表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様に任命されました。理想的なユートピアを作るために努力致します。  作者: 坂元たつま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/12

凡庸な神の告白と、信仰の危機

エリスの投下した**『真実』**は、アガルタ全域に深い動揺をもたらしていた。

「創造主の代理人である伊勢崎サトルは、完璧な神ではなく、欠点だらけの死んだサラリーマンだった」という知識は、住民の心に**『存在論的な不信』**という、最も致命的な亀裂を生じさせた。

エデンヴァレーの広場は、再び混乱に包まれた。しかし、今回は第四話のような**『安全への恐怖』ではない。彼らは悟に対し、『あなたは何者なのか』**という、根源的な問いを投げかけている。

「サトルさん。あなた様は、本当に私たちを導く存在なのですか?私たちを創った神が、なぜ凡庸な人間に世界を託したのですか?」

「私たちの完璧な世界が、凡庸な人間の**『プロジェクト』**に過ぎないというのですか!」

彼らが恐れているのは、世界が崩壊することではなく、**『信仰の対象』**が凡庸な存在であったという事実だった。完璧なユートピアにおいて、不完全な存在が神の代理を務めるという矛盾は、すべての法則を無意味にする。

悟は、広場の中央に静かに立った。彼の心には、ゼロの監視と、エリスの不敵な笑みが響いていた。この危機を乗り越える唯一の方法は、もはや権威でも法則でもない。

(嘘をつくことは、できない。愛の法則を導入した今、神である私が自己欺瞞を犯せば、アガルタの倫理的基盤は一瞬で崩壊する。**『真実』を武器にしたエリスに対抗するには、『真実の告白』**で臨むしかない)

悟は、神の力をすべて抑え込み、一人の人間、伊勢崎サトルとして、住民たちに向き合った。

「住民の皆さん。あなた方の動揺は、もっともです。私は、今、あなた方が知った**『事実』**を、否定しません」

広場は静まり返った。

「私は、あなた方の世界を創る前、**『旧世界』**で生きていた、ただの39歳のサラリーマンでした。名前は伊勢崎悟。私は、才能に恵まれた天才ではなかった。むしろ、失敗を繰り返し、常に不安とプレッシャーの中で生きてきた、凡庸な存在です」

悟は、生前の自分の凡庸さを、住民の意識に共有し始めた。それは、プロジェクトで犯した小さなミス、出世の不安、深夜まで続いた残業、そして、最終的にトラックに轢かれて死んだという、**『無意味な終わり方』**の記憶だった。

住民たちは、初めて見る**『不完全な人間の記憶』**に、ショックを受けた。

「では、なぜ、その凡庸なあなたが、私たちの創造主に選ばれたのですか?」一人の住民が叫んだ。

悟は深く息を吸い込んだ。ここからが、彼の**『神の代理人としての存在意義』**を賭けた告白だった。

「神様が私を選んだのは、私が凡庸だったからです。あなた方は、私を『完璧な神の代理人』として見ていた。しかし、私を選んだ神様は、**『完璧な存在は、真のユートピアを創れない』**と知っていたのです」

悟は、ライナスとユリウスの事例を例に出した。

「ライナスのような天才は、凡庸な者の苦しみを、真に理解することはできません。苦労を知らない者は、**『苦しみが連鎖する原因』**を見抜けず、法則を創る上で必ず盲点を生じさせる」

「私の旧世界での人生は、**『苦しみのデータ』で満たされていました。競争、嫉妬、不信、疲弊…私は、あなた方が今、乗り越えようとしているすべての『負の感情』を、実際に体験し、その非合理性と、それでも生きる『意味』**を知っている」

悟は、静かな情熱を込めて語り続けた。

「神様は、『苦しみを理解し、それを乗り越えるための法則』を創るには、『苦しんだ経験を持つ凡庸な知性』が必要だと判断した。だから、私は、あなた方が凡庸さゆえに感じる嫉妬や、努力への苦悩を、誰よりも深く共感できる」

悟は、広場に集まったすべての住民の心に、**「私はあなた方と同じ、乗り越える存在である」**というメッセージを送った。

「私は、完璧な統治者ではない。私は、あなた方と共に失敗し、共に法則をアップデートしていく**『現場のプロジェクトマネージャー』です。私の使命は、あなた方に『絶対的な信仰』を要求することではない。私の使命は、あなた方が、『私のような凡庸な存在に頼ることなく、自ら真の幸福を定義できる日』を創ること、つまり『神からの卒業』**を果たすことです」

悟の告白は、住民たちの心に、新たな形の**『信頼』を構築した。それは、絶対的な存在への『畏敬』ではなく、『共感』**に基づく、人間的な信頼だった。

「私たちは、神の設計ミスではない、**『凡庸な人間に託された、希望のプロジェクト』**だったのですね…」

住民たちの顔から、不信の影が消え、新しい**『目的意識』が浮かび始めた。彼らは、完璧な神に創られた『被造物』ではなく、凡庸な指導者と共に、『史上最高のユートピア』という困難な目標に挑む『共同の挑戦者』**となったのだ。

悟の告白は成功し、エリスの企みは裏目に出た。

『エリスからの通信:退屈だね、新米君。君の『自己開示』は、見事な交渉術だ。君は、『真実』を武器にされた時、『より大きな真実』で対抗した。だが、『凡庸な創造主』の存在は、ユートピアに新たな『権力の空白』を生んだ。』

エリスが次に仕掛けたのは、**『信仰の崩壊』の次に来る、『権力への渇望』**だった。

『エリスからの通信:凡庸な指導者には、『後継者』が必要だ。君の世界に、新たな『秩序』を求める者たちが現れるだろう。』

エリスの干渉は、ユートピアの倫理的基盤に、**「新しい指導者は、凡庸なサトルを超えるべきである」**という意識を拡散させた。

その影響はすぐに現れた。エデンヴァレーに戻った悟の元に、二人の住民がやってきた。一人は、天才建築家のライナス。そしてもう一人は、凡庸な芸術家から立ち直ったユリウスだ。

ライナスは、自信に満ちた表情で言った。

「サトルさん。あなたの告白は、私たちに挑戦を与えてくれた。あなたが凡庸で、完璧ではないなら、私たちは**『神の代理人を超える存在』になれる。私は、あなたよりも優れた『合理的な秩序』**を統治できます。私が、次の指導者になるべきです」

一方、ユリウスは、強い共感の目をもって訴えた。

「サトルさん。あなたは、凡庸な者の苦しみを理解した。しかし、あなたはすでに**『神の力』を持っています。真の凡庸の苦しみを抱え、その中でリーダーシップを取れるのは、『凡庸さを乗り越えた私』です。私が、『共感と多様性』**に基づいた統治を目指します」

悟のユートピアは、**『完璧な秩序ライナス』と『共感的な多様性ユリウス』という、二つの異なる理念を持つ後継者候補の出現により、『権力闘争』**という、旧世界で最も激しい苦しみを生んだ状況に初めて直面することになった。

悟は、微笑んだ。

(プロジェクト・アガルタは、いよいよ**『経営統合フェーズ』に入ったな。誰が統治するか、ではなく、『どういう統治哲学』**が真のユートピアを創るか。この二人の論争を、住民全体で議論させることが、私の次の仕事だ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ