俺、貴女のストーカーですけど、貴女を幸せにする権利、もらえませんか?
『じさつするつもりのオペレーターと爽やかなストーカーとの優しい物語書いてー。』
お題いただきました。ヤクザ要素はあまりないです。爽やかなつもりで書きましたが、そんなことない気もします。
もういい。
こんな世界に未練はない。ちょっとしか。
家族、友達-。
みんな大切だった。それでも、あまりにもこの世界は冷たいんだもの。
天秤に載せたなら、やっぱり死にたくなる。
ごめんなさい、ごめんなさい!!
何度も繰り返して、私は崖を進む。
せめて、誰にも迷惑をかけずに死にたい。
明らかに『自殺』だと、思ってもらわなきゃ。
そう思って選んだこの樹海。その先の崖。
コレでようやく、死ねる。
足を一歩前に出す。
震えていた、けれど、確実に一歩進んだ。
ぐらぐらと揺れる。もう一歩進めば、もう。
「だめです!!遥さん!!」
あれ?誰の声?こんな爽やかで優しい声、聞いたことない。
そっか、天使か、私死ぬんだ。お迎えありがとう。
「すみませんっ!」
いつの間にか、声は背後にあった。
そして目の前が真っ暗になり―。
私は意識を手放した。
次に目を覚ましたときにいたのは、ベット。
柔らかな、ふかふかで、寝心地のすばらしいベット。
「あ、ここが天国?」
目を閉じたまま、つぶやく。
「違いますっ!」
その声は、天使の声だった。
「あ、違うの?」
ため息がする。
目を開けると、やっぱり天使みたいな人がいた。
いや、髪は黒いし、目はこげ茶。
顔立ちは、メガネがないからよくわからないけど、オーラはまずイケメン。
優しそうで、爽やかで、草原にたってそう(?)な。天使みたいな。
多分、人とかものとか、大切にするんだろうなぁって雰囲気の人。
「でも君、天使じゃないの?」
「は」
天使(仮)は、ぽかんとした表情をして、その後、泣き出しそうになった。
「なんなんですか。貴女、死にそうだったのに。
ひどい顔して、もう少しで、二度と動かないみたいだった。
俺、怖くて、震えてて。でも助かって。ほんとよかったって思ってて。
でも、俺、今まで、貴女にしてきたこと、許されないのに、天使だなんて・・・。
そんなのあんまりだ・・・。」
ぐすり、と音がする。
そのまま天使(仮)は、ぐすぐすと女々しく泣き出した。
正直に言おう。
意味不明である。
自分はもう死ぬんだと思っていた。
どうやら寸前のところでこの爽やかイケメンに助け出されて、生き残った。
そのイケメンは、許されないとか言って泣き出す。
もう一度言おう。
意味不明である。
天使(仮)はいよいよ私の寝ているベットの胸あたりに突っ伏して、ひっくひっくと嗚咽を漏らしだした。
「あー。その、心配かけて?ごめんなさい。」
「そうですよ・・・。遥さんが死んだら、俺、ほんとにこの世に存在している意味がなくなる・・・。
でも俺まだ死ねないし・・・。
そもそも遥さん、あそこから死んだら絶対痛いです。痛い目になんてあってほしくない。
死ぬなら、即効性のある毒用意するんで、それ飲んでください。」
どうしよう。
この人、何なんだろう。
そもそも私たちは赤の他人である。
いかんせんどうして存在している意味、とか、毒、とか出てくるんだろう。
そもそも、何で名前知ってるんだろう。
しかしそんなことより、
この爽やかイケメン天使(仮)の風貌からなのか、なんとなく、慰めてあげなきゃいけない気がした。
手を、そのやわらかそうな黒髪に伸ばす。
「あー、よしよし?」
やわらかかった。
感触が気持ちよくて、そのまま撫でる。
イケメンの泣き声がとまった。
そうして私の手の上に、自分の手をそっと伸ばす。
ごつごつしているけれど、イケメンは手もすべすべなんだなぁと思った。
「遥さんの、手・・・。」
艶っぽい声と共に、イケメンは顔を上げた。
さっきよりずいぶんと顔が近いので、彼がイケメン(笑)なんていうにはちょっと失礼なレベルのイケメンであると分かる。
めちゃくちゃ綺麗な顔だった。
そのお綺麗な顔が、ふにゃり、と幸せそうに歪む。
正直に言おう。
めちゃめちゃときめいた。
そんなわけで、イケメンさんは私に反土下座状態で事情を説明してくれた。
まず、イケメンさんは冬牙というお名前(苗字は忘れた)で、私の5つと4ヶ月22日年下(本人談)。
職業は副業でなんかの組織の経理をしてて、本業は私のストーカーらしい。
繰り返します。本業は私のストーカーらしい。
普段は副業が忙しいらしいが、時間の許す限り私の生ストーカーをしている。
曰く、「機械なんかに遥さんのことを記録させてくないし、遥さんは俺の目だけが見てればいいんです」
と爽やかな笑顔で言ってくれた。
私が自殺しようとするときも、生ストーカーの真っ最中だったらしい。
比較的インドアな私は、冬牙さんのストーキング中に出かけるのは初めてだったらしく、テンションがあがっていたそうだ。
そのせいで樹海の中に進んだ私をうっかり(本当にうっかり)見失ったらしく、見つけたときには私が崖に落っこちそうだったらしい。
とりあえず救出して、今に至る、ということだ。
「ストーカーとか、気持ち悪いですよね。
本当に、気づかれないようにひっそりと遥さんをみていられればそれでよかったんです。
でも、貴女が死にそうになって・・・。ねぇ、もしよければ、何で自殺しようと思ったか、俺に教えてもらえませんか。」
目が、据わっている。
俺がなんとかすると、言いたげに。
正直、いやだった。
弱い自分を他人に吐露するのは。
それでもこの人は体を張って私を助けてくれたのだし・・・。
言わなかったらどのみちばれそうだったので、話すことにした。
私はオペレーターの仕事をしている。
簡単に言えば、商品に不備があった場合、対処法の説明と、お詫びのお仕事。
もともとは小さな機械会社だったけれど、大手に合併されて私は『お詫び』専門の部署に配属。
事務職と総合で、担当に自分の製品を説明するなどの仕事だったが、いまは不特定多数の一般人と話さなければならない。
顔が見えない分当然いたずら電話もあるわけで。
商品に対する罵詈雑言は耐えられた。けれど関係ない家族の愚痴や、行き過ぎた暴言。
挙句の果てに何度もかかってくる、「パンツ何色?」などどいったものまで。
豆腐メンタルの私には耐えられなかった。
私は自分の会社の製品が好きだったのだ。
趣味が機械いじりの私は、自分の会社の製品をなにからなにまで説明できた。
「桐原さんはほんと、会社の製品をなにより分かってるね。」
「総合的な知識だったら、桐原が一番。」
そう言ってもらえるだけでよかった。
世の中の悪意の一端に触れてしまった私。
それに耐えて生きている人がいるのも知ってる。
そんなこと、と笑い飛ばせばいいのも知っている。
けれど私は家族もいない。
転職しようにも、家庭の事情から出来ない。
どうしようもなく、がんじがらめになって、死ぬしかない、なんて。
私は、弱い人間なんだ。
「私の話は、これで終わり。」
いままでずっと窓を見ていたのだ。
そういえばここはどこだろう。
たずねようと思ったとき、冬牙さんの握ったこぶしから、赤い血が出ていた。
「ちょ、ねぇ、血が!」
「すみません。」
その言葉の後、ぎゅっと痛いくらい抱きしめられた。
「俺、見てるだけでよかった。
初めて自分の心から、すごく好きなもの、見つけられて、それで、おれ、すごく、幸せ、だった。
俺、自分の幸せしか、見えてなかった。
遥さん、辛くてもいつも笑顔で。
前に一回だけかけた電話の、お仕事の声、すごくやりがいがあるって言ってて、俺、油断、してて・・・。
遥さんこんなに辛い思いしてたのに・・・。」
いや、アンタが気に病むことじゃないでしょう。
「ごめん、俺、遥さんから幸せいっぱいもらった。だから、今度は俺が遥さんを幸せにする。」
そして何かを決意したように、私の目をまっすぐ見つめた。
「俺、貴女のストーカーですけど、貴女を幸せにする権利、もらえませんか?」
―だれよりも、大切にするから・・・。
私はぽろぽろと泣き出した。
泣いたのは、いつぶりだろう。
その涙を、目の前のストーカーは指で掬ってなめる。
そのうち直接なめだした。
「俺に、貴女を幸せにさせてください。」
最高に爽やかで、かっこよくて、私をとろろかすような、笑み。
正直に言おう。
私はそのとき、どうしようもなく、幸せだった。
結論として。
私は無事仕事をやめた。
紆余曲折あったけれど、冬牙さん(今はフユって呼ばないと怒る)と婚約した。
実はフユがヤのつく組織をしてたり、私をあの部署に入れたのは、親の保険金をぼったくった叔父夫婦の嫌がらせだったり、
フユが私と婚約したことで、副業が本業になり、組織の人に大いに喜ばれて、姐御なんてよばれちゃったりして、今は幸せだ。
本当に私は、だれよりも大切にしてもらってる。
「これは俺の権利です。」
なんていって横暴してくるけど。
フユって犬みたいって笑ったら。
俺は貴女の犬です。なんて言ったり。
私はそろそろ言うつもりだ。
「貴女の隣に一生いる権利、もらえませんか?」って。
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