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精霊の剣  作者: 堀井和神
3/4

集合02

 ふ~ん自然の洞窟って感じで、中へと続いている様子だ。

 しかし、聞いた情報では中は結構入り組んでいるし、奥は整地されてもいるとのことだし、色々なガーディアンが居るという話らしい。

「でも、外からではほんとにそうは見えないわね」

 何気なしに呟いた。

「ふんっ、どうせ古代の遺跡かなんかが、たまたまゴブリン共の掘った穴と繋がっただけじゃろうな」

 入口に立つ一匹の衛兵が、何者かを悟ったウィリは、さも機嫌が悪そうなものいいで、私に言葉を返す。

 ………ごもっともです、ウィリバルトさん。

 で、その入口にはウィリの機嫌が悪くなる原因、ゴブリンが1匹見張りをしている。

「なぜ、一匹だけなのかしら。普通なら三~四匹位はいる筈だけど。

 ………あ、シェラを見る。にこにこしながら彼女がばらした。

「はい、ここに来て追いかけられました」

 真相は単純なものであった。

 ま、それで門番が一匹になっているのは怪我の功名だ。だけど、あまり時間をかけているわけにもいかない。もう戻ってこれないゴブリンだ。伏兵が存在してるのではと考えられ警戒があがるのは不味い。

「ウィリ、この場合ってどうしたらいいかしら」

 入口の前にある、鬱蒼と茂っている茂みの中に隠れながら、知恵袋であるウィリに打開策を聞く。

 1つ咳払いをして、ウィリは答える。

「ゴブリン共など、倒すのは簡単ぢゃ。しかしだ、戦いになって中にいる仲間を呼ばれると、後々面倒なことになる。だから、相手に気づかれずに近づき、速やかに倒すことが最良の方法なんじゃが」

 そこで言い淀む。

「なんだが、なに?」

「今、わしらには盗賊関係の奴がいない」

 ぎゅっと拳を作り、かっこつけて言い切る。

「いないわね。で、どうするの?」

「どうしようもない。だから、その作戦は採れん!わしらに出来るのは、見つからないように近づけるだけ近づいて、突撃をかけるしかない」

 鼻息荒く、得意満面にそう言い切る。

「それじゃ、相手には……」

 大体の察しはつくけど、一応聞いてみる。

「気付かれるぢゃろうな。確実に」

 自慢気に断言する。……やっぱり。

「それにもたもたしとる時間もない」

 そう、主犯格が今ここにいない。

 実は、今別の場所では誘拐された彼女等(レオスの他にも沢山さらわれていた)の身の代金の受け渡しをしている。

 その間隙を縫って、私達は彼女等を救出に来ているのだ。お金を渡しても、誘拐された彼女達が戻ってくる保証はないから。

「はぁっ、何かいい手はないから」

 思考を巡らすが、出ないものは出ない。

「ええいっまどろっこしいぜ!下手に考えるよりも、一気にいっちまった方がすっきりする。行くぞ!」

 痺れをきらしてガディが、剣を引き抜き出ていこうとする。

「あっこら、待ちなさい!」

 ガディの首根っこを押さえ付け、行くのを阻止する。

「えーいっ、このっ短気が。少しは考えるってことをしなさいな。それでもあんたは魔導戦士なの?それじゃ、ただの狂戦士だよ」

 ぼそぼそ声で叱りつける。

 ガディもそう言われては黙るしかない。なにか反論したそうに口をぱくぱくさせてはいるけど、何も浮かばないのか声に出ない。ええいっ、うっとおしい奴め。

「あのですねぇ、見張りは御一人の様ですから、精霊さんにお願いしてもらって何とかしてもらいましょうか?」

 シェラがそう進言してきた。

 精霊魔法とは、地水火風の4大元素を司る精霊達と契約することで行使できる魔法である。私とかウィリの使う神聖魔法やガディの使う真言魔法と並び称されている魔法だ。私とウィリは基本的に攻撃的な魔法は無いし、ガディは力量不足で十分に使いこなせない。

 私はそれしかないという感じで、喜んでその進言を受ける。

「では、シェラ!いきます」

 元気良く言い放って、魔法を唱える。

<ファイアーボルト>

 シェラの前に突如として炎が発生し、くるっと回転して球となり、ゴブリンに向かって飛んでいく。ものの見事に命中!

 ゴブリンは、魔法の炎の前に、あっさりとその身を焼かれ絶命した。

 やるなー、私もそんなことができれば……いやいや、私は聖戦士!そんな事を考えてはいけいない。自分の役所を間違えてはいけないのだ。

 にしても、エルフって火を嫌っているんじゃなかったけ?あっさり使うもんだ。精霊魔法はまた別腹なのだろうか。

「そうだ、シェラにはいこれ」

 ダガーを手渡す。

「武器なんて持っちゃいないでしょ。一応護身用にもっておきなさい」

 予備の武器を渡す。残りは3本。使い切ることはないと思うが、用心するにこしたことはない。


「ウィリ、そっちに罠はなかった?」

「うむ、これといって罠は無いな。ま、用心することにこしたこはないが、何も入口から罠は仕掛けてはおらんぢゃろ」

 私とウィリで入口に罠がないかを調べている。ガディとシェラは回りを警戒してもらっている。奇襲の警戒のためだ。

 入口の罠で多いのが、鳴子だ。

 鳴子というのは、細い紐とかを入口の足元等に張っておいて、それが引っ張られることで奥に繋がっている木片や金属片に連動して鳴り響き、侵入者がいることを知らせるという罠だ。

 鳴子自体からは直接被害を受けることはないが、相手が完全武装して襲ってくるというあり難くないものである。

 結局、鳴子とかの罠は発見されなかった。でも、そういった専門職ではなから気付かずにいるのが本当かもしれない。だから、慎重に行動するにこしたことはない。

 奥へと進んで行く。中は暗いので、松明に火を灯す。松明はシェラに持ってもらった。

 少し広めの部屋状の空間へと出た。部屋には、四本の柱と四体の彫像が、柱に一体づつ飾られている。どうやら、ここから舗装されているようだ。

 ということは遺跡だ。

 四体の彫像は、男女二体づつになっており、男は筋骨隆々の構え、女は見事な曲線を描いており、どちらも完璧な裸体をしていて、素材は大理石で出来ているみたい。

 こらっ、ガディ何をじろじろ見ている!!全く。

 用心しいしい、奥へと続く道を探る。松明の作りだす影が不気味に揺らぐ。何時でも剣を抜けるように手を柄へと置いておく。チェインメールの音だけが、遺跡の中で谺する。これまた不気味ね~。

 と、突然彫像が吠えた。なに?どうしたっての?

「スタチューか?ゴーレムか?」

 矢継ぎ早に叫ぶガディ。

「こんなとこにゴーレムなんかあるもんか。スタチューに決まっとる」

 送り手で言い返すウィリパルト。

 どうやらガーディアンとして作られたスタチューみたい。

 スタチューとゴーレムってのは、どちらも彫像とかに魔法をかけて、生きているかの如く動き廻らせた物の事をいう。スタチューとゴーレムの差は、単純に分けると、それが魔法や魔法の武器とかで倒せるかどうかの差である。スタチューは比較的簡単に作れるが、普通の武器でも倒せる。逆にゴーレムは専用の触媒が必要で、作るのにも何日、何ヵ月、いや何年と歳月を費やして作らなければならない。

 その分、魔法や魔法のかかった武器等でしか倒すことはできない。相手にすると厄介なことこのうえないし、今の私たちでは倒すなんて事どころか傷を付けることさえできないだろう。なにせ、魔法の武器なんか持っているわけないからね。

 スタチューとかは、手入れ要らずの番兵としてよく使われる。

 今回も、その役だ。

 これで、中にいる奴等に知られてしまったことになる。後の展開が辛くなる。しかし、今はこの敵を排除するために、向かってくるスタチューを何とか倒さなくてはいけない。ここで、やられる訳にはいかないもんね。

「行くわよ、ガディ!ウィリ!」

 掛け声を発し、一斉に私達は行く手を阻むスタチューに挑み掛かった。

 私とガディが前衛、ウィリとシェラが後衛の陣形を築く。ウィリも戦闘はできるが、ヒール役に廻ってもらっている。

<ヴォーパル・ウェポン>

 ガディが使っているのは真言魔法だ。人が初めて使用した力ある真名を呪文として唱え、具現化することで効力を発揮するものなのだ。

 呪文を詠唱し、“自分”のグレートソードに魔力付与を行う。ちょっと私のにもかけなさいって。

 まっ、そんな余裕はないけどね。

 目前まで迫るスタチュー相手にロングソードを振るう。

 腕で防御されるが構わず振り切った。ゴトリと重い音、スタチューの腕が折れて地面に落ちた音だ。

 そのままヒーターシールドをブチ当て、吹き飛ばして間を作る。

 もう一体の拳が襲ってくるが、予見された動きだ。振るわれる腕目掛けてかえす仕種でロングソードを薙ぐ。

 がちりと腕に食い込むロングソード。流石に初撃の上段から振るったのと違って威力は出ない。が、相手の攻撃を止めることはできた。

 動きが両者共に停まる。その一瞬、踏み出した足を刈ってバランスを崩させる。

 たたらをふむスタチューにヒーターシールドで更に追撃、地面目掛けて叩きつけ転倒させた。

 よしっ。

 振りかぶるロングソード。立ち上がろうとするスタチューの脳天目掛け叩きつけた。

「ふぅっ」

 一息つく。一瞬の攻防はやはり神経が疲れるわね。

「バカッ」

 はっ。振り向くともう一体が突進してくるのが目に入る。まだ戦闘は終わってないのに私ったら何を気を抜いてしまったのよ。

 突進に構え、身を硬くする。

<ファイアーボルト>

 炎の矢が飛んできた。スタチューに命中し破片をまき散らした。

「助かったわ、シェラ。それとウィリ」

「いいから、残りを片づけろ」

 叱咤が飛ぶ。

 視線を前に向ければ、ガディが一体を倒したところだった。残り一体、さっさと倒してしまおう。


「わははははっお前達、よくここまで来たな。しかし、ここまでだ。この私と出会ったのだからな」

 大笑いしながら言う魔法使い。ふんっあんたなんか怖くはないわよ。弱気を振り払い強気にいく。

 正面にはスタチュー二体と魔法使い。またスタチュー。こいつが作ったのだろう。

「これで、貴方が最後よ。おとなしく観念しなさい」

 こちらも負けじと、言い返す。

 なみいる敵をなぎ払い、洞窟の奥深く進み、ようやく最後の敵といえる魔法使いが目の前にいる。その後ろには牢屋があり、さらわれた女の子達がいる。

「バカヤロー!テメーなんか髑髏にドたま突っ込んで、明後日の方向向いて、太陽が西から登ってくるのを待っていやがれってんだ、このド変態の色情魔。悔しかったらへそで逆立ちして、延髄で茶でも沸かしてみろってんだ、塵溜め唐変木野郎」

 中指を立てて一気に捲くし立てるガディ。

 ………そこまで言う!

 敵の魔法使いの腕がぷるぷる震えている。あーあ完全に怒らせちゃったぞ。

 魔法使いは、一気に魔法の詠唱に移る。心無しか、詠唱の声が荒い。しかし、それでも詠唱は完璧だ。相当鍛練しているとみうけられる。

 ガディと私は走る。詠唱の間に距離を詰めるため。だが、スタチューが待ち構えている。ちょっとまずい展開だ。

<エネルギーボルト>

 敵の手から魔法の矢が、数本発射されガディを主にして私達を襲う!

 なんとか抵抗しつつ、反撃を開始する。

「潰れろ人形!」

 渾身の力を振るって叩き斬る。

<エネルギーボルト>

 馬鹿の一つ覚えのように魔法の矢が再び襲う。

 くっ、やばい。衝撃が身体を突き抜けた。痛みに意識を持って行かれそうになるが、唇を噛んで耐える。

<ライト・ヒーリング>

 背後から治癒の魔法が飛んできた。ウィリの神聖魔法だ。助かるわ。

 私も一応使えるが、今詠唱している余裕はない。

 神聖魔法、そのままずばり神への信仰によって、神の奇跡をこの世界に実現させる。また、その奇跡は信仰する神によって少しずつ内容が異なっている。

 自分にも関することだから、もうちょっと説明したいが、長くなるのでありていに言うと神頼みなのである。


「でりゃぁ!」

 スタチューを倒し、魔法使いに迫る。

 だが、敵は防御の魔法を使っているらしく、弾かれ攻撃が届かない。それに意外とすばしっこい。

 虚しく空を切るロングソード。もちろんガディの大振りなグレートソードではかすりもしない。

 敵は真言魔法を駆使して、私達を襲う。強い!ガディも使けれど、その差は雲泥だ。

 こいつ一人でも大変だってのに、主犯格とやらが戻ってきた日には、全滅だろう。分断できて助かっているが、それでも形勢は不利だ。

「どけいっ」

 ウィリが叫んで走ってきた。

 斧を上段に振りかぶり、渾身の力を込めて魔法の防御なんのその、力任せに叩きつける。しかし、魔法の防御は手強い。ウィリの腕力でさえも、完全に破ることは出来ない。魔法防御の重圧が、まるで磁石の同極とで合わないかのごとく斧を弾く。

 間一髪、相手の回避行動とあいまって届かない。

 私とウィリ、ガディが波状攻撃を仕掛けても、間一髪で受け流されてしまう。

「ふははははっどうだ、お前達の攻撃など、ただのそよ風よ。そらっ」

<ライト>

 敵の手から光が私に放たれた。

「しまっ──」

 くっ眩しい。

 瞬間、目を逸らすも遅かった。視界全域が緑色に染まり、視界が回復しない。目潰しをまともに受けてしまった。

「くそっ。この野郎~」

 ガディのグレートソードが敵を襲う。しかし、余裕でかわされる。

 その動きを見計らって、ウィリが渾身の力で横に薙ぐも、敵はその動きも読んでいた。さっとかわす。

 ……はずだった。

<バインド・フット>

 いきなり躓いた。まるで地面から弾かれたように。脚は地面に弾かれ、態勢を崩す。驚愕する魔法使い。

 転ばないように手を差し延べようとするが、それよりも早く、ウィリの斧の薙払いが来た。

 あわれ、魔法使いは腹に斧が叩き込まれ、背骨が折れる音を鳴り響かせ地面にくず折れた。

 結局、相手の脚を弾いたのは、シェラの使う精霊魔法だった。大地の精霊“ノーム”を召還して、魔法使いの脚を引っ張ったのだった。

「よしっ」

 気合一発、ウィリが、自慢の斧を叩きつけ止めを刺す。

「はっはーどんなもんだ!間抜けな奴め。地獄で後悔しな!」

 止めも、傷も負わせていないのに、ガディが決め台詞を吐く。……情けなくないのかね?

「ふうっ。やったね」

 視界が回復しつつあるなか、親指を立てて皆に送る。

「一息つくのは、彼女達を出してからぢゃ」

 ウィリが忠告する。

 そらそうだ、私達の目的は彼女達の救出だもん。彼女達を救出せずに、仕事は終わったといえないわ。

 余りいい光景ではないな~とは思いつつ、魔法使いの死体を探って、牢の鍵を取り出し鍵を開ける。

 これでよし。

 捕まっていた彼女達を救出だ。

「レオス。デュナン=レオスはいる?」

 まずは、確認。

「はいなぁ。あたいがディナン=レオスです。……どして、コの名前を?」

 どうも、私達の使う言葉が余り上手ではないみたいだ。

 でも、自分達の言葉の他に、私達の使う言葉を片言とはいえ、覚えているのだからたいしたもんだ。因みに私はドワーフの使う言葉を少し知っている。

 風貌を確認する。うんっ、デュナン=レオスその人だ。

 そして、彼女達と共に足早にこの場所を去り“冒険”は終わった。

 ………筈だった。


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