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第一章ノ1 『ク』
プロローグ
粉雪が、風に乗ってやってきた。
風は、上へ下へと、何の意味もなく移動する。
粉雪は、無表情に白い地面を見下ろして、上へ下へと移動する。
もう、空中に漂う事のできない雪を、自らもこうなる事の悲しみも、恐れも見られない、「無」の表情で見下ろしている。
まるで、船に乗ってきた異国の人々。
もう、元の国へは、戻れない。
その現実を、ただ無言に受け取っているかのように。
船は、何かを思い出したように、唐突に去っていく。
残された異国は、下へ、下へ。
白の世界に着いたとき、異国の人々はその世界の住人となる。
また。
船がやってきた。
異国の人々と共に。