6 爆発オチではなかなか死なない
「——あら、わたし……?」
なんか憑き物が落ちた顔で浅井さんが呟いた。……あのサイコっぷりは怪異のせいだったんかい。先ほどまでの狂気じみた気配もサッパリ消えている。妙な力強さも消えていたので、拘束を解いた。理由もなくいつまでも女性にしがみ付いてるのいくない。セクハラで訴えられてしまう。そして確実に負けてしまう!
「——君たち! 一体何が起きてるんだ!?」
通常空間に復帰したみたいで、オーナーさんがビックリ顔で僕らに話しかけてきた。……当然か。あっちからすると僕らが突然消えたと思ったら、また現れたみたいなものだもんね。
そして、ふくしゅう鬼の居た辺りに何かが落ちていた。置き土産?
「これは——ボタン……ですか?」
一番近くにいた葉狩さんが気づいて拾い上げた。そして彼女が次に取った行動は——
ポチっとな——☆
そんな幻聴が聞こえた気がした。ボタンがあったら押したくなるのは人間である以上しかたがないと僕は思います。思うんだけどね?
まずボン、という音が一回。それから連鎖的にボンボンと何かの破裂音。
「……これって、ま さ か ——」
——それは回避できたはずの、爆破エンドの始まりだった。正体不明のボタン無闇に押しちゃうの良くない。
*
無事に爆散エンド回避したと思ったら、まさかの爆発オチでした。そんな今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか? ——僕ら? 僕らは絶賛避難中ですがそれが何か?
宿の至るところから出火しているらしく、焦げ臭い。時たま絶賛燃え上り中な場所もある。ココとかココとかココ。幸いだったのは皆、食堂に荷物ごと移動していた件か。荷物が心配で戻った挙句に——というパターンが無いのは本当に良かった。
ボフッと火の勢いが一部強くなった。
ぎゃあああっ、熱い熱いって! 今時の洋服は絶賛化学繊維仕様だから燃えやすいんだよ、引火したら火だるまになるぅぅーーっ!!
離れた場所からも爆発音が聞こえてくる。小脇に抱えた小学生女子は、図太くも楽しそうに「きゃーきゃー」と叫んでいるが将来どんな女傑になるのか。楽しみ以前に、僕は遊園地のアトラクションじゃねーですと言いたい。これ命がけなんだよ? 逃げ遅れたら死んじゃうんですよ、そこんところ分かってる?
ちなみに僕が彼女担当なのは、単に消去法だった。お父さんの日頃の運動不足がたたってしまった。体力のある男でかつスピードを落とさずに小学生女児を抱えられるのが僕しか居なかったのだ。
「あははー、すごーい!」
きみ将来絶対に大物になるよ、ホント。
*
外の安全圏まで避難した頃には、あれほど激しく降っていた雨や荒れ狂っていた風が収まっていた。そのせいで『森の館』は凄い勢いで燃え盛っている。……おい、台風どこいった? まさか台風呼び寄せてたの、ふくしゅう鬼くんなの? 地味に中物だった? ……ヤバかったんですね、僕ら……。
そして無事に全員が脱出できた訳だが、問題は爆発物を誰が仕掛けたのか、だ。……いや、犯人はハッキリとしてるけどさぁ。
「あ、それなら——」
浅井さんは白状した。宿の各所に爆発物をしかけた、と。最期に何もかもを吹き飛ばすために。
……あっぶねー、やっぱまじで爆散エンド予定だったー!
「それにしても私、どうしてここまで大それた事してしまったのかしら……」
落ち込む浅井さん。さっき出てきた妖怪もどきの怪異のせいで増長してたからですとは言えない雰囲気。正気を取り戻したとはいえ、既に被害者はでている。犯した罪は消えないのだ。
——あ、爆弾の起爆者が葉狩さんなのは忘れよう? 悪気ハナカッタ。人間もどーぶつなので本能には逆らえんのです。今回の場合、「本能イコールボタンみたらとりあえず押してみる」ダヨ。
「私、自首します……」
すっかり意気消沈した浅井さんは、ぽつりと言った。
こうして僕らの波乱の夏休みは始まった(・・・・)。




