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精霊の剣  作者: 堀井和神
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集合03

 運命の糸か、はたまた悪魔の誘いかは知らないが、丁度洞窟を出ようとした時だ。

 そこに、件の主犯とおぼしき人物が立っていた。

 その姿、完全武装した戦士!固くなめしたスタデッドレザーアーマー(鋲打ちの皮鎧)にヒーターシールドにブロードソード。どっかの兵士といっても差し障りのない程の様相をしている。

 非常に不味いぞ。さっきの魔法使いとの戦いで、著しく戦う力を消費した私達だ。

 勝てる見込みは………あるのかしら?

「やったろうじゃねぇか!毒を食らわば死んじゃうよだ。悲劇の主人公!ガディ=ローランツここに、悪の親玉を倒すだ」

 あっガディがとうとう切れた。切れたら怖い。

 しかし、誰が主人公だって?しかも!“悲劇”付きの?

 背中に背負ったグレートソードを抜き、勇んで切り込む。

 敵とガディの剣とが交差する。金属特有の鈍い音と火花を散らして剣が唸る。

 ガディだけに任しておけない。私とウィリも参戦する。

 シェラには、誘拐された彼女達を戦いの圏外に逃がすために動いてもらい、その後、後方で魔法の援護をしてもらう。

 流石に相手は強い。

 どの位強いかと言うこと、オーガーを三匹合わせたよりも強い。

 はっきりいって、トロールよりも強い!ゴブリンが束になってかかっても余裕で勝ってしまう程に強い。私達三人が束になってかかっても、余裕で受けられてしまっている。

 さっきの魔法使いと一緒に戦われたら、間違いなく一瞬にして全滅だっただろう。

 しかし、相手は一人だ。

 三対一。

 勝てないが、負けてもいない。剣と剣とが交差し、魔法が飛ぶ。数での有利に任せて戦う私達と、質で優る敵。

 誘拐された彼女達を、何とか逃がした時までは互角だった。

「馬鹿め、わざわざ戦い易いように、誘拐した者共を逃がすとはな。こちらも、それ相応に相手をしてやろう。それっ」

<ヴォーパル・ウェポン>

 敵はなんと呪文まで繰り出してきた。

「あいつは、魔導戦士なの?」

 思わず叫ぶ。

「へっ御同業者って訳か」

 相変わらずの減らず口を叩くガディ。でも、あんたのその口の悪さのお蔭で奮い立たされるわ。

 魔法の力は、さっきの魔法使い程の力はないでしょうが、ガディよりも強力なのは火を見るよりも明らかだ。

<エネルギーボルト>

 魔法の矢が、ガディを襲う。抵抗するが、あまり役にはたっていない。

 まずいわ、既に全員が、精も根も尽きかけている。

 ガディが全面に立って剣を交え、私とウィリが入れ換わりで回復の魔法を唱えつつ剣を交える。そして、シェラが炎の矢を敵に向けて飛ばす。

 戦い方は悪くない。けど………。

 こちらの動きが緩慢で、剣の運びも悪い。

「ガディだらしがないぞ。それでも、敵と同じ魔導戦士なの?」

 激を飛ばす。が、その声は息絶え絶えでかすれてしまっている。

 当のガディはそれに受け答える気力も無く、何時もの悪口を返してこない。

 ………相当疲れているんだわ。

 魔法にしても剣の攻撃にしても、完全に私たちの方が不利だ。

 結果が物語っている。

 あぁそんな~私、もっと色々な恋や出会いを体験したかったのに。まだ、うら若き乙女なのに~。既にウィリが後方で、私達の傷を魔法で治療することに専念している。もう、入れ替わる余裕がないの。でもでも、このままでは焼け石に水。

 何とか相手を倒さないことには、ウィリの方が先に参ってしまう。シェラの精霊魔法も、相手には余り効いてはないようだし。………もうっ、どうすればいいのよっ。

 ヒュンッ。

 きらめきが風を切り裂いた。

 怯む敵の魔導戦士。その背中に短剣が突き刺ささっている。

 誰かが敵の背後に音もなく忍び込み、隙を見つけ油断なく短剣を投げつけたのだ。

 ん?あれ、あの短剣は私のだ。見覚えがあるもの、間違い無いわ。でも、私が投げたんじゃない。私達以外の誰かだ。

 敵の後ろを重点に辺りを見回す。その相手は、直ぐに分かった。

 相手の後ろにそれは居た。頭頂部に生えた一対の猫の耳。それは、アルペイアの特徴である猫の耳。デュナン=レオス。彼女だった。

「応援に来タ。アナタチだけは、危なそうだたからね」

 片言の共通語。しかし、意味は充分通じる。

 助かった、応援にきてくれて。ん?なんでデュナンが私の短剣を持っているの。

 まあいっか。

 彼女の参戦に勇気づけられ、私達は鼓舞する。剣を握る手にも再度力がこもる。

「もう、おしまいね。降伏しなさいな。降伏さえすれば、命は助けてあげます。降伏して、法の裁きを受けなさい」

 調子にのって、私は相手に降参勧告を告げる。

 しかし、それは火に油だった。敵は、その言葉に屈辱感を受けたようで、更に力を入れて挑んできた。

「ふん、塵が一つ二つ増えた所で、大差ないわ」

 相手も鼓舞し、今まで以上の猛攻にさられた。デュナンの参戦にも係わらず、不利は諌めない。

 あぁいらないことを言うんじゃなかったかしら。私達が降参するしか、ってそんなこと言っても無理か………。逃げるしかない。この場合でも、誰かが絶対に犠牲になるし………。

 しかし、今の状況では全滅………。ええいっ。

「みんな逃げて。こいつは私が何とかするわ。だから早く」

 声は叫びに近い。

「ばかやろう。こんな強い相手を独り占めするなんてことは俺が許さん!どっか行くなら、お前が行けっ」

 ガディが、疲れを無視してそう私に反論する。

「ガディ、そう言ってくれるのはあり難いけど、ここでちんたらやってたら、全員が全滅なのよ」

「ふんっ、ログネル。お前と初めてあった時も、こんな時ぢゃったわい。その時は、わしがお前を助けたんぢゃぞ。そんなわしが、どうしてお前を放って逃げるとでも思っているのか!」

 ガディ………、ウィリ……。

「感傷は後にした方がよさそうです。気を抜くと駄目ですよ、エンリルさん」

 シェラが勇気づけてくれる。そうだ、し、しかし、今の状況を打破するためには……でも、どうすればいいの………。なす術を思いつかない。

「そです。折角私が応援してやルのに、やられたらアホだですよ」

 デュナン…。

 勇気づけられ、戦闘は続く。

 ミシリ。

 敵のブロードソードが、私の右脇に当たる。

 鎖帷子で、剣そのものの切り裂きは防げるが、衝撃はそう和らぐことはない。痛みが体を突き抜ける。肋骨にひびが入ったか?呻きを洩らす。

 あーん、痛いじゃないのよ~。などと、泣き事を言っている場合ではない。敵はまだまだ攻撃してくる。何とか、盾を使って凌いでいるが、それも保たなくなってきている。

 全身を襲う極度の疲労と傷。精神の疲れも手伝って集中力を失っている。武器を持つ手も痺れてきている。感覚が麻痺している。剣が重い……まるで鉛を持っているような感じだ。

 ガディもウィリもディナンもシェラでさえ半死半生の状態だ。

 ………もう、持たない。

 そんな時だ。

 朗々とした魔法の詠唱が、森の中から響く。

<エネルギーボルト>

 魔導戦士の背後に閃光が走った。迸るエネルギーの塊が、矢の様に敵に飛ぶ。

「うおおおっ~」

 とっさに気付いた敵は、素早くかわそうとするが、不意を打たれたため、抵抗できずに命中する。

 即座にその方向に向く敵。

 そこにもう一人が剣を上から下へと切り裂く。返しの手で、右斜めに叩きつける。

 敵がよろめいた。

 その動作が緩慢に見えた。

 その隙を見逃さずガディが、渾身の一撃を上段の構えから左肩に叩きつけた。鈍い音が響いた。スタデッドレザーアーマーの装甲が裂ける。

 肉に喰らいくつグレートソード。鎖骨までいってるようだ。剣に赤い筋が走る。

「うっしゃー、やってやったぜ!!!」

 勝鬨を挙げるガディ。

「ガハッ」

 その一連の行動で魔導戦士はよろめいた。剣を地面に突き、片膝をつく。その瞬間、私は最後の止めを加えようと、力を振り絞って剣を振るうとする。

 しかし、止めの一撃はウィリがとった。あっ折角、美味しいところだったのに。

 やった。

 とうとう倒した。

 どうにかこうにか。

 本当に、どうにかこうにか相手を倒した。

 尻餅をつき、ふぅと息を継ぐ。腹の底からの息。もう安心だ。

 安心した為か極度の疲労の為か、その両方か、私は急に意識が飛び飛びになり倒れてしまった。

 どたっと、顔から落ちる。鼻が痛い……でも、もうそんな痛みは薄れていく意識の中で気にならなかった。


「うっうーん」

 目覚める。気を失ってから、少しの時間が経っていた。

 ウィリが、自分から私にへと精神力を移す魔法を掛けてくれた御陰で眼を覚ましたようだ。ウィリもギリギリの精神力なのに無茶をする。

 日の光りが目にまともに入る。眩しい~。目が眩むな~。………んっ?

 おおっなんと、新たに来た二人のうちの戦士らしき男に抱かれている。しかもハンサム。ラッキー。

 とっしかし、パーティーのリーダーたるもの……自覚はあまりないけどね。何時までも甘えていたいなぁ~。とととっ甘えていられない。

 とっとと起きる。

「どうも、危ないところを救って頂き、有り難うございます」

 二人に助けて頂いたお礼を言い、自己紹介とともに名前を聞く。よしよしよしよし。

「俺は、アルカディア=トーマソン。で、こっちが相棒のサイア=スレローフだ」

 事務的に名乗ってきた。なんか要点しか喋らないな。

 戦士風の長身で、結構ハンサムなのがアルカディアで……、私よりもある!

 魔法使い風なのが、サイアである。なんとハーフ・エルフ。見るの初めてだ。

 何故ここに居るのか聞いたら、実は取り引きの際に相手を逃がさない様に立ち会う?筈であったが、それを果たせず相手に逃げられてしまい、ここまで追ってきたということだった。

 つまり、さっきの魔導戦士のことだ。

 な~んだ、結構未熟者なのね。私達も偉そうに言えないけど。

「それよりも、早く帰りましょう。成功報酬が欲しいですからね」

 淡々と、サイアが進行を促す。そうそう、私達も早く帰って休みたいものだわ。

 と、ここでのんびり会話していても仕方ない。私達は逃がした女性達を呼び集め、一路もと来た道を辿って帰ることとなった。


 誘拐された女性達は、余り遠くへは逃げて行かずに、私達の戦いを観戦していたらしく、見つけることはたやすかった。女性達を全員集めて帰った私達は、依頼は成功ということで、約束の成功報酬を貰うことになっている。

 この冒険で、知り合ったアルカディアとサイアとは後日、私達が常用している“安息亭”で会うことにして、街に着いてから一旦別れた。

 ただ、シェラは行き場がないので、私達と一緒に行動することになった。これで、私の一人部屋が二人部屋になってしまった。只でさえ、広くもない部屋が一層狭くなってしまった。

 お金さえあれば………言うまい。


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