地上の聖家族
この作品を完結にしてから二ヶ月余、
読み直し、編集した末、
ある一種の終わりの可能性に気がつきました。
サブタイトルはその表れです。
何も無く、ただ弛舞うだけの空間、
色も無い、形も無い、言葉すら存在さない。
質量は生きられず、魂と精神だけが存在する事を許される高次元的な空間。
何もかもが退廃的で、
今に滅びゆく空間。
“また、ここに来たか…”
この空間には時間と言う概念が存在しない、
全ては無限であり永遠であり同時に零だった。
質量がない、つまり重力が無いから当たり前だ、
ここはありとあらゆる法則から開放される世界だからな…
ニュートン力学ですら、
いや、それだからこそか……上も下も、前も後ろも、右も左も、
そして生と死すら存在しない世界、
何も変わらない、何も進ま無い、永遠にして零であるがゆえ、究極の恒常性を抱擁する世界。
だが!
そんな退屈許されない!
いや…違うな、
本当は謝りたいんだな…
俺が犯してしまった罪を、
罰によって贖うなど赦してもらうための工程に過ぎ無い。
弟達に、父親に、そして母さんに、
愛して居たから、愛されたかったから。
だがそれももう出来まい…
何故なら俺の魂は既にあの時…
女神に存在を消された時にリセットされて居るんだ…
ただ在る精神だけで思うのは来るべき死の義務と、生きる権利だ。
きっと、兄として俺を覚えて居たナツヒコは同じく、誤った運命で死んだためだろうな、
まぁ、向こうは『死』んだだけだ、
ただ、タンパク質の魂を封じる檻が壊れただけだ。
俺の様に消滅した訳じゃ無い、
父さんもその死を悲しんで居る事だろうな。
勿論……死んでしまったというナツヒコの母親も、
自らの胎から出た子を愛おしめども恨むのは筋違いだからな。
俺は、消えたから、
父さんも母さんも覚えては居ないだろうな、
いや…それも運命か。
そして、新生した喜び……定められぬ宿命だな。
思えば、残酷な運命の元に有ったのかもな、
俺よりも不幸なヒトなんかいくらでも居るだろうけどさ…
光が現れる、
それはあ触れる様にあり得割れ目を作り徐々に広がってゆく、ら
『マトリックス』が消えて行くな……
ただでさえ消えかけた精神ではもう持続させる事もまま成らないか…
消滅して行く非質量空間、
溶け出して行く魂や、俺の精神…
名前も、因果も、柵も…
運命さえ…。
☆☆☆
とある世界、
とある病院…
そこで、一つの産声が上がった、
その子を産んだのはまだ若い夫婦だった、
「生まれましたよ、元気な男の子です」
助産師の看護婦は取り上げたばかりと赤ん坊を、その子の母に見せる。
「おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ!」
赤子は泣いた、自分がこの世界に生まれた喜びを、
生まれてしまった苦痛を。
何故己は再び産まれたのか、
生きる力、その権利はとうに失われたはずだ、
だが、泣いた、
己の存在を、確かに存在する『命』を、
見せつけるため、泣いた。
そのあまりに小さな胸に炎の様に鼓動する『命』故に、
眼からは涙がとどめなく溢れる様で有った。
だが、
涙を浮かべて居るのは赤子だけでは無かった。
「う…生まれた…」
夫婦の、夫の方は今にも気を失いそうな愛しい妻の方に向かって、
手を握りながら…目に涙を浮かべて感謝の意を述べた。
まだ若いこの夫婦は互いに愛し合い、
子を望み、始めての出産に、始めての子供に感動を隠せないで居た。
夫から漏れた言葉はその気持ちの表れ、自らの遺伝子を、生命を受け継ぐ子への尽きる事の無い愛故だった。
妻も、貧血や疲れからか、
まだ蒼い顔をして居るが、その瞳には輝く炎を持って、
名を考えてきて居たと言う夫に期待を……愛を込めて聞いた。
「名前は…この子の名前は決まってあるの?」
「勿論だよ、この子は…この子は令、桜宮 令だよ!」
ーー父さん…?
★本当に
おしまい★
(前書きの続きですが)
それは、前話が死エンドだったのに対し、
こちらはその続き、死んだ後の誕生を書きました、(作者的には前話こそが『思想的に』トゥルーエンドですが)
つまり、
三位一体に対するアンチでは無く、
俗物的に、父親と共に生きる事に成ったんですね。
令はこれから生まれてくる弟達と幸せに過ごす事になるでしょうね。




