13 正式採用だそうです
救急車やパトカーのサイレンが鳴り響くショピングモールをそっと後にした僕ら。警察に追求されると困った事になるので。結果だけ見ると、問答無用で殴り倒したとしか思えないだろうし。自分に非がないのに停学とかにされたりしたら、僕グレるよ。
葉狩さんが言うには、ずっと昔には国家権力との繋がりもあったらしいけど、近代になるにつれてそれも薄れていったのだとか。現状、普通に勤務してらっしゃる公僕の皆様は、怪異や妖異どころか退魔師の存在すら知らされていないそうで。……まあ人間、自分が体験できないものはそうそう信じられない物だし仕方ない。
それにしても、と葉狩さんは前置いて言った。
「氷上君の手際は素人とは思えませんでした。流石にベテランと比べれば劣るでしょうが、新人とは言えないレベルの高さです!」
あっるぇー? 僕、お試し期間中の見習い以下だったはずなのに、段階すっ飛ばしてるー? 存外に高評価!
「ええと、それって……?」
「やっぱり正式に退魔師に……なってみませんか? ……その、私も一人でいるよりは心強いですし」
バイトでも良いですから! とまで言われちゃった件。かわいい女の子にここまで頼られて「否」と言えるか? それこそ否! ある意味命がけのバイトになりそうな予感がしないでもないけど、まー何とかなるさー。
「−−バイトします!」
この間、おおよそ三秒。即答です。可愛い女の子と公然とご一緒できて、お金ももらえるとか最高じゃん?
−−そこ、色香に迷わされたとか言わない!
『……オトコノコって悲しいイキモノだよね』
シィさんもそーゆーこと言っちゃダメ。
*
「ところで、依然として町の南側がヤバイ件なんだけどさ……」
葉狩さんが境界を修復したとはいえ、それはあくまでも応急処置。朱雀さんが不在で、裏鬼門も開けっ放し状態であることに変わりはない。放っておけば、オニさんズは再び復活することだろう。……今の世の中、世知辛いからね。次は時期的に夏休み明けくらいかなー?
「それなんですが一度、和尚様にも相談してみようと思います」
「まー、それが妥当ですよねー」
『うわぁい、投げっぱなしだぁ』
今日の話し合い意味あったの? というシィさんの視線がチクチクと刺さるけど……意味ならあるさ。だって倒したじゃん、オニさんズ。たった一つとはいえ神隠し案件が解決したのだから、勝利である。小さな一歩かもだけど、人間堅実に生きてくのが良いと思います。それと……餅は餅屋に扱わせたほうが効率いいんダヨ?
「−−それじゃあ。今後ともよろしく、葉狩さん」
『ヨロシクー』
改めての挨拶。ま、一種の節目だしね。就業条件の確認なんて現実的な事とかは、今は端っこに置いておこう。
−−嬉しそうに微笑む葉狩さんが、めっちゃかわいいので。
そんなこんなで、ちょっと変わったバイト始めました!




