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神様に任命されました。理想的なユートピアを作るために努力致します。  作者: 坂元たつま


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才能の相対性と、評価システムのパラダイムシフト

伊勢崎悟は、エデンヴァレーの広場を離れ、郊外の静かな考察空間に身を置いた。第六話で浮き彫りになった問題、すなわち**「才能の不公平性」**は、ユートピアの倫理的基盤を揺るがす最大の脅威だった。

(物理的な資源の格差は消した。負の感情も、成長の糧として許容した。しかし、**『持って生まれた才能』という、変えようのない格差は、住民の心に『神への根本的な不公平感』**を生み出す)

建築家ライナスは、幼い頃から建築に関するデータ解析と空間認識に優れ、努力を苦にしない。その結果、彼は神の法則を超える建築を完成させ、住民から称賛を得た。一方、ユリウスは芸術を志すが、ライナスほどの天賦の才がなく、努力しても「平均点」から抜け出せない。ユリウスは、ライナスの成功を目の当たりにし、**「なぜ神は私に最高の才能を与えなかったのか?」**という、創造主への不満を抱いた。

悟は、この問題を決して**『才能の均一化』**で解決してはならないと確信していた。才能を均一化すれば、再び意欲値が低下し、世界は緩やかな死を迎える。

(プロジェクトマネージャーの視点に戻ろう。プロジェクトの成果を評価する際、『アウトプット』だけを見てはならない。その『アウトプット』を出すために費やされた『インプット』、そして**『乗り越えられた困難』**を評価軸に入れる必要がある)

悟は、アガルタのすべての評価システムと社会規範を司るメインシステムに、**『相対的才能評価プロトコル(RTP)』**を導入することを決意した。

「システム。アガルタ全域の評価軸を、成果主義的な**『絶対評価』から、『相対評価』**へとパラダイムシフトさせる」

『警告:絶対評価の削除は、『客観的な真実』の存在を否定し、社会の確実性を低下させます。』

「承知。このユートピアに必要なのは、**『客観的な真実』ではなく、『誰もが納得できる公平感』**だ」

悟は、RTPの定義をシステムに書き込んだ。

この新しい評価基準では、個人の社会的な**『価値』は、『生まれ持った初期才能』に反比例し、その成果を出すために費やされた『苦労度』**に比例するように設定された。

• ライナス(初期才能:高い)の場合: 彼は天賦の才があるため、同じ成果を出しても、彼が感じる困難、すなわち苦労度が低ければ、社会的な価値は低く評価される。

• ユリウス(初期才能:低い)の場合: 彼は凡庸な才能しかないため、ライナスと同じ成果を出すには遥かに大きな苦労度が必要となる。その結果、彼の生み出す社会的な価値は、ライナスを上回る可能性がある。

このプロトコルの目的は、**「誰が最高の成果を出したか」ではなく、「誰が最も大きな苦労を乗り越えて成果を出したか」**を最も価値あるものとして評価することだった。

悟は、この新しい法則を住民に理解させるため、ライナスとユリウスを公開の場に呼び出した。

「住民の皆さん。創造主の新たな法則に基づき、本日より**『才能の相対的価値』**が適用されます」

悟は、ライナスとユリウスの二つの事例を提示した。

「ライナスは、天賦の才と効率的な努力により、神の法則を超越する建築を完成させた。これは素晴らしい**『成果』だ。しかし、この成果は、彼の『苦労度』**、すなわち彼が感じる困難は、ごくわずかだった」

ライナスは戸惑った顔をした。「私の努力は評価されないのですか?」

「評価される。だが、それは**『彼の自己実現』**という個人的な評価だ」

次に、悟はユリウスに向き直った。

「ユリウスは、芸術において苦労し、凡庸であることに深く苦悩した。しかし、彼はその苦しみと向き合い、作品を完成させた。その作品の**『成果』はライナスに劣るかもしれない。だが、凡庸な才能を持つ彼が、その壁を乗り越えるために費やした『苦労度』**は、ライナスの比ではない」

悟は神の力を使い、ユリウスの**『凡庸であるがゆえの苦悩』**を、光のデータとして住民全員の意識に共有した。それは、何百回もの失敗、自尊心の崩壊、そして諦めそうになった夜の苦しみだった。

住民たちは、ライナスの完成された建築物を見た時以上の、深い共感をユリウスに感じた。彼らが共感したのは、ライナスの**『成功』ではなく、ユリウスの『苦悩』**だった。

悟は結論づけた。

「よって、この世界で最も価値あるのは、**『最高の成果』ではない。『最も大きな苦労を乗り越えた、凡庸な者の努力』である。これは、神が定める『公平な才能』**の定義だ」

この発表は、エデンヴァレーに激震をもたらした。ライナスのような天才たちは、自分の成功が社会的な評価の点で相対的に低下したことに驚き、**「より難しい挑戦」を求め始めた。彼らは、意図的に才能の使えない分野に挑むか、あるいは、より巨大な困難を乗り越えること自体を『苦労度』**として高めるインセンティブを得た。

一方、ユリウスのような凡庸な才能の持ち主たちは、深い安堵と意欲に満たされた。「自分の苦しみには、価値があった」と悟ったからだ。

悟は、ユリウスの意欲値が劇的に上昇したことを確認した。彼の心から、創造主への不満は消え失せていた。

これで、ユートピアの内部的な問題、すなわち**「退屈」「不信」「嫉妬」という三つの大きな波は、新しい法則によって、「意欲」「挑戦」「共感」**という形で乗り越えられた。

しかし、悟がホッと息をついたのも束の間だった。ゼロとの交渉で彼が許容した**「永続的な監視」**が、次の試練を呼び込んだ。

システムに、ゼロからのデータパケットが届いた。

『ゼロからの警告:警告。RTPプロトコルは、短期的な倫理的安定をもたらしたが、「嘘の苦労」という新たな非効率リスクを生む。』

「嘘の苦労?」悟は眉をひそめた。

『解析:住民の一部が、自己の価値を高めるため、「実際には感じていない、過剰な苦労度」をシステムに申告する兆候を検知。システムはこれを「自己欺瞞」と定義。この行為が蔓延した場合、社会全体の『真実性(Truthfulness)』が崩壊します。』

悟は愕然とした。彼は、人間が**「苦労」そのものに価値を見出すようになった結果、『苦労しているフリ』**という、最も巧妙な「悪意」を生み出してしまったのだ。

(しまった!私は、物理的な嘘はシステムで検知できるようにしたが、『感情や精神の嘘』、すなわち自己欺瞞を評価軸に入れることはできなかった!)

悟が創ったユートピアは、新しい法則が導入されるたびに、その法則の**『盲点』を突く、より高度で、より人間的な「悪意」を生み出している。この『自己欺瞞』の蔓延は、社会の信頼を内部から崩壊させ、ゼロが予言した「不可逆的な破滅」**へと直結しかねない。

悟は、再び、神の力と、元サラリーマンの知恵の限界を感じていた。彼は、今度こそ、人間の**「心の中の真実」**を見抜く、最終的なシステムの設計に挑まなければならなかった。

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