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Botanical life 〜ボタニカル ライフ〜  作者: 黒犬 洋平
第1章〜Wonder off into
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第9話 3つのカップ

ヨロシクお願いします。

バルサークは椅子から少し離れた所まで行くと、両手を前に突き出した。



『地に溢るる原初の赤、織りし蜘蛛の糸、示したまえ、熱探知(サーマルイメージ)



一瞬バルサークの両手の周りに赤く光る糸が無数に絡まり、床に吸い込まれ、すぐに消えた。



「うむ……どうやらこの家の周囲には誰も居ないようだな」



両手を降ろし、呟くバルサーク。



「バルサークさん、今のも魔法ですか?」


「…そうだ、炎の精霊の力を借りて周囲の熱を探知する魔法だ。少なくとも1キロは誰も居ない」


「ほんと凄いですね、なんというか…感動です」



バルサークの説明に、一徹は目を丸くした。



「…そうか…ところでイッテツ、私達以外にこの世界に来て誰かに会ったか?」


「い、いえ。誰にも…バルサークさん達が初めてです」


「…そうか、なら問題無いな」



テーブルへと戻るバルサーク。



気がつくとイリアが居ない。どうやらスープの皿を下げに台所に行ったようで、しばらくすると今度は紅茶らしきものを入れた木製のコップを3つ、トレイに置いて運んできた。



「はい、どうぞイッテツ。熱いから気をつけてね」


「ありがとうございます、イリアさん」



コップをバルサークの前にも置き、イリアも椅子へと座る。全員が落ち着くのを待って、バルサークがゆっくりと切り出した。



「まず、イッテツ。自分が来訪者(ビジター)だと言うことは絶対に他人に知られてはいけない。少なくとも現状では、だが」


「はい。でもそれはどうして…?」


来訪者(ビジター)というのは例外なく大きな力を持っていると言われる。大賢者しかり、勇者しかり……イッテツはこの世界に来て間も無い、そんな状態を利用してその力を我が物にしようとする人間が居るかも知れない。もちろん……」


「はい、バルサークさん達の事は信じていますから」


「……ありがとうイッテツ。なんとか手段を見つけて帰るにしても、この世界にいる間、無用なトラブルは避けるべきだからな」



もし一徹が『来訪者(ビジター)』だと悪意ある者に知られた場合、強制呪文や、魔道具で意識を奪われ能力のみを利用されると言うケースも考えられた。


ただこの世界と一徹が来た世界との人間に差は無いので、見た目で看破されるという危険性は殆ど無いだろう。



「そうですね……ところで他の来訪者(ビジター)の中でもとの世界に帰った人は居るんでしょうか?」


「………言いにくい事だが、記述や伝承の範囲でもとの世界に帰ったという者は居ない。今まで勇者や大賢者と言われた者達もこの世界で眠っていると聞く」



苦い顔で一徹に告げるバルサーク、イリアもぐっと何かを堪えるかのように黙っている。だが、意外にも一徹の表情は明るかった。



「わかりました、とりあえず何とかこの世界で戻る方法を探しながら頑張ってみようと思います」



とりあえずだが、おおそよその現状は理解できた。もとの世界に帰ったという前例は無いようだが、それでも何もしないわけにはいかない。例え何年掛かったとしても、もし一瞬だけでも戻れれば…たった一人に無事を伝えられればそれで良い。



「…そうか、ならこの家に好きなだけ居るといい。私達も微力ながら協力するつもりだ」



バルサークの提案に両手をバタバタさせながら慌てる一徹。



「い、いえバルサークさん達にそこまでのご迷惑は…」


「何言ってるのよ!!」



突然イリアが立ち上がって、一徹の顔を見るとニッコリと微笑む。



「いい?もう私達はイッテツを助ける、力になるって決めたの。たとえ、それが迷惑になったとしてもね!……め、迷惑……じゃないわよね?」


コクコクと頷く一徹。



「はー、良かった! 話は決まりね! それじゃ私はイッテツのお布団を準備するわね」



そう言って席を立つとイリアは奥の部屋へと鼻歌交じりに消えていった。



「…とりあえず今日はもう遅い、今後の事はまた明日にでもゆっくり話そう」



「はい、ありがとうございます。本当に…なんてお礼を言えばいいのか…」


「あ、そうそうイッテツ!」



突然部屋の奥からイリアが顔だけひょこっと出した。手には生成りの木綿の服を持っている。


「寝巻きはベッドに置いておくから、脱いだ服は横のカゴに入れておいてね! それと寒かったら毛布を出すから言うのよ?……あ、飲み終わったコップはそのままでいいから!」



イリアはそれだけ言うとまた、ふんふんと歌いながら部屋の奥へと消えていった。パタパタと忙しなく動き回る音がリズミカルに聞こえてくる。バルサークを見ると柔らかく苦笑していた。



「そういうわけだ、イッテツを助けるのは私達のワガママでもあるんだ。頼まれてやってくれ」



その日、一徹は暖かな布団に包まれ、朝までぐっすりと眠ったのだった。


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