1話 贖命再生
俺の人生何だったんだろうな
何だった、とは言ってもたった32年だが
俺は部屋を見渡す
全く、いらないものばっかり買って金を浪費しやがって
もう俺には今日の飯を買う金すらねぇじゃねぇか
俺は棚においてある漫画を一つ抜く
「......しゃーねぇか」
全部売ってみるか
俺は近くのリサイクルショップに来た
ものを売るってのも、人生で初めてだな
そして俺は店員に話しかける
「あの、売りたいんですけど」
「あぁはい、ちょっとまってくださいね」
そして店員は後ろの方から紙を持ってくる
「この書類に必要事項を書いて、こちらの番号札を持ってお待ち下さい」
「わかりました」
俺は受け取り、近くの椅子に座って書類を記入する
すぐ査定するのかと思ってたけど、案外そういうもんじゃないんだな
テレビとかでしか見てこなかったから新鮮だな
そして20分ほど待った後、
「18番様ー!」
俺の札が呼ばれたので、立ち上がる
「あっ...」
俺は19番だった
またしばらくして
「19番様ー!」
俺は今度こそ店員に書類を渡す
「えー、査定を行いますのでお売りになられるものを」
「これ」
そして査定が始まった
家にあった漫画や受験時代の参考書、教科書、あとは買った目的がよくわからないインテリア達、とにかく全部持ってきたので時間がかかりそうだ
結構待って、店員は俺に金額を提示した
「えーっと、申し訳ございませんが損傷の激しいものが多いため、金額はこちらになってしまいますが....よろしいでしょうか」
そして提示された金額は1万1100円
これだけ売って1万円は相当安いが、占いよりかマシだろう
「構いまわない」
「あ、では書類を」
俺は書類を机の上に置く
そして色々処理して、現金で1万1100円を受け取って店を出た
<残金:1万1100円>
空を見上げる
曇天だ
今にも降ってきそうだな
「傘...」
今まで外にも出なかったしな、折角だから、買ってみるか
ま、中古だけどな
俺はリサイクルショップに再び入って560円の傘を買った
<残金:1万540円>
案の定、雨が降ってきた
俺は中古の傘をさして歩き出す
ところがふと気づく
久しぶりに外に出て、久しぶりに店で買物をしただけで、結局金はないし...
「何も変わってねぇじゃん...」
というか、この傘穴開いてんじゃねぇか
はぁ、結局俺はだめなんだな、何やっても
しかし、ここで止まっていてもしょうがないので俺は普通に家に向かって歩いている
するとふと、ある路地が目についた
特になにもない路地なのだが、なんだろう、なにか気になるな
俺は引かれるようにその路地に入っていった
ジメジメした汚い道だ
まぁ、俺の家に比べればそんなこと無いかも知れないけどな
暫く進むととあるフードを被った少女が座っていた
ホームレスの子だろうか、気まずいから目を合わせないように通り過ぎようとした時、少女は呟いた
「...4万...」
4万?4万くれってことか?
「すまないが俺はも4万なんて持ってないぞ」
「そうじゃないわよ」
そう言うと少女は立ち上がり、フードを外す
立ち上がって見下ろすほどの身長
俺は174cmだから160cmいくかいかないかくらいだろうか
そしてフードの下には綺麗な白髪が隠れていた
結構髪は長く腰くらいまである
フードの中にまとめていれていたのだろうか
「4万寄越せなんて言わないわ。こんなところに来る時点であなたお金もなにも無いでしょう」
「それはそうだが、だったらなんだ」
「あなたの価値よ」
少女は俺に人差し指を向けながら言った
「価値?」
「えぇ、買ってあげるわ。あなたの寿命」
少し気になってしまった俺が馬鹿だ
「寿命を買う?そんな話あるわけ無いじゃないかw」
俺は笑いながら答える。が、少女は真顔を崩すことはなかった
「あなたの寿命を1年4万円で買ってあげる。あなたが私に売れる寿命は52年、84歳で死ぬわ」
何を言い出すかと思えば、俺がいつ死ぬかだって?
「そんなこと、信じれるわけ無いじゃないか。そもそもお前は俺の何を知っているんだよ」
すると少女は平然とした表情で言う
「長谷川柳之助32歳茨城県土浦市出身、地元の高校を出て高卒で就職、しかし何の仕事をしてもうまくいかず仕事を転々としながら食いつなぐ人生。だがついに金がほとんどなくなり家にあるものを売払い得たお金は1万円。そして傘を買って穴から漏れる雨で濡れて路地に引き込まれ私と会った」
…何が起きているのだ
初対面じゃないのか?
いや、初対面じゃないとしても詳しく知りすぎている
「おい、なんで知っていんだ」
「さぁ、なんでだろね」
こんなに俺のことを知っているんだったら、寿命の話も本当なのか?
いや、流石にそんなことはないか
「いやぁ、そんなことあるかもしれないわよ〜?」
「ッ!?」
心を読めるのか?いや、バカバカしい、そんなわけがないじゃないか
いやだが、俺の目の前で起きていることが事実
すると少女が俺のお腹を押す
「全く、事実かどうかなんてどうでもいいじゃない。まずはあなたの利益を考えてみなさいよ」
利益?
利益か
寿命の話が本当だとすると、例えば50年売ったらあと2年しか行きられなくなる代わりに200万稼げる
もし嘘だとしたら200万稼げて寿命は減らない
そもそも減ったところでこんな人生が続くだけだ
「じゃ、売るってことでいいかしら?」
やはり少女は俺の考えていることがわかるのだろうか
だとしたらこんな意地悪をしても良いのか?
俺は5年残して残りの47年は全部売ろうと思う
「はぁ、わざわざ私のことを試すようなことしなくても...まぁいいわ。はいこれ47×4で188万円」
そして少女は封筒を俺に渡した
188枚あるかは数えないとわからないが、大量の1万円札が入っている
<残金:189万540円>
「俺は、もう余命5年になったのか?」
「いいえ、色々手続きもあるので、まぁ明日明後日くらいにはそうなってるでしょうね」
俺は封筒を握りしめながら訊く
「なぁ、俺はこの金をどう使っても良いんだよな?」
「えぇもちろん。でもね、お酒とかギャンブルとかはオススメしないわよ。あなたの人生の価値は、あなたがどれだけ人生を楽しんだが、そしてあなたがどれだけの人に与えたか、よ」
俺は少女の言葉を噛み砕いて、一つ訊く
「与えるって、なにをだ?」
「いろいろよ。お金も、まぁそうだし、愛情、友情、親切、色々あるわね」
「そうか...」
まぁ、使い道なんて俺の自由か
「ありがとう、それじゃ」
俺はその一言で家に向かった
振り返ることはなかった
家について、俺は部屋の整理を始めた
まぁ整理というか、目に入るもの全部をひっくり返してるだけだが
そして整理し終えると、いくつか封筒をみつけた
いわゆるタンス貯金だな
全部で5万円分入っていた
もっと早く見つけていたらな
まぁ、もっと早く見つけていたら、もっと速くなくなってたかもしれないけど
<残金:194万540円>
さて、この200万でなにをするかだが、あと5年以内で、俺は色んなところを旅しようと思う
手始めに大阪だ
俺は関東住みで関西には殆ど言ったことがないから、ちょっと気になってんだんだよな
俺は家の荷物を整理し、最低限の持ち物をまとめ、明日に備え、寝るのだった
次の日、2025年10月28日
俺は時計を見る
6時38分
寝坊した
俺は昨日立てた計画では早朝に東京に行って新幹線に乗ろうと思ったのだが、これじゃ乗ろうとしてた電車に間に合わないな
しょうがない、ゆっくり行くか
あと5年あるんだ
<寿命:5年1日17時間22分>
俺は外にも出ないので車は持っていないしそもそも免許もない
だからそこまでは電車で行こうと思う
俺の最寄り駅はつくば駅
ここにはつくばエクスプレス線があって、つくばから秋葉原へ行くことができる
そして秋葉原でJR山手線に乗り換えて、東京駅へ向かう
俺の家からつくば駅は歩いて1時間30分ほど
遠いっちゃ遠いが、行ったら恐らく帰ってこないだろうから、ゆったり行くとするか
俺は久しぶりの遠出をすることになった
東京なんて行くのは何年ぶりだろうか
俺の人生を振り返りながら一歩一歩進んでいく
散々な人生だったが今思い返せばそうでもなかったかもしれない
そりゃぁもちろん辛かったが、きっと頑張っていけばいつかいい思い出になるんだろうな
そんな事を考えながら、俺はつくば駅についた
この駅も、来るのは随分久しぶりだな
ま、もうお別れだな
俺は腕時計を見る
現在8時23分
少し遅れたがまぁ良いだろう
俺は改札で電子マネーを使おうと思ったが、お金が入っているか不安になる
名前の知らぬチャージする機械で残高を確認すると、入っている金額は3592円
まぁまぁ入ってるんだな
<残金:194万540円 + 3592円( = 194万4132円)>
そして俺は、折角ならということでつくば駅→秋葉原の切符を買った
そして俺は電車に乗る
電車は8時32分発、区間快速だ
電車の中から外を眺める
そもそも外に出ることもほとんど無いので、少し興奮している自分がいた
少年時代を思うだすようだ
つくば駅から乗ったので、椅子に座って秋葉原までまつ
寝てしまっても折り返しまで乗るから大丈夫だろう
家にあった、アリストテレスの『形而上学』
哲学の本だが、まぁ何言ってるかわからない
別に、本の内容なんてどうでもいいのだ
約1時間乗って、秋葉原の駅で降りる
流石都内、人が多いな
そして時間は9時27分
予定時間丁度についた
やっぱり日本の電車ってのは凄いな
さて、俺は人混みの中立ち止まる
残念ながら俺は乗り換えなんてしたことはない
入念に調べてきたが、心配だな
まずは逆張りでエスカレーターを使わずに階段で上り、改札を出る
そして左に曲がって階段上って上って曲がって上って地上出口に出る
したら陽の光を浴びて目が痛くなった頃に左に曲がって真っ直ぐ進むと中央改札
そして切符を購入
秋葉原から東京駅までの切符の値段は150円だ
ちなみにIC使うと146円らしいが、4円くらいいいだろう
<残金:194万390円 + 3592円( = 194万3982円)>
そして改札を通り、1分ほどまっすぐ進む
東京品川方面の看板があるところをエスカレーターでのぼり、3番線のホームに着く
ふぅ、何事もなく来ることができた
その後は電車に乗って、東京駅に行って、今度は切符窓口へ行く
ここで新幹線の切符が買えるのか
「すみません。今日、東京駅から大阪駅までのぞみ号の自由席の切符をお願いします。」
俺はこのために何を言うのか、聞かれるのか調べてきたのだ。わざわざ
「かしこまりました。本日ご利用の列車のご希望時間はございますか?」
「できれば午前10時台発の便がいいです」
東京の観光も折角ならしたかったが、距離も近いのでそこまで特別感がなかった
だから東京は諦めることにした
「承知いたしました。少々お待ちください…こちら、午前10時発ののぞみ133号が空席ございます。自由席でよろしいでしょうか?」
「はい、自由席でお願いします。片道です」
「ありがとうございます。乗車券と特急券併せて14720円になります。お支払い方法はどうされますか?」
「現金でお願いします」
<残金:192万5670円 + 3592円( = 192万9262円)>
「かしこまりました。こちらが切符になります。出発時刻など紹介が記載されていますので、ご確認ください。出発は10時東京駅発、到着大阪駅は12時30分予定です」
「はい、確認しました。ありがとうございます」
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
練習の甲斐もあって思っていたよりもスムーズに行ったな
大阪行ったあとはどうしようか
福岡?反対の北海道でも行くか?
それか、イギリスとか行ってみたいなぁ
まぁあと5年で死ぬからな
自由に過ごそう
すると突如スマホに通知が来る
俺に連絡をするような人間なんていたっけな
文面を確認する
『
長谷川さん久しぶり
元気してるかな
寿命売ってくれたでしょ?
手続き終わったからその報告よ
本メール受信時刻:2025年10月28日 09:46 時点での残存時間
5年 1日 14時間 14分
暫定死亡日時
2030年10月30日 00:00
』
なるほど
2030年か
確か31年にでっかい彗星が近づくんじゃなかったかな
なんだっけな、バー、バーナナー、バーン、なんだろう、なんだっけな
まぁ観測史上最大なんだってな
見れないのか、ちょっと寂しいけど、多分その時になったら忘れてんだろうな
注)バーナーディネリ・バーンスタイン彗星。観測史上最大級の大きさを誇り、直径は100〜200km、質量は通常の彗星の約1000倍と推定。2031年1月23日頃に太陽に最も接近。同年4月5日頃に地球から約15億kmまで最接近する見込み。
俺はそんな事を考えながら新幹線に乗るために色々準備をする
いやぁ、切符を買いまですればもうあとは流れ作業だな
ちょっと迷うけど簡単にホームまでこれた
ホームに立ったら、俺の少年心が疼いた
新幹線なんて乗るのはいつぶりだろう
もう既に新幹線は止まっているのでそのまま乗車をする
自由席ってことは、開いてるとこ座って良いんだよな
俺は窓際の席を選び、座る
久しぶりだな
というか乗り物に乗ること自体あんましてこなかったからな
暫く休息が取れるな
そして、ここから俺の余命5年の旅が始まる
生きる気力を失って、信じがたい商売に乗って、そして日本を旅行して、か
墓場に持って行くには十分なくらいの土産話ができるな
俺はゆっくりと目を開ける
どうやら寝ていたようだ
久しぶりに早起きしたからな
もう新幹線は発車しているようだ
ん?なんだか騒がしいな
「おい!」
これは...俺に言っているのか?
「おいてめぇ聞いてんのか!?」
刹那、俺の側頭部に衝撃が走る
「痛っ!」
そして反射的にそちら側を向くと、視線の先には銃口があった




