ありんこ
俺はコンビニで買ったおにぎりを持って公園に来た。木陰にあるベンチに腰掛けて食べる。
俺の昼飯だ。営業の仕事をしている俺の定番だ。むなしくはない。家族のために建てた住宅ローンがまだ二十五年も残っている。妻の、娘のために頑張っているのだ。
足元を見ると蟻が歩いている。せわしなく歩いて餌を探している。こいつらはたった一匹の女王蟻のために働いているんだ。
俺はおにぎりのご飯粒を幾つか彼らの周りに落としてやった。すぐに蟻たちは一生懸命運んで行く。
「お前達、なんか哀れだな。」
俺はそう蟻に話しかけると、午後の営業に回るために立ちあがった。
その時どこからか声がした。
『お前も俺達と変わらないだろう? ま、お互い頑張ろうや。』
俺は驚いたが気のせいなのだろう。
きっと俺の心の声なのだ。




