して境界を修復したら……この風景はやっぱり——」
「少なくとも怪異達はいなくなると思います」
普通の人たちの見る風景からは。
そう呟く知彦くんが寂しそうに見えたのは、僕も同じことを思っていたからかもしれなかった。




